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SEQUEL.ACT.2 クリフと優紀

「お、ユーコもか……」


 そう言って、コツコツ足音を鳴らしてクリフは格納庫ハンガーを歩く。向かう先は自らのイモータルアウラであるウルカヌス。比較的損傷が少ないその紅の姿は、今にも出撃出来そうなほど。


「ええ……何となく、ね」


 優紀が見上げるそれは、ミネルア。

 こちらはウルカヌスと違って、見るも無残な姿となっていた。全身における関節と推力装置を斬られたという、見た目こそ違うものの、意味としては満身創痍と呼ぶに相応しい状態だった。

 その証拠に、細身で灰色をしている筈のミネルアには既に装甲が無い。

 ただ装甲を傷つけられたのならば、その装甲を外部から修理すれば問題はない。だが傷を受けたのは関節部なのだ。脆く、繊細で、且つ複雑な部位。そこを的確にブレードで刻まれた代償は大きい。

 そして何より厄介なのはブースターをやられたという事だ。微かにウィングの様に取り付けられた飛行ユニットごと、メインである背部のブースターまで半壊していた。爆発が起きなかっただけ奇跡なのだろう。

 しかし、そんなことを不幸中の幸いと喜ぶ余裕は、優紀にはなかった。

 強く握る拳に込められた想いは、ただ無念。

 あの深緑のアウラ――イブリースを前にして、何も出来なかった。自身も、何から何まで上回られ、加えてあのチルドレンを見す見す殺させてしまった。

 機体の性能差とか、不意だとか、色々言い訳はつく。だからと言って、言い訳を心の中で綴っても納得がいく訳がない。

 あの殺されたチルドレンを赦した訳でもない。彼女は何であろうと、大量殺人者であることは変わらない。

 かと言っても、彼女の置かれた状況は悲愴過ぎた。だから、あの死に納得の行かない自分を、優紀はその穏やかな表情の奥にくすぶらせていた。


「…………」


 その様子を、クリフは見つめ、思う。

 優紀は正義感が強い。彼女ほど人を殺さないのも珍しい。人殺しを嫌っているクリフだって、その手で大量の人間を殺している血に染まった両手を持っている。

 元々搭乗しているアウラがウルカヌスという絨毯爆撃に適したイモータルアウラだから、みね打ちのような真似は至難の技――どころではなく奇跡の所業に等しいのだが。

 それでも、クリフが自分の手で人を殺めていることに罪悪感を抱いていない訳がない。

 だから時には、自分に嫌気が刺す事もある。人を殺めている自分にも、無力な自分にも。

 腕を組みながら、変わらず自機を見上げる優紀をクリフは横目で見る。

 その墨色の黒い瞳には、その綺麗な黒とは反対の醜い黒も混ざっているのだろう。戦争への感情や、自分への嫌悪の感情が。

 クリフは頭を無作法に掻き毟った。空気が苦手なのだ。しんみりしているのだ。クリフにとってこの空気は苦手だった。二人で無言で、重い空気を吸っているのが。かと言って、ここから優紀を置いてハンガーを出ていくことも躊躇われる。

 だから、頭を掻きながら。


「おい、ユーコ。コーヒーでも飲みに行こうぜ」


 その突然の言葉に一瞬、優紀は呆気を取られるも、


「……ええ、そうね」


 穏やかな笑みの面を被って、答えた。




「――――枢は」


 コップに注がれたブラックのコーヒーを見つめながら、クリフは不意に呟いた。


「枢は、どうしたんだ?」


 その言葉に、同じくコップに注がれたグリーンティーから目を離して、


「さあ、分からないみたいね」


「アイリも……何も知らないのか?」


「少なからず、喋ってはいないようよ」


「……そうか」


 短い問答の後にまたも訪れた状況は先ほどと大して変わらないものだった。

 だかこの空気は優紀とクリフに限ってのことではなく、あの霧の中での戦闘を終えてからコスモスのクルーに流れる空気は皆同じようなものだった。

 ジェノスの口から語られた、シュペルビア崩壊の事実。そしてそれは、あの戦場に立っていたクルー全員が予感していた事態だった。そして、望んでいた事態であった。けれど、釈然としない。嘗て銃を突き付けあってきた宿命のテロリストというものへ終幕というものを下ろさせることが出来たのだ。今は、それ以上言うことはないだろう。

 だけど釈然としない。まだ“何も終わっていない”という確信。

 それはあの“レプリカ”と名乗る機体達の登場の所以でもあった。

 苦もなく宙に浮く存在。レーダーに感知されない謎の熱機構。それが何故、あの場所に、あのタイミングで現れるのか。そしてあの機体性能。

 訳が分からないとはまさにこの事だった。

 口にするコーヒーも、口にするグリーンティーも酷く苦いものだった。元々眠気覚まし用と強烈なのを置いてあったのだが、それをお互い苦笑しながら敢えて購入したのだ。

 

「にげぇ……」


「そりゃそうよ……でも、今は丁度良いわ」


「……そうだな」


 冷めてきたコーヒーの温度。それをコップ越しにクリフは見つめ、思う。

 このコーヒーの温度の様に、自分達も平和への情熱が薄れてしまうのだろうか、と。

 今でこそ、俺達はまるで餓鬼の様に、一心不乱に平和へと駆けずり回っている。それがいつか、世の中が平和には決してならないと悟ってしまう日が来るのだろうか。純粋でいられた日を忘れて、くすんだ大人になってしまうのだろうか。


「なあ、ユーコ。お前は、何でコスモスに入ったんだっけ?」


「私は……」


「ああ、そうか、親父さんだっけか。すまん、昔言ってたよな」


 と、その言葉に優紀は浅く頷く。

 コスモスは過去には拘らない主義。けれど、内情を知っている者も、中には少なからずいる。それが、クリフと優紀である。


「クリフ……貴方は」


「ああ、俺は。何にもねえんだ……」


 そう言って、クリフは無機質な灰色の天井を見つめる。そこを瞳で見上げても、空は決して見えない。けれどクリフは、脳裏に虚像の空を描きまるでそれを眺めているかのように目を細めた。


「何だろうな……俺は昔から、空が好きだったんだ。芝生の丘に寝転がってな、こう、身体を放り投げて、両手を枕にして眺めるんだ。そうすると何だかな、時が止まってる感じがするんだ」


 停滞している雲。動かない景色。絶えず囁く風。それらはまるで螺旋閉鎖した平和な世界そのもの。


「だから、よく俺は空を見に行った。……別に、空が好きだからって飛行士パイロットになりたいなんて思わなかったし、鳥になって飛びたいとも思わなかった」


 クリフの独白に、静かに優紀は耳を傾ける。

 穏やかに語るクリフの瞳は、きっとその時の空を見ているのだろう。


「でも、ある時、戦闘機が空を切り裂いて行った。一直線に、物凄い速さで、空を人口の雲で真っ二つに分けたんだ。それで何となく……ああ、こうやって世界は分かれていくんだな、とか思った。こうやって国境が出来て縄張り争いが起きる。……今思えば訳分かんねえけどな。当時の俺はそう感じたんだ」


 照れたようにクリフは笑う。それを優紀は穏やかな微笑みで返す。


「ああ、それでかな。戦争に身を置こうと思ったのは。何か、その横切ったモノが無性に嫌だったんだ。叫びたくなった。空を汚すな、って」


「だから、フェイクスに?」


「ああ、そうだ。それが一番の近道だと思っていたし、今でも思っている。だから俺は、自分のしてきた事に後悔はしてねえし、正しいと信じている。何より、お前らコスモスを信じてる」


 カニスという裏切りを聞かされても、尚強く言うクリフの瞳を見て、優紀は強いと思った。

 裏付けされた信念で無いが故に、それは崩れにくい。組み立てるのが至難の業であるが故にその信念と言うものは崩れにくい。

 馬鹿なのか、純粋なのか、強いのか。優紀は、迷いなくその中の一番最後の物を感じ取った。


「……強いのね」


 だから、素直にそう言う。

 途端、クリフは勢いよくコップを傾け、一気に中身を飲み干した。

 舌を通る苦みに表情を強めながら、勢いよくゴミ箱へと放り投げる。

 そして、


「にげえ! 口直しだ」


 そう言ってココアのボタンを押した。数秒遅れてコップが落ちてきて、中身の液体が注がれる。飲み物を決定する前に押したボタンは砂糖、ミルク、共に濃いのボタン。

 その照れ隠しのような行動に笑いつつ、優紀はグリーンティーを飲み干して言う。


「私も同じものを飲みたくなったわ。お願いするね、クリフ」


 太るぞ、なんて呆れつつも言いながら、クリフは同じボタンを押した。

またまた後書きで書きつづらせて貰います。よろしければどうぞ。




今回はクリフと優紀ですね。時系列的には『美沙都と冬夜』よりも前(というか『美沙都と冬夜』が最終話から数日後)で、殲滅作戦の数時間後ってところです。



クリフと優紀はまあ、言わずもがなコスモスで重要な位置にいる人物なのですが、如何せんどうも弱い気がする。気のせい? 気のせいかなあ……。

と、そんなイモータルパイロットなお二人です。それとどうもクリフは結構人気があるようです。うん、何でかな。別に僕的にはどっちでm――


このお二人は比較的仲が良い感じしますよね。実際、僕もそういう意識をして文章を書いていたところもありますので。

多分優紀がズバズバ物を言うのはクリフ相手ぐらいなので、ある意味では漫才みたいなやりとりを目指していた感も無きにしも非ずです。


う〜ん……意外とこのキャラクター達について語る事がない……。


それにしてもクリフは役立たずだと思うんです。どうですかね、そんな事ないですかね。……兄貴だから良しとしますか。だから何だって感じありますが。



……すみません。何を書いてるんでしょうね。誰がこんな物を読んで喜ぶのか。


駄文すみませんでした。有難う御座いました。

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