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ACT.15 任務の休日<2>

「よし、アイリ。そこまでにしようか」

 また何かの店に駆けて行くアイリの肩を後ろから軽く掴む。

 辺りはすでに暗くなっていた。夜の街を、薄明るい神秘的な街灯が照らしている。街は夜独特の賑わいに包まれている。道路というものが存在せず、代わりに、街中を網のように巡っている水路を利用している。故に、この街には車両による騒音というものがない。

 そう、本当にまるで中世のヨーロッパというイメージがぴったりな気がする。

「え? いや、私は……その……」

「トールニアさんを探してるって言いたいの?」

 敢えて笑顔でアイリに問いかける。そのアイリの手にはまた何かのお菓子が握られていたり、ぬいぐるみが握られていたりしている。更には口の端には微量の生クリームが付いている。これは完全に観光客だろう。誰がどう見ても。

「いや、あの……その…………ごめんなさい」

 アイリはシュン、とした感じで頭を下げた。枢はその姿に苦笑する。

「……ま、いいさ。明日は、ちゃんと捜そう」

「……うん、ごめん」

 そう言って僕達は本日の捜索を止めた。未知の土地で夜うろつくのは、あまりよくないだろうから。



「すーげー……」

 枢は目の前にあるとても高い建物を見上げる。一応目の前にあるものは、フィーナが用意してくれた宿泊先、ホテルなのだが……。

「これはどう見ても……」

「……お城」

 枢の言葉にアイリも続いた。どうやらアイリも同じ感想を持ったようだ。っていうか、同じ感想を持たない人を見てみたい。

 目の前にある建物は透明なガラスで壁を透明にし、高級感を漂わせているわけでもない。砦のように土台を高い壁で覆い、その土台の建物の上に比較的細く高い塔のようなものが二本と、その間に両脇よりもかなり太い塔が建っている。その石は真新しくなく、白色に土色を混ぜた様な色で、年代を感じさせる。こんなものが建っている所を見ると、ますます中世ヨーロッパのイメージに近づいた気がする。

「……ま、とりあえず入ろうか。フィーナが事前に予約してあるって話だし」

「うん」

 そして僕達はその、自分たちよりも何倍も大きい扉をくぐり、中に入った。




「――クソッ!!」

 自らを通り過ぎゆくモノ全てを、アルスはその両腕のブレードで両断していく。

 前方から、圧倒的な数を展開し、シュペルビアの群棲は迫ってくる。奴らの肩には黒いイバラのマークがデカールされている。――シュペルビアである証だ。大多数に一つのマークを有する。まるで軍隊のように。これで奴らは自分たちが政治的要因になったつもりでいるのだろうか。テロリストのくせに。

「底があるのか!? こいつらはッ!」

 アルスの後方にはアルスを支援する為、組まれた部隊が街を護っている。荒野と街との境に在する、街を護る為囲う様に建てられた石造りのその高い硬壁へと押し寄せる。


 アルスの武装は、両腕のブレードと両の平のアンカーしかない。

「クッ、届かない――ッ! 任せたぞ!」

 左側を通り過ぎるアウラに右手の平を向けアンカーを射出するが、届かない。

『はいっ!』


その為、仕留め損ねることはないが、カバーできる範囲が少ない。だから支援部隊が必要になる。支援部隊として選ばれたのは、十機のブレスレイサーだ。その十機は、全ての武装が統一されているわけではなかった。


 ブレスレイサーは巨大な、450mm口径スナイパーライフルを、その機体を横にして両手で構える。そして、銃口が閃光する。450mm鋼弾が空中を突き抜けていく。直後、アウラの動きが制止する。その機体には巨大な風穴が空いていた。その巨大な弾丸は、詳細不明のアウラを撃ち貫いた。ブレスレイサーは僅かに、発射時の反動で退く。


 ブレスレイサーのその秀逸な性能はその“隠密さ”だが、それとは異なり、その基となる性能は遠距離支援だ。ブレスレイサーは固定しなければ撃てないほどの反動を与えるライフルを使用できる程に、椀部が遠距離向けに造られていた。それに反し、運動性能は劣悪なのだが。

 故に今回起用された。今、ブレスレイサーはスナイパーライフルを主な武装として、背部に汎用ミサイルを装備していた。


「やらせねぇ! やらせねぇよ!」

 アルスは舞う様に剣を振るう。離れた敵へ向け、アンカーを射出する。そのアンカーは敵のアウラへと、深々と刺さる。

「鬱陶しいんだよッ! お前ら――!」

 そのままアルスは右手を後ろに流す。その腕の動きに合わせ、アンカーと、射出されたアウラが引き摺られる。その途中で、幾つものアウラを巻き込みながら。その巻き込まれた大量のアウラが、アルスの後ろに持っていかれた。

「今だッ! 撃て!」

 それは丁度、アルスとブレスレイサー達の間。

 ブレスレイサーが一斉に構える。先程のスナイパーライフルを構えたものではなく、自らの頭部程の銃口径の銃を構える。それは、ハイペロン砲を放つ、“ハイペロンキャノンライフル”。

 その銃口から、白いブレスレイサーとは正反対の、深く黒黒とした闇の粒子が放たれる。粒子はその銃口より、遙かに大きい範囲を放っていた。そしてその粒子の端では、内側の色とは正反対に明るく、火花が散っていた。

 アルスはアンカーを放棄する。そのハイペロンキャノンライフルが放たれると同時に、空高く跳ねる。大量のアウラと、一瞬前までアルスがいた空間を深い闇が通過する。闇が、包み込む。


 バリオンとは、素粒子の中でも重い質量の大きいもの。その圧倒的な粒子を収縮されたハイペロン砲を浴びたアウラ。つまり軽い粒子が重い粒子に根こそぎ包まれた時――


 ――アウラは闇の中で変形する。それはまるで隕石がぶち当たったように、月の表面のクレーターのように、ボコボコと、装甲が凹んでいく。

『クッ! 何だこれは!?』

 シュペルビアのパイロットはトリガーをガチャガチャと動かす。しかし機体は動かない。機体の動きは静止する。更にアウラは凹んでいく。 コクピット内は赤く光り、危険を知らせるアラームが鳴り響いている。

『う、うァぁあァアぁ!』

 次第に、アウラは元のサイズの半分程にまで凹んでいく。無論、影響するのはアウラの装甲だけではない。人体にも影響する。パイロットの体はひしゃげていく。そして黒い波動を浴びているアウラが一斉に、爆発した。

「ハッ、相変わらずすげぇ威力だ」

 アルスはハイペロン砲が消失すると、再び地面に着地した。その着地と同時に、砂埃が巻き上がる。

「――チッ、それにしても」

 左手にブレードを下げながら、アルスは立ち尽くす。

「――キリがねぇぞ、コイツら」

 イリウムは誰ともなく呟いた。

 百機以上はいる、謎の大量のアウラを見据えながら。

 目の前では、大地がアウラで埋め尽くされていた。この数は、本当に人が御し得るものなのだろうか。これではまるで、本当に人類の粛清ではないか。目の前の光景の前では、そう思わずには、居られなかった。





「一部屋しかない!?」

 食いつくようにカウンターから体を乗り出す。

「え、えぇ。少々お待ちを。もう一度調べてみます」

「は、はい」

 受付の女の人が目の前のキーボードを叩く。僕はそれが終わるのを大人しく待つ。アイリは僕より一歩下がって待っていた。

「……やはり一部屋のみのご予約のようで」

「……他に空き部屋と言うのは!」

「申し訳ありません。現在全て埋まっております」

「そう、ですか……」

 これは故意だな、フィーナめ。……どうしようか。このままでは、僕とアイリ二人で一部屋に泊まるということになってしまう。しかもダブルベッドだ。シングルベッドが二つではない。ダブルベッドが一つなのだ。これは由々しき事態だと思う。僕だって男なのだ。そんな状況は……。……でもアイリなら――

「――私は、それでも構わない」

 ……やっぱし。

「そ、そうは言うけどね、アイリ……」

「……嫌?」

 とアイリは上目使いで見つめてきた。いまいち無表情だけど。

「や、その、嫌っていうか、だね……その」

「……嫌なの?」

「……嫌じゃないです」

 ……負けた。女の子の上目使いは卑怯だ!

「それでは一部屋の御利用でよろしいですね?」

「……はい」

 僕は頷いた。……っていうか、受付の人は心なしかにやにやしていた気がするんだけど……?




「――ハッ」

 イリウムは目の前に対峙するアウラを前に、喉から息を漏らす。嘲笑するように。

「――何の冗談だよ? それは」

 目の前のアウラを睨みつける。

「――何でその機体がここにある」

 その姿は、アルメニアアルスに酷似していた。

 相違点の一つはまず、飾り毛がない。もう一つは機体色。アルメニアアルスとは色彩的に対称の位置をとるような薄黒い機体。それ以外は、酷く同じ存在だった。まるで映し鏡のよう。

『――“カルトヴェニア・アルス”。それがこのアウラの固有名称のはずだが?』

「分かってるよ。……俺は何でその機体がここにあるんだって訊いてんだ」

『……さぁ。どうしてかな?』

「――チッ。ふざけやがって」

 吐き捨てる。

 公開電波オープン回線で敵パイロットの声が入りこんだその声は、男性のものだった。ほどよく太い、冷静で、静かな声だった。ある意味非情な印象を持たせる。感情が多く含まれたイリウムの声調とは、また逆の雰囲気を漂わせる。

「んで? それに乗ってるお前は何だよ……? 誰だよ?」

『……』

 怒りに満ちた詰問。しかしイリウムの脳裏には、一人の男が浮かび上がっていた。その声は記憶にある。


 ――しかし有り得ない。


 そいつは自分にとって最も近く、それでいて最も自分から遠い人物だった男だ。


 ――しかし有り得ない。そいつが――奴がるはずなどなかった。何故なら。何故なら奴は――


「どうしてお前が生きている――――ジャスバァーッ!!」

『――久しぶりだな、エイリア』

 その男はイリウムの本当の名・・・・を口にする。イリウム――いや、エイリアの顔に憎しみが浮かぶ。エイリアの瞳が睨む。それはまるで、誰かが親の仇を見るような瞳で。自らにとっての憎むべき悪魔を見るように。

「――――何でお前が生きている」

『……』

「何でだ。……どうしてだよ」

『……』

「答えろ。……答えろよッ! ……ジャスバァァァァァッーー!!!」


 ――その男は。エイリアがエイリア自身の手で、殺したのだから。


 アルメニア・アルスは右腕でブレードを引き抜いた。カルトヴェニア・アルスも、静かに剣を引き抜く。ブレードでさえも、この二つはまるで同一存在が重複しているかのように似ていた。ブレードを振り被りながら、アルメニア・アルスはカルトヴェニア・アルスに飛びかかった。

『落ち付け、エイリア』

 カルトヴェニア・アルスは静かに、その右腕のブレードを御する為に自らの前へと持っていく。


 ――ガキィィィッ!!!


 二つのブレードが触れる。触れた瞬間にけたたましい音が響きながら、鍔迫り合いを始めた。同一のブレードの為、二つの間に性能差はない。故に圧すことも、圧されることもあり得ない筈だった。――が、それは二つが同じ条件の場合。

『その腕でどう勝つつもりだ? エイリア』

 空いている左腕で、カルトヴェニア・アルスはもう一対のブレードを引き抜く。

「――チッ!」

 アルメニア・アルスはブレードを引き、そのまま飛び退く。その直後に新たに引き抜かれたカルトヴェニア・アルスのブレードが虚空を斬る。

「――ちくしょう……もう一本ありゃあ……」

 イリウムは、誰にも聴き取れないような大きさで、静かに呟く。その着地したアルメニア・アルスには、左腕がなかった。

『……今日は退け、エイリア』

「……どうした、臆病風にでも吹かれたか?」

『虚勢は良い。このままやれば、お前は死ぬだろう?』

「――クッ」

 図星だった。この状態のまま戦闘を続ければ、エイリアがやられるのは明白だった。同じ武器。同じ武装。同じ機体。同じ性能。同じ腕・・・。しかしアルメニア・アルスには左腕がない。接近戦において、尚且つ、対接近戦との戦闘においてこのハンデはかなりの痛手だった。

『だがしかし、こちらも分が悪いのは一緒でな。複数でたかられたらかなわん』

 ジャスバーは奥にいるスナイパーライフル、及びハイペロン砲を装備しているブレスレイサーを見据えて言う。確かに、この状況ならアルメニア・アルスを墜とすことは出来ても、ジャスバー自身が生き残る可能性もまた低かった。

『して、まさかこちらが全滅するとは思わなかったんでな。想定外だ。……腕を上げたな、エイリア』

「……抜かせ」

 二機のアルスの周りには、無数のアウラが転がっていた。そう、彼女らは護りきった。耐えきった。あの群棲から。もう終わった。そう思った時に、目の前の機体が圧倒的速度で現れたのだった。

「――ハッ。分からねぇな。なら何故出てきた? どうせ退くなら、顔を出さずに退けばいいだろう。戦力を明かすこともない」

『……』

「……挨拶か? 律儀だな」

 エイリアは鼻で笑う。

『挨拶……? フッ……そうかもしれないな。…………いや、違う。私は、目を醒まさせに来たのだ』

「目を、醒まさせる?」

『そうだ。……愚かなことをしている、お前を……我が愛する“妹”をな』

「――ッ! 誰がッ!」

 再びアルメニア・アルスは斬りかかった。それはまるでエイリアの感情に感応しているように、本能に任せた、怒りに任せた斬撃。上から下への一刀両断。しかしカルトヴェニア・アルスは後ろに跳び退き、難なくかわしてしまう。

『今日は退く。また会おう、エイリア。…………そして再び会う日まで、よく考えろ。自分が一体、何を守ろうとしているのか』

 カルトヴェニア・アルスは背中を見せる。そしてブースターに光が灯る。

「――ッ! 待てッ! ジャスバー!」

 イリウムの制止も虚しく、カルトヴェニア・アルスはあっとういう間に立ち去って行ってしまった。エイリアは残される。大量のアウラの屍の中。

「――ハッ」

 イリウムはコックピットに深く腰掛ける。そしてヘルメットを外した。自分の顔に付いた汗を拭う様に、手を自分の顔に這わせながら

「――クソッ。どういうことだよ」

 その指の間から目の前をイリウムは睨む。――何故あいつが生きている。この手で確かに、殺した筈なのに。有り得ない。

 イリウムは一人、目の前で起こったことに対して毒づいた。

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