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第一二六話 「約束」


 「あの男は探索者ギルドからの派遣なんだよ。」

 ロマが苦虫を噛み潰したような顔で説明をしてきた。


 シルバー以上が受けることができる街中や郊外を対象とした依頼の一つで、金銭的な報酬は無いが1日警備をすれば仕事の後に1回娼館で遊べるということもあってシルバーになりたての男の探索者には人気の仕事だそうな。


 抽選になることもあるのだが今回やらかした男はその依頼の常連で、結構なベテランなのに貧乏くさい真似を。と、ロマが。シルバーになってからは金払って遊びに来たことは無い。と、カレルラが嫌な顔をしている。


 「高値の花の兎人族を一度抱いてみたかったんだと。

 で、警備の仕事が終わって次の探索者に引き継いだ時に部屋を出歩いているあの茶兎族の娘を見かけて、後をつけて犯行に及んだらしい。」

 「良くも悪くも、この店の事は詳しい奴だったわねぇ。」


 「探索者ギルドとしては不祥事もいいところだ。

 金で許せとはいわんが、奴を犯罪奴隷に落とした時の売価のうち2割が被害者への賠償に当てられる。店側もそれを全部そちらにと言ってくれた。それで鉾を収めて貰えないか?」


「店としても、黒服の到着が遅れたのは事実だわぁ。

 貸切がちゃんと出来なかった以上、賠償に加えて預かっているお金も返すわぁ。

 もちろん、身請けの期限はそのままの日数で構わないし、壊れたドレッサー代も不問にするわよぉ?」

 そういったカレルラの指示で黒服が小さな袋を手渡してくる。

 中を改めると3枚の金貨が入っていた。


 「状況は分かりました。ですが、はいそうですか。という訳にもいきません。

 実際こうして事があった以上、ここでのミツキの今後の身の安全を信じられませんし、本人のメンタル的なダメージも相当です。」


 メニューのアイテム欄から懐経由で貨幣を取り出し、先程受け取った金貨を加えテーブルに積む。


 「前払い金に金貨10枚を追加します。これで残りはあと金貨5枚ですね?

 お店の女の子たちの治療も続けますし、それらを含めて残金は十分期限内に間に合います。

 だから、ミツキをこの店から連れ出させてください。

 必要であれば治療の際に毎回連れて来て顔を見せることも約束します。」


 「あら、値切られると思ったら、居続けから店外デート扱いにしろとぉ?」

 「金額も治療も約束したことですから、それは反故にしたくありません。

 ですが、これが最大限の譲歩です。」

 

 「話が見えないが、あの茶兎族を身請けしようとしてるのか?」

 「はい。」

 ロマに今までの出来事を簡単に説明する。


 お前、猫の子とかじゃないんだから、簡単に拾うんじゃない。とか小言を言われたものの「カレルラ、俺も付き合いは長くはないが、こいつは逃げるような男じゃないぞ?」

 と、フォローしてくれた。


 「そうはいってもねぇ。うち店外デートはトラブルの元になるからやってないのよぉ。」

 と、カレルラは渋っている。

 とはいえ、じゃあ身請けの話は無しね。という雰囲気でもない。

 先程、『こっちは約束を護る』と宣言したのが効いているらしい。


 「まぁ、この店にはいろいろ『きまり』があるからな。

 レン、俺は立場上、両方の言い分がわかる。だからこういうのはどうだ?」

 そういってロマは懐から小袋を取り出すと、中から金貨を5枚取り出してテーブルの上に積む。


 「俺が残りの金貨5枚を貸してやろう。」

 「え?」

 「レンに頼みごとをしたいと思っていたところだから、貸しを作るにはいい機会だ。」


 「ロマの旦那、金貨5枚は、そうポンポン貸していい金額じゃないわよぉ。」

 「そうはいうが、お前たちが決別するよりはいいだろう。

 レンを信用しているのもあるが、何より回収のあてもある。」


 なんか金目になるようなもの持っていたっけな?


 「さっき被害者の賠償の話をしたろう?性格と性根はともかく、シルバークラスのベテランが奴隷落ちなら金貨30枚は堅い。よその迷宮でも戦力になるからな。

 その2割で金貨6枚だ。

 3日、4日くらいでギルドから支払われるから、その後に返して貰ってもいいし、ギルドに俺宛てに預けて貰っても構わない。」


 「お言葉はありがたいですけど、いいんですか?」

 「繁華街の警備も俺の仕事の内だからな。これでレンも店もギルドも収まりがつくというのなら構わないさ。カレルラはどうだ?」


 「…診察と治療を継続してくれるなら、それでいいわぁ。」

 「それは約束します。」

 「なら決まりだ。」

 ポン、とロマが両手を叩く。


 「予定がくるっちゃったわねぇ。アレを取ってちょうだい。」

 カレルラに声をかけられた黒服が、机から巻物のようなものを取り出して持ってきた。


 「こっちが、ミツキの奴隷譲渡証明書。こっちが奴隷解放権利書よぉ。

 手数料込みだから、奴隷商の下に証明書を持って行けば無料で主人を書き換えてくれるわぁ。

 後で署名しておいてねぇ。

 権利書の方は同じく奴隷から解放する書類よぉ。

 1枚で金貨20枚分の価値までの奴隷を開放できるわぁ。

 もっとも解放しないのなら、そのまま現金に換えてしまっても構わないわぁ。

 兎人族は奴隷のままの方が安全な場合もあるしねぇ。」


 「…レン、今更だがいくらで身請けしたんだ?」

 「金貨45枚です。」

 「な?!そんな法外な、…いや、そういうことか。」

 たぶん、ロマも私と同じことに気づいたのだろう。


 「ありがとうございます。でも、これじゃカレルラさんの儲けが無いどころかマイナスなのでは?

 ミツキの仕入れ値は金貨25枚って言ってましたよね?」


 「あれは金額を吊り上げるための嘘よぉ。実際には値切った結果、衣装込みで20枚。

 奴隷解放が同額だから、この数日で金貨5枚儲かった計算ねぇ。」

 そういってコロコロ笑うカレルラ。

 やられた。

 やはり相手の方が1枚上手だ。


 「貴方の覚悟、ちゃんと見せて貰ったわぁ。」



 ロマだ。

 ここの歓楽街の利用者は基本、探索者達ということもあって、自治区のように警備もギルドがやっている。

 荒事も多いので腕も立ち、顔も広いゴールドかベテランのシルバーが任に当たることが多いな。

 最近はヤクザがケツ持ちの店も増えてきたので面倒事が多くて困ってる。


 次回、第一二七話 「完敗」


 ちなみに街の住人向けの歓楽街は南区にあるぞ。

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