表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/75

ACT.27 枢

最終話。

 天空を突き刺す、高い高い塔がある。

 空を、宇宙そらを見上げても、その頂点は雲に隠れて視認することは出来ない。きっと、雲が存在しなくとも肉眼で捉えることは無理だろう。

 宇宙へと直接繋がる大型通路。これは移住に必要な機材の運搬に、そして何より移り住む存在である人間を大量に載せて、宇宙そらへと飛び立つ。

 不可能だと言われていた時代はいつだろう。そんな縦へと伸びる長距離建造物は建設することなど出来ないと言われ続けた日は。

 その言葉を豪語した人間に、この目の前に聳え立つ天空の塔ガルダヴァジュラを見せてやりたい。きっと腰を抜かす、もはやそれ以上の衝撃を受ける筈だ。

 有り得ないと思っていなかった、ごく普通の民間人でさえ、目を見張る存在感。確かな威圧感を放って、それは聳え立つ。

 正しく、天空の峯だろう。

 これは人類の技術の発達の証と言える。

 これは人類種自身の成長の証と言える。

 これは人類の傲慢を表した証と言える。

 我が物顔で、その地球の不純物が居座っているのだ。人類の全精力を掛けて作り上げたといっても過言ではないものが。

 今では、一部の組織によって火星のテラフォーミングが行われているのだろう。完了がいつになるのかは分からないが、徐々にでも進んでいるということは確かだ。

 だがその遅々とした計画の進行も、終わりを告げるだろう。ガルダヴァジュラの完成によって。

 ガルダヴァジュラの本領発揮は資材物資の運搬だ。ならば、そのテラフォーミングに必要な機材も大量に投入できるというもの。計画の歩が圧倒的に早まるのは目に見えているだろう。

 ――故に、あれが壊れればまた世界は崩れるのだろう。

 数々の企業、数々の国家が多大な基金を提供して作り上げた人類英知の塊。それを利用して、世界を堕とせばどれだけのものが得られるのだろう。

 ジルは見上げ、思いを馳せる。

 まさにこの塔は、決戦の場に相応しいと。

 目を瞑れば思い出される少年の顔。成長を歪められ、復讐に想いを占有され、その存在すらもピエロだった偽善者。戦争を心の底から憎みながら、戦争というものの紛れもない被害者でありながら、自身は重要な戦争のピース。

 最も理想的な戦争の終わらせ方は和平だろう。兵器を使わず、穏やかで知性的な言葉の応酬と共に交わす握手で締めくくる理想の終わり。

 枢に求められたものはそんなモノではなく、ただ圧倒的な武力を振りまいて、力で持って力を根絶させるという矛盾存在。

 これほど滑稽な人間は、そうそういない。

 そんな人間を、自分で歪める事が出来たのだ。

 そしてその歪めた少年をただ見つめるだけではない。自身も参加できる――少年の仇という重要な要素で持って。

 加えて、心底殺し合いたかったという者の血を受け継いでいる、世代を超えた宿命者。嘗ての英雄と同等か、或いはそれ以上の可能性を秘めた存在。

 その芽は既に開花した。茎は出来上がり、幹にすらなろうとしている大木の可能性。

 思えば思うほど、ジルにとっては枢が魅力的な存在だった。

 身を震わし、脳を痺れさせてくれる絶対的な存在。

 どれだけ待ち焦がれていたか。

 どれだけ恋い焦がれてきたか。

 人類全てを敵に回した時ですら、こんな焦燥感は得られない。

 枢だけ。枢だけが、この快感を与えてくれる。

 食欲よりも、睡眠欲よりも、性欲よりも上回る、命の喰い合いという生命の根本に座する感情。

 それを枢は与えてくれる。

 待ち遠しい、待ち遠しい。

 そう想いを転がし、後ろを振り向けば――


「――――来たか!」


 待ち侘びたぞ、と歓喜の叫びをジルは上げる。

 背中から赤い翼を羽ばたかせる純白のアウラ。天使に酷似した相貌である、ネフィル。

 “ネフィル”はその姿をカメラアイで捉えると、軌道エレベーターを作動させる。

 ガゴン、と重厚な音を響かせて、自らの視界が上昇していく。

 遠い向こうには、地を掛けるネフィルの姿。土砂を巻き上げ、木々を薙ぎ倒し、翼をはためかせ猛進する一機の天使。

 それは確かに顎を上げ、遠くにある宿命の敵を捉えた。

 カメラアイが疼く。目標を、標的を、悪魔を、仇を、ジルを捉えた。

 一瞬で、天翼の赤光せきこうは何倍にも膨れ上がる。それは背後の木々を焼き、土砂でさえも焼却させる。


「ジルゥゥウッ――!!!!」


 枢の咆哮。憎悪と、憤怒と、殺気を籠めた重い、重い叫び声。獣のように上げられた叫びは、歪曲なくジルの耳に響き渡った。

 それを咀嚼し、ジルは顔を歪ませる。


 ――嗚呼、堪らない


 と、心で酔い痴れる。

 あの時、生かしておいて本当に良かった。見下して、晃だったものを足蹴にして、最大に演出を決めて最高に良かった、と改めてジルは認識する。

 赤い尾を残しながら一直線に迫るネフィルを眼下に捉え、


「来いよ、枢ぇ! 殺し合おうぜッ――!」


 扉が閉じ、宇宙そらへと向かい、上昇していく。

 決戦の時はすぐ傍に。二機の天使は確かに混じり合う。

 定められた偶然によって。




 ネフィルは“ネフィル”の存在を認識したその瞬間、爆発したように地を蹴った。

 今までの出力と比べ物にならないほど究極的な効力を発揮するランページ・オーバード・ブースター。

 拳を握り、喉を絞る。

 上げられた顎へと向かう様に、ネフィルは飛び立つ。

 地を蹴り上げ、跳躍し、背後の天翼によって空を駆ける。

 一直線に、ネフィルは塔へと向かっていた。斜めに上昇しながら、ガルダヴァジュラへと接近していく。

 左手を眼前に添え、右手拳を振り被る。


「、、、、、、、、、、、、、、、、」


 一瞬で、純白の装甲は漆黒の装甲へと成り変った。

 蠢く細胞、牙を立てる細胞が、枢の感情を受理して蠢き囀る。

 音速の領域を持って、塔の側面へと伴う。

 衝突する直前、振り被った拳を思いきり、撃ち抜いた。拳に伝わる痛みの錯覚など気にも掛けない。

 岩と岩の砕け合う圧迫感のある音の出現と共に、ガルダヴァジュラの壁は捕食された。

 バキバキと、喰いきれなかった衝撃が壁全体に行き渡り、蜘蛛の巣状に浸透していく。だがそれも一瞬。認識できないほどの速度を持ってそれは伝わり、十分すぎるほどの風穴を塔に空けた。

 尚、ネフィルの翼は健在だ。

 未だ劣らない音速を――否、光速に見えるほどの速度を伴ってネフィルは塔の内部へと侵入する。

 其処に居たのは、ネフィルと瓜二つの“ネフィル”。

 枢自らの仇、自らの終止符、自らの扉。その全てが集約された存在が、今目の前に。


「ジルゥゥウウゥウ――!」


「枢ぇええ!」


 再度、ネフィルは拳を振るう。“ネフィル”も答えるように、蒼白そうはくの翼をはためかせ、腕を振り被る。

 二機の激突は刹那的に為される。

 一瞬で距離を詰めた二機は、互いに互いの拳を拳を握り合い、接近した顔と顔を突き合わせる。

 拳と拳は喰らい合い、白い霧と黒い霧が発生する。それらは混じり合うことなく、奇妙に中空へと漂っていた。


「、、、、、、、、、、」


 枢の悲痛な魂の叫びに呼応し、オーガトロンはその表面で轟き呻く。

 元々初速が違うのだ。ネフィルは“ネフィル”を後方へと押しやっていく。

 火花を散らせながら、脚で踏ん張り、翼で押しやらんと“ネフィル”もはためかせる。


「お前は、、、僕が、、殺すッ!!!」


 血を混ぜた声が醜く喉から発せられる。その苦悩な叫びに、ジルは悦びを持って返答する。


「良いぜ! やってみろよ――枢ぇえええええ!!!


 “ネフィル”の後退はやがて収まる。高速を持ったその数秒の移動すら収まるほど、ガルダヴァジュラの内部は広い。

 もはや同等。押し返す事も、押し返されることもない均衡の力関係。その脚部には焼けた様な黒い跡が残されている。

 お互いに翼を消滅させた。蒼白そうはく赤光せきこうの翼は芥の粒子となって雲散する。


「、、、、、、、、、」


 獣の雄叫びを上げながら、ネフィルは右の拳を殴りつける。それは“ネフィル”の頬へと、力一杯注がれた。そこからまた、白黒はくこくの霧が立ち上る。

 ぐり、と顔を押しやられながら、“ネフィル”にカメラアイは動き、ネフィルを見つめた。

 煌めくと同時、ネフィルの右腕を掴み、引き寄せる。重心が前に傾いていたネフィルはそのまま体勢を崩し掛ける。

 それをジルは見逃さない。空いた右腕で、ネフィルの脇腹へとオーガトロンの拳を叩きつける。

 衝撃を喰う拳と、衝撃を喰う腹の装甲は、お互いに捕食し合う。その矛盾結果として、枢のいるコックピットへと強い衝撃が行き渡った。


「ぁ、――ガ」


 枢の口から吐血と共に苦痛の息が漏れる。

 涎を垂らしながら耐える痛みは衝撃よりも、むしろ焼けた装甲ハダの痛み。

 しかしそれも、強引に思考の遥か彼方へと押しやる。

 痛みを憎悪に変え、拳に乗せて、ネフィルは左の拳を“ネフィル”へと殴りつける。

 顔と胸部の間、首の付け根を拳で押しやり“ネフィル”の体勢を押していく。

 そのまま、左の膝で腹部へと蹴りを入れる。間髪入れず、再び振り被った拳を腹へと入れる。


「ぬ、――ぐぅ」


 数度受ける衝撃に、ジルも呻く。感情を乗せた拳はかなり重く、コックピット内まで軽減することは叶わなかった。

 思わず、一瞬だけ思考が止まる。

 その隙をついて、枢は掴まれたままの腕を振り解いた。



 ――――大気圏突破まで残り、三。



「ぐ――、ァ」


 再度、焼けた痛みが手首に走る。それをなみだで耐えながら、振り被り、掌蹄を喰らわした。

 更に、“ネフィル”は体勢を崩した。一歩、右足を後方に出して転倒を回避する。

 そしてそれを見て、ネフィルは右足を上げ、踏みつぶす。

 まま、“ネフィル”は成すがままに、地面へと撃ち伏せられる。衝撃を喰い、“ネフィル”の背中の床が削れた。しかしそれは床の全て削るなんてことは到底叶わない。何メートルあるのか想像つかないほど、二機を支える足場は分厚い。

 勢いの流れに従い、ネフィルは馬乗りでその自身と同じ細身の身体へと組みにかかる。


「、、、、、、、、、、」


 想いを拳に乗せ、感情を振り被り拳を介して叩きつける。

 ぞり、と僅かに“ネフィル”の顔面が削れた。

 その事実を、ジルはモニターに表示されたデータで認識する。そして、また嗤う。

 何故、同じ機体なのに出力が違うのか。その怪奇な現象が原因で、殴り合いはジルの圧倒的な不利にあると言える。

 けれど、それが堪らない。自らが不利に立つなど、まずジルにとっては未知の体験。それが堪らない。枢とネフィルという二つの存在は一つとなって、ジルの死となって降りかかる。

 再度、コックピットへと衝撃が響いた。連続で拳を振られている。その一発一発は枢の魂の慟哭であり、速く、重い、強烈な一撃。

 それを何度も、何度もネフィルは叩きつける。上から下へ、何度も何度も振り下ろす。ケモノのように、ケダモノのように飽きることなく振り下ろす。

 感情に身を任せ、焦燥に身を任せ、拳という拳に想いを乗せて叩き破る。

 叩くものは“ネフィル”の装甲などでは決してない。

 その装甲の先、装甲に隔てられたコックピットのその先にいる自らの仇。それが拳の届くべき標的。そこへと想いを乗せ、幾度となく打ち付ける。

 その左右交互に繰り出される連撃に、ジルはまた嗤う。

 拳に呼応して響く衝撃が、拳と同調して聞こえるコエが、拳に乗せられている感情が、堪らなくジルの心を満たしていく。


「――――はっ」


 一息、息を漏らしてジルは嗤った。

 “ネフィル”のブースターが蒼く光る。床に押し付けられていた背中を、それは押し上げ、浮かしていった。

 その異常を枢も感じ取る。即座に飛び退き、構えを取った。

 ネフィルという重みが離れた途端、翼は“ネフィル”を上方へと押し上げていく。相当な速度を伴って上昇している軌道エレベーターの内部だというのに、その速度は全く損なわれていない。

 音速を刹那の間に越え、“ネフィル”はネフィルの視界の外へと消えていく。それをネフィルは顎を上げる事によって捉え直す。

 と、そこにはターンし、翼が天へと向いた体勢に成り変っている“ネフィル”がいた。

 “ネフィル”は拳を引く。眼下に佇むネフィルへと叩きつける為に。

 一瞬で、隕石の様に墜ちるネフィルは床への衝突の直前に速度を止め、地に脚を付けながら拳を振り手繰る。それをネフィルは後方へのステップで回避。それを尚追う“ネフィル”。

 翼で前進をしながら、“ネフィル”は拳を前面へと繰り出した。それをネフィルは背を仰け反り鼻先で回避する――が、その手の甲からブレードが発生した。


「――!?」


 その予想の範疇の外に座していた状況に、ネフィルの顔面には確かにブレードは届いた。

 しかしジルは舌打ち。

 ネフィルが当然のように無傷だったからだ。ブレード如きでは傷をつけることは叶わない。ならば眼前の敵に通用するのは身体に纏った金属生物のみであるだろう、と。



 ――――大気圏突破まで残り、二。



 お互いにステップの慣性が終わると同時、“ネフィル”は一歩、更に深く片足で踏み込んだ。人間の、まるでボクサーのように体重を乗せ、“ネフィル”は拳を繰り出す。

 腰を捻り、基本に帰り的確に撃ち込まれた拳はとても強烈。遺憾なく、その衝撃は枢のいるコックピットに響いた。

 揺れる衝撃と、腹の焼ける痛みに片目を閉じ、俯いた顔を上げ、片目で前方を見やれば、


「な――」


 ネフィルの頭は両腕で掴まれていた。それは無論、“ネフィル”の腕によって。

 枢は何をするのか、と一瞬思うもジルはとても不効率な暴挙に打って出た。


「オラァ!!」


 頭突きだった。渾身の力を振り絞って、無様な姿を曝してまで行われた行動は予想だにしなかった頭突き。

 元々装甲が薄かったのか、それでお互いの頭部は拉げてしまった。


「は、ははは――相討ちかよ、残念だぜ……」


 そう言ってジルは嗤う。

 その間、枢は見えない視界をどうにかしようとサブのカメラアイに切り替えようと模索するが、舌打ちした。


「――使えない」


 仕方なく、コックピットの全面を開ける事にする。見えないことに始まらないからだ。盲目のまま戦うよりかは、身を危険にさらしてでも動いた方が得策だ。

 そうしてコックピットの解放をセラフィに命じる。そして気づいた。ジルがその間に何もしてこなかったということに。

 開けた視界には、薄暗いガルダヴァジュラ内部。無骨な黒い外壁に囲まれた閉鎖空間は、今尚、宇宙へと飛び立つ為に上昇している。

 だがそれはあくまでただの背景。枢の双眸が焦点として捉えたその存在は――


「――――ジル」


「よぉ……枢」


 黒い髪を逆立てた男。不精髭を顎に生やした男。血を垂らしたように紅い双眸の男。

 そう、紛れもなくそれは――


「ジルゥゥウゥウウ―――ッ!!!!」


 ネフィルは拳を振り上げる。今度は装甲を叩く何てことはない。直接、悪魔の男――ジルへと叩きつけた。

 だが当然、それが通る事などあり得ない。即座に突き出された左腕が、その拳を受け止める。


「――ハッ、もっと、もっと、もっと、永遠に殺し合おうぜッ! ――――枢ぇえええええッ!!」


 口元を歪めながら、ジルは“ネフィル”をはしらせる。



 ――――大気圏突破まで残り、一。



「冗談じゃ、ない、、、、、!!!!」


 迫る拳を拳で受け止める。強い衝撃音と、視界が憚れるほどの大量の霧が両機から立ち上った。

 その拳は反発の意思。

 目の前の男にいつまでも踊らされないと。

 自分を変える。

 自分を動かす。

 自分を前へと進ませるという強い意志。

 その意思を拳に――否、全身に乗せる。

 ぞりぞりと、背骨を這いまわる奇妙な感覚。

 ざわざわと、肌を這い回る不快な感覚。

 だがそれが枢に寄生している存在。ネフィルという存在。セラフィという存在。枢という存在。

 呼吸が乱れている。

  視界が霞んでいる。

 血が止まらない。

  涎が止まらない。

 涙が止まらない。

  汗が止まらない。


 ――感情が、止まらない。


 ぼやけた視界の中、確かに一つだけ分かる存在がある。それは“ネフィル”――否、ジルだ。


 右の脇を締め、右の拳を腹の辺りに持っていく。

 気持ちを籠める。

 感情を籠める。

 殺気を籠める。

 意識を籠める。

 枢という全てをそこの集約していく感覚。

 すると、ネフィルの全身の黒が動いて行く。


「な、に――?」


 その目の前の状況にジルの驚きの声が漏れた。

 酷く、異様な光景だった。もぞもぞと、全身に散らばっていた黒が、右腕へとうぞめいていく。拳より遠い順に、ネフィルの素の装甲である白銀のフレームがさらけ曝け出されていった。

 その腕に集まる黒はとても奇妙で、おぞましく、不気味で、まるで這い回る蟲のような――。それが纏わりつく腕は、何故だか膨れているようにすら感じる。

 それを握る。深い深い、オーガトロンを伴って。

 ネフィルは振り被る。拳は頭部を横切り、後へと深く引かれた。拉げ、崩れ、機能していない筈のカメラアイが光る。


「―――、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!!!!」


 何か、枢は言葉を発した。しかしその慟哭は、誰の耳に入っても理解は出来ない。その言葉である筈の叫びは、もはやヒトの言葉を模ってはいないのだから。

 唯一分かるとすれば、それはセラフィだけだろう。

 その拳の恐ろしさに、ジルは目を見開き、息を呑む。

 あれはいけない。

 悪魔か、死神か――いや、そんな言葉では表現しきれない。

 死?

 地獄?

 だが、何にしてもその系統の、深い、マイナスの感情その物だ。

 あれを受けてはいけない。決して。避けなければ。ブースターを使用して、ステップを――。

 そう思いトリガーを握るが、体は思考の通りに動かなかった。

 “ネフィル”は両腕をコックピットの前で交差して防ぐ。防いでしまった。受けてしまった。

 その黒い腕と白い腕。

 オーガトロンとオーガトロン。

 補食と再生。

 再生と捕食。

 鬩ぎ合い、喰らい合い、呑みこみ合い、粗食し合い、噛み砕き合い、消滅し合い、再生し合う。

 矛盾に見えるその現象。停滞すると感じるその現象。均衡し合うと予測されるその現象。

 けれど確かに、ネフィルの腕は突き破った。オーガトロンを持ってして、オーガトロンを打ち破る。

 ネフィルは、両腕を折られた。白いオーガトロンを纏った腕は床へと音を立てて落下する。

 そのまま、ネフィルは“ネフィル”の頭部と、肩を掴み、引き寄せた。

 装甲の打ち合う衝撃音が響く中、近づいたコックピット同士で、二人の宿命者は睨みあった。

 そこでジルは死を悟る。だが、死を格好つけて無抵抗に受け入れるなどはしない。相手がまた、あの拳を振り払うのならば、それを避ける術はないだろう。だからそれでも、無様に抵抗して死に逝くのが、命を削りあった果ての死だろう。

 そうジルが思考したその直後、枢はセラフィに一つのことを命じた。


「――――動力炉を暴走させて」


「な――」


 ジルの眼が見開かれる。それはジルの望んだ死などではないから。

 ジルの望む死とは、命の削り合いを極限まで行い、燃えるような戦いにて訪れるものだ。当然、その戦いの最中でだ。

 だがどうだ、目の前の宿命者は自爆という手段で自分の命を奪おうとしている。その拳で殴りつけはしない。そんなものに、納得がいく訳が無かった。


「枢ぇ――貴様」


 睨む紅い瞳を枢は正面から受け止める。

 そしてセラフィも、その枢の思いを受け止めた。セラフィ故に理解してしまったから。枢のこの想いを曲げることは出来ないと。

 だから――


「イエス、マスター……」


「ふざけるな! 枢ぇぇぇぇ――ッ!!!


 実際は、先程の拳を振るうことは叶わないのだ。既に表層のオーガトロンの大半は失われ、残るオーガトロンは動力部のみ。たったそれだけのオーガトロンで再生を行うのならば、時間が必要になってくる。それでは駄目なのだ。もう軌道エレベーターは宇宙圏へと突き抜けるだろう。ならば待っている時間などないのだ。

 かと言って、腕はないのものの未だにオーガトロンは健在である“ネフィル”相手に只のアウラで撃墜するなど不可能だろう。

 ならば成すべきことは一つだ。未だ変わらず機能しているIMジェネレーターを暴走させ、爆発を発生させれば、目の前の男も蒸発するからだ。


「カウント、開始します――三」


「クソッ! 枢ぇ! 納得行くか! 俺は! 俺はぁ!!!!」


 ジルの怒号を前に、枢は目を瞑る。


 ――ジルを殺せるならそれで満足だ。それで僕は前に進むことが出来る。

 身体のことや、そういうのは何も変わらないけど、僕の心は変わる事が出来る。これでやっと、あの地獄に縛られた心が解き放たれる気がするのだ。

 だから、前に進める。やっと、やっと。

 けれど、僕は終わる筈だ。この爆発に、ジルと共に巻き込まれて。

 アイツと相討ちというのが堪らなく厭だけど、まぁ、殺せるのだがら良しとしようと思う。

 だけどやっぱり、気がかりはあった。

 アイリの事。アリア・キルスティスと自らの名前すら偽って生きてきた、氷の、無色の少女。

 流れる砂金のような髪はあんなにも輝いているのに、碧の美しい瞳はあんなにも美しいのに、出会った時の少女は酷くおぼろげな存在だった。

 だけど、彼女は変わった。今や彼女は、年相応の少女に戻っている。

 けれど、そんな彼女をまた裏切ってしまったことが酷く胸を締め付けている。

 大きな心の残りだ。

 だけど僕は終わるだろう。約束を――破るつもりの約束を作ってまでして、ここに立っている。


「――残り、二」


 美沙都、ごめん。日常に戻る事は出来そうにない。出来れば、僕のことは忘れて生きて欲しい。


 冬夜、だからそんな美沙都を支えてやって欲しい。長い付き合いだから、君に任せるよ。


 フィーナ、結局ネフィルを壊すことになってしまった。ごめんよ。これからも、コスモスを支えていって欲しい。


 イリウムさん、初めての戦闘で一緒に戦ったことをよく覚えています。これからも、勇敢で在り続けて。


 優紀さん、何だかお母さんとか、お姉さんみたいで温かかった、ありがとう。


 クリフさん、僕にとっての兄貴分みたいな存在だったと思う。いつも気にかけてくれてありがとう。


 結衣、ごめん。お前が目覚めても、僕はいない。約束は半分守れて、半分守れなかったよ。良かったら、駄目な兄を、許して欲しい。



 ――――アイリ、さようなら。



 ネフィルの内部に、光が収束していく。二つの鉱素の急激な反応と、混ぜられたオーガトロン。極端な反応が生成するエネルギーに、ジェネレーターは耐える事が決して出来ない。

 故に爆発。その規模は核に次ぐほど。


「――――ごめんなさい、枢」


 光輝く視界の中、セラフィの声が聞こえた気がした。

 そこで、僕の意識は途絶える――




 ――高く、高く聳える塔がこの日、崩れ落ちた。

 頂上付近での膨大な大爆発によって、足場は崩れ、強固な外壁も崩された。

 その強固さ故に、一度崩れた外壁は、外壁へとぶつかり、連鎖的に崩れていった。

 がらがらと、音を立てて。

 そしてもう一度、半ば付近での爆発で、塔は完全に崩れ落ちる。足下からの基盤を失ったそれは、やがて地面へと突き刺さり、粉々に砕けていく。

 瓦礫は遥か雲の彼方から地上へと墜落し、何度も何度も地面へと突き刺さっていく。

 いつになったら終わるのかというほど、瓦礫の雨は長い間続いていた。

 そして奇妙なことに、崩れ落ちた瓦礫の山のその中からは、いつまでも――いつまでも霧のようなものが立ち上っていた――。













 枢――



 少女の声が、世界の片隅の、遠い遠い、世界の何処かで。


 小さくとても小さく。


 けれど確かに、世界の誰かへと響き渡っていた――

 ……。


 ……。


 ……はい、完結いたしました。

 まずはここまで読んで下さった方々に感謝を送りたいと思います。本当に有難うございました。

 ……あ、最終話だけ読んでくれたといった方も、有難うございます。


 え〜……はい、終わってしまいました。僕としては、一人で感動してる次第です。それはこの作品の内容とかではなくて、一つの作品を書き終えたという事に関して、何かこう、感慨深いものを感じています。


 ちょっと、最後なのでこの作品について長々と語ってみようかなぁ、なんて思っていますので、読みたくないような方がいましたら、飛ばして頂いて構いません。読んで下さって有難うございました。





 えーと……まず思う事は、本当にとても多くの人に読んでいただけた作品だと思います。

 確か、僕が一部目を投稿した時は、某巨編ロボ小説二期が蹂躙してた時期だったんです。そのこともありまして、一日ユニークアクセス10人目標! と思って書いてたんですね。しかも初めてでしたし。なんかもう……毎日読んでくれるか楽しみなのか不安なのか良く分からない日々を送っていたような気がします。

 ですが、本当に沢山の人が目にしてくれるようになったというこの状態にですね、本当に嬉しさを感じています。何か書いてる今も涙腺が熱いっぽい。


 加えて神宮寺先生に外伝書きたいとか言われた時は本当にびっくりしました。寝ぼけ眼も一気に覚醒したものです。

 そんなことがあり、何だが沢山の人に見られて居るんだな、と再認識しまして、テキトーに書いちゃいかん、とか思ったわけです。




 んーと、何か語る事……えーと……あ、この作品には一応テーマというものがあるんです。

 まあそんなもん感じねえよ! って方も多い――ていうか殆どな気がしますが、聞いてやってください。


 僕がこの作品を書くにあたって、最も主軸として置いたのは『技術の発達』何ですね。どうですか? 感じましたか? 感じてないですか……ごめんなさい、それは僕の力量不足です。

 作中の年代は一応西暦2045年な訳です。しかも2000年くらいまでは僕らが今いるこの世界と同じ道を歩んでいた筈なんです。

 ――――ぶっちゃけ、有り得ないです。そんな今から三十年後に三十メートルもの人型兵器が闊歩している世界なんて。

 でもそれを書きたかったんです。何かの拍子に凄い技術が出来上がってしまったら、その後世界はどう転ぶのか。それを思った時に、ガキなりに浮かんだ終着点はやっぱり戦争だったんです。だから、アウラ何ていうものが闊歩している世界を舞台にしたのです。

 実際、作中でも技術は発展してますよね。ヴィレイグの装甲を剥ぎ取って行う変形から、プロセルピナの完全な変形だとか。装甲を削りに削ってやっと飛び回っているケツァールも、飛行ユニットを取り付けたミネルアで対抗できるとか。最後の最後では宙に浮いてる三馬鹿が登場したりとか、レーダーに感知されない奴だったりとか。

 ですから、そういうのが少しでも伝わっていればよかったな、と思います。


 そしてもう一つ。忘れてならないのが枢くんですね。一部じゃエロスなんて囁かれてますけど、彼は可哀そうな奴です。

 で、そんな悲惨さを書きたかったんです。戦争を憎んでいるのに戦争に関与している矛盾から始まり、アイリを大切にしているのに復讐しなくちゃ気が済まない葛藤とか。強い力を持っているのに、身体はぼろぼろになっていくとか。そういう枢の心身の擦り減りも書きたかったんです。

 当初はもっと、戦争というものを世界的に、全体的に語るような作品にしようかとも思いましたが、枢くんという一人の少年に戦争の悲しみを一身に背負ってもらう事にしました。

 ――――まあ、枢はエロスなんですけどね。まっ裸のアイリ、二、三回見てますし。

 ………………な、何はともあれ、この作品のもう一つのテーマが枢くんの悲惨さを表現する事なんですよ。

 ちなみに、アイリの告白は書いてて死ぬほど恥ずかしかったです。



 どうですかね、伝わりましたかね……伝わってると嬉しいです。




 そして、この作品の今後ですね。まあ完結とかほざいてますが、当然アウラの世界自体は完結してません。伏線とか謎とか、恐ろしくほっぽったまんまです。

 ですが、実はこれは回収しきれなかった訳ではなく、書き始めた当初から構想していたものだったんです、一応。なんだか非常に申し訳ないんですが! ……ああ、何か変なテンションだ。


 この本編であるアウラ、えーと、アウラ一期とでも呼びましょうか。この一期から派生するお話が二つあります。端的に言って、過去編と、未来編です。


 過去編というのはその名の通り、一期の十数年前の物語ですね。枢の父である晃が主人公として話が進んでいきます。ちなみに、戦闘狂ジルさんも大活躍です。

 内容をざっと言ってしまえば、物凄い戦争臭い物語になると思います。国家間の争いとか、企業間の争い、それも、水面下での事柄です。一期ではある程度沈静化した後の情勢なので、その前の暴れ狂った時ですね。本編で微妙〜に言っていた“前大戦”でもあります。覚えている人はいるのだろうか。

 ……ただこちらの作品は先にも述べた通り軍人色の強いお話しになると思われます。多分、女子供皆無です。アイリなんていう幼女は登場致しません。ですので、男の世界です。男性の読者さんにとっては少々あれなのかもしれません。――――あ、でも女性の読者的には素敵な二十代前半の男共や素敵なおじ様が沢山出てきますよ! …………女性の方が読んで下さっているとは思えないんですけどね……。

 とまぁ、こんな感じです。


 そして未来編。こちらもその名の通り一期から数年後の世界を描いています。ここでは主人公を交替してアイリが主人公になるわけです。

 こちらは別に軍人色が強くなるわけでもなく、多分一期と同じような雰囲気の作品となるでしょう。アイリが幼女のままか、果たして成長出来るのかわくわくして待っていただけると嬉しいですね! ――――――ごめんなさい。変態くさいですね。ごめんなさい、ひかないでほしいです。



 えー、それで、何故ここでこんなことを言うのかというと、どっちのが読みたいかなぁ〜と思ったからです。

 僕としては二つを同時に進行していこうと思っていたのですが、まあ想像して見るにめちゃくちゃ大変そうだと! そういう訳です。なんか頭が上がらない次第ですが。



 ですので、二期をまず書くか、それとも過去編を書くか、或いは同時進行かということをそれとなしに感想だったり作者へのメッセージフォーム等でお聞かせ願えると嬉しい限りです。

 正直悩んでいる所ですので……救いの手を差し伸べると思って……是非に!



 二期か過去編とどちらかに絞るメリットとしてはやはり更新が早まるという事ですね。ただしその代わり伏線のリンクなんかは弱くなると思います。


 両方同時進行に於いてのメリットは伏線のリンク性ですね。片方のお話を読んでいても無論面白くしていくよう努力しますが、両方の作品を読むことでこう、盛り上がるというか、そういう効果が生まれる可能性が無きにしも非ずです。デメリットといえば当然更新の遅さだと思います。




 でもどちらにせよ、次の作品を書くまでには期間が空いてしまうと思います。

 今の段階では構成がかなり大雑把であるのでもう少し構成を練らなくてはまずい。そこの所は申し訳ありませんがご了承をお願いします。……っていうか次も読んでくれるのか恐ろしく不安ではあるのですが……一期だって途中で半年近く空けちゃったし――ぶつぶつ。



 あ、それと、この作品は完結設定にしてありますが、後日談を乗せる可能性があるので一時的に解くかもしれません。そうなったら、よければ読んでやってほしいです。








 えー……んー……こんな所ですかね……話すべきところは。うん、多分、こんな所です。




 えと、では最後に、本当にありがとうございました。これにてアウラ一期は完結です。是非、次の派生作品も読んでやってください。


 ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ