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ACT.1 運命への入り口

「え〜、この日本にいると信じられないだろうが、今、この瞬間も、戦争は起こっているわけだ。中東の辺りや、ヨーロッパの境辺じゃ特に酷いだろうな。……それにくらべ日本は安全だな。これは良くも悪くも、日本は政治面において攻撃的、積極的でないからだな。……ま、ちょっと前までは日本に軍隊がなかったしな。そうだな……君達が生まれる少し前か?」


 初老の顔に皺を少し刻んだ男性教師が、生徒たちに話を聞かせながら生徒たちよりも一歩高い教壇の上に立っていた。話を続けながら、黒板にチョークで颯爽と書き込む。

 すると不意に振り返る。


「じゃあ……伊東。何年に軍隊が出来たか、分かるか?」


 髭を僅かに生やした男性教諭は一番前の席に座っている女子を指名した。

 基本的に授業中での彼女は指名される率がかなり高い。美容院とかならNo.1とかになって高給をガッポガッポ稼げるくらいに。教員に指されるのは目に付きやすい前の席の宿命故。合掌。


「え、と……二〇二二年?」


 首を傾げながら、自信なさそうに弱々しい声で答える。

 その言葉に笑顔なのか悔しいのか微妙な顔をして教師は応じた。


「惜しい、三十二年だ。これは常識だぞ。……もし面接とかで質問された時にはこれだけでアウトになるかも知れんぞ」


 どうも悔しい方の気持ちが強かったらしい。

 教師は軽くその女子に嫌味でない程度に忠告する。


「――と、2032年に日本にも軍隊が遂に設立された。これは本当に凄いことなんだ。憲法の根本から改定したんだからな。……それで、だ。何故日本まで――というかまぁ日本くらいなんだが、軍隊を作ったかと言うと。率直に言えば化学技術の進歩だ。ここ数10年で化学技術が進歩した、というのは皆もある程度は分かってるんじゃないかと思う。だがまぁ……」


 そう言って、僅かに教師は目を教卓に落とす。


「哀しいことに、主に戦争においての技術がな。“我が国は武力、軍隊を所持しません”とか言ってられる状況じゃなくなったんだな。……君らは生まれたときから当たり前のようにあったから違和感もないだろうがな」


 教師の話をマジメに聞く者が大多数だが、ちらほら眠気に負けて船を漕いでしまっている者が出てくる。この授業、この教室でもそれは例に洩れず幾人かいる。

 が、しかしその中で堂々と頭を突っ伏して寝ている男子生徒がいた。

 伏せた頭は少し短めに切られた黒い髪を被っている。


「昔じゃ考えられなかったんだぞ? 軍が本気で人型のロボッ――って、あいつまた寝てるな」


 はぁ、と嘆息しつつ教師は頭をボリボリ掻く。ゆっくりと、睡眠学習に励む生徒まで歩み寄った。

 すると突然、左手を振りあげる。


「コラッ! 寝るなかなめ!」


 ゴンッ、とリアルに痛々しい鈍い音が出る位の力で殴る。それもグーで。こぶしで。

 今の御時世、そんなことやったら体罰になって、保護者達に総スカンにされるだろうに。

 だがその教師の行為に手加減は見られない。ともすれば、この状況ではどちらに非があるのかなど明確にも程があるのだが。


「ッ――!」


 殴られた生徒は声にならない叫びを上げながら、うつ伏せていたその態勢を一気に崩し、頭を押さえながら起き上がる。

 声も無く悶絶し、脚をバタつかせていた。その度に彼を支える椅子と、本来勉学に使われる筈の机がガタガタと音を立てて揺れていた。

 どうやらまとなリアクションが取れないほど痛かったようだ。


「せ、先生がそんなに殴って……いてっ!」


 良いのかよ、と続けようとするが教師はその生徒をさらに殴る、グーで。拳で。


「そういうのはまともに授業受けてから言わんか! ……ったく、やっとまともに授業に出るようになったかと思えば」


 そう言い残し、教師は足早に黒板へと戻る。


「――全く、お前は」


 隣の男子生徒が呆れたように喋り掛けてくる。


「……眠いものは眠いじゃん」


 僕は不貞腐れたよう生徒に返す。

 その言葉に教師は睨みをきかせるでさらに応えた。

 そしてわざとらしく咳払いをすると、何事も無かったようにいそいそと授業を再開する。


「オホン……えーと、何所まで話したんだっけか。――おお、そうだ。じゃあ、柄崎つかざき 冬夜とうや。現代の戦争においての主力兵器はなんだ?」


 殴られ頭をさすっている生徒と話していた、、また別の男子生徒が慌てて回答した。


「へっ!? え、えっと――“次世代戦闘兵器アウラ”」


 その言葉に枢はピク、と反応する。アウラ、か……と心で呟く。頭はまだ痛い筈だが、それで一気に痛みなど感じなくなった。

 膝がチクリと痛む。


「ん?」


 ふと、背中に妙な感触。

 後ろから背中をシャーペンで突かれていた。

 後ろへ体を捻じると脇の辺りに紙があったので、それを取る。開くと中には『大丈夫?』そう書かれてあった。

 その問いかけに僕は『大丈夫だよ、ありがとう。美沙都みさと』と、感謝の意を籠め、書いて返事を出した。

 美沙都と僕はかれこれ十二年という長い付き合いである。彼女は僕のことをよく理解してくれている。――本当に、ありがたい。



 ――現在、世界の化学技術は数十年前とは比べ物にならないほど進歩した。や、別になんかのSFマンガとかみたいに空飛ぶ車があったり、変な宇宙服っぽい服を着ていたりしているわけじゃないけど。

 そういうわけではないが、本質なかみは著しい進化を遂げた。身近な所で言うとパソコンのスペックとか、携帯の発達具合とか。

 そして、化学技術の進化イコール戦争技術の進化といえる。

 何せ、ほとんどの身の回りの家電用品は戦争技術の応用によって出来た代物なのだ。テレビだって電話だって、大体の物が。

 そして化学せんそう技術の進歩に伴い、やがて世界は『核』に固執する事を止めていった。

 このままお互いに睨み合っているだけではどうしようもない。かといって強硬的に核を使うわけにもいかない。あっという間に袋叩きに遭う。

 何より、研究者の興味を引くのは既にほぼ完成の姿を見せる兵器である核よりも、もっと未知な画期的な前衛的な兵器の方だ。

 なればこそ、新技術を、新兵器をと。

 それにより生まれたのが“アウラ”だ。勝利への渇望が、力への渇望が、“アウラ”を生み出した。単純で、明確なプロセスだ。……そして何より、戦争は儲ける。様々な企業がこの“アウラ”開発に参入した。

 いわば、現在の世界情勢は“戦争飽和”状態。数多の国は、他国の戦力を恐れる。そして他国に劣らぬよう、自国の武力を高める。――これより下はあるのかというほど、最悪の循環だった。

 ――“アウラ”。正式には“The Armaments Universe Reigns Anew Wepon”。君臨する新たな兵器の名を冠する最新鋭。通称『A.U.R.A.(アウラ)』。

 分類を簡単に言うと、『歩行型戦車』とでも言うべきか。要は重機の地上での移動をキャタピラではなく脚での移動に成功した代物だ。これによるメリットは計り知れない。

 そして、この兵器の凄い所はなんといってもOSオペレーションシステムだろう。超完全自律思考型高性能AI(人工知能)でもない限り自らの“脚”でロボットが動く、尚且つ戦闘を行うなんて不可能だ。それも自重の数値は半端じゃない。

 だけどこのOSはそれを可能にした、しかも人間が操縦することに。それが超技術の大成であるOS……“Slave System”。

 それを有するアウラは、戦力として一機で少なからずイージス艦に及ぶとうたわれている。

 純粋に兵器としても恐ろしい。その破壊力、機動性、汎用性。どれをとっても従来の兵器を上回っていた。

 そしてこのアウラにおいて更に畏怖すべきなのは、“フェイクス”の存在――。



 ――辺りは夕暮れ。太陽が完全に姿を隠すまであと少しだ。

 僕は二人――冬夜と美沙都に手を振る。


「気をつけてな」


「また明日」


 二人もそれに応え、手を振っていた。彼らの背中を見送る事になんとも物哀しい気持ちに溢れるが、そのまま僕も帰路へ着く。

 僕達はつい数分前まで駅前にあるゲームセンターで遊び呆けていた。今日は冬夜が部休日だったので、久々に街を3人でぶらぶらしていたのだ。

 冬夜は弓道部だが、僕と美沙都は帰宅部。僕は、運動部には身体的な理由で少し無理な為入っていない。文化部でも入りたい部はなかったし、帰宅部だ。

 そして美沙都が入っていない理由。美沙都には、父親がいない――というと美沙都の父親がこの世ではないどっかの住人みたいな言い方になってしまうのだが、悲しいことに事実その通りなのだ。僕達が物心つくまえ、幼稚園に入るかそこらぐらいで既に亡くなってしまっていた。

 だけど、美沙都もまだ小さい頃のことなのであまり悲しくはないと言っていた。――それでも淋しいものはどうあっても淋しいだろうに。

 ……まぁ、だから彼女の母親は働いている。大切な1人娘を養うために。だから美沙都はほとんどの家事を1人でこなしている。かなり偉い娘だと思う。

 彼女は基本的に優しいのだ。容姿も……まぁ、客観的に、そうあくまで客観的に見れば、可愛い。所謂モテる要素は十分だった。

 ちなみに、冬夜もモテている。全く。イケメンで背が高くて運動神経抜群で成績優秀という完璧さ。

 そしてその人気者の2人に挟まれている僕はというと……。まぁ、そこは気にしないことにしているんだ。――――うん。


 と、携帯の時計を見てみる。8時40分。


「うわ、ちょい、やばいかも」


 のんびり歩いていたら予想以上に時間が経っていた。

 道理で腹が減るわけだ、と思った。だから、近道をすることにした。いつもはゲームセンターがある駅前から少し迂回して家へと帰っている。

 迂回する理由は、直線上に嫌な建造物があるからなのだが……今日は仕方ない。

 その建造物がある道を通って帰ろう、と思った。


 ――歩くこと10分。


「あれ……今日はいない……」


 目の前には廃墟と化した建物がある。明かりも灯らず、かつては美麗な鉱石で模られたオフィスビル。だが今は不気味な廃墟。

 ここはかつて、日本を代表する中小企業だった建物――僕の父さんが務めていた企業だ。錆びついた看板には『エクステンション・エレクトロニクス社』と記されているのが辛うじて分かる。幾ら日本で有数の企業とはいえ、世界へ進出していない中小企業にしては大袈裟な名前だといつも思っていた。

 そして普段なら、ここの研究所の正門に警備員が常に立っていた。雨の日でも、雪の日でも、例外なく。何故か、わざわざ警備を立たせてまで守る。少なからず、門には制服に身を包んだ人影が居た。恐らく警備会社の人間なのだと思う。

 ――さっさと破壊すれば良いのに、こんな廃墟ところは。


「――っ、…………父さん」


 膝が痛む。

 同時に大好きだった父の名を呟いた。その呟きは誰に届く訳でもなく、ただ夜の闇に虚しく消えるだけ。――応える人物はもういない。


「――」


 ……父さんは、一体どんな仕事をしていたんだろう。いや、企業の業務とかではなく、もっと――彼はどんな顔で仕事をしていたのか、どんな部下を引き連れて業務を行ってたのか、そういう風景。僕の知らない、父さんの顔。

 そう思うと、僕の中の何かが膨れだした。今じゃもうこんな事を聞ける相手はいないんだ。

 ――僕の足は自然と会社へと向いていた。


「い、いや、でもこれじゃ……」


 良心が胸を突く。

 警備員がいなければ入っていいなんてことはないだろう。今日はいなくても普段はいるんだから、入ってはいけない理由があるのだろう。例えば――――“何か”が在ったりだとか。


 ――膝が痛い。


 足を止め、時間を確認する。8時51分。しばし入る入らないを頭の中で持ち上げたり置いたりする。

 ――が、意を決して顔を上げる。

 僕はこの気持ちを抑えられない。だって、こんな機会があと一回、あるかなんてどうかわからないから……。

 辺りが暗闇に沈む中、廃墟へと向かっていった。



「――暗くて全然見えないな」


 灯りが一つもついていない。外から照らす僅かな街灯の光を反射させ、やっとうっすら見える程度。

 僕は父さんの会社には一度も入ったことがない。従って暗い中歩くのには不適切だ。怪我でもしたらそれこそ面倒なことになる。加えて僕の脚はお世辞にも上部とは言えないのだから。

 とりあえず今は立ち止ってどうしようか考え中。


「ま……まずは携帯のライトかな」


 カメラのシャッター時のライトを常時点けっぱなしにさせる。つけた瞬間、辺りに舞っている埃が反射し、汚さを露わにした。まるで霧のようだ。


「ゴホッ……これは、居心地が悪いな」


 思わずその埃の量に咳きこむ。

 ライトを点けると電池の消耗が激しくなるが、まぁ5分や10分で切れることはないだろう。

 ――今僕がいるところはロビーらしい。典型的な。受付があり、エレベーターがあり。一応観葉植物なんかもある。


「――おっ、地図見っけ」


 ライトで周りをぐるぐると照らしていると、社内案内のような看板を見つけた。埃や汚れで多少見にくくなっているものの、把握する分には問題ない。

 指で拭おうかとも思ったが数年放置され溜まっている誇りの量は尋常じゃなく、拭うなどという気は一瞬で失せた。

 その地図は見る限り、1階はロビーや食堂。2階以降に仕事場があるようだった。


「人事課……庶務……。……電子開発課……これか?」


 他にイマイチ目ぼしいものがなかった。社長室、とかは書いていない。そういうのは一般人の目にさらさないのだろうか。


「あまり長居は出来ないしな。悩む時間は無駄か……」


 そう決め込み、さっさと行動に移すことにする。

 ――エレベーターはまだ使えるのか、と疑問する。使えなかったら面倒だ。

 使えなかったら階段を使うことになる。開発課は4階だ。非常にめんどくさいし、時間のロスだ。


「……おっ、やった」


 エレベーターは生きていた。やはり警備してるぐらいだから電気や水道ぐらいは生きているようだった。上のボタンを押し、上の階数表示をみる。この階数表示計は、今居る階を中心に回転する仕組みだった。階数表示は、微妙にだが、電気が通っているようで少しだけ明るかった。今は七階を指していた。

 チーン、と音を鳴らし、エレベーターの扉が開く。階数表示は一が左端に来ていて、微妙にライトアップされている。

 ボタンを押すためにライトを照らす。目が慣れてきたとはいえ、ライトアップされていない数字を読み取るのは難しかった。そして四階のボタンを押――そうとして止める。


「……ん? なんだ、これ」


 階のボタンを押すスペースの下に少しだけ開きかかっているような戸があった。本来は鍵がかかっていたのだろうが、老朽化し、錆びつき、既に役目を果たしていない。

 少し力を入れ戸を引っ張った。

 バキッ、という音と共に開く。そして中をライトで照らすと――


「――ま、マジか」


 中に在ったものは、“地下”へのボタン。

 当然、こんなのはさっき見た社内案内には当然書かれていなかった。つまりは少なくとも他社の人間には知らせない、知らせたくないこと。下手をすると――


「――極秘」


 極秘トップシークレット。この会社が――父さんの会社が抱える極秘情報……。しかも地下7階だ。相当、下に掘っている。


「ハハッ……そんな莫迦、な」


 ――膝が痛い。


 心臓の脈が加速する。額から出た汗が頬を伝い、雫となり床に落ちる。

 僕は地下七階を押していた。

 最下層。1番大事なものは奥に隠すはずだ。だから、最下層の地下7階。


 ――ドクン

 階数表示をじっと見つめる。--B1。--B2。--B3。


 ――ドクン

 目的の階の数字が近付くにつれ、僕の鼓動はさらに高まる。--B4。--B5。


 ――ドクン

 あと少し。そう思った時。ドーンという映画でみる非現実めいた爆発音と共に世界が揺れる。


「うわっ! な、何!?」


 ビーッビーッビーッという警戒音がエレベーター内に響く。思わず耳を塞ぐ。やかましい、不愉快な電子音だ。ただ鳴るだけでは状況がさっぱりわからない。

 そして警報が鳴り終わると同時に、エレベーターの扉が開いた。


「え――?」


 階数表示を見る。――地下五階。

 とにかく戻ろう、と一階のボタンを連打して、上に上がるボタンも連打するが全く反応がない。

 どうも諦めて降りた方が賢明らしい。


「うわ……最悪じゃん」


 不明の非常事態に巻き込まれた上、エレベーターが停止し使用不可。加えて目的地に達していない。

 そしてさらに建物全体が揺れる。爆発音はなかった。さっきのより揺れは小さくても衝撃はあった。……下から?


「……どうする。地図もなかったから、地理がわからないぞ」


 ふと携帯見る。


「――圏外!?」


 有り得ないっ! 現代の電波技術なら樹海でも大体は正常に繋がるっていうのに。――まさ、か


「――ECM?」


 有り得ない、なんて鼻で笑えなかった。

 十分に有り得る話だった。なにせここは極秘――かもしれない場所なのだ。妨害電波くらい十二分に有り得る。

 そして謎の爆発音。あんな音は戦争映画やゲームでしか聞いたことのない馴染みのない音だ。


「くそっ」


 とりあえず手当たり次第歩くしかないか。……非常用の階段ぐらいはあるだろう。


 ――右へ曲がり左へ曲がり、左へ曲がり左へ曲がり。歩けど歩けど、階段らしきものは見当たらない。そして不意に後ろからシャー、という地面を滑る独特のローラー音が聞こえる。地面が小刻みに振動していた。

 だがその音は何か家具を動かしたような軽い音ではない。もっと、もっと重い車より重い――まるで。

 後ろを振り向き、ライトを照らす――とそこにいたのは“アウラ”だった。


「ッ!?」


 ――やばい! とにかくヤバい! なんでこんなところに――いや、こんなところだからいるのか。

 型番“Rou-03”。俗称“ドックス3”典型的な警備用だ。発見した侵入者は問答無用で攻撃する。その外見は、犬のように四つん這いの姿で、両肩の辺りにガトリングが内装されている。大きさは二十メートル。あれはAIで全てを動かす無人のアウラだ。武装は最低限しかなく、侵入者を発見したり、外敵による破損などの異常で、どこかに連絡がいくタイプ。だからアウラとしては最低の戦闘能力だが――人間ぼくにとっては脅威であることは変わりがない。

 緑色の眼カメラアイが点滅する。あれは――僕を、吟味している?


「ッ!」


 やばい! やばい! いくら最低限の武装っつてもこんな所でマシンガンを乱射されたら――ひとたまりもない。こっちは人間だ。勝てるわけがない。とにかく全力で逃げないと。


「――ッ!」


 顎を上げて僕は全力で走りだす。


「――ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」


 左へ曲がり左へ曲がり左へ曲がり左へ曲がる。もうゆうに500mは走っているだろう。短距離の走り方をしたので息が上がってくる。更に膝の痛みが増大する。

 クソッ――これ以上膝に負担を掛ける訳には――!

 でもとにかくドックス3から逃げなくては。そうしなければそれ以上の痛みが待っている。

 ドックス3の反対方向――つまりとにかく先へ先へと走り続ける。

 すると、目の前に扉が見えた。この通路いっぱいくらいはある大きな扉。道はない――この扉を開ける他。


「ハァッ……どうにか、ハァッ……して開けないと」


 辺りをライトで照らす。するとパネルがあった。おそらくこの扉を開けるためのものだろう。パネルに駆け寄り、カバーを開ける。案の定、中には10種類の数字が長方形に並べられていた。それと同時に、緊急時に外部からつなげる為の挿入口。


「……やるしか、ないか」


 肩で息をしながら、背中に背負っていた鞄からモバイルパソコンを取り出す。大きさは縦横6×10cm程の小さいものだ。内臓されているジャックを伸ばし、パネルのコンソールに繋げる。

 僕は、ハッキングしようとしている。

 こんな大企業やったことないけど、同じ要領でやれるのなら可能性はある。それに、所詮何年も前のセキュリティーだろう……やるしかない。


 ――膝が痛い。


「新規接続のデバイスに接続アクセス。――IFSR――いや、違う。ゴスト――これか。あとはツールの起動。命のかかったハッキングだ、一遍に10個並列展開してやる」


 その瞬間、画面へ英数字の羅列が表示される。


「どれだ……どれだ?」


 眼球で記号の海を追っていく。今まで生きてきた中で一番早く動かしているだろうというほど酷使する。目玉が筋肉痛になりそうだ。

 後ろからはまたあのローラーの音が聴こえてくる。ドックス3が動き出したようだ。


「あった――! ここを取り除いて書き換えれば……」


 ――書き換え成功。画面の下方に完了までの時間のバーが表示される。バーは、左から徐々に赤色で満たされていく。


 10%


 早く! 早くしないとあいつが――


 20%


 段々とローラーの音と振動が大きくなる。僕は立ち上がり後ろを振り向く。


「なっ……!?」


 増えて、いた。ドックス3が増えている。合計で三機。最初のあいつが仲間を呼んだようだ。


「どっからいて来たんだ!」


 バーを見る。


 55%


「クソッ!」


 ドックス3を見る。それぞれの眼が点滅している。だがそれも数秒で終わった。

 肩の可変式のガトリングが姿を現す。出た時点のガトリングは、垂直に真上を向いている――が、そして照準が徐々に対象ぼくへと合わさっていく。


 ――このまま僕は死ぬ?


 75%。残誤差修正七十五度。


 ――祐依ゆいとの、約束も、守れず?


 80%。残誤差修正五十度。


 ――僕はまたアウラに奪われるのか? 今度は僕の命まで!


 過去の記憶が走馬灯フラッシュバックする。あの地獄のような、赤い赤い世界を思い出す。


 95%。残誤差修正二十度。


 ――畜生ッ! お前アウラらは何故、いつも! いつもいつもいつもいつも――!


 100%。残誤差修正五度。――ああ、膝が痛い。


 枢の背後の扉が開く。


「――ふざけるなあああぁぁあーッ!」


 枢は叫ぶ。咆哮が轟き響き渡った直後、後ろから――開いた扉の奥の暗闇の空間ハンガーから、細く赤いレーザーが静かに照射される。そのレーザーは一番前にいたドックス3の中心を突き抜ける。そしてドックス3は激しい音を立て、爆散する。


「ッ!?」


 両手で爆風と飛び散る破片を防ぐ。手に細かく刺さり痛いが顔をやられるよりはマシだ。

 そして続けざまに、更に2発。レーザーが照射される。残りのドックス3に当たり、撃破していた。


「なん、だ……?」


 ゆっくりと、枢は振り返る。そして、奥に向かってライトを照らした。

 照らされたその異形。巨大な人型。鉄の巨人。――アウラ、か? 何だ、これは。


「――――天、使?」


 ――そこには見たこともない、細身で、純白の、鮮麗な、秀麗な、“アウラ”があった。

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