Game tutorial
ハカセの話は続く
わけのわからないことばかりで、その大半は頭に入ってこない
だが、冗談や悪ふざけで言っているようには見えなかった
「ここで起きているのは幽霊と幽霊による殺し合いだ。もう死んでいるから、殺すという表現が正しいかはわからないけど、そうとしかいえないんだ、このゲームは」
「ゲーム?」
「三十年前に始まったゲームさ。この町の幽霊同士を殺し合わせるゲーム」
「ま、待ってくれ。殺し合うって言ったって、なんで」
「消えてしまうんだよ。そうしないと私達は」
「!!」
消える
成仏するということか
いや、そんな良さげな雰囲気ではない
「期間は今月の四月一日から来年の三月三一日までの一年。その間私達は月に最低一人、同類を殺さなくてはならない。そうしないと消えてしまうんだ」
「それが本当なら、このままじゃあオレは消えるということか。冗談じゃない!」
「そう、だからキミの記憶喪失は危機的状況だったんだ」
「危機的状況? はっ、それは今もだろ! 知ったところでどうしろと–」
待て
すこし待て
そうだ
なんでこいつらはこの状況で平然としてられるんだ
こいつらはルールをしっている
消えずに済む方法も
『おとなしく殺されてくれるかしら』
あの時少女確かにそう言った
その理由に、今なら心当たりがある
「お前ら、まさか殺ったのか」
「•••」
ハカセは答えない
目線をそらしたまま黙っている
焦りと苛立ちで、頭が一気に沸騰するのが、自分でもわかった
「っ、答えろ! 殺したのか!? 本当に」
「ええ、殺したわよ」
答えたのは少女だった
悲鳴にも似た叫び声を切り落とすような、冷たい声だった
「な、んで」
「このゲームが始まった四月一日に、私とハカセそれぞれ一人づつ殺したわ」
「なんで!」
「当然でしょう。私は消えたくないもの」
「っ!!」
訳も分からないままベットから飛び出すと、少女の胸ぐらを掴んでいた
「お前、言ってる意味わかってるのか! 人を殺したんだぞ! 自分の勝手で他人の命を」
「ならあなたは消えるの?」
沸騰していた頭が、氷でも入れられたかのように一気に冷める
消える?
いやだ、消えたくない
記憶も、仮に命もなかったとしても、消えたくない
それは本当に全ての終わりに思えるから
「そうでしょ。誰だって消えたくない。特に幽霊なんて連中は、未練タラタラでこの世にしがみついている奴らばっかり。生き残る為ならなんでもするわ。それに、ジョーカーを狙ってる奴らもいることだしね」
「ジョーカー?」
「ええ、このゲームの本当の醍醐味。見た目はただのトランプらしいわ。でも、ゲームの終わりにそれを持っていたやつは、どんな願いでも叶えてもらえるのよ。だから町中は、それを狙って争奪戦になる。命を賭けて。まあ命なんてないんだけど」
どんな願いでも叶えられる
幽霊の望む願い
そんなの決まっている
それは
「つまりこういうこと『消えたくなくば殺せ。生き返りたくばなお殺せ』これがこのゲームの趣旨よ」
いかれている
消えたくないから殺す
願いをかなえ、生き返りたければもっと殺す
最悪だ
狂っている
「まったく、本当にキミは容赦というものをしらないな」
「回りくどいのは嫌いなのよ。それに、はっきり言ってやらないと、こいつ信じないでしょ」
「はぁ、まあそう言うことだよキミ。この町に存在してしまった以上、消えたくなければ誰かを最低12人殺さなければならない。だがそれも来年の三月までだ。それを越えれば、少なくとも9年はなにも起こらない。過去の2回もそうだった」
「2回。これまでにこんなことが、2回も繰り返されてたのか。本当にいかれてるよ」
もう笑うしかなかった
馬鹿馬鹿しい
とてもやってられない
起きたら記憶喪失で
もう死んでいて
幽霊で
わけのわからないゲームに参加させられて
このままいけば消えるという
「どうしろって言うんだよ」
限界だ
もう考えることすらできない
夢かもしれないと逃避してみる
こいつらがおかしいだけで、すべてデタラメだと思い込んでみる
だが、ことごとく心音の聞こえない体が、これは現実だと訴えていた
[ゲームルール]
•プレイヤーは奈仮市内に存在する幽霊とする
•フィールドは奈仮市内である
•プレイヤーは毎月他プレイヤーを殺害しなければならない。条件が満たされない場合リタイアとみなされる
•プレイヤー殺害時に加害者が複数存在する場合、直接命を奪ったプレイヤーのみ条件が満たされる
•プレイヤーが0人になった場合はゲーム不成立とする
•プレイヤーを一般人を認識することはできないが、その逆は可能である
•プレイヤーは生命体に触れることはできない
•特殊アイテムアイテム【ジョーカー】をゲーム終了時に所持していたプレイヤーは、ボーナス獲得の権利を得る
以上( 20##年 4月10日 公開情報 )