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ACT.11 忘却の彼方、その報い<2>

「艦長、これが例のE.E.社(エクステンション・エレクトロニクス社)での……」

 そう言って部隊服姿の若い男が、モニターを見ていたフィーナにメモリのようなものを手渡す。

「お、ありがとう。終わったんだ」

 受け取り、笑顔を見せる。

「はい。相当苦労しましたが。抽出して解析してトラッキングして……もう大変でしたよ。何せ始めは砂嵐同然でしたからね。それを取り除いても、何重ものゴーストがありましたし」

 男は肩をすくめる。

 ゴーストとは、テレビでうまく電波を受信していないときに多重に映る、あれである。

「うん、ホントありがとね。お疲れ様」

「いえいえ、これが私の仕事ですから。画像自体がやられていたのなら、ヤバかったですけど。ただプロテクトがかかってるような状態でしたからね。元ある画像にフィルターがつけられていたというか。……ちなみにそれ、大当たりです」

 男はそう、楽しそうに話す。

 つまりこの男はその状態の映像から、“見れる”映像までに引き上げたのだ。並大抵の技術ではない。

「あ、この映像レコード――」

「大丈夫です。内密に行いました」

 その言葉にフィーナは表情を緩ませる。

「では、これで」

「うん、わざわざありがと」

 男は背中を向け、扉へ向かって歩き出す。そして扉に手をかざしかけて止まる。

「……艦長も少しは休んで下さいよ。もう3日はまともに寝てないでしょう?」

 振り返り、そう言った。

「え……? あー……」

「分かりますよ。疲れが顔に出ています」

 フィーナは眉をしかめてむぅ、と唸った。

「……まぁ、じゃ、あと少し経ったら休むよ」

「ええ、是非そうして下さい。……それでは」

 扉が開き、男は立ち去っていった。

「……ふぅ」

 フィーナはその背中を見送った後、椅子に寄りかかり溜息を吐く。

「そうは言っても……休む暇がないんだよね……」

 ため息混じりに手に持っているメモリを玩ぶ。

「そういい事ばかり起こるわけじゃないもんね……」

 そう呟きながら、フィーナはメモリをデスクに挿入し、データをロードする。すると新しくモニターがデスク上に表示される。


 映っているのは、あの巨大なレーザーライフルを装備し、羽を模したブースターを有していた少し薄黒い、もう1つの天使の姿。あの時の機体。枢が初めて、対峙した機体。ただし枢のアウラとは対照的に、屈強で巨大な形状フォルム

 それがただ、佇む姿。その姿を斜め上から見下ろしている。それがモニターには映っている映像。

 数秒後、謎の人影がその機体の下に素早く駆けていく。その瞬間に、もともとあまり良くない画質が、更に若干低下する。そしてその謎の人影は身軽な体使いであっという間にコックピットの部分まで乗り、手をかざす。するとコックピットが開いた。そして乗り込むその一瞬だけ、上側――つまりはこちら側を見るように顔を向けた。そのおかげで、謎の人影の顔が明らかになる。

 しかし小さくてよく分からないので拡大する。まだ足りない。もう一度拡大する。そしてフィーナはそれを凝視した。

「……やっぱり」

 そこに映っていたのは、“アイラ・イテューナ”の姿だった。




「……」

「……」

 異質な空気になってから約1分。

「……」

「……」

 誰も何故か言葉を発さない。いや、4人のうち2人は発せないのだが。その2人のうち1人の顔からは、にやけ顔がなくなっていた。

「……あのぉー」

 にやけ顔がなくなった男が手を上げる。

「……何?」

 美沙都が返事をする。

「トイレを、拝借しても?」

「どうぞ」

 ぶっきらぼうに答える。そして冬夜は立ち上がる。そして言葉を発せないうちの1人と目が合う。

‘あっ! ずるい、冬夜!’

‘うるせぇ! 俺には耐えられん!’

 という意思疎通を交わしたのち、冬夜は出ていった。

 ――バタン。と扉が閉まる音がする。

「……」

「……」

「……」

 無音。無言。

「じゃあ……」

 美沙都が閑静とした空気を破る。

「勝負で決めましょう」

「……いいよ」

 そう言って2人は見つめあう、もとい、睨み合う。アイリは無表情だが、その瞳には闘志がみなぎっていた。

「……」

 枢には何が何だか分からない。僕の課題なのになんで2人がそんなにいがみ合ってるの? みたいな顔をしている。美沙都が立ち上がり、引き出しから何か取り出す。

 樽だった。そして樽と共に何本ものナイフを取り出す。そしてただしその樽もただの樽じゃない。比較的小さく、何かを刺すような穴が幾つもあり、上にはヒゲ面の男が突き刺さっている。

 そう、俗に言う“黒ヒゲ危機一髪”だ。

「これで決めましょう」

「……いいよ」

 良いらしい。何で美沙都はこんなものを持ってるんだ。



「……はぁ」

 何やら激戦を繰り広げ始めた2人を避けて、テーブルの端まで移動する。

「仕方ない……古文でもやってよ……」

 そう言って枢は1人、テーブルにプリントを広げ始めた。



 ――美沙都はその顔に、勝利を確信した笑顔を見せる。

「よし……もらったッ!」

「――ッ!?」

 右手のナイフを振り被る。勝敗を決するその最後の穴に衝き刺す――!

「「……」」

 ……何も起こらない。

「……?」

 しかし他に刺せる穴はない。全ての穴がナイフで埋まっている。美沙都は先ほど入れたナイフを一度抜き、もう一度刺す。

「……」

 しかし何も起こらない。

「……壊れてる」

 黒ヒゲは樽を脱いでくれる気配はない。

「「……」」

 沈黙。2人は目を合わせる。

「――ッ」

 そしてアイリが突如立ち上がる。枢の方を向きながら。

「――ッ!?」

 美沙都もその意図を理解し、追う様に素早く立ち上がる。



「さてと……」

 用も足し終わり、部屋に戻ろうとトイレから出る。

 そろそろあの雰囲気もなくなっているだろう。枢には悪いが、俺は逃げさせて貰ったぜ。

 階段に足を掛ける。そして十数段ある階段を上り終わる。そして扉の前に立つ。

「さぁ、どういう状況なんだ……?」

 冬夜はドアノブに手を掛け、開ける。

「!?」

 ノブを掴んだまま、冬夜は固まる。目の前の光景は、シャーペンを右手に持っている枢の両脇に美沙都とアイリの2人が座っていた。それも腕にひっつくように、枢の前に乗り込むように。

「……」

「……あ」

 音を立てて扉を開けて入ってきた冬夜に3人は気づく。

「――――ッ!」

 そして美沙都は顔を赤くして勢いよく立ちあがる。そのまま直ぐに自分の机に駆けていき、

「――わ、私、自分の宿題やる」

 と言って机に向かってしまった。

「……」

 冬夜はにやにやと美沙都を見ている。その視線に美沙都は耐えられなくなり、冬夜へと振り向く。その顔にある眉は、真ん中に寄せられていた。

「……何よ?」

「別にー」

 冬夜はにやにやしながら言った。




 ――時刻は1時。無論、夜中。電気も消し、カーテンも閉め、空は雲で覆われているため光はない。いや、時計の針の蛍光色は光を放っているか。

 私は就寝するため布団に入る。そして今日の事を回想する。

「……」

 何で、あんな行動に出たのか自分でもよく分からなかった。だけど、カナメがミサトの家に行くと聞いた時、カナメを見るミサトの瞳を見た時、私の心に何とも言えない感じが広がった。そして気が付いた時には、ミサトの家に行くと言っていた。

「……」

 家に行った後もである。何故あんなミサトと張り合うような真似をしてしまったのか。

「……」

 ――よく、分からない。何なんだろうこの気持ちは。分からない。

「……っ」

 寒くないよう、厚くされている多少重い掛け布団を首辺りまで引っ張る。――とにかく、明日はフィーナに呼び出されている、だからもう寝よう。見て欲しいものがあるって言ってたけど、一体何なんだろう。フィーナの声色からすると、かなり重要なことみたいだけど……。いや、現状じゃ、重要なことは山ほどあるか……。

 それに分からないことは、幾ら考えていても分からないから分からないことなんだ。

「……」

 私はそう思い、静かに眠りに就いた。




「……はぁ」

 ぼふっ、とベッドに横たわる。

「……はぁ」

 もう一度溜息を吐く。憂鬱な気分だ。原因はもちろん。

「……はぁ」

 思い出す。今日の放課後の事を。

「……」

 いや、放課後だけではない。最近の、約半月くらいのことも。

「……」

 枕を抱きしめる。考えることは枢とアイリちゃんの事。

 あの2人はいつも一緒にいるけど、どういう関係なのだろうか。幼馴染……とは正直思えないし。アイリちゃんが日本人ならまぁ、幼馴染とかっていうのは納得行くけど。

 それに幼馴染だからってあそこまでいつも一緒にいるだろうか……。毎日一緒に帰ってるし……一緒に、登校までしてるみたいだし。

 最近、枢と一緒にいることが少なくなった気がする。いつからだろう……ちょうど、アイリちゃんが来てからだろうか。

「……」

 枕を更に強く抱きしめて、顔を埋める。

「…………何よ、枢の……バカ」

 その後、私は悶々としたまま、結局そのまま眠りに就いた。



「……はぁ。問題は山積みね」

 フィーナは独り、瞼に指を当てながら溜息を吐く。

「結局あれからまた眠れなかったし。……良いけど、私は頭脳労働だし」

 みんなみたいに命張ってるわけじゃないから、と。そして再び前かがみにデスクに寄りかかり、作業を再開する……が。

「……ん」

 不意に、勝手にモニターが表示される。他に表示されているウィンドウを無視して、それぞれが重ならないように一番手前に。数は3つ。このように強制的に出る場合は、かなりの緊急事態、重要事項だという証だ。フィーナは作業を中断し、そのモニターを見ることに専念した。

「…………な」

 フィーナはその3つのモニターを目で追い、目を見開き、驚愕していた。

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