第一一七話 「パン」
元気いっぱいの二人を風呂場に放り込み、淫魔法【ラブホテル】のショートカットを使って、探索者ギルドで借りている簡易宿泊所のドア経由で、ギルドのレストランに来ている。
二人にはまた一緒にお風呂に入ろうと誘われるというか引き釣りこまれそうになったのだが、娼館の部屋にミサラが見回りにくる時間まで、そんなに余裕が無いので、淫スキル【淫魔】と種族特性【トランスセクシュアル】の両方を使って入浴と身支度の代わりにして朝食の買い出しに出たのだ。
この性別を変えるたびに外見が汚れや汗等も含めてリセットされるのが凄く便利だが、匂いも残らないのでサナには不評である。
最近、ご飯ばかりだったから朝食は久しぶりにパンにしてみるか。
ミツキの好みはどっちだろうな?
▽▽▽▽▽
「なんか懐かしいですね?」
「だろ?」
結局、レストランで、この世界で初めて食べたローストビーフのサンドイッチ2種と、おなじくいつぞやに食べたハムタマゴサンド、それからブダのジュースを3つ買ってきた。
「思い出の料理かなんスか?」
一人だけ話題についていけないミツキが身体ごと左右に頭を振りながら面白くなさそうに質問して来た。
「初めて二人で食べた料理なんだよ。あと、最近お米のご飯ばっかりだったろ?ミツキがパン派だったら可哀想だと思ってパンにしてみたんだけど、どうだい?」
「確かにパンの方が食べ慣れているッスけど…え?パパ、これアタシのためにパンにしてくれたんスか?もー!」
さっきとは打って変わって明るい表情になったミツキが腕に絡みついてきたかと思うと
「パパ好きー!」
といって頬にチュッと軽いキスをしてくれた。
「なんスか?なんかボーッとして。…あの?嫌じゃなかったッスよね?」
「いや、ミツキに好きって言われたのたぶん初めてだから、ちょっとビックリして。」
「あ。」
ミツキのうさ耳が根本からゲージが上がるように真っ赤になっていく。
褐色の肌なので分かりづらいが顔も赤いようだ。
サナだけがこちらを見て楽しそうにクスクスと笑っている。
▽▽▽▽▽
「水揚げーお疲れ様ですー。ずいぶんきっちりー仕込んだんですーねー。」
「あはは、お恥ずかしい。」
ミサラによるミツキの朝のチェックが終わった。
丹念にチェックや報告をさせられたのが恥ずかしいのかミツキは真っ赤になっている。(主にうさ耳が。)
「水揚げも終わりましたしー、明日以降はー来ませんがーなにかーわからないことがーあったらー呼んでーくださいー。」
「あ、ミサラさん、わからないことじゃないのですが、ちょっとお願いが…」
「はーいー?」
▽▽▽▽▽
「これでー、いいですーかー?」
「はい、ちょっと眩しい時とかあるかもしれないので、このタオルで目隠ししますね。」
「はいー。」
ミサラにお願いしたのは、性病を治すための回復魔法の実験台だ。
うまく行けばミサラが今かかっている梅毒が治るかもしれないと話したら、快く了承してくれた。
ミツキにあてがわれた部屋のベッドに横になってもらい、顔にはおでこから鼻の穴寸前までの広い範囲をタオルで目隠しさせて貰っている。
「さて。と…」
『サナ、ミツキ、ここから先、ミサラに聞かれたらマズそうな話は念話でお願いね。』
『わかりました。』
『了解ッス!』
二人に念を押した後、淫スキル【性病検査】で調べたミサラのステータス、というか【健康状態】と【状態異常】、それから【体力】等ゲージ類を特性【ビジュアライズ】でベッドサイドに表示させてモニターする。
現在のミサラの【健康状態】は早期梅毒第2期だ。
実際には他の性病にも複数かかっているのだが、現状一番重たいこれを治癒させるのを今回の目的としよう。
あと、余談だが、不妊症(着床障害)という表示も出ており、ミサラは現在妊娠が出来ない身体になっているようだ。
おそらく度重なる堕胎のためだろう。
ふと死産だった我が子や、それが原因で自殺した元妻の事を思い出し、複雑な気持ちになる。
………いや、今は集中しよう。
ミツキッス…。
めっちゃ調べられたッス。
あとミサラさんに話していて気づいたんスけど、昨日の夜から今日の朝のまでアタシ達凄い事してるッスね。
次回、第一一八話 「試行錯誤」
パパ、お医者さんごっこッスか?
え?人聞きが悪い?




