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第一○四話 「不器用」


 「あー、パパもそうだったんスか。」

 「暗くなる前に家を出て、夜遅くに帰って来るのを見たら、疲れている時に甘えるのは迷惑だと思ったんだよ。」

 「あ、それわかるッス。せめて足手まといにならないようにすることが親孝行だと思ってたッス。」

 「同じような事考えるもんだな。」

 「そうッスね。」


 浴槽の中で前にサナにも話したような自分の昔話から父親の話、そしてお互いの母親の話をミツキと二人でしていた。

 双方ともに女手一人で育てられて、忙しさのあまり母親とコミュニケーションが少なかったという共通点があったので話がはずみ、今は和やかなムードになっている。


 座高の関係で、サナとのお風呂は膝の上に載せているのだが、ミツキの場合は私の太ももの間にお尻を入れて、そのまま背中を私の胸にもたれ掛って貰っている。

 最初は緊張した様子だったが、泡風呂で身体が見えないのと、話がはずんだ関係で、今は結構リラックスした様子だ。


 その分、隙が多くなって、ちらちら見えてしまうのが難点でもある。

 基本、ミツキはオーバーアクションだし。


 「たぶん、ミツキは甘えるの苦手じゃないか?」

 「そうッスね。育ちが良くないのもあるッスが、弱みを見せてると感じてしまうってところはあると思うッス。

 そもそも甘え方がわからないってのもあるッスね。」

 「サナもわりとそういうところあるな。なんか変に遠慮しているところがあるというか。」


 「パパもそうじゃないッスか?なんか色々遠慮してるというか、色々気を使いすぎているというか…。

 水揚げの件だって、アタシ正直、もっとすぐ襲われると覚悟してたッス。

 『練習』の時とか、ああもういよいよかー、諦めるかーと覚悟しましたもん。

 ………実はアタシ、パパ的には魅力ないッスか?」

 いきなり方向転換したな。


 「違う違う、ミツキは十分に魅力的だよ。昨日の晩だってくっつかれたら私が眠れないんじゃないかと思ったくらいに。

 髪もしなやかで綺麗だし、うさ耳も可愛いし、顔立ちも表情豊かで愛嬌がある上に整っていて魅力的だし、スタイルも良いし、肌だって今みたいに白い泡との対比ですごく健康的に見える。

 なにより性格が明るい。というか明るく振る舞おうとしているところが素敵だと思う。」

 「う。」

 褒められ慣れていないであろうミツキがまた固まる。


 が、お湯の中の兎の尻尾がピコピコとせわしなく動いているので悪い気はしていない様子だ。

 とはいえ、兎の尻尾がどんな時動くかは知らないんだけども。

 

 ただ、位置的にその尻尾が股間を刺激するのは勘弁して欲しい。

 どんなプレイだ。


 「ミツキは初めての経験だろうし、今までそういう方向の嫌なものを見てきた様子だから、心の傷にならないようにしてあげたいと思っているだけだよ。」

 「そういえば、サナちーにもそんな事いってたッスね。パパ、優しいッス。

 …たぶん、パパにもそういう傷があるんスね。」


 鋭いな。

 「まぁ、長く生きていればね。」

 「ん、わかったッス。パパにとってアタシは魅力がないって訳じゃないのは理解したッス。それなら…」

 「それなら?」

 「甘えられても嫌じゃないッスよね?」


 本当に甘えることが苦手というか不器用というか。

 「もちろん、ミツキも甘えてくれると嬉しいよ。お互い、そしてサナも含めて皆で甘え方を覚えていこう。」


 「甘えるといえば、パパも、もうちょっと欲望に正直になった方がいいと思うッス。

 サナちーもパパから求めてくれないのは自分の魅力がないせいかと悩んでいたッスよ?

 その辺り、うちら似た者姉妹ッスね。

 あ、で、でも今は駄目ッスよ?

 その、パパの、あの、背中に当たってるけど、手は出さないって約束だから今は駄目ッス。」

 

 気付かれていたのか。

 っていうかそりゃ気づくよな。

 いやミツキの尻尾が全部悪いのだ。

 

 「駄目ッスけど…」

 不意にこちらに振り返ったミツキに唇を奪われた。


 「ちょっとだけ前払いッス。

 身請け金には全然足りないッスけど、一応初めてのキスなので、その気持ちだけは受け取って欲しいッス。」


 唇に指をあて、照れながらも蠱惑的な笑みで微笑むミツキに一瞬見惚れてしまう。


 「正直、最初は娼館で働くよりは一人に抱かれる方がマシと思ってたッス。

 その次は身請けの為には仕方がないって。

 練習の時にだってパパさんには権利もあるししょうがないって。

 でも今は、パパなら安心。って思ってるッスよ。だから…」

 

 首を両手で巻くように抱き着いてきたミツキが

 「今晩は残りも受け取って欲しいッス。」

 そう、耳元で囁いた。


 「ん、当たってる。サナちーのいうとおりパパのこれ正直なんスね。

 可愛くて愛しくなるってのも何となくわかるような気がしてきたッス。」

 「恥ずかしいこと言うなよ。それにこんなにピッタリミツキの胸当てられたら仕方がないだろう。その前は尻尾でコショコショされるし。」


 「え?あれ、当たってたのこの子だったんスか?」

 首に四つん這い気味に抱き着いているせいで、泡の中からミツキの見事なヒップラインが浮かんでおり、当事者の白く短い尻尾がピコピコとその上で踊っている。


 「こんなのは誘惑と同然なんだから気を付けなきゃ駄目だぞ。」

 「こんなのパパにしかしないし、それにパパを信じてるから大丈夫ッスよー。」


 いや、こっちが大丈夫じゃないのだ。

 「そんなはしたない娘は丸洗いの刑だな。」


 とりあえず治まるまでミツキを洗って落ち着こう。



 ミツキッス!

 え?やんないッスよ?

 えー、ホントッスか?…一回だけッスよ?


 ミツキッス!(チュッ!)


 次回、第一○五話 「パパ洗い」

 そういうこと言うの禁止ッスー!

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