第一三○話 「祭り」
温泉から上がって、今はまったりとしている。
サナが晩御飯を作るといいだしたが、さすがにここまでまったりとしたところを働かせるのは忍びないので、いつもより時間は遅いがミツキに夜市を見せるためという名目で、おかみさんの店へ向かうことにした。
夜市は晩御飯になりそうな食べ物屋がほとんどだが、お菓子や果物、飲み物のほか、ファーストフードにあたるような軽食の屋台も多く、遊戯と思われる露天などもあるため、ミツキのテンションとリアクションがエライことになっている。
「あれ何ッスか?!」
「これが噂の…」
とかサナと楽しそうに屋台を物色している。
こりゃ、おかみさんのところまでたどり着くのは時間かかりそうだな。
ま、楽しそうだからいいか。
▽▽▽▽▽
結局、おかみさんの店についた頃には、ミツキはお祭り帰りの子どもみたいな状態になっていた。
露天の景品やお菓子やなにやらで両手が塞がっているアレだ。
つられてサナも同じような状態になっているのが面白い。
たぶん遊戯は今までもやってみたかったんだろう。
そういう意味ではミツキと姉妹になって、やりたい事を言いやすくなったのは良いことだ。
「なんか今日は派手ね。」
おかみさんにもクスクスと笑いながらそういわれている。
おかみさんにミツキを紹介して、鳥肉のカプセルを3つ渡し、代金として銀貨2枚を受け取って、残りの代金で軽めの料理を作って貰う。
サナとミツキはお菓子の食べ過ぎで結構お腹いっぱいらしいのだ。
それぞれ味見させられた私も結構お腹に溜まっている。
ミツキの父親がおかみさんと同じ青鬼族という事を話しているうちに天津飯のような卵あんかけご飯と鳥のゴマソース和え、それから生姜の効いたワンタンスープのようなものが出てきた。
お腹に溜まっていると思ってはいたが、料理の良い香りを嗅いでしまうとまた変わってきてしまう。
おかみさんの料理に舌鼓をうち、また鳥肉のカプセルを届けると約束して屋台を離れた。
「ちょっと食べ過ぎたッス…。」
「あたしも…」
「そりゃ、あれだけお菓子食べた後に、あれだけ食べればなぁ。」
私だけでなくサナやミツキも結局結構な量を食べていたのだ。
「卵あんかけご飯と和え物は、あたしも作れそうです。」
サナがそんな事をいいながら左手を握って来たので、優しく握り返す。
「アタシもー。」
右腕を組んでくるミツキ。
右手でサナの荷物の一部を持ってあげながら、そのまま探索者ギルドの簡易宿泊所経由でラブホテルの部屋に戻って来た頃には夜の8時半を過ぎていた。
「これからロマさんと話しがあるから、ちょっと出かけてくるよ。」
「お父さん遅くなる?」
「いや、ミツキの事もあるから早めに戻ってくるよ。」
「…アタシもう大丈夫ッスよ?」
「心配くらいさせなさい。」
「…わかったッスー!」
「お父さん、いってらっしゃい。」
軽く手をあげ、部屋を後にする。
いつぞやのように部屋からギルド二階の踊場へ出てバーカウンター側の階段を目指す。
途中、吹き抜けから下を見るとロマはもうバーカウンターに座っていた。
まだこれくらいの時間だとレストランも賑わっており、あちらこちらで笑い声や乾杯をする声などが聞こえる。
階段を降りバーカウンターへ向かうとそのままロマの横に座った。
「お待たせしました。」
「いや、俺が飲みたくて先に来てただけで、十分時間前だぞ。マスター、同じものをこいつにも一つ。」
バーテンのマスターに見せかけて実はギルドマスターのソーンは頷くと、グラスを一つ持ってきた。
「『鬼盛り』ですか?」
「ああ、まずは今日はお疲れ。レンがあれで引いてもらえて助かった。」
「いえ、私もカッとなって悪かったと今では思っています。」
そういってグラスをあわせと、カランという良い音が響く。
二人同時に一口、口をつける。
「やっぱり美味しいですね。」
「だろ?」
「昨日酒屋で見かけて値段にビックリしました。」
「ハハッ、値段分の値はあると思うがな。」
しばらく、とりとめない会話を続けるが、ギルドマスターが目の前ということは、またヤバイ案件の可能性があるので、気を引き締めていかねば。
「それで私に頼みってなんでしょう?」
「正確にはレンじゃなくて、レインへの頼みなんだが、今でも連絡はつくか?」
私の淫魔の身体の方への頼みとなると、また面倒な話になりそうだ。
「今すぐ、という話しでなければ。」
「いや、そこまでは急いではいない。連絡がつき次第、都合がつき次第で構わないので、レインに依頼したいことがある。」
そういってロマは依頼内容を話し始めた。
ミツキッス!
思わず夜市を満喫してしまったッス!
お小遣いで奢ってくれたサナ姉さんには感謝ッスねー。
次回、第一三一話 「案件」
アタシも明日から頑張って稼ぐッスよー。




