#書き出しと終わり 1
「たった一つ欲しいものがあるの」
目の前の女は言うが早いか俺との距離を詰め腰の短刀を抜きざまに切り払う。
慌てて飛びのくと先ほどまで俺のいた空間を白刃が月の光を浴びて白い軌跡を描いた。
「いきなりご挨拶じゃないか。俺なんかした?」
苦笑いを浮かべる俺を見た女は、口角を上げて再度駆ける。
一歩、何もない空間で腕を振るう。いや、短刀を投げたのだ、ご丁寧に黒い刀身で距離感が掴みづらい。手甲を盾に相手を覗き見るような形で素早く前に踏み込む。潜り込んだ頭の上を刀身がかすめて行った、まずい…かなり殺しにかかって来ている。その証拠にもう目の前に女の顔がある、目があった、意志が強い榛色の瞳にどきり、としている場合ではない。途中まで脳が出していた体への命令を捻じ曲げる様に手を下へ伸ばす、半ば勘の行動だったが、辛うじて手甲の間から顎を狙わんとする刺客をつかむことに成功する。そのまま空気投げの要領で体を入れ替え女を組み伏せた。
「ふぅ、まずは落ち着けって。…欲しいものって何さ?」
女は俺の仕事仲間である、もう2年くらい組んであちこちの遺跡やら旅やら続けてきた。報酬の分配も揉めたことは無くいたって良好な関係を築けてこれたと思っていた。困惑した顔をする俺を横目に見るが、そっぽを向いてほおを膨らませるばかりである。
どうやら何かお気に召さない事をした時の反応ではあるが、頑として口を開こうとしない女を見やり今日の行動を振り返り一つの仮説にたどり着いた。今日の稼ぎの清算をした酒場にいた売り子のおねーさんが偶然同郷で話が盛り上がったのだ、視線が妙だとは思ったのだが…
「もしかして妬いてたか?」
もう動く気はなさそうと思い、体を離す。女は俯いて表情は見せない。数秒の沈黙の後ガッと胸倉を掴まれた、気を抜いていたので息が触れ合う距離まで引き寄せられてしまう。先程あったばかりの榛色の瞳に吸い込まれそうになり気づいた、目尻が光っていた。
「当たり前でしょ」
思わず狼狽し、泳ぐ俺の目と視線が交差していると女は笑い、胸倉から手を離し、それまでの真面目な顔を綻ばせた。
「なんてね、誰かさんが鼻の下伸ばしてるから少しだけやってみたかったの。」
抗議ものである、女への悪態をどこかホッとした気持ちで吐いた。怒られて笑いながら逃げ出す子供のように跳びのき彼女は笑顔で言った
「残念でした、私の勝ち♪」
kogeさんには「たったひとつ欲しいものがあるの」で始まり、「残念でした、私の勝ち」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以上でお願いします。
#書き出しと終わり
https://t.co/WKeOI0xvbN