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「あの子達、戻ってこないわね」心配そうに苗たちの向かった暗い廊下を眺める奄霞その隣にいる垣野も「やっぱり彼女達を助けに」と飛び出そうとするのを抑える古潭「彼女たちは少なからずやられてない、後を追っていった細身の男は戻ってこない!あいつらはリーフデンバーのお付きだ。それはリーフデンバーが教導だった頃から変わってない、リーフデンバーの命令は絶対なんだよ!今回リーフデンバーの命令はこの奥にいる者シィ……″無感の神痕″を守る事それが今回の命令だ。現にもう一人の車椅子の彼女こと″葉絞 丸利″がウツロウツロしている。その後ろには母親がいる。その様子に抑えられてる垣野は「これってチャンスなんじゃないですか、菜草ちゃんたちには悪いけどあの細身の男は帰ってこない、それにあの車椅子の子は眠そうです。この前のシィを連れて行った時も車椅子の子がコントロールしてたみたいだし、彼女が注意散漫な今ならこのまま飛び込んで」と息巻く彼に抑えていた古潭が「確かにチャンスと言えばチャンスか奄霞お前はどう思う?」と横の彼女に問いかけると「あたしも垣野くんの意見に賛成するわ。不確定な要素も排除はできないけど″ここは行くべきだと思う″」と二人に伝えると抑えていた手を離す。そして一直線にシィがいる部屋へもちろんその扉の前には車椅子が鎮座していたが当の丸利ちゃんは眠たそうに半分寝ていて注意散漫だ。いかに強力無比な兵器だろうと其れを使う操縦者があれでは宝の持ち腐れいける!皆がそう思った直後、車椅子に「丸利、丸利ちゃん起きなさい、おしごとしないとダメですよ、全くだからお昼寝しないとダメだっていったのに」ちっ!これ以上はと視線を奄霞に送る古潭、その視線に気づき腰のスタンガンを片手にビリビリとオンにして母親の頸基に?!「まぁ、こうやって横顔見れるのもたまにはいいけど」と丸利の愛らしい寝顔に微笑みながらも片手で奄霞の突き出したスタンガンの手首を握る。握られた奄霞の手はビクとも動かない「何これ、人間の握力じゃない?痛い!」しかし体を回転させ反対の腕が母親の腰に母親の体が痙攣する。見るともう一方の奄霞の腕にはスタンガンが二刀流だった「念には念ってさすがにこれで動け!キャー」後ろの暗い廊下へ投げ出される奄霞。見ると帯電しながらも頸をコキコキと捻り侵入者三人を眺める丸利ママの姿がそこにはあった「貴方達は昼間のではさっきのは貴方達の仕業ですか、おねむな丸利なら通れると思った訳ですか、さっきのスタンガン国内の製品ではないですね、全く今時の子は危ないモノが手に入りやすいんですね」淡々と話しながらも甲斐甲斐しく丸利の世話をする障害を持つ母親に今は見えた。先程までの死角からの一撃を食らい間髪入れず反撃奄霞を投げ飛ばすそんな人がただの母親なわけはない垣野と古潭の二人は後ろの奄霞を気にしながらも目の前のこの化け物から目が離せなかった「訓練した兵士ってわけじゃないわね、それならさっきのスタンガンは直撃電圧は最大にしてあったんだから、立ち上がるわけがない!(飛ばされた廊下から古潭達の並びまで戻る奄霞さん)アンタ何者?」と目の前の母親に尋ねるも「母親ですよ、それ以外にはない″この子の母″生き続けなきゃならないずっとこの子が終わるその時までは」電撃を受けた腕が剥がれ機械の部分が見えてしまう「ロボット?車椅子ならともかくグリーンミキサーてのはここまで」だがその古潭の言葉はすぐ否定される「ロボットでは無いですよ正真正銘私はこの娘の母親ですよ……今から数年前私は瀕死の重傷を負いました。でも死ねなかった(愛娘の頰を触れながら)不安だったから……この子は一人では何も出来ないトイレもお風呂も着替えも……だから少しずつ機械の体にしたの……いつかこの子の為にもなると思ったから」そういいながら奥の部屋に通ろうとする三人を暗い廊下へ押し返す「ママ?……ドコママ?ヒトリニシナイデ」大丈夫と手を握り落ち着かせるロボママ「丸利ちゃん、おしごとですよ、ここを通ろうとしています。どうしたらいいのかな?」そう投げ掛けるママに「″ココヲトオサナイヨウニスルコトガワタシノシゴト″」と僅かに動く指を使いキーボードを押すと機械の声が流れママの質問に答える。その答えに「はいっ、その通りですよ。丸利はとてもいい子ですね。ではいい子の丸利は頑張っておしごと出来ますか?」直ぐさま「″デキル″」と打ち込み車椅子を暗い廊下の方へ向ける。その様子に「当てが外れたな、あの車椅子タンクタンクですら厄介だってのにママまでついてくるおまけ付きと来やがった」立ち尽くす三人ここに来てボスと隠れボスのダブルで戦闘開始だ。「しょうが無い垣野くんはシィに遭うことだけ、思い伝えることだけに集中しなさい。ここはあたしたちが何とかするわ」だがその言葉に垣野くんが奄霞の方を向きながら「無理ですよ、さっきだってあの母親一人でも抜けられなかったんですよ。ここは一旦退くしか」手を握りしめ奥の扉を苦々しく見つめる垣野、あと少しで手が届く今すぐにでも進みたいでも前には戦車のような車椅子と機械の体の母親が立ち塞がる。そんな彼に古潭が「出てきた時点で退く選択はないさ、お前も覚悟を決めたからあの二通の手紙を置いてきたんだろう。なら迷わずに進むだけだ」と奄霞の意見を推し進める古潭そんな彼らの話の最中にも車椅子からは左右に大きな腕のようなモノがどびだしているロボットアーム、シィを軽く握りつぶそうとしたモノだ。素早く入り込もうとした垣野くんをアームで上から叩きつけ握る「垣野くん!」と叫ぶ奄霞にももう一つのアームに捉えられる「テガフタツ……タラナイ……フヤス!」車椅子の車輪からもう一つのアームが現れ古潭も捉えられる。ギシギシと動く一つのアームその先には必死に振りほどこうとする垣野くんの姿がある「ヨワカッタ………モットツヨク……ニギル!」胴体が真っ二つに割れるような音がする。痛みは想像を絶する「と届くんだ…あと少しで……伝えなきゃ……シィに!」そんな垣野を掴むアームを車椅子の前に持ってきて「トドク?ツタエル?」そう発した後アームを扉の前にすると垣野は扉の方に手を伸ばし「シィ……シィ!」と痛みに耐え発し続ける「ダイジナノ?ママ?トオスナヲマモラナキャ……デモデモデモ………モヤモヤシテル」アームの力が緩むそんな娘を見て止められない母その行為が間違っているとはいえないけど………暗闇から放たれた弾丸それは「ママ?オクチ?アカイ!イヤダ……イヤダ……イヤダ」他のアームに捕まる古潭達を放して優しく自分に倒れ込むママを抱き止める「………丸利は……ほん……とに…いい子……ね……」震える声と血だらけの手で愛娘を撫でる。「全く″誰も通さないで″と命じたのに………やれやれ親擬きであるモノが何故このような行動をとるのか?欠陥商品は返品ですよね?葉絞社長!」スピーカーをオンにしているので回りに音が漏れる「申し訳ない……プログラミングが甘かったようです。しかしこちらもいいデータが取れました。スミマセンがまだ取引が数件残っておりますので、其れではまた後日…………失礼します」スピーカーから葉絞社長の声が途切れる。片手のスマホの通話を終え拳銃を片手に現れるリーフデンバー「何をしてるのですか?丸利?目の前の輩を捕まえなさい」命令するリーフデンバーだがその言葉は丸利には届かない必死に「ママ……ママ?……ママ!」と同じ言葉を繰り返している。その姿に頭をかきながら「あーくそ何で?何で云うこと聞かないんですか?もういいや………もういい」スマホを翳しながら「強制変換″ブレイクモード″」とスマホに声をかけると丸利の様子が「ママ………マ………ママママ………ハイッテ………ハイッテクルナコワイヨ………シズンデ………リョウ………イヤダ………リョウカ………ヤメテコワ………リョウカイヤダ………!?!?!………″″ブレイクモード″″ニンショウ………カンリョウ」ピタリと丸利が項垂れると同時に車椅子が変形していくアームの先端は掴むというより鋭く尖るモノに変わり車椅子の車輪はキャタピラへと交換されるまさに装甲車両の様子を呈している「″扉の死守は絶対だ″」とスマホを通し命令する「マスターニンショウ″リーフデンバー″トカクニン、ウシロノトビラノシシュヲサイジュウヨウカダイトシマス」音声は変わらないものの明らかに先程とは違う丸利はもうそこにはおらず部品の一部でしか無い「さすが″グリーンミキサー社の最高製品″謳い文句はいいのですが」地面に転がるもう一つの製品を見ながら溜池交じりに「こうも″駄作″ばかりではねぇ~」と駄作呼ばわりしているモノを踏みにじりながら視線を侵入者三人に向け「引っ込み思案の角損はやられた訳ではないようですね、まだ侵入者がいるのか、まぁいいです。それで″あなたたちの目的は?″昼間教導に言われたのに来ちゃったんですか?彼女の心中が分からない訳でもないでしょうに、彼女を連れ出そうとしているの?」声帯認証がすんだので片手のスマホを直し拳銃をホルダーに収めながら聞いてくる彼女に「会って、話がしたいだけです。昼間の言葉じゃ納得しないから」真っ直ぐに答える垣野くんに「しつこい男の子はモテませんよ、女の子の言葉を信じて身を退くのも一つの選択肢じゃないのかな」と提案するリーフデンバーに「このまま帰ってくれるなら、無かったことにでもしてくれるのかな?」という古潭に「アンタ正気、元教導の性格はアンタがよく知ってんでしょ」という奄霞に「古潭くんに奄霞ちゃん昔はもっと素直な障痕教の信徒だったのにねぇ、アタシは悲しいな」と楽しそうな顔をするリーフデンバー「そうだな、アンタがこの障痕教に入ったのも俺らと同じくらいだったか、最初はプロキシアスの回し者程度だったけど、確かにアンタにも″全ての者に瘢痕を″っていうネガティブな根底が俺らと同じくあったんだよな」其れを心地よく聞きながら「はじめは確かに使命……いいえ″その事がアタシそのもの″だったけど……貴方達に出会って″刻まれた答え″だけが答えじゃないと知った(笑みをもらして)弱いものの傷の舐めあいなど見ていて気持ちはよくなかったけど………そこに至るまでの過程に足をつけてしまうと………どうしてもやるせなくて………何とかしたいと思うようになる。まぁここまでは誰でも触れれば多かれ少なかれなるものよねぇ」そのあとを続けるように奄霞が「でも……でもみんな″出来ないことに気づく″完全には……違う自分と違うことに気づくのそして………″出来ることをしていく″でもしょうが無いみんな自分の人生があるじゃない!」少しやるせなくも話す奄霞に対してリーフデンバーは「……きっと、きっとこの″障痕教″の元となった一人の少女はそこで止まらなかったんだよ、悩んで、探して悔やんで、其れでも″全ての人に瘢痕を″こんな悲しい答えしか見つからなかった……そしてあたし達もその元に集ったんでしょう」その場にいる全員が噛み締める思い、だが其れでも扉を目指そうとする少年そんな彼に後方から「その扉を開けて如何するの?彼女はあたし達が望んでもえられなかった世界に到達した。理由や原理は一向にわからなかった………けど″確かに彼女は欲しかったモノを手に入れて現にそこにある!″そしてそれはあたし達の先に進む可能性も秘めているんだよ………多くの救われてこなかった者が多くの変えられなかったことが今変わろうとしている彼女もそれは判ってるんだよ」其れを聞いて「毎日……毎日……同じ時間に来て同じ時間に去っていく……何を話す訳でも何かを見ている訳でもないただ……そこに居て帰っていく………ある日野球のボールが彼女に当たった………散り散りに逃げていく友達、勿論自分も逃げた……次の日また彼女はそこに来て同じ時間に帰っていく……気味悪がってそこで野球はしなくなった………雨の日も風の日も構わず彼女はそこにいた。ある日ふと声をかけてみた………返事がない………嫌われたと思った……不思議とムカついた……次の日もまた次の日も変わらず声をかける………彼女はつれなく無視される………彼女の後をつける彼女は母親と義理の父親そして義理の妹との四人暮らし彼女は家族にも無視されていた。父親からの暴力、昼間あの場所に来ていたのは暴力から逃れるためだった。空気のような存在一家三人の食卓に彼女の席はない。どうせ見えないなら部屋なんてどうでもいいどうせ聞こえないなら言葉を覚えなくてもいい、どうせ味なんてわからないなら必要以上に食べなくてもいい、どうせ触っても分からないなら洋服なんてなんでもいい、どうせ匂いなんて分からないんだから………生きてたって……ずっと………ずっと生まれて物心ついたときからずっと………そして死ぬまでずっと″変わらない″……そんなことない!って胸を張って言えるなんて………分かるはずもない痛みを勝手にわかったように解釈して勝手に当てはめて……ほんとあの時の俺はそんな薄っぺらい………何も分かってない普通のただの人なんだ」語られる言葉に思うところがあったのかすぐに返さないリーフデンバー話は続く「特命での通報、住所と名前″漆顕″珍しい名字であったことから、特定は容易であり児童相談所がすぐ動く結果になった………でもそれが大きな歯車を回すきっかけになった壱回目の訪問……あわせてもらえない……伸展無し、二回目も同じ良くあることだと処理される。彼女はふらつきながらいつもの場所へしかしその日はいつもとは違った……彼女は帰らないその場に蹲ったまま………声をかけようとすると男が現れる男は彼女の首を掴み引きずりながら連れて行く彼女は必死に抵抗するが……廻りは見て見ぬふりをする………こんな時代だ当然な行動だろう。だけど「その手を放してください!」ここまでするつもりは無かった。だから児童相談所に連絡してでも………僕は彼女を連れ去る男の前に両手を挙げ立っている………後悔はその時はしていなかった。今の行動は絶対に正しいそう思っていたから………でも「なんだ!お前には関係ないだろうが!これはウチの問題なんだよ!他人のお前が……お前まさか………ハッハッハ……いいぜ五百万用意しなよ!そしたら″お前のすきにしていい″ウチとしても困っててね処理にこんな何にも持たない………生きてても何の役にも……それどころか一人で生きていくことすら出来ない………まぁ君の慰め者にはなるかな」笑いながら話す会話はとても薄情で後ろ手に引きずられる彼女が震えているのがわかった「………」溜池をはく男「なんてな!誰もこんなのは要らないよな、何で産んだんだか、廻りも止めろっての、あーあどっかに障害者廃棄場ってのがないもんかね」と発しながら横を通り抜ける。五百万なんて用意できないそれが全てだった。答えは見つからず雨音だけが耳につく、震える彼女の引きずられる顔は雨が滴り落ちながら絶望の中でも微かに動く唇が頭にこびりついて気がつくと彼女のアパートへとついていた雨音を超えるガラスが割れる音階段を上り、鍵のかかっていない彼女の家のドアを開くそこにはぐったりと倒れる彼女の前に昼間の男が割れたビール瓶を持っている。脇の母親は見捨てるかのように見て見ぬふりをしている「なんだ!あぁ昼間のガキか、人の家にはノックぐらいするもんだぜ、それともあぁ五百万用意出来たのか!?」ケラケラと笑うその男は常軌を逸していた。視線を彼女に移すピクリと動いているのでまだ息はある。よかったと胸をなで下ろすがそんな彼女を蹴り飛ばす男「ちょっとせっかく眠ったのに起きちゃうでしょ」ともはや妹の心配しかせずこれがこの家庭の現状なのだと一瞬で理解した直後蹴りは自分にもとんでくる「不法侵入は大目に見てやるから、俺の前に二度と面を見せんな!」と男が吐き捨てる。何遣ってんだと思う。悩んで悔やんでここまで来て其れでも何も出来ない足元にビール瓶が転がる。悔しさでビール瓶を掴む″野球は紳士のスポーツ何だぜ″親友の言葉が脳裏を掠めるも悔しさと怒りが其れを上塗りする。しかしそのビール瓶をすっと取り上げ目の前の男の顔面に蹴りが炸裂する「障害者回収者で~す要らない障害者を回収させていただきま~す」と作業着を着たおじさんとその後方に深く帽子をかぶった女性……それが古潭さんと奄霞さんとの出会いだった」恥ずかしく聞く古潭と奄霞に対してなるほど!あの時の少年なのね!と納得するリーフデンバー構わず話を続ける垣野くん「そこに現れたのは二人の男女″障害者回収者″片方の男は確かにそう言った。そんな中立ち上がる父親「障害者回収者?なんじゃそりゃ………くっ、思いっきり蹴りやがって何奴も此奴も警察に通報して!」父親が叫ぶ部屋のドアを閉める女にズカズカと父親の目の前まで土足で上がる男そして父親の目の前で「通報?どこに?警察?児童相談所の二回の立ち入りもほぼほぼ拒否ったのに?なぁこれって警察呼んだらどうなる?」と後方のドア付近の女性に尋ねると女性は静かに「そうね、警察がここに来ればあたし達は住居不法侵入、傷害(蹴り飛ばした方には家具が散乱している)器物破損などの罪で留置場送りは免れないでしょうね」父親はニンマリしながら目の前の男を罵倒しようとするも女性の発言には続きがあった「……最も(床に臥せっている女の子を見ながら)その子の傷はついさっき出来た創じゃない、切り傷ならまだしも瘢痕が残るモノも少なくない……長い間虐待を受けて出来たモノですね……なら警察は児童相談所に通報する。警察が介入するとなると彼等の権限は少し彼等に有利になる………少なくとも玄関先で拒否るなんて真似は出来ない……虐待……失敬″躾″だと訴えたければどうぞ、警察も含め″傷害罪″での検挙も視野に動くかもですね」淡々と述べる女性の言葉に「どうしよう……アタシは見てただけだから…関係ない」等とぼそりと述べるも「見ていても助ける事がなければ今は同罪での処罰ではなかったかな?」と惚けながらも強い口調で話す女性に赤子をそっちのけで「こんなつもりじゃないの………(爪を噛みながら)アタシは悪くない、アタシのせいじゃない……」ブツブツと目を挙取らせながらつぶやきつづける母親、クソックソッと苦々しくその場に留まる父親……「こんな生活が……数年間も俺たちもそこそこキツイ人生だが……まさに地獄だな、それで彼女は如何なんだ?」という男に、横になり蹲る彼女のそばに行く女性。身体を確認しながら「情報の通りみたいここまで接近しても、外からの″暴行″本生″躾″つまり外傷を受けても体の内部に何かしらの影響が出ないと彼女自身は分からないみたい」其れを聞いて男は「触覚または痛覚等の外部からの感覚が欠如してるってことか………それに他の五感も」言葉が詰まる男に「えぇ、少なからず視覚、聴覚、多分嗅覚も機能してない……」そのままの姿勢のまま答える女性に頭をかきながら苦々しい態度の父親の前に一枚の書類を差し出す「ここで提案だ、さっきの話からしてアンタはこの娘に手を焼いてる。対処に困ってる。このままいけばアンタ達は児童相談所の命令でこの娘と離れる。あんたらにとっては負担の軽減でいいわけだが、今通報すれば間違いなく″アンタ達は逮捕だ″裁判を起こしても不利な証拠も多いだろう今は無理だな」そこに満を持して「だからこの娘は俺らが連れて行く、その書類には″アンタ達がこの娘を養子に出す旨の記載が書かれている″つまりアンタ達は子供のいない夫婦にたまたま上の娘を養子に出した両者間で合意された上でだ。近所としては心配しなくなって負担の軽減に繋がる。児童相談所も仕事の上では″何の問題も無い家庭″に戻る。元々役所の仕事は任意だ。何も起こらなければ動く理由もない。まぁ近くの井戸端会議のいいネタにはなり冷ややかな目はあるもののそんなものは″根本の消失″に比べれば些細なことだろう?」蓋の空いたペンを中々取ろうとしない父親警戒心かはたまた小さなプライドなのかそんな薄っぺらい感情を弾き飛ばすようにドスンと札束が落ちてくる。目の色が変わる夫婦子供そっちのけで目の前の札束を凝視する「五百万………相手の夫妻からのお気持ちです。なーに表には出ないお金なのであなた方の自由に使って貰って構いませんよ″お好きにしてもらって結構です″」最後の一押し、迷いなくペンを握り自分の名前とハンコを押す両親……口も容易く″明け渡す″……この家庭が最初からどうかしていたんでろう。皆一様にそう思ってしまう。普通の親に普通の子供ならと、契約を終え横になる娘に鎮静剤を打つ女性、その女性を担ぎ上げ部屋を後にする男。そんな彼等とは対象的に我が娘を売り渡した金を持ち笑顔の一家。大金を手にした事による高揚感以上に″長年の不安の解消″が表情から読み取れる。そんな彼等に背を向けて部屋を飛び出し男女のまえに出る声にならない声を発していると「お前さんのことも少し調べた、野球やってるんだって、チームもいい調子で未来の高校球児そしてプロ野球何てのも夢じゃないまさに無限大だ(自身の抱え上げる女の子を見ながら)この子を助けようと努力したこと、しょうが無いさ五百万なんて大金いい年の俺ですら個人ならかき集められるかどうか分からん、彼女の事を大事に思う心はこれから先お前さんの人生経験のいい糧になるはずだ…………だから″ここまでにしとけ″これ以上はこの子にとってもお前さんにとっても………」いい言葉が見つから無かったんだと思った。地獄、苦しみ、終わらない事を連想させるものばかりだ。そんな言葉が男の表情から読み取れた」そんな昔話をし終えて垣野は「其れでも今ここにいる!……″ここまでにしなかった″から(手を握り締め、痛い体に鞭打って立ち上がりながらも)伝えるためにも!」彼の信念が廊下に木霊する。そんな信念とは裏腹に目の前には扉を阻むようにグリーンミキサーの最先端の兵器がリーフデンバーの命令を守るよう鎮座している。そこには先程の″彼の信念″などという曖昧なモノには左右されない部品となった丸利が道を塞ぐ。この兵器である機械はアームを使い目の前の信念を呆気なく打ち砕く、いかに強く揺るぐ事無き信念だろうと関係ない機械にとってはゼロか一この二つの答えしかないそして其れを着実に実行する。それが全てだ。アームに力が入るその様子を見ながらリーフデンバーが「これが……最善なのです。今は後悔するかもしれないけどきっと後で″あの時止めてもらってよかった″と」リーフデンバーの話を遮るように「伝えるか、何だか頑張る人……子供ってのは応援したくなりますな」そこに現れたのは鎖に身を包んだ女性そのままアームのそばまでいき「ほんとどこかの女の子みたいにあきらめ悪くて……でも何だか期待してしまう縋ってみようかな~って思ってしまう」アームにはさまれたまま驚きの顔を見せる垣野ににこやかに話しかける鎖の女性。その背後から大きな口を開け狙うアームを見た垣野の口から「危ない!」と声をかけるも目の前の光景に言葉が止まってしまう。大きく開いたアームは女性を挟む前に止まってしまう。何故という顔をするリーフデンバーポケットから通信機であるスマホを取り出そうとしたその時!ドンという音と共にスマホが前に弾かれるその後方窓越しに数キロ離れる場所に寝転がりながら狙いのモノを狙撃した女性が深い呼吸をしていた。リーフデンバーは自身のポケットから弾かれたスマホが機能出来ない程の創を負っている事に愕然とした。制御を失った機械は少女の声を借りて「トビラマモ………マモ……ママモ………ママ……ママ、マモル!」アームの一つがリーフデンバーを押し退ける。吹き飛ばされ気を失う。リーフデンバーの足元に横たわっていたグリーンミキサー社の商品の機械をアームで優しく包み上げる「ママ……マモル……ママ………マモル」繰り返すように動くことの無いその商品を抱いたまま扉の前に陣取る。″ママを守る″と″トビラを守る″が誤作動により混同してしまっている。ためらっている少年に「怖い?なら扉をくぐらなければいい」鎖の女性の言葉に「行きます!自分の足で先に進まなきゃ………ダメだから、伝えたいから」そう言って鎖の女性に一礼して走り出すアームが少年目指してとんでくるが動きが止まる見ると鎖に雁字搦めに捕らえられている。その間を突っ切るように扉の前に息を整え両手で扉を開いた。そこには窓のそばに椅子をおいて腰掛ける″無感の神痕″の姿があった。




