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SEQUEL.ACT.4 イリウムとジェノス

 白い、白い部屋に赤茶の髪を投げ出している女性がいた。その髪は純白のシーツの上に纏わりついている。

 穏やかな寝息だった。静かに、深く定期的に行われる呼吸は、緩やかに膨らみのある胸を上下させていた。

 その姿を見て、安堵の息を深く漏らした――自分に気づき、ジェノスは首を左右に振った。

 分けられていた髪が乱れ、散らばりを描きながらイリウムの顔に纏わりついていた。不愉快そうに、身動ぎしている。

 だから腕を伸ばし、掻き分けてやろうと思った。深い意味はない。何となく。特に何も思考などせずに、右腕を伸ばそうとする。


「…………」


 しかし、ジェノスは一度舌打ちをしてその動作を中断した。右腕を動かそうとして、左腕も共に動いてしまったからだ。理由は簡単で、今、ジェノスの両腕は背中の後ろで頑丈な手錠で拘束されているからである。

 きっと力を入れても歪みすらしない強固な造りだろう。半端なモノをこのコスモスが、ましてやジェノスに施す訳が無かった。

 その手錠は鎖で繋がれ、後ろに立つ者にその先が委ねられている。加えてその左手にはスイッチが一つついたパネルを持っている。これもまた単純な話で、要は電気ショックを流す為の装置である。流れる先は、ジェノスに繋がれている手錠へ。それは容赦なく流れるだろう。

 だから何も出来ずに、ただ眼下に彼女を見据えるだけ。

 彼女は目を覚まさない。峠を越え、落ち付いたからといって、のうのうと起きていられる程は回復していなかった。

 その全身には至る所に包帯が撒かれている。それだけでも戦争の痛々しさを体現している。しかし、更に痛々しげな部位がある。それは、眼だ。

 彼女は片目を失った。原因は他でもない、ジェノスによって引き起こされた結果だ。ヴィレイグが放った電磁を帯びた弾丸が、アルメニア・アルスを貫いた際に出来た傷。何のことはない。原因はジェノスにあるのだ。


「…………」


 だからその姿を見て、後ろ手に拳を強く握る。

 理由は分からないけど、イリウムのその姿を見るとジェノスは自虐的な行動に走りたくなっていた。冷えた場所で生きた彼には、その感情が何であるか理解出来ないでいる。

 少しだけ、直立していた両足を開いた。際に、脚に付けられた鎖が床と音を立ててしまった。


「――――ん」


 それで、彼女が起きてしまったらしい。寝返りを向こうへ一度、こちらへと一度、計二回。

 その様子を見て、後ろのクルーにジェノスは肩を叩かれた。その顔を見て、ジェノスはここを立ち去れ、という意を読み取った。

 一度振り返り、彼女の寝顔を見る。

 何となく後ろ髪を引かれる思いだったが、安眠を自分が妨げてはならない、とジェノスは思い踵を返す。


「…………おい」


 けれど不意に、その背中に声を掛けられた。振り向く。

 イリウムは、眠たそうに片目しかないルビーのような綺麗な瞳をジェノスに向けていた。

 思わず、ジェノスは立ち止まる。それと同時に、鎖を持ったコスモスのクルーも足を止めた。


「起きちまったじゃねえか……」


「……すまない」


 ぼりぼりと、頭を掻く音がした。しかし直後、いて、という声と共にその音は無くなった。

 ジェノスの鎖が引かれる。それに伴い、ジェノスは一歩踏み出した。

 自分がここにいるべきではない。そう思い、立ち去ろうとする――が


「おい、待て」


 また、呼びかけられる。愛していると、断言したその声でジェノスは呼び止められる。

 別に無視して去ってしまえばいいのだろう。けれど何故か、それが出来なかった。


「コイツ、置いて行ってくれないか?」


「え? いや、だけど君は安静にしていなくては……」


 驚いたようにクルーは言葉を返すが、


「良いじゃねえか。ずっと寝てるのもあれなんだよ。少しは話しをさせろ」


「……でも、二人には出来ませんよ」


「大丈夫だ。コイツは何もしないさ。それにどうせ逃げられないだろう? 良いじゃねえか、だったら」


「そうではなくて、貴方の身が……」


 そう言って、二人は数秒見つめ合う。

 その応酬を丁度挟まれた形でジェノスはいる。手持ちぶさに――というよりかは少し呆気に取られながら、そのやり取りに対し首を振って観察する。

 やがてクルーは溜息を吐いた。そしてゆっくりとイリウムに近づき、自分が持っていた鎖とパネルを手渡した。腕は上げられない為、ベッドに投げ出された手の平の上に置く。それをしっかりと、イリウムは握った。


「何かあれば、これを」


「あいよ」


 ジェノスを一瞥すると、クルーは足早に部屋を去った。とはいえ、完全にいなくなったわけではないだろう。閉じられた扉の外に背を任せ、この部屋の様子をうかがっているだろう。何かあれば、直ぐに対処する為。


「……指は、もう動くんだな」


「はっ。残念だったな。逃げられなくて」


 そう言って、イリウムは不敵に笑って見せた。片目で。


「別に、逃げる気なんてないさ」


 そう言って、目を逸らす。

 ジェノスは彼女の姿を直視しにくかった。何となく、イリウムの姿を見ると胸に痛みが走ると共に、感じる筈のない罪悪感というものを覚えた。


「は、そうかい……」


 言葉と共に、イリウムは目を絞る。


「……痛むのか?」


 と、声を掛けた途端、彼女は突然笑い出しる。腹が痛い癖に、それを耐えながら声を殺して笑っていた。

 その姿にジェノスは苛立ちを表情に反映させる。その笑っている理由が皆目見当がつかないからだ。


「何がおかしい」


「いや、お前、なんつう顔してんだよ」


 言い切ってから、再びイリウムは笑った。

 驚きながらジェノスは傍に置いてあった鏡を覗きこもうとするが、その鏡をイリウムに取られる。


「見せるかよ、そんな馬鹿面――――いってぇー……」


 ぽとり、と毛布の上に鏡が落ちる。その腕の痛みに耐えるイリウムを見て、ジェノスは溜息を吐く。


「馬鹿は君じゃないか……」


「ああ!? 何だとてめ――――いってぇー……」


「訂正する。君は大馬鹿だ」


 乗り出し掛けた身体から力が抜け、元のベッドへと身を預ける体重へと戻るイリウムへと呆れを混ぜてジェノスは言う。

 もう一度溜息を吐いて、ジェノスはイリウムに背を向けた。


「もう動くな。……何の為に僕が助けてやったのか分からない」


 その背中越しに言う。


「はっ、よく言うぜ。餓鬼が」


 その言葉にジェノスは鼻で笑った。別に楽しいとは感じない。ジェノスにとって、それは相手を見下した笑いのつもり。けれどそれを、イリウムも笑いで返す。

 そのまま、後はもう言葉を交わすことなくジェノスは部屋を去る為に歩きだした。別れを言わず扉をくぐるジェノスの顔には、僅かだが笑顔というものが見え始めていた。

またまたまた少し語らせて貰います。よろしければどうぞ。







今回はイリウムとジェノスです。


イリウムというブラコ――――キャラについてですが、彼女は本作品における特異点の一つとして書き綴りました。枢やアイリというメインといえる戦争被害者の側面で、派生したものによる被害者も居るということを表現したかったのです。その恐らく全てを、あの三話に集約させました。正直、このアウラという作品全体においてあの話は蛇足だと思います。

けれど、何も戦争は太い一本で行われているものではなく、その太い幹のようなものから、枝に分かれ、更にその細かな先へと被害が広まって行く筈です。その上で、被害者という観念に於いては、枢などは幹にある存在で、イリウムはその枝と言える存在だったんです。

加えて、枢達チルドレンはどちらかと言えば、創り上げられたものは身体であると言えます。それに反し、イリウム達兄妹は精神の方を創り上げられた、という対比の意味もありました。



ジェノスというツンデ――――キャラについては、んーとそうですね、先程の樹の話で例えればやっぱり幹の存在ですね。当然ですが、枢と境遇が似ています。

このキャラの性格というのはもう早い段階から確立されていて、率直に例えれば子供という感じです。学校という社会どころか、家族という社会すら体験したことのない、才能や知識のある、それらを自覚している赤ん坊、でしょうか。バブーなんてのは言いませんが。

なんとーなくくっつきそうな雰囲気がバンバン出ている二人ですが、どうですかね。作者がハッピーエンドよりも鬱展開向きの終わり方が好きなのが鍵を握っているかも知れません……興味無いですか、ごめんなさい。




えー、この訳のわからん語りもそろそろお終いかと思われます。駄文すみませんでした。

読了、有難う御座いました。

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