Claws of the beast
公園での爆発音を聞いていた人物はもう一人いた
「まさかこんなところで見つけるとはね」
赤髪の少女はナイフを持った男と相対していた
「あ? 誰だあんた?」
少女はこの男をずっと探していた
男は少女に気づくと、気だるそうに反応する
「悪いんだけど、後にしてくんない? ほら、今取り込み中だから」
そう言って男は真っ赤な血だまりを指差す
そこにはかつて人間だった何かが散乱している
もう人と呼べる形ではないが、漂う血の匂いがそれは死体だと訴えている
遅かった
また犠牲者が増えてしまった
やはりこいつは早々に始末しておくべきだ
「お前の都合に付き合うつもりはないわ」
前へ踏み出す
それを見た男は一瞬面倒そうな顔をしたが、すぐにまた表情をかえた
「•••なんだあんた。俺と同類じゃねーか」
「•••」
ピクリと僅かに眉が動く
男はその反応をみて更に上機嫌になった
「ヒヒッ、いいぜ。遊んでやるよ。あんたはなかなか楽しめそうだ」
男は血だまりからナイフを拾い上げ、少女に向き直ると、同時に
「ハッ!」
抜く手も見せずナイフが投げつけた
鈍く光るそれは少女へと一直線にとんでいく
完璧な奇襲
少女は避けることすら出来ないだろう
しかし
ナイフが少女へと届くことはなかった
ガン!!
「!?」
ナイフが爆発した
いや、突如として現れた炎によってナイフが叩き潰されたのだ
ナイフは破片すら残らず、燃え消えていく
「ガッカリだわ。こんなものかしら、伝説の殺人鬼様の実力は。早く本気を出しなさい。じゃないと、楽しむ間も無く灰になるわよ」
「ハッ、そうこなくちゃな」
炎はまるで意思があるかのように少女を取り巻いている
その明かりが、真夜中の公園を明るくてらしていた
岸谷航平
23歳
職業不詳
住所不詳
犯罪歴多数
クズを絵に描いたような人間だ
馬鹿ばっかりやってきた
暴力によい
酒によい
そんな生活を送ってきた
父親は俺を見限ってどこかに消えた
母親は俺を怖がってどこかに消えた
だが
何故か妹だけはおれのそばに居続けた
妹だけは俺を見捨てずにいてくれた
そのことで、どんなに救われたか計り知れない
おかげで、俺が最後の一戦をこえることはなかった
妹が病になった
治療費は馬鹿にならない
だが俺のせいで両親とは連絡がつかない
金が足りなかった
人を殴り倒すことはできても
妹一人救うことができない
この時ほど、自分の無力さを呪ったことはない
俺は働いた
もちろんまっとうな仕事ではない
だが金は手に入った
それでだけで十分だった
人は言う
「お前の拳は何故そんなに重いのか」
決まっている
背負っている物の重さが違うのだ
俺にとって兄という責任は何よりも重い
だから俺の拳も重いのだ
最期は呆気ない物だった
鉛玉ひとつで人生終了だ
実に無様な、俺らしい最期だ
だが終われない
妹はまだベッドの上なのだ
あいつを助けるまで、俺は死ぬわけにはいかない
死んでられないのだ
クズと呼ばれても仕方がない
どんな最期でも文句はいえないだろう
だが、こんな俺でもあいつの兄なのだ
だから俺は
岸谷航平
23歳
職業不詳
住所不詳
犯罪歴多数
そして
一人の兄だ
なんだこれは?
目の前の光景が信じられない
俺が振り下ろした斧は重力負荷によって、奴を両断できるだけの力があった
それが
「おいおい、なんだよそりゃあ!」
受け止められている
掴まれている
巨大な奴の右腕に
「っ、おおおお!!」
「くっ!」
そのまま力任せに腕が振るわれる
斧を離すわけにはいかない
結果、投げ飛ばされる形になった
「ぐあ」
体を地面に叩きつけながらも体勢を立て直す
図らずしも距離をとれた
もう一度奴の右腕を凝視する
獣の巨腕だ
切り落としたはずの奴の右腕には、巨大な獣の腕が生えていた
黒い毛で覆われており、鋭く大きな爪は金属のような光沢を放っている
あれで引き裂かれたら無事ではすまないだろう
「恐れいったぜ。それがお前のポルターガイストか?」
「ー」
答ることなく疾走する
さっきとは比べ物にならないスピードだ
人間の動きとは思えない
「おもしれぇ。獣退治といこうか!」
斧を上段で構え迎え撃つ
狙いは分かっている
振り下ろしの直後を狙うつもりだろう
だが奴は知らない
俺は重力負荷をこの斧にしか掛けられないが、その方向は変えられるのだ
つまり
振り下ろしから鋭い切り上げ
それで持って胴体をぶった切る
「らぁああ!!」
斧を振り下ろす
避けられるのは想定済みだ
本命はこの次
全身全霊の切り上げで息の根を止める
バキン!!
「な、に」
だが、切り上げが振るわれることはなかった
斧の刀身が砕かれていた
奴が狙ったのは斧そのものだった
振り下ろした斧を側面から殴りつけ、見事斧を叩き割っていた
こちらは無手
なす術はない
刹那
目線が交差する
「終わりだ」
それは死の宣言だった
目にも止まらぬスピードで腕が振るわれる
その爪は、俺の体を紙でも切るように切り裂いていった




