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ACT.0 出会い

 ――前方からミサイル。その数は凡そ二百。

 面を伴い、こちらを覆うように広がり、包み込むように仄暗い中無数のミサイルが迫る。


「――ッ、――なんて数」


 思わず私は独り愚痴た。信じがたい程の光景が目の前には広がっている。

 ミサイル群に向け左手のマシンガンを構え照射する――様を脳裏に浮かべる。すると彼女が乗っている鋼鉄の巨人もそれと同じ動きをする。それは全体的なカラーは黒寄りの灰。毅然としたその様は屈強な護衛を思わせる。

 ミサイル群はマシンガンの弾に当たり、爆発し、誘爆する。

 しかし撒きこめたのは半分ほど。――いや、半分も消化していないかもしれない。

 依然として、視界を覆う塵のようなミサイルはオレンジ色の火を吹かしながら向かってくる。


「クッ――」


 呻きながら思考を巡らす。

 あれは散布ミサイルの類いなのだろうか。だが、喩えそうだとしても爆発規模が異様に小さい。本来なら、その全てを誘爆へと誘える程の密集度の筈が、あまり効果が見られない。それに、高性能追尾ハイエンドミサイルならまだしも、あの追尾性能はまず有り得ない筈。量と性質が矛盾していた。

 ――だがそれより異質な性質ものは、そのミサイルの着弾による影響。

 ミサイルを避けるため、ブーストをミサイル進行方向に対し、垂直に吹かし、左へ回避する。そのブーストはあの巨大な塊を一瞬で加速できるもの。かなりの推力だ。

 機体は地面を滑るように、横へスライドする。脚部と地面との接地摩擦によるけたたましい音が響いていた。

 ミサイルは一瞬前まで自機が居た空間を突き抜ける――が、通り過ぎた瞬間、やや曲線を描きながら、90度旋回する――!


「なんなの――このミサイルは」


 今度は右手のマシンガンを向け、乱射する。先ほどより長く、満遍なく。

 そして全てのミサイルを撃ち落とす。

 ――どうやらこのミサイルに当たると、原理は分からないが、問答無用に機体が停止するようだ。このミサイルに巻き込まれたここの企業の警備機は全て例外なく停止していった。機体に外傷は全くないというのに、だ。

 しかしいつまでもこんな対処の仕方をやっているわけにはいかない。残弾がそろそろ底をついて来ている。端に表示されている弾数表示をちらりと見、歯軋りした。


『後方から熱源反応。敵機からレーザー、照射されます』


 コクピット内に響く、抑揚のない無感情な声。それはこの機体のAIだ。自機に迫る状況を事務的に伝え続ける物。

 片側にブースターを一瞬だけ、最大出力で吹かす。これによりまるで機体が瞬間移動したかのように一瞬その場から消失する。瞬発的な回避を要求される時の常套手段だ。

 灰の巨人は瞬間移動ステップする。しかし、間に合わない。直径が自機の大きさ程あるようなレーザーが、尾を引きながら右腕をもぎ取っていく。


『右腕部破損。解除パージすること推奨します』


 巨人の右腕の肘から先が、全て消失していた。失くなった断面から、火花がバチバチと散っている。


「ええ、お願い」


 肘から先が無くなってはただの重りでしかないので、パージする。重低音を立てながら、残った右腕は切除され、地面に落ちた。


『右後方より熱源多数。ミサイル、来ます』


 AIが危険を知らせる。先のミサイルだ。またあの群棲が、押し寄せる。


「ッ!」


 右前のブースターと、左後ろのブースターを高出力で吹かす。それにより、一瞬でその場で旋回することが出来る。

 旋回ターンした。目の前に展開されているのは視界を埋め尽くす、圧倒的な数のまるで蟲のようなミサイル。その一発一発が致命的なダメージを与えるおぞましいもの。

 後ろにブーストを吹かし後退しながら、両腕のマシンガンでミサイルを撃ち落と――


「このッ!」


 ――そうとするが、右腕は既に存在しないことに気づく。


「――ッ!」


 片腕のマシンガンで円を描くようにしてミサイル群を撃ち落とす。視界が、今度は爆風で埋め尽くされた。


「やった……?」


 あの驚異的なミサイルの量を片腕で防ぎきった……と少し安堵する――


『……微小熱源、二』


 ――が、爆風の中から二発、誘爆を逃れたミサイルが突き出て来た。


「――ッ」


 不意を突かれ、回避行動に移れない。

 一発、ミサイルが胴体部コアの部分に当たってしまった。その瞬間、今までずっと噴射し続けていたブースターが止まってしまう。


「――当たった!?」


 ガチャガチャと、操縦桿を必死になって引くが、全く反応が無い。


『メインブースターに異常発生。詳細原因は現在不明』


 このままではまずい、と思ったその瞬間。


『前方から熱源反応……回避不能』


 爆風が収まったその向こうには巨大なレーザーライフルを構えた、背中に白い天使の羽のような武器を持つ、薄黒い機体が見える。

 いや、武器ではない――ブースターだ。そのブースターから、羽のように青い光が散布されている。

 その様は天使。まるで、断罪しに来た天使のようだ。青いカメラアイが黒い機体を捉える。ライフルは、青い光を帯びていた。それは既にチャージが完了している証拠。


「あ――」


 思わず声を漏らしてしまった。

 それは恐怖からか諦めからか、絶望からか。

 そして不思議と彼女の目には、世界が妙にスローモーションのように感じていた。――これが走馬灯なのか、他人事のように思う。

 レーザーが発射された。直径が自身の機体の大きさほどあるような、馬鹿に太い、青く眩いレーザーが。

 思わずその、レーザーに圧倒される。間に合わない。今からでは、回避は間に合わない。あと数瞬後には、私は、自分の機体諸共もろともあのレーザーに焼かれ、跡形もなく蒸発するのだろう。


「――ッ!」


 私は目を思いきり瞑り、操縦桿を握り締め、身を強張らせた。

 私は、死を覚悟していた。


「……?」


 ――しかし、数秒後も私の意識は健在していた。

 死んで魂だけの存在になったわけでも、走馬灯のように自分だけが時間を長く感じているわけでもないようだ。

 ゆっくりと、目を開ける。

 脳に映りこむ光景から認識できるのは、自機の目の前に何かが立ちふさがっているということ。

 まるであのレーザーから私を庇う様に。無防備に背中を見せて。その背中は、不思議と暖かく安心する。

 あの天使のような機体もそうだが、今、目の前に居る機体もまた、彼女が今まで見た事がない機体モノであり、天使のようだった。


 ボディカラーは穢れを知らないような純白。華奢な細身のフォルム。


 それはまるで無翼の――


 そう――“無翼の天使”

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