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ACT.20 シュペルビア殲滅作戦<1>

 空母には大量のアウラが潜んでいた。

 雲よりもはるか上空、群青の空を跳ぶ数十もの鉄の鳥。

 そこからもう間もなく、空を埋め尽くすようにアウラが墜ちる。

「降下まであと20――」

 男の声が各機のコックピットに響き渡る。

「――10」

 それは戦場へ身を投じる合図。

「――9」

 連合軍対シュペルビア。

「――8」

 皆思いを胸に待ち構える。

「――7」

 家族の身を案じる者。

「――6」

 恋人の身を案じる者。

「――5」

 世界の事を案じる者。

「――4」

 欲に焦がれ参じる者。

「――3」

 戦場に想いを馳せる者。

「――2」

 世界の誰もが関心を持つこの戦い。

 世界の分かれ道。

「――1」

 人類の終末か――始まりか。

「――――降下開始!」


 幕が開ける。




 一斉に機体が降下した。

 巨大な鋼の空母から無蓄蔵の機体が空から舞い落ちる。

 数は三百をゆうに超えている。空は機体で覆われ、雲を突き抜け更に降りてくる。

 流星のようにそれらは降り注ぐ。

 クラウル。ナイト。ファルス。――アクストラ。

 様々なアウラが在った。

「――ッ」

 キョウヤは激しい揺さぶりに歯噛みする。

 重厚なアウラは降下制限機能を全く使用していない。従って異常なまでの空気抵抗が発生し、それが機体を揺さぶっていた。

 やがては終末速度に辿り着く。だがそこまでの衝撃は耐えなければならない。

 耐衝撃用のスーツを突き破り、容赦なく生身の体を攻撃してくる。


 ――高度五万メートル


 雲を突き抜け、視界が晴れていく。


 ――高度四万メートル


 しかし目標の基地は視認できない。


 ――高度三万メートル


 それはミスト・ゴーフという自然の壁が遮っているからだ。

 降下中である全ての機体は背中のブースターを地面に向けて噴出した。着地時の衝撃を抑えるためだ。中にはパラシュートを開く機体もいた。


 ――高度二万メートル


 このまま降りて、あとは強襲を仕掛けるだけ――キョウヤはそのことに集中する。

 しかし突然のアラートにキョウヤの心臓が跳ねる。

「――熱源ッ!?」

 遥か下、一万五千メートル下に莫大な熱量を感知する。その大きさはアウラの規模ではない。

 ――こんな熱量が機体に触れたら蒸発してしまう。

「下方から熱源! 総員散か――クソッ!」

 言い終える前に気づく。既に他の隊員との通信は切られていた。

 ミスト・ゴーフの稀有な特殊な粒子によって波長を特定した弱い電波は遮られている。


 ――高度一万メートル


 キョウヤは直ぐに公開オープン回線に切り替えて叫んだ。

「――下方から熱源! 総員解散!」

 その声に気づき、多くの機体がブーストを吹かし、その場から散開する。

 目的地の真上だった機体をずらしていく。

 何処まで届いたかは分からない。

 電波は限界まで出力を上げている。しかしこの未知の空間では分からなかった。

「――来た!」

 熱源は霧を裂き、現れた。

 それは光線。

 アクストラより少し離れた空間を突き抜ける。

「、、、、、、、、、、、、、、!」

 同時に、惨血ざんけつの悲鳴が響き渡る。

 アウラを焼かれ、身体を焼かれ、脳を焼かれた苦しみの具現。

「――チッ!」

 ギリアムは舌打ちした。

 何人持ってかれた、と冷静に思考する。――二十機は持っていかれた。

 その冷たさは軍人として熟練した証であり、死んでいった仲間の為でもあった。

「もう一発、来ます!」


 ――高度八千メートル


 二発目は空気を貫くだけで、断末魔が響くことはなかった。

「気をつけろ! 敵は長火力兵器を持っている! 接地時に一掃されないよう注意しろ! 隊を離れない程度に散開! そして各自の持ち場をこなせ!」


 ――高度六千メートル


 了解、と複数から返る。

 二発目の光線から感覚が空く。装填時間、弾切れか。何にせよ、初発と次発ほどの狭い感覚は無くなった。

 それにしても、とギリアムは恐怖する。

 先の青い光線の威力は空母のそれだ。一介のアウラが操れる程の武装ではない筈だ。

 ならば敵のアジトは既に要塞と化しているのか。

 あらゆる想定を起こす。あの霧が晴れた後の対処を取る為に。

 もうすぐで霧が晴れる。晴れたそこにはあのテロリストの本拠地がある筈だ。

 キョウヤは霧を凝視する。

 霧が晴れたその先には――


 ――――天使がいた。


 旧い研究所の横に白い巨大な機体が立っている。

「熱源発生! 全機備えろッ!」

 世界中に響かせるつもりで叫んだ。

 天使――“ネフィル”はその両手に巨大な武装を握っている。

 蒼い閃光が収束し――発散された。

 光線は一直線に降り注ぐアウラの一小隊を容赦なく焼き払う。回避の遅れた機体は皆焼失した。

「、、、、、、、、、、、、、、、!」

 耳に残る悲鳴を上げながら。


 ――高度四千メートル


「まだ着かないのかッ?」

 地上がとても遠く感じる。

 まだこちらの武装ではあの機体には届かない。狙撃特化の機体もあるが、降下中である不安定な状態ではろくな射撃は出来ない。

 降りるまで耐えるしかなかった。


 ――高度三千メートル


「――来たッ!」

 装填が速い。数秒の間もなく次々と撃ってくる。

 空母の大砲並みの威力のレーザーを何度も射出するエネルギーも、それに耐えうる銃口も桁違いの性能だった。

「何ッ!?」

 だがそのレーザーライフルはただ撃つだけではなかった。

 二秒という僅かな照射の時間、“ネフィル”は銃口をずらす。

「クソッ!」

 蛇のようにのたうった蒼白い光を何とか回避する。

 ――また更に人が死んだ。

 全体の数が多いので作戦に支障はない。だが――許せない。


 ――高度二千メートル


「よしッ! 反撃開始だッ!」

 ギリアムのその言葉と共に数多の機体が銃を構えた。

 一斉射撃。

 銃弾が嵐のように降り注ぐ。何十発も、何百発も。

 それを確認すると“ネフィル”は直ぐにブーストを吹かした。重い機体を引きずり、地面を右往左往する。

 弾は数発しか当たらない。

 降下しながらという悪条件の中では鈍足な機体にもまともにあたらない。加えて屈強な“ネフィル”には数発の弾など存在しないのと同義だった。


 ――高度千メートル。


「撃て! 撃て!」

 叫ぶ。この場にいる全員の気が高揚していた。

 突然の開戦、突然の死、突然の敵。

 全機は一心不乱に撃ち続けた。

 何発か当たるが、その弾は“ネフィル”の装甲へ、ブラックホールのように吸い込まれていく。

「何だ、ありゃ!?」

 ギリアムはその僅かな違和感に気づく。しかし不可解。それは弾いたのではなく飲み込んだのだ。


 ――高度五百メートル。


「うぉぉおおぉぉお!」

 ――猛る。

 アクストラは刀を地面へ突き立て、真下の“ネフィル”目掛けて一直線に降下する。

 “ネフィル”はその伏兵を視認した。真上という死角からブースターを爆発させ加速しながら殺しにくる。

 その刀が“ネフィル”の頭部に当たる寸前、“ネフィル”は瞬間移動ステップする。その急動きゅうどうにキョウヤは反応できなかった。

 巨大な業物は地面へ深々と突き刺さる。半身まで刀は突き破っていた。

 同時、避けた“ネフィル”は背部の散布ミサイルを展開した。

「しまっ、た――」

 百メートルも離れていない距離。蟲のように群がるミサイル。

 かわせない。

 だがせめてもの抵抗と抜けない刀から手を放そうとした――瞬間、目の前でミサイルが全て爆発した。爆発の規模はとても小さく、アクストラまで届くことはなかった。

「――馬鹿野郎ッ! てめぇは猪か! 少しは考えて動け!」

 滅多に聞くことのないギリアムの罵倒。ギリアムも戦場で高揚している一人だ。

 先のミサイルは、ギリアムやティアラを始めとしたキョウヤの部隊がフォローしていた。ミサイルの軌道上に大量の弾丸を撃ち込み誘発させることにより。

「すいません、ありがとうございます!」

 感謝と共に刀を引き抜く。

 ――蒼白い光がまた収束し始めていた。

「させるかよ!」

 抜いた刀を銃口目掛けて振る。

 しかし当たらない。僅かにレーザーライフルを後ろにずらし、紙一重でかわされた。

「まだだ――ッ!」

 二本目を即座に抜刀した。

 視認し難い速さで抜かれた刀は“ネフィル”のコックピットを両断する軌道を描くだろう。

 アクストラは腕を振り切る。

「――――ッ!?」

 しかしその腕の先の刀は消えていた。文字通り“消失”していた。折れたのではない。元々その刀は半分であるかのように切断面は綺麗だ。

 斬られた筈の“ネフィル”のコックピットは、白い霧を纏っているだけで何も変化はない。光は無くなったものの、こちらは武器を失ってしまった。

「まさか、“喰った”のか!?」

 その始終を見ていたギリアムは一つの答えを出した。少なくとも、そう見える。

 ――有り得ない。

 向かい来る弾丸や、ブレードを霧を出すだけで消滅させる。それはまるで捕食だ。――ならあの霧はさながら涎か消火液か。

 だがそんなアウラが存在しても良いのか。

 しかし目の前に確かにある。魔法でも、幻でもなく現実として。

 ならば受け入れなくてはならない。そしてこの現実に対処しなくてはならない。

「――キョウヤ! 下がれ、分がすぎる! お前は迂回して別の突破口を開け!」

 “ネフィル”は丁度番犬のように、研究所の入り口の前方で立ち塞がっていた。

 ギリアム達の部隊は真正面に降下したため、研究所へ攻め入るには直線状に“ネフィル”がいる。しかし敵は正体不明の機体だ。ここでアクストラは失うわけにはいかないと判断した結果だ。

 アクストラは右へ回り込むように迂回していった。別の突破口を探すのだろう。

 しかしそれは叶わなかった。

 既に正面の扉から無数のアウラが湧いていたのだ。ぞろぞろと蟻のように。行方は阻まれた。

「随分、たくさんいるじゃない」

 ティアラは軽口を叩くも、内心は余裕が無かった。

 弾丸で無傷、刀を消滅させる謎の機体に加え、自分たちの強襲が分かっていなければ用意できるはずがない圧倒的な戦力が目の前に布陣として展開されていること。

 ――再び、光が収束していた。

 それを見てキョウヤは狼狽する。

「どうすればいいんだ、コイツは!?」

「下がれッ! キョウヤ!」

 ギリアムの声で我に返り、アクストラは部隊に近づくように瞬間移動ステップした。

「コイツならどうなんだ!?」

 ファルスの背部に装備されたグレネードを撃ちこむ。それは戦車など紙屑同然、というほどの威力。これならば、何らかの負傷を与えられる可能性が高いと、ギリアムは踏む。

 爆風が巻き起こり、風によって直ぐに晴れる。

「……マジかよ」

 当り前のように“ネフィル”は無傷。

 逆に、“ネフィル”にとって、グレネードは紙屑同然の威力だった。

「けど、あれが出ればレーザーは撃てないんだな」

 入手した情報を敢えてギリアムは口に出す。それにより頭に入れ、活用しやすくする為だ。

「全機、あのレーザーライフルがチャージを始めたらすぐにグレネードをかませ! それでひとまずは収まる!」

 “ネフィル”の武装は視認できる限りで背部のミサイルと腕部のレーザーライフルのみだ。

 ミサイルは通常の対処で済むことは先ほど実演済みだ。なら脅威はレーザーライフル。それを抑えればひとまずは大丈夫だ。

「ひとまずって、よぉ……」

 ギリアムは自分で自分の思考に対して指摘する。

 “ひとまず”など悠長なことは言ってられない。

 何せ目の前では、天使の後ろで百機以上のクラウルとホークスが展開されているのだから。

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