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ACT.12 長いナイフの夜<2>

「だからといって! このまま黙ってい見ていろと!?」

 白い鬚をはやし、紳士的な風体をしている男が立ち上がってテーブルを拳で叩く。

「そうは言っていません。落ち着いて下さい、コールマイル公」

 周りの人とは対称にまだ若い、見た目30代いくかいかないかほどの男が、激怒しているコールマイルを落ち着かせようとする。

「ぐ……ぬぅ……」

 怒りに顔を歪ませながらも、貞操を保つためなんとか抑え、席に座る。

「お気持ちは分かります。ですが、大っぴらに警備を強化するにはいきません」

 若い男は冷静に淡々と語る。コールマイルとは、あのイストリアの首脳貴族、大統領だ。

「……ならば、どうしろというのだ?」

 若い男を睨みながら、問いかける。

「警備を集中させるのです。各国の要人の方々に。彼らの言う通り、本当に“人類の殲滅”を実現させるのならば、その国の行政を握っている各国代表を中心とした要人を潰しに来るはずです。それが一番、効率がいいはずですから。人類を殲滅するには。長がいなくなり、国が機能しなくなれば、民は惑うばかりです。それは避けなくてはなりません」

 若い男の言葉に皆、耳を傾けていた。

「……しかしヴァンデミエール殿、イストリアの軍力不足は確かな現実だが?」

「ぐ……」

 いかにも貴族らしい恰好をした老人が問う。その言葉に、コールマイルは唸る。

「ですから軍備を整えるにしても、出来るだけ内密に、静かに行って欲しいのです。そうしなければ、彼らを刺激するばかりです」

 淡々と語る。

「……ふむ、そうするしかないようですな。それに、彼らの戦力は先に既に思い知らされましたし」

 白髪と白鬚の初老の老人が、鬚をいじりながら言う。

「ですが! それでは国民に危険が及ぶ! 街の警備が薄くなるではないですか!」

 中年の男が慌てたように言う。

「はい。確かに薄くなります。ですが、仕方のないことです」

 淡々と言う。

「仕方のないこと……?」

「はい。……それに、彼らの声明の通りなら、むやみな破壊テロ行動は控えるでしょうし。そして何より、彼らは反政府組織レジスタンスなどではないのです。彼らの目的は、“人類の殲滅”ですから」

 そこで会話が途切れ、部屋に沈黙が流れる。

「……しかし本当にそんなことが可能なのかね?」

 1人の男がいぶかしむように漏らす。

「……私も正直、信じがたいですな」

 その言葉に賛同する者もいた。

「……分かりません。ですが、可能性がないわけではありません。特に……もしも“あの兵器”を使われたら」

「――――――“核”か」

 貴族の男が呟く。その途端に、若い男以外の人は全員、喫驚した。

「まさか!? 核を使うなど!!」

「可能性はありますよ。彼らは反政府組織レジスタンスではありませんが……恐怖政治行使組織テロリストですから」

「……」

 その言葉に、その場にいる者の多くは絶句する。

「ですが、可能性は低いと思われます。……彼らの声明の通りなら」

 男は否定しながらも、含みのある言い方をする。

 そう、核は史上最悪な悪魔の兵器だ。忘れられた、捨れさった禁断の兵器。人類の、過去の罪。容赦なく地球を汚染する放射能。非人道的な破壊力。だから、それは使用しない筈だ。声明の通りなら。

「歯がゆいのは重々承知ですが……受け身になり、今は全てに冷静に対処していくしかないと思います」

「……」

 その言葉に、その場にいた誰も反論は出来なかった。



 ――リムジンを模した、銃弾をも完全に防ぎきる装甲車が走っている。

「――クソッ。どいつもこいつも、浮ついている。中にはまだ、冷静を保っている者もいたが……俺が言ったあの言葉も、あれを言い訳に自分を守る輩もいるんだろうな。……チッ。国のトップたる我々がうろたえてどうするというんだ。それでどうやって国民を守る?」

 先程の若い男が黒い椅子に椅子に深く座る。そして先程の会議に対して毒づく。

「……仕方のないことでしょう。特にイストリアは、かのI.G.社半壊事件に加えてオルレア軍の反乱に遭われたのですし」

 ヴァンデミエールの悪態に、初老の運転手は丁寧な口調で答える。

「…………イストリアは圧倒的不利な、敗北必死な状況でありながらも、完全勝利を果たした。……謎の部隊によって、か」

 ヴァンデミエールはあまり外部に知られていない事実を口にする。

 あのコスモス介入のことは表沙汰にはなっていなかった。オルレア反乱軍壊滅後、遅れて到着したイストリアの援軍により残党は掃討され、戦場から逃げた兵士たちは“テロリスト”として裁かれた。オルレア国がかの反乱を一切認めていないため、テロとなった。

 イストリア側は、謎の部隊介入は公言していない。何故なら、イストリア攻防戦をあの状況下イストリア軍はオルレア軍に勝利したとなれば、国民にも、他国にも示しがつくからである。よって、あの事実には蓋をしてしまうことにした。しかし人の口には蓋は出来ず、微細

だが、確実に真実は漏れていた。そしてヴァンデミエールはその情報を何かしらの方法で入手した。

「……では、これから如何致しますか。坊ちゃま」

 運転手は前を向きながらヴァンデミエールに問いかけた。

「…………やはり、なんとかして彼らとコンタクトを取りたい。引き続き彼らを調べていく」

「承知致しました」




 枢の個人部屋プライベートルーム

「――ふぅ」

 全ての訓練が終わり、一息着く為部屋に戻って来て休んでいた。両腕を頭の後ろに敷き、ベッドで寝ている。

 これからしばらくは学校の方には行けないらしい。まぁ、状況が状況だから当然だとは思うけど。

「それにしても……」

 大変なことになったな、と思う。いや、そんな軽い問題ではないんだけど。シュペルビアなんていうテロリストをこの僕が止める、なんてことになるなんて正直現実味がない。


 ――膝が痛む。

 でも、この膝の痛みは現実だ。そして、シュペルビアが母さんと父さんの仇だということも現実だ。――この僕の、胸に疼く“復讐”という黒い感情も。全て、現実だ。


 ――膝が痛む。

 何度も、フラッシュバックする。あの地獄の光景。僕の身体のみならず、両親の身体がバラける悪夢のような光景。あれがただの悪夢だったらどんなにいいだろう。いつもそう思う。あんな事件がなければ今頃僕は……どうしていたんだろう。


 ――膝が痛む。

 むしろ好都合だと、思っていた。いや、最近になって、好都合だと思うようになった。常日頃から不快に思っていたこの世界に、じかで大きな影響を与えることが出来る。今まではテレビを見ていてスポンサーの企業に苛立つ程度のことしか出来なかった僕が……アウラを手に入れた。


 ――膝が痛む。

 シュペルビアの語る“人類殲滅”それを聞いた瞬間、僕の心は震えた。しかしそれは、恐怖でも不安でも怒りでもない。何かは分からないけど、その言葉に僕の心は反応した。


 ――膝が痛む。

 こうして寝ている時でも、今すぐにでも、シュペルビアの連中に殴りかかりに行きたい。結衣をあんな状態にさせ、母さんと父さんの命を奪った奴ら。――許せない。


 ――膝が痛む。

「――つっ」

 膝をさする。

 ダメだ。今日はこんな事ばかり考えてしまう。気分転換に……そうだ、自販機に行って、何かジュースでも飲もう。

 そう思い、枢はベッドから立ち上がり、部屋を出ていった。


 辺りは暗く、自販機の周りだけが寂しく電灯で照らされている。

「うーん……これだな」

 甘く黒色の炭酸ジュースのスイッチを押す。そしてすぐに下の取り出し口に音を立てて落ちた。それを取りだす。ちなみにお金は要らなかったりする。コスモス内にある施設諸々は全てただで利用できる。さすがはあのM.F.G.が提供しているだけある。太っ腹だ。

 後ろにあるベンチに腰かける。

「……」

 カンをタブを開ける。すると中に充満していた炭酸が音を立てて一気に抜ける。この音を聴くと“炭酸”って感じがしてくる。喉に流し込む。すると炭酸独特の刺激が喉が感じ取る。

「…………ふぅ」


 考えるのはネフィルの事。ネフィルは一体何なのか。何故僕があれを手にしたのか。偶然か必然か。何故、僕がネフィルに乗り込んだあの時、セラフィは“僕”を“僕”と認識したのか。何故、僕がフェイクスなのか。そしてあの機体との関係性は。何故あの機体も“ネフィル”というのか。そんなことが螺旋階段の様に繰り返し繰り返し、僕の頭の中に流れていた。

 僕は、あの機体も“ネフィル”ということを、何となくっていた。いつ知ったのかは分からない。分からないほど、自然に僕の頭にいつの間にか入りこんでいた。

 多分これは、ネフィルと同調したからなんだと思う。ネフィルに乗る度に、乗っている度に、何かが僕に入り込んでいる感じがいつもあった。それは知識が入りこんでいるとか、そういうレベルではなく。もっと根本的な――“感覚”として。そう、それこそ何かと“同調”するように、僕は何かに成り変わっていく。そんな感覚を覚える。


「よっ、枢」

「……あ、クリフさん」

 前からクリフさんがやってきた。

「……ん? どうした? 考え事でもしてたのか?」

「あ、いえ……まぁ、そんなところです」

「……んー? それはアイリの事かぁ?」

 クリフは喋りながら自販機に向かう。

「ぶっ! ――何でそうなるんですか!?」

 枢は盛大にジュースを噴き出す。クリフはアルコール飲料を押した。

「照れんな照れんな。良いじゃなねぇか! 若ぇんだし!」

 ドカッと僕の隣に座る。そして深く腰掛け、足を組みながら、酒を飲む。

「はぁ……違いますよ。……ちょっと、自分のこと考えてただけです」

 枢はカンを手で包み込むように持つ。

「…………」

 クリフは黙って酒を飲む。

「……ねぇ、クリフさん」

「んんー?」

「ネフィルって、何か知ってます?」

 口に残っているものを飲み込んでから、

「……いや、俺は特に知らないな。昔に造られた凄いアウラだ、ぐらいにしか分からん。……まぁ、俺達コスモスがわざわざ行方を追うくらいなんだ。凄いのは分かり切ってることだけどな」

「……」

 枢は未だ下を向いたままだ。その表情は、あまり浮かばれない。

「……」

 クリフはその表情かおを数秒見つめて、酒を一気に飲み、立ち上がった。

「まっ、あんま深く考えんなよ! 考えたって分からんことは分からんよ! くよくよすんな! いいじゃねぇか! 特殊で強い謎の機体! まるでお前、アニメの主人公だぜ?」

 クリフはカンをダストシュートに放り込む。

「……」

「あー……」

 しかし枢の反応の薄さに、クリフは一筋の汗を垂らす。

「まぁ、とにかく、別に落ち込む必要はねぇって。な?」

 クリフさんは肩を叩く。少し痛いくらいに。

「……っ。ま、まぁ、そうですね」

 少し痛みで表情を歪ませながら枢は言う。

「そうだ。気にすんな。……じゃ、俺はもう戻るぞ。明日も訓練あるからな。早めに寝とけよ」

 そう言って僕に背中を向けながら手をひらひらさせる。

「はい……」

 クリフさんの背中を見送る。

「…………主人公、か」

 枢はジュースを一気に飲み、ダストシュートに放り込んだ。

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