We are ghost
「死んでる?」
言葉にして言ってみる
それはつまり
心臓がとまって
息をしていなくて
目覚めることがなくい、ということ
だが、自分は確かにここにいる
自分という意識を持っている
死んでいる?
馬鹿馬鹿しい
だが何故か、少女の言葉を即座に否定できない自分がいる
「いや、あり得ない。どういうことだ?」
抵抗するように、少女に問いかける
少女は眉一つ動かさずに答えた
「だから死んでるのよ、あなた」
「ふざけるな!」
布団から飛び起きて、思わず叫んでしまう
「おれは生きてる。だって、ここにこうして存在するしているじゃないか。死んでるなんてあり得ない!」
否定したかった
否定しなくてはならなかった
そうしなければ、記憶をなくし残った何かすらも、瓦礫のように崩れてしまいそうだったから
だが、そんな自分に淡々と少女は語る
「本当に覚えてないの? 納得できないなら、自分の脈測ってみたら? 」
「っ!」
左手首を掴んで脈を測る
血が回らないほど、強く手首を握る
だが
「•••嘘だろ」
右手首も握ってみる
脇も、首も、頭も
自分の心音を探し続ける
しかし
「ない、脈が」
生きていることの証拠、それは自分の体からは見つからなかった
死んでいる、その言葉がジワジワと現実味を増してくる
突然気分がわるくなり、口元を抑えこんだ
「だから言ってるでしょ。死んでるのよ、あなたも、私達も。まったく、なんなのこいつ」
「キミ、記憶喪失っていってたけど、ここがどういう場所か、それもわからないのかい? 今の、この町の状況も?」
「状況?」
もちろんわからない
わかるはずがない
自分のことすらろくに覚えていないのだ
加えて実は死んでいる、なんてことまで
とても頭がついていかない
「あなた、念のため聞くけど嘘はついてないでしょうね」
「嘘なんてついてない。本当にわからないんだ」
「嘘じゃないとしたら結構ヤバイかもね。はぁ、面倒なモノ拾ってきちゃったわ。ハカセ、説明頼める? 私、そういうの嫌いだから」
「まったく、本当にキミは。了解、任せてくれ」
男の方はハカセ、という名前なのだろうか
ハカセは近づいてくると、穏やかな口調で話しはじめた
「えーと、初めまして、かな。私はハカセ。ここの地下バーで地縛霊をしてる。よろしく」
「•••は?」
だめだ、混乱しているせいかへんな単語が聞こえてくる
「どこから話そうか。何も覚えていないんだったね。そうだな、まずは私達の置かれている状況から説明していこうか」
ハカセは奥の棚をゴソゴソ漁った後、小学校で配られるような日本地図を引っ張り出してきた。
「ここは奈狩市。ちょうど近畿の中央あたり、京都と大阪の狭間にある。ちょっとした都市もどきの町だよ。急な開発で人より物のほうが立派になってしまっててね。たいそうなビルが並んでる割にはそれほど人は多くないんだ」
そういえば
少女と初めて会ったのはビル街だった
少女はというと、ハカセと入れ違いになるように奥に引っ込んでいる
出会った時から変わらず、彼女は不機嫌だ
「で、ここの特殊なところはね、何故か幽霊が出やすいってところなんだよ」
「ユウレイ?」
「そ、幽霊」
「えっと、•••幽霊?」
「そ、幽霊」
残念ながら聞き間違いではないようだ
加えて冗談を言っているようにも見えない
ここまでくると、ハカセが次に言いそうなことも想像がついてしまう
「それはつまり、自分達は幽霊だと、そう言いたいんですか?」
「ああ、まさしくその通りだ」
思わず頭を抱える
だめだ、ついていけない
目が覚めたら幽霊だった?
そんなふざけた話があってたまるものか
普通なら、通常なら、彼等は妄想の住人と考えるところだろう
だがそれでは、心音が聞こえない体のことは説明がつかない
心音が聞こえない
なりほど幽霊なら心音は聞こえないだろう
何故なら、死んでいるのだから
「っ、信じられるか、そんなこと!」
「まあ確かに、記憶のないキミには信じられないだろうね。でもこれは事実なんだ。現に私達は、自分の死んだ時のことを覚えている。それに、心音の聞こえない体は何よりもの証拠にならないかな」
そんなことはわかっている
でも自分が死んでいるなんて、そう簡単に認められるものではない
「•••わかったよ。なら仮定の話しとしてでもいい、聞いてくれ。ここからが本題、キミの命、はもう無いか。キミの存在に関わる問題だ」
「存在?」
自分達が幽霊だと言う話が本題ではない?
これ以上何があるというのか
「いいか、良く聞いてくれ。今この町では殺し合いが起きている。人と人、ではない。幽霊と幽霊による、殺し合いだ」