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ACT.12 長いナイフの夜<1>

「……――ッ!」

 誰かが僕の肩を揺さぶり、叫んでいる。これは夢……いや、違うか。

「――メ! ――カナメ!」

 それは確かにアイリの声だった。

「ん……んー?」

「起きてっ! カナメ!」

 アイリにしては珍しく声を荒げている。

「んー、どうしたの……?」

 ごにょごにょと、ほとんど覚めていない意識を集中させ、何とか答える。思考出来ない。まだ夢の中にいるようだ……。

「いいから、早く起きて!」

「何さー……」

 欠伸混じりに目をごしごしと擦りながら、ゆるゆると起きる。その緩慢な動きにアイリは苛立ちを覚える。そしてアイリは不意にカナメに手を伸ばす。

「どうしてそんなにあわ――うわっ!」

 手を掴まれ、思い切り引っ張られる。アイリの小柄な体から想像できないほどの強い力で引っ張る。足がもつれそうになるも、なんとか堪えてついていく。

 そして、リビングへ。

「一体何?」

 ちょっと不満交じりで答える。

「いいからこれ、見て」

 アイリがテレビの方を指さす。そしてみやる。やっているのはニュースか……? しかし何か様子が変だ。


『――人間ほど、滑稽な、出来損ないである生物はいない。人間は、自らの母胎であるこの大地を傷つけ、汚し続ける。――近年は違う? 自然を想うようになった? 自然を大切にしている? ――笑わせる。人間は、一体何をしているというのだ。この声明を聴いている、一体何割の人間がそれを思い、行動に起こしているのだ? 4割か? 3割か? ――いや、一割にも満たないだろう。――そう、この世界を100人の村としよう。よくある例えだ。この中で、一体何人が行っているだろうか? 10人か? ――いや、いないな。100人のうち1人でも居れば良い方だ。残りの99人は――自分のことしか考えていないんだよ。皆こう思っている。“自分一人がやったところでどうにもならない”、“自分が死んだ後のことなどどうでもいい”、“自分さえ良ければ良い”――と』


 ――なんだこれは。


 テレビでは、無精鬚で黒い髪を後ろに流し、サングラスをかけている男が立っている。身振り手振りで語っているせいで、そのサングラスの奥でつり上がった狂気的な目をしているちらついている。

『何故、人間には“法”、“条約”、“制度”などという下らない、稚拙なルールが存在している? 何故こんなルールが必要なんだ? ――それは自分たちでは欲求を抑えられないからだ。他の誰かに抑えてもらわなければ、暴れてしまう。加害欲、性欲、愛欲、自己欲――。抑えなければ、人間は自らの欲求を満たすため、他の同じヒトを犯し、他の同じヒトを傷つけ、命を奪うのだ。――何故、人間は自分たちでは抑えられない? それは弱く醜く、強欲だから。そして――自己愛が他の何よりも強い。人間は自己中心的な思考しか出来ない』

 変わらず、男は語り続ける。右上のテロップには『謎のテロリスト、犯行声明!!』。その画面にはいくつかに分割され、立ち上る炎が流れている映像もあった。

「――なんだこれは」

『人間はよく、他の者を見下す時、他の生物に例え、罵倒することがあるな? ――“虫”、“猿”、“犬”、と。――だが、人間はそんなことが言えるような存在か? 木を、林を、森を切り開きこんな自然と調和しない無機質なビルを乱設し。地球の底という底まで掘り起こし、資源を奪い。――他の生物には何故“法”がない? ――自制している、――いや、理解しているのだ。“本能”という最も生物たる基盤とする部分で。――人類という種以外の生物はな』

「――なんだこれは」

 人が銃を突き付けられて、脅され、地面に伏せられ、殺されるという映像も小さく流れていた。

『野生の、人間に手が加えられていない生物は、あるルールに基づき、生きている。そのルールは――“弱肉強食”だ。単純で、明確な、非常に分かりやすいルールだ。――あぁ、確かに人類は強者だな。器用な手があり、優秀な頭脳があり、それを駆使し足りない体力面を補っている。――だが違うのだよ、その“強さ”は。他の生物とは――決定的に。自然と――地球と調和しない』

 男は左手を前に掲げ、横に振り払う。

『他の生物には、“自分が地球に住む者”としての意識がある。その上での“弱肉強食”だ。だか人間は、勘違いしている、自分の方が上だと思っているんだよ、地球より』

 男は吐き捨てる。

宇宙そらから見た地球の姿は知っているな? そう、あの青い海の中、緑の大陸が浮かんでいる光景だ。実に素晴らしい――だが。そのみどりには何色が広がっている? ――無機質な“灰色まち”と“黄土色さばく”だ! これは人間が住み着き、捩じ曲げているからだ。――知っているか? 50年前に比べて海がどうなったか。――全体の、3割が減ってるんだよ。肥大した人口、それに伴い不足してくる土地。世界は積極的に海の開拓を行った。人間は大地だけじゃなく海にまで、調和しない人工物を持ち込み、他の生物を追いやる。――なんたる傲慢さ』

 男の顔が、表情が徐々に変わっていく。声も徐々に怒気を孕んでいっている。

『――そして今、政府が行っていることは何だ? “人類革命計画エボリューションプロジェクト”? ――ふざけるのも大概にしろ』


 “人類革新計画エボリューションプロジェクト”。それは、膨れ上がった人類の居住地を宇宙に移すという計画。身近な、条件を見たしている火星を改造し住めるようにする。もしくは、巨大なコロニーを、宇宙に浮かばせる。そんな計画。しかしその本質は、地球を捨てる下準備。


『自ら汚しておいて、この大地を捨て去り、宇宙そらへ逃げるのか? ヒトだけ。それも一部の。他の生物には置き土産として汚染し切った地球か? ――一体何様のつもりだ!』

 男は叫ぶ。

『故に! 我々は立ち上がった! この大地を救う為! この大地に巣食う、害虫を取り除く為に!』

 男は叫ぶ。

『我々は――ここに宣言する!』

 男の周りが次々とライトアップされる。暗闇だった男がいる空間に、光が照らされていく。かなりの奥行きがある空間だった。そこに映し出されたものは、大量の人と――アウラ。

『――我々、“シュペルビア”は人類を――――殲滅する・・・・。――覚悟しろ、ヒトというものがある場所なら、我々は何処にでも現れる。――人間よ、我々を畏怖し、恐怖し、慄然しろ。――まずはこの地球毀損に拍車を掛けている“アウラ”を、“アウラ”を以て根絶やしにする。――――――人類に、終焉を』

 そこで映像が止まる。そして、映像はそのままでアナウンサーの声がテレビに流れる。

『……以上が、テロリスト集団“シュペルビア”の首謀者、ケレスと名乗る者からの声明です。この件に関し、政府は過去のアメリカで起こった大規模なテロを思量した上で、各国の首脳代表はアメリカ、ワシントンに緊急サミットを開き――』

「――これは、一体?」

 僕は呟く。驚きを隠せない。

「詳しいことは、ユスティティアに行ってから話す。……それより。この、アウラに見覚えは、ない?」

 とアイリが逆に聞き返してくる。

「アウラ……?」

 僕はテレビの画面を観察する。4分割されている画面には、停止している先程の映像とテロ実行の映像が3つ流れていた。そしてその、停止している映像に映っているアウラを良く見る。

 特徴は――いや、はっきりとは見えないけど――色は漆黒を基調としたものだ。そして肩に――イバラのマーク。

 枢は目を見開く。

「イバラの、マーク……?」

 ――忘れもしない。

「……そう。コイツらは……」

 ――忘れるものか。

 アイリは苦しそうに、言葉を紡ぐ。

「……“ヘルズタワー事件”の、枢の両親の命を奪った……テロリスト達」

 母さんと父さんを殺した奴ら――ッ!!!

 枢の顔が怒りに滲む。眉を寄せ、画面を睨みつけている。食い入るように。胸の中を黒い、負の感情が駆け廻る。血液が膨張する。動悸が激しい。記憶が、フラッシュバックする。破壊衝動が全身を巡る。しかし何とか、理性で押さえつける。

 その拳は、硬く握られていた。



 ――暗く、汚い、狭い部屋。床は畳でも、フローリングでも、絨毯でもない、パネル状の汚い床。床には砂や石、何かの破片がそこらじゅうに転がっていた。そこにあるものはベッドと、テレビと、1つのテーブルくらいしかなかった。

 男はベッドに腰掛け、テレビを見ていた。テレビの光が、男の顔を照らす。テレビの光が、その部屋の唯一の光だった。男が足を動かすたび、床でじゃりじゃりという音がする。

 その男の相貌は、無精鬚に黒い髪を後ろに流している30代ほどの男。その双眸は、燃える様に紅い。つり上がった、奇異な目をしている。

 片肘を膝に置き、手で口を覆い、画面を見ていた。その画面には、テロリストの声明が流れていた。

 暗い部屋の中、男の傍に何かの鍵と携帯電話のようなものがあった。そしてその端末デバイスが不意にいくつもの光を放って点滅する。男は手に取り、ボタンを押して耳につける。

「――はい、もしもし。どうでしょうか? わが主よ。お気に召したか?」

 男は口の端を吊りあげながら、ふざけた様な口調で話す。

「それはそれは、勿体無きお言葉。……あぁ、分かってるよ。やることはやるさ。……あぁ……あぁ…………了解。――――チッ」

 そして、男は電話を切った。そして切った後に舌打ちをする。

「……狸が」

 そう、毒づいた。男の目は、暗闇の中、ギラギラと光っていた。




「――そう、コイツら――シュペルビアはあのヘルズタワー事件を起こしたテロリストグループ」

 フィーナがデスクに座りながら話している。僕とアイリはソファーに座り、その言葉に耳を傾けていた。

「だけど、実はあれが初めてっていう訳じゃない。数十年前に、南アフリカの方で計4回、行動テロを起こした。だけど、まだ名前も分からず、出所も分からず、ただイバラのマークだけが特徴の謎のテロリストグループとして、静かに、噂が広まっていった。それにテロっていっても、誰もいない廃墟同然の古い軍研究施設に乗り込むぐらいだったから、特に重要視されもしなかったし、知っている人は世界中のほんの一握りの人間だけだった」

 ギシッ、とフィーナは椅子に深く座る。

「その知っているほんの一握りの人間っていうのが、先進国の要人のごく一部と――――私達、コスモス」

「え……?」

 枢は驚いた様子でフィーナの方に顔を向けた。

「――ねぇ、枢くん。何であの時、アイリがあそこ――E.E.社にいたと思う?」

 フィーナは身を少し前に乗り出し、机に両肘をついて枢に問う。

「……ネフィルを回収するため?」

「御名答。そしてあそこにいたのはネフィルだけじゃなかった。……他に何がいた?」

 枢は少し考え、

「……アイリと戦ってた、あの大きい、白い天使みたいなアウラ」

「そう。……本来なら、あの場で両機とも回収するはずだった。だけど――」

「――何者かに既に起動されていた」

 枢がフィーナの言葉を遮った。

「……その通り」

「そしてその起動させたのは――シュペルビア。……そういうこと?」

「そう。話が早くて助かるよ」

 フィーナはデスクのキーボードを叩く。

「――“均衡”を理念とする私達は、あの圧倒的な力を持つ2機を放っておくわけにはいかなかった。……だから、調べに調べ抜いて、ついにあの2機がE.E.社にあることが分かった。だけどあそこに、シュペルビアに気取られずに侵入するには大体的に部隊を組む訳にはいかなかった。だから、アイリに単機で行ってもらった」

「……」

 アイリは一切喋らず、黙って聞いていた。

「だけど、敵も同じ状況だった。居場所を着き詰め、隠密に回収にあたろうとしていた。どんな運命のいたずらか知らないけど、全くの同時にね。……けど、運悪くアイリの方に警備の戦力が多く回ってしまった。そして向こうも途中で気づいたんだろうね。自分の他に誰かいる、ってね。だから本来運搬する筈だった機体に自ら乗り込み、もう1人の侵入者の掃討に当たった。そしてアイリは少し遅れてあの機体のところに辿り着いた。……後は枢君が見た通りだよ」

 物凄くぼやけた2枚のフォトが空中に表示される。白い機体と、白い機体が映っている。

「でも、ネフィルを枢くんが見つけてくれて助かったよ。あのままじゃ、2機とも取られてた」

 フィーナが苦笑する。

「……。もし僕があの時ネフィルに乗ってなかったら、どうなってたの?」

「…………人類はあっという間に、滅ぼされてたかもね」

「なっ――」

 その言葉に再び、枢は驚く。

「まぁさすがに冗談、というか極端だけどね。……でも、それだけの力があの2機にはある。それだけは変わらない事実」

「……ネフィルに」

 枢は呟く。会話が途切れ、沈黙が漂う。そんな中、フィーナはキーボードを叩く、すると3つのウィンドウが、また空中に表示される。

「そして昨日、世界各地でシュペルビアの活動が行われた。多分、ニュースとかで見たよね? シュペルビアは、あの機体を手に入れたから、行動に出たんだと思う」

 その内の一つが他のウィンドウを押しのけ、一番手前に大きく表示される。

「これが、世界有数の鉄鋼鉱山、リリヴァースマウンテンの破壊の映像」

 ヘリから撮ったのだろうか、そんな角度で移されている映像が流れる。そこには削られ、蒸発し、粉々になり、半分の質量になってしまった痛々しい山が映っていた。その山を、何十機ものアウラが闊歩し、爆撃を何度も繰り返している。そんな中、他のアウラより明らかにサイズがでかいアウラがいた。しかし、画質が悪い上に距離が遠く揺れているので、大きいという特徴しかはっきりと見えなかった。

「この山はアウラの装甲によく使われる鉱石が多く採掘できる山なんだ。これでまたアウラ産業――いや、アウラ経済はダメージを受けることになるね」

 そしてまたフィーナがキーボードを叩く。すると今度は別のウィンドウがさっきと同じように表示される。

 枢は既視感を覚えた。そこに映っているのはE.G.(イリミテイテッド・グローバル)社の時と同じような光景だった。

「これが、サイエンス・アーマメンツ社――アウラその物を製造・販売してる大手の企業だね――その郊外設置のメイン工場が襲撃を受けた」

 工場の監視カメラの映像だろうか。本来なら工場の中を映しているのだろうが、床に落ちて横に傾き、その設置してあった工場棟の壁と屋根が半壊しているため、その工場区域全体を映すような形になっていた。画質は酷く荒い。あちこちで炎が立ち上り、工場員と見られる人間が逃げ惑っている。そしてその赤い空を巨大な何かが縦横無尽に疾風のように飛び回っていた。その巨大な何かの一部が光り、それが何かに触れ、爆発したりしていた。

「え……この、飛んでるのって、アウラ、なの?」

 枢は戸惑いながら尋ねる。

「……多分。はっきりとは分からないけど」

「こんな、鳥みたいに……」

 自由に空を動き回れるアウラが存在しているのかと、枢は驚く。そう、本当に何かの鳥のように機敏に、素早く動き回っている。

 アウラは基本的に空は飛べない。飛べたとしても短い時間制限が付きまとう。それに維持で出力が手一杯でキレよく動くなど不可能なはずなんだ。既存のアウラでは。あの可変機のヴィレイグでさえ、人型になればまともに飛べなくなるというのに。

「私も信じられないけどね。でもこれが真実。………そして最後に」

 ウィンドウが表示される。

「マテリアル・フロム・グレディエイト社の、同じく郊外設置の工場の破壊」

 焼け爛れた――いや、焼け爛れていっている工場が映し出された。そしてそこに映っているのは、

「コイツは……」

「……そう、ヴィレイグだよ」

 漆黒の可変機が暴れていた。容赦なく、その銃を叩きこみ、そのブレードで斬り伏せていた。

「コイツも……シュペルビアだったんだ」

「そうみたいだね。これであの襲撃も、まぁ合点が行く訳だね」

「ネフィルを奪いに来た?」

「……かも知れない」

 そして全てのウィンドウが消滅する。

「……M.F.G.(マテリアル・フロム・グレディエイト)社はね、私達の後ろ盾なんだ」

「えっ、そうなの!?」

 常日頃から、これだけの軍備を整えられているのは何故なのかと疑問に思っていた。国家には所属していないと言うから、どこから資金が出ているのかと思ったけど……そういうことだったのか。

「もちろん、極秘裏だけどね。M.F.G.社がコスモスを全面的にサポートしてくれているんだよ。まぁ、その企業がっていうよりかは、M.F.G.社の社長、エウセビオス・ウィリウムが個人的に会社を利用して提供してくれている」

「……それって横領なんじゃ?」

 社長でもそれは横領になる気がするんだけど……。

「まぁ、ぶっちゃけね。でも意外とバレないみたいだよ? あの会社はお金の移動が半端ないみたいだし」

「あぁ、まぁ、確かに」

 マテリアル・フロム・グレディエイト社といえば1日10億稼ぐなんていう逸話があるくらいの大企業だ。そんな会社なら、バレないのかもしれない。何よりやってるのが社長な訳だし。…………ってバレなきゃ良いってわけじゃない気が。

「――で、だからこっちとしてもスポンサーが壊滅するのはヤバいんで、コスモスのパイロットをちょっと向こうに割くことになるかもしんないんだよ……」

「はぁ……」

 フィーナがむっとした顔をする。

「“はぁ”って枢くん! 人員を割くってことは君が危険な目に遭う確率が高くなるってことなんだからね?」

「あぁ……なるほど」

 全く、と良いながらフィーナはまた椅子に深く掛ける。

「……それで、私達の当面の目的はシュペルビア対策になる。そして、戦力が減る可能性が出てくると尚、ネフィルは私達に欠かせないものになってくる。だから、きっと、枢を危険に晒すことが、増えると思う」

 フィーナは言いにくそうに、目を伏せながら言葉を繋げている。

「大丈夫。……僕は、死なない。――アイツらには、絶対に殺されない」

 負けられない。死ねない。アイツらだけは、許せないから。

「……」

 フィーナは、何かに満ちている、虚空を――いや、過去を見つめている枢の瞳をじっと、心配そうに見ていた。

「……まぁ、大体そんな感じ。細かくはその都度いろいろ言うからさ。とりあえず今から枢くんは、訓練室シミュレートルームに行って、んで多分そこにクリフかユーコがいるから指示に従って訓練を。アイリはちょっと話したいことがあるから残ってね」

「……分かった」「……」

 枢は返事をし、アイリは黙って頷いた。そして枢は立ち上がり、扉に向かう。しかしその途中で立ち止まる。そして肩越しに

「ねぇフィーナ……ネフィルって、何?」

「…………アウラだよ」

 少しの間を開け、フィーナは答えた。

「じゃあもう1つだけ質問。……あの、もう1つの天使の機体の名称って、何?」

「………………“ネフィル”」

「……そうか――――――やっぱり」

 そう言って枢は部屋から出ていった。しかし最後の呟きは、誰の耳に届くことがなかった。



 扉が閉まる。枢は訓練室シミュレートルームに向かった。今部屋にいるのは、アイリとフィーナだけ。

「…………で、話っていうのはこれなんだ」

 メモリをデスクに挿入する。数秒後、中空に映像が表示されている。そこには、もう1つの“ネフィル”が映っている。

「……」

 アイリは無言でその映像を見る。映像は変わらず、数秒後、人影が現れる。金髪をなびかせながら。駆けて、コックピットに乗り込む。

「――ッ」

 そして一瞬だけ、深緑の瞳がこちらを向いた。フィーナは映像をそこで止めた。アイリは目を見開き、直ぐに目を伏せた。

「…………そういうこと」

 フィーナはそう、一言だけ言った。

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