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ACT.9 悲しみの慟哭<2>

『枢ッ! 左頼んだ!』

「はい!」

 アルメニアアルスはそのまま右前方へ特攻していく。僕は少し数の少ない左の方へ駆ける。

『っ!?』

 レーダーに映り、気が付いたのだろう。左の、結構奥にいたホークスも振り向く。

 僕は右手に装備したライフルを構える。両手で腰に構える、安定した射撃の構え。カーソルがホークスを捉える。そして撃つ。放たれた銃弾は、ホークスの右足を貫いた。そしてそのままそのホークスはバランスを崩し、倒れこむ。

『ぐ、ぅぅうぅ――!』

 倒れた衝撃にパイロットは呻く。そして続けざまに右腕、左腕と破壊する。

「――ッ!」

 完全に敵性勢力と判断したホークスが、群れを成して地面を削りながら駆けてくる。ネフィルも地面を削る。接地面からは、砂塵が舞っている。

 ネフィルはオルレア軍から後退しつつ、その場から離れないよう、回るように滑る。それを、ホークス達は砂を撒き散らしながら、ライフルで追い、撃つ。しかしライフルが閃いた瞬間にネフィルはその座標にはいなかった。

 瞬間移動ステップする。ステップはその重心制御の難しさから、フェイクスにしか出来ない芸当。

『――フェイクスッ!?』

 後方にいたホークスが、その背中からミサイルを撃ち放つ。包み込む袋の様に、ミサイルが迫りくる――筈だった。




「――ふぅ」

 あらかた終わったかなぁーーとアルメニアアルスは見回す。その首の動きに合わせて、長い毛が流れる。


 作戦状況は順調だ。私の方は、検討する余地もないけど問題ないし、ユーコの方も、クリフの方も快調のようだし。枢も、ちょっと危なっかしいけど、やられはしないだろう。

 というか、別部隊ユーコとクリフたちが快調じゃなけりゃ私達が非常に危険なんだけど。

 作戦内容は大まか、このようなものだった。ユーコ達、スナイパー部隊でイストリア侵攻の為のポイントを制圧。クリフ達、強襲部隊で主戦線で大暴れしてもらう。そして慌てて援軍に向かう後続部隊を我々で叩く、というわけだ。単純な作戦だが、もはや軍人でもないテロリストには有効だろう。――まぁ別に、私はどんな不利な状況でも乗るけどね。


 枢の方の援護に向かうか、と機体を翻したその瞬間。

「――ッ!?」

 突如、レーダーに反応が起きる。――後方上空!?

 アルスは前方にステップし、機体を180度反転させる。すると数瞬前にアルスがいた場所に巨大な鉄の塊が撃ち込まれた。そして太陽を背に、跳躍していた機影が見える。その着弾地点の向こう側に、敵機は着地した。――間一髪。

「――ホークス!?」

 その機体は、ホークスだった。しかし何故、あれが空高く跳躍出来たのか。その上、何故レーダーに引っ掛からないのか。

 ――しかし考える暇はない。


 ドンドンドン!


 そのままホークスは間髪入れずにライフルを撃ちこんでくる。アルスを掠める様に左右へ、そして直撃の真正面へ三連発。

「チッ――!」

 そのままアルスはその場で垂直に跳ねる。しかし敵機のライフルの銃口は動かない。揺らがない。未だかつてアルスがいた場所を捉えたままだった。

「――!?」

 イリウムは危険を察知する。左手の平を左斜め前の地面へ向ける。アンカーを射出し、地面へと突き刺す。着地地点を修正する。あのままじゃ――着地と同時に撃たれていた。

「――なかなか」

 イリウムの口の端がつり上がる。

 今度はアンカーをホークスに向けて撃つ。直撃コース。アンカーといっても、その速度はライフルに劣らない。無論、見て避けれるものではない。

 ホークスは一歩、横にずれる。その僅かなずれで、アンカーは当たることなくホークスの脇を抜ける。――直後

「――なッ!?」

 その通り過ぎたアンカーの、後ろに伸びているコードを左手で掴んだ。

「――ヤバッ」

 イリウムはアンカーを切除する。切り離されたコードは、力なく地面にたゆんだ。

「……なんだコイツ……動きが半端じゃないぞ」

 イリウムは1人呟く。目の前の行動の異例さに、戸惑っている。

「――ッ!」

 今までただ佇んでいたホークスが、動き出した。

 ライフルを腰に添えず、腕を伸ばし切り、少し斜めに構えながら、地面を削りながら迫ってくる。


 ドン!


 ホークスのライフルが閃く。アルスは垂直に跳躍し、避ける。足下が瞬き、爆発し、圧倒的な瞬発力。


 ドン!


 ホークスのライフルが吠える。アルスは右に瞬間移動ステップする。一瞬前までアルスがいた空間を弾丸が切り裂く。


 ドンドン!


 ホークスのライフルが、咆哮する。アルスが着地した瞬間を狙い、撃つ。アルスは足下を瞬かせ、なんとか回避する。更に数十メートル右へ、着地する。――ネフィルと、丁度挟むような立ち位置になってしまった。

「――何だコイツ!? 全てマニュアル射撃!? ――しかも完全に予測してるのか!」

 ノームだろう、相手は。パイロットはフェイクスなのか。どちらにせよどんなバケモンだ、と悪態を吐く。

「――ッ!?」

 突如目の前に飛来してきた物体を、間一発でブレードで斬り払う。――弾かれた物。それはホークスの槍だった。その槍のせいで若干悪くなった視界のその先で、再び接近しながらライフルを構えている姿を視た。

 アルスは足下を爆発させ、前へ、前へと跳躍する。僅かな差で、弾丸を回避する。そのままアルスは、ホークスの頭上を抜ける。空中で、ブレードを左手に持ち替える。そして右手からアンカーを着地地点に射出する。地面に突き刺さる。そして巻き戻し、その反動を利用し、地面を滑りながら、アンカーと地面との設置地点を中心にして回り、振り返る。

「一体、何なんだよ……コイツは……」

 そう呟くイリウムの顔は、少し楽しそうだった。




 後方にいたホークスが、その背中からミサイルを撃ち放つ。包み込む袋の様に、ミサイルが迫りくる――筈だった。

「ROB、オープン」

 僕がそう呟いた瞬間には、既にホークスの懐にいた。

『なっ――!?』

 後方では、標的を失ったミサイルがふらふらと中空を彷徨っていた。

 ネフィルは左腕にレーザーブレードを展開し、目の前にいるホークスへと斬りこむ。左肩を突く。そのまま右手のライフルで頭部を狙い、0距離で打ち込んだ。

『ぐっ――クソッ! やられた!』

 頭部はアウラの視界制御に必要不可欠な機能が集中している。これにより、アウラの視線から視ることは出来なくなった。外の光景を見るには、コックピットをさらけ出すしか手段はない。――当然、そんなことは出来ない。

『チクショウ! 何なんだよ、コイツら!』

 ホークスは肘に向かって折りたたまれていたブレードを手首の辺りで、点として固定され展開する。

『うおおおおおぉ!』

 そのまま2機のホークスが左右から挟み込み、ネフィルの薄く、華奢な装甲を突き刺さんと駆ける。その後方ではライフルの銃口がこちらを向き、閃光を放つ光景が視えた。

「――ッ!」




「艦長……彼は、この戦いで、人を殺めることが出来るのでしょうか?」

「さぁ? ……分からない」




 ――枢は息を止め、集中する。

 左、右から同時に斬りかかられている。正面からは一斉射撃。――ならッ!

「これだッ!!」

 ネフィルは左へ瞬間移動ステップする。それと同時に、手の甲を天に向ける様に左腕を水平に上げる。その先にはレーザーブレードが展開されている。

『――ッ!?』

 突き刺そうと突進していた、片側のホークスのモニターが突如砂嵐に変わる。彼には、何が起きているか分からない。

 ネフィルの、その振り上げた左腕が頭部に突き刺さっていた。ホークスから放たれた弾丸は虚空を突き抜ける。そしてそのままライフルを持った右腕を、まるで左腕と鏡映しの様に水平に構え、ライフルを乱射する。




「分からない。けど――彼はきっと――」




 ドンドンドン!


 重厚な音と、衝撃が伝わり、地が震える。

 ネフィルが撃ち放った弾は、左足、左肘、右肩に命中していた。そしてまたも、転倒する。

『なんだよ――このバケモノはッ!?』

 全く歯が立たない、目の前の白き断罪者に恐怖する。目の前の断罪者に駆逐されると――。

 再び、射撃体勢に入っているホークスの間合いを、ステップで詰める。熱限界警告オーバーヒートアラートが鳴っているが、気にしない。

 斬り、ステップし、反転し、後ろから斬りこみ、薙ぐ。ホークスは、脚を持っていかれ行動不能になる。

「ハッ――ハッ――ハッ――!」

 枢の息が荒くなる。過度に酸素を求めている。極限の興奮故か、ブーストによる内臓負荷故か。

『貴様ァ! 我々の、邪魔をするなぁ――ッ!!!』

「――ッ!」

 その怒号と共に、駆けてくるホークスがいた。彼らの心境を表したような、黒々とした、攻撃的な刺々しいボディで。その右手に、醜い感情が具象したような、禍々しい槍を手にして。

 瞬間移動ステップ――は出来ない! 熱量限界オーバーヒートが――!

「クソッ――!」

 どうする――!?



 ――ネフィルは即座に、槍にライフルを向ける。


 ガゴン!


 トリガーを引くと、鈍い音と共に、槍の矛先がずれる。槍にライフルを撃ち込む。そしてその反動で、ホークスも体制を崩す。そのチャンスを逃すまいと、ネフィルはそのまま腕を撃ち貫く。槍と共に、腕が地面へと落ちる。

『チィ――ッ!』

 オルレア軍のパイロットの声が入る。

『何故我々の邪魔をする!』

 敵は疾呼する。

「どうして! 貴方達はこんな戦争ことをするんです!?」

『――報復だ! |奴ら(イストリア人)への、正義の報復だ!』

 正義、という言葉を使う。枢はその言葉に、不快さを感じる。その言葉は、間違っている!

「正義なんかじゃない! こんなのは――ただのテロだ!」

『違う! ――正義だ!』

 ホークスは、怒りをぶつける様にネフィルに撃ちつけようとする。

『――我々が! 奴らにどんな仕打ちを受けたか!』

 しかしそれはネフィルに当たらない。

『友人を、家族を、同胞を殺され! それでも尚、奴らはのうのうと生きている!』

 叫び続ける。

『――私の妻は――奴らに、強姦された!』

「――ッ!?」

『そして誰とも知らぬ子を孕まされ! ――自ら命を落とした!』

 ホークスは槍を構える。

『これが――許される行為か! 我らは間違ったことはしていない! これは捌きだ! 悪魔(イストリア人)を駆逐する為の正義だ!』

 ネフィルもレーザーブレードを展開する。

「確かに――確かにそれは許されないことだと思う――でも、でも! その悲しみを知っているからこそ! こんなことは止めるべきなんだ!」

『貴様に――貴様に一体何が分かるッ!!』

 槍を突き刺そうと、突進する。まるで何かの仇と対峙しているかのように、恨みを込めて。一直線に。

「――分かるさッ!!」

 その槍をレーザーブレードで斬り上げ、裂く。

「――分かるさッ! ――痛いほどに!!」


 ――あの、地獄が脳裡に蘇る。あの理不尽な、惨劇を。


「悲しみ――ヒトを失う悲しみを知っているのに! どうしてその悲しみを生むようなことが出来るんだよッ!!」

 ネフィルはライフルをホークスの頭部に向ける。

「僕だって――! 僕だって――! 僕だって――ッ!!」


 ドンドンドンドン!


 そして撃ち貫く。次々と、撃ち貫く。怒り狂うように。腕も脚も。ホークスは倒れこむ。枢は、涙を流していた。

「貴方みたいな――貴方みたいな人がいるから――ッ!!!」

 ネフィルは左腕を振り上げる。その先には、レーザーブレード。




「――人を殺すことは、必死で避けるんだと思う」




 枢は叫びながら、レーザーブレードをコックピットに突き刺した。まるで何かの仇を相手にしているかのように、ネフィルは獰猛に動く。

 オルレア軍のパイロットの腰を、レーザーブレードは両断した。

『貴様に……われ、われの、一体、何、が……』

 ごぷっ、と口から血を零しながら、こと切れる。ホークスは完全に動きを停止する。そしてレーザーブレードは、その場の悲しみを表現するかのように儚く光の粒子となって、消失する。

「――っく、母さん――父さん――!」

 枢は操縦桿から手を放し、震える自分の身体を抱き締める。再び彼を、深い悲しみが襲う。

「うああぁあああぁあぁああああぁぁぁあーーーーーー!!!!!!」

 その優しき瞳からは、大粒の涙が溢れていた。悲しみで、顔がくしゃくしゃになる。

 ――様々な感情が折り混ざる。どうして僕達が、あの時に別の場所に、あの時僕が無力だったから、あの時この力があれば、この世界は一体何なんだ。

 ――枢の慟哭が、コックピット内に響き渡った。あの時とは、また違う、悲痛な叫びが。

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