第一四八話 「相談」
「バター作れるならお弁当はパンにした方が良かったかなぁ。」
「パンじゃなくてもお芋貰ったから、これに付けても美味しいッスよ?」
「そうそう、それに久しぶりにサナのおにぎり食べたかったし、美味しいよ。」
当たり前のように、ご飯粒が3粒ついているおにぎりをサナから受け取って食べる。
中は肉味噌のようだ。
ちょうどいいので、半分に割ってバターを塗り、また齧りつく。
「ご飯にバターッスか?!」
「お父さん、おにぎり美味しくなかった?」
ミツキがびっくりしたような、サナが不安そうな顔でこちらを見ている。
「お父さんの元住んでたところは、ご飯も乳製品も豊富なところで、バター醤油ご飯や味噌バターご飯という食べ方があるんだよ。」
とはいえ、バター醤油ご飯に比べれば味噌バターご飯はかなりマイナーな部類なのだが。
「そうなんですか?」
「食べてみるかい?」
そういってサナに差し出すと、カプリとおにぎりに齧りついた。
「あ、美味しい。」
「普通の味噌だと物足りないけど、肉味噌だと風味的に悪くないだろ?」
「はい。」
「え?アタシにも一口欲しいッス。」
ミツキにも一口食べさせる。
「なんか元気になりそうな味ッスね。」
その後、今度はミツキが握ったという、やっぱりご飯粒が3粒ついているおにぎりを食べたり、卵焼きの食べ比べをしたりして、ゆったりとした昼食を過ごした。
サナに続いてミツキも手作りのご飯をつくってくれるなんて幸せすぎて死にそうだ。
▽▽▽▽▽
「楽しかったー。」
「面白かったッスー。」
昼食の後、牧場内を見学したり、羊やヤギに餌やり体験をしたり、うさぎと触れ合ってミツキがヤキモチを焼いたりと、色々牧場を満喫した後、西門側の生活用品街にあるレストランに来ている。
探索者が相手の東側の店と比べ、店の作りも上品だ。
「牛乳も多めに分けてもらったから、後でアイスクリーム作ってみよう。」
「あいすくりいむ?」
「なんスか?それ?」
「えーと、氷菓子の一種。で、いいのかな?牛乳で作る冷たいお菓子だよ。」
「お菓子!楽しみです!」
「パパ、お菓子作れるんスか?」
「作るだけならそんなに難しくないんだよ。」
アイスクリームづくりは調理というより、理科の実験みたいなものなのだが、バニラエッセンスが無いので風味が落ちる分、あまり期待しないで欲しい。
生クリームはないが、搾りたての成分を調整してない牛乳なら氷と塩で冷やすだけで、アイスクリームになるだろう。たぶん。
「おまたせしましたー。」
「お、きたきた。」
テーブルの上に料理が並び始めた。
この店は例えるならイタリア料理の店みたいなもので、テーブルに並んでいる料理も、パエリア、生パスタのカルボナーラ、ピザマルゲリータ、の、ように見える料理だが、パエリアは海鮮じゃなくて鳥肉のパエリアだ。
飲み物はスパークリングワインを一瓶お願いした。
二人のグラスに注ぎ、最後にサナに自分のグラスに注いでもらった。
「それじゃ、今日一日、お疲れ様でした。楽しかったかい?」
「はい!」
「めっちゃ楽しかったッス!」
「それは良かった。じゃ、色々一段落した事に、乾杯!」
「「乾杯」」
合わせたグラス同士がカロンと軽い音を立てる。
ワインはあまり得意じゃないのだが、このスパークリングワインは飲みやすくて美味しいな。
「パパ、食べていいッスか?」
「もちろん。ミツキもサナも遠慮しないで食べて。」
「いただきます。」
▽▽▽▽▽
「明日で大体の資金が回収できるから、明後日くらいからサナの故郷へ旅立とうと思うんだけど、どうだろう?
もちろん定期馬車の都合にもよるが、行くとなると二十日間くらいの長旅になるのと、ミツキは開放されてすぐ別の場所に向かうことになるので、二人の意見を聞きたい。」
料理が食べ終わった頃合いを見計らって二人に相談をしてみる。
「準備は元々出来ていたので、あたしは大丈夫です。」
「正直もうちょっと、この街を見たい気持ちはあるッスけど、サナちーのためだから、アタシも構わないッス。でも…」
「でも?」
「パパの部屋の魔法使えば、長旅にこだわらなくてもいいんじゃないッスか?距離関係なく戻って来れるっぽいッスよね?
街から街に定期馬車で移動して、次の便が出るまでは、この街に戻ってお金稼いで繰り返し。って感じだと、資金的にも楽だと思うッス。」
「なるほどー。」
「アタシはともかく、せっかく二人は探索者ランクも上がったのが勿体無いし、上手くやれば行商人の真似事みたいな事も出来るかもしれないッスよ?」
それは悪くないアイディアだな。
ミツキッス!
パパ、動物好きなのはわかるッスけど、あんな慈愛顔で、うさぎ抱いて撫でるなんて、ちょっとやりすぎじゃないッスか?
次回、第一四九話 「マッサージ」
え?そうなんスか?アタシの時もあんな顔を?ホントッスかサナちー。




