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間近で見ると尚のこと大きな建物。正面玄関の前には警備員が数人立っている。垣野くんのパスでそこを通過して「あんなに厳重なのここって?」と尋ねる揺に「この頃何だ、中には″全ての人に瘢痕を″ってそんな原理的な主義の人がいなかったって言ったら噓になるけどそれも今は一部だけ皆はその始祖の言葉に近づける世界をって方法は色々だけどそこに向かって進んでる。そんなちょっと前まではここも和気あいあいの施設だったんだけど……君たちは聞いたことがないかな″無感の神痕″って」そう尋ねてくる垣野くんに「さぁ、はじめて聞いたけど」と応える揺だが先程ファミレスでの会話が頭を過ぎる苗の言葉もあり恐らくここに入った目的がその″無感の神痕″であろうことは予測がついた″漆顕 偲″その名か苗の言葉と共に頭を過ぎる……視覚、聴覚、味覚、嗅覚そして感覚、この五つの感覚が医学的検査で失われている……はずそのはずなのに彼女はまわりにある物が見えるように振る舞い、聞こえるように話し返事もする、食べ物の好き嫌いもあり、海や草など場所も特定出来る、手も握り冷たいと判断して暖めてあげることも出来る揺が苗から聞いた話はこんな感じだった。垣野くんが少し言いにくそうに話し始める「″無感の神痕″今僕たちの教導者であり、世間を騒がせている″人外″なんだ!」そう吐き捨てるように絞り出す声は少し濁って聞こえる。咽の奥に″何かつっかえている″と揺は感じていた。その横から「″人外″ね~あれだけの障害もとい″神痕″を受けて直この世の生物としての理をねじ曲げてんだ。ありゃ宇宙人だったなんてほうがしっくりくる(頷きながら後ろの揺となーえんに目線が行き)それはさておき、神聖なる我等が依場に彼女同伴とは、しかも二人か、不敬ですね!」と″アイドルの写真をデカデカとプリントした″Tシャツにアロハシャツを羽織っている金髪に染めたおじさんが垣野くんを注意している「不敬はアンタでしょ!」その後ろから後頭部をはたく女性、年はアロハおじさんより若い今どき珍しい″そばかす~なんて~気にしないわ~♪″という顔にキリッとしたスーツ姿二人とも胸に蒼い雀のバッチを付けている「痛ーな、奄霞こんなとこに居ていいのか?お偉いさんの警護は?」というアロハに「″あの子″が心配になっただけよ、案の定サボってるし、古潭!アンタが守ってやんなきゃ………」そのまま奄霞の横を通り「垣野はどうしたんだ?彼女自慢なら別の日に」そんな冗談に顔を赤くして「違いますってそんなんじゃ!彼女達は見学したいって」そんな二人を見ながらも「今日はいいが明日は辞めとけ、嬢ちゃん達が悪いわけじゃねーけど明日は部外者は遠慮してもらいてーんだ」付け加えるように「ウチの活動に興味を持ってくれるのは嬉しいわ、明日は無理だけど今日ならあの子………教導者も会えるはずだから」と柔やかに微笑む奄霞に勿論俺の護衛付きだけどなと付け加える古潭に「シノ教導者、来てるんですか?この所外出ばかりだったのに」慌てた様子で部屋の奥へ走って行く……「こんな可愛らしい私たちをほっといて駆け出すなんて不敬ですなぁ~」という苗とびっくりする揺の肩を後ろから抱き「全くですって言いてーけど、まぁシノのことじゃあしょうが無いかな……しかし若い子はいいねぇどうおじさんに援助させて」そんなニヤニヤする古潭の背中を蹴り飛ばす奄霞「いってーアホか壊れかけのアラフォーに体重の乗った蹴りはやめてー冗談じゃ済まないから」という古潭の背中を踏みつけながら「運動不足にはいいんじゃなーいの~(グリグリ)お店に行くと諭吉が飛ぶわよ!」チェンジチェンジと必死に叫ぶ古潭付け加えて″もっと若い″という言葉が致命傷となり動かなくなるいや微かに動いている。「ささっあんなのほっといて私たちは垣野くんを追いましょうか」とゴキブリのような体勢のアロハを置き去りにして部屋の奥へ、その道すがら「君たちは″無感の神痕″つまりウチの新しい教導について何処まで聞いてるの?」揺と苗は言葉につまるが苗が口火を切る「垣野くんはあまり良くは思っていない?いえ違いますねあれはその″無感の神痕″が教導でしたかその位置についたのがイヤだったとか?なので詳しくは知りません」なるほどと頷きながら「君たちが今から会う方は教導つまりウチの″障痕教″のトップであり宗教法人WRBの代表……なんてほんの少し前まで(建物の壁を見ながら)ベットで眠る彼女を囲んで垣野くんと古潭、それにアタシでたわいのない絵空事並べてはお互いの傷の舐めあいしてたっけ……でも楽しかった」懐かしむような奄霞の足が止まり「まぁ遭えばわかるわ………ではどうぞ世間で話題の″無感の神痕″の部屋へ」奄霞が扉を開けると「わぁお……垣野くんのあんな笑顔、野球ですら見たこと無いわ」そこにいたのは先程までの凛々しい顔はどこへやら本当に柔やかに愉しそうな笑顔で微笑む垣野の姿とその傍らにはちょこんと座る小さな女の子垣野くんが大きいからか思った以上に小さく見える。目は白濁していて眼球の運動は殆ど無い。見て分かるのはその位、彼女に視力が無いことは揺や苗にも分かるだが「リョくんは髪少し染めたの?野球やらなくなったの?」と聞いている教導に「あぁ……少しならいいって監督には秘密で公九郎が″ただのハゲじゃあつまんないから判らない程度に染めようってことになって」どうかなと後頭部を見せる垣野くんに「リョくんは隠れオシャレなんだね」と笑顔で返してくる。その時「トントン、お互い立場を考えて……いちゃつくのも大概にしときなさいよ」とにんまりからかい警告する奄霞に「違いますよ、アタシがリョくんに話聞きたかっただけですからところでそちらは?」という教導に唖然とする苗と揺、聞こえているというのは何かしらの語弊があるものの。あの眼は″見えていない″それは誰が見ても明らかなのに彼女は苗や揺の方角に体を移動させそちらに向かい話しかける。その異様な光景は″人外″という垣野の言葉が二人には頭に過ぎって離れない。其れを察したのだろう「″気味悪い″ですよね」その言葉に胸をつかれる。彼女自身は望んで無くはなかったはずだ。″五感が無い″そんな人がいるだろうか。目が見えない、耳が聞こえないなどはよくあるもののその機能が停止しているにも関わらず見えている、聞こえているというのはよほど親近感が沸かない限り…………いや正直近寄りがたい長く接すれば接するほど″違うもの″だと感じてしまうからだ。一生味わうことのない領域に彼女がいる。唖然としながら見据える揺と苗の心は彼女には思った以上に伝わってしまう「ごめんなさい、少し黙っていますね」こめんねリョくんと頭を下げるそんな彼女の態度に胸を締め付けられそうになるも抑えて苗たちを見て「ゴメンね、菜草さんたちを置いていっちゃって、奄霞さんありがとうって古潭さんは?」という垣野くんに「ゴキブリのように這い蹲ってるわ!」という答えにまたですかと呆れる垣野くん全くあの人はとゴメンねと苗と揺に謝ってくる。そこに扉が開く皆アロハシャツの登場かと思ったが「勝手に出歩かれては困ります。病院にお戻りを」と顕れたのはアロハシャツではなく前教導であるリーフデンバーであった。ささっと苗が揺に「アタシ的に同じグラフトだから、あとヨロ」と垣野くんにトイレの場所を聞き退散する対峙するリーフデンバーと″無感の神痕″「すみません時間があったので……懐かしいここに立ち寄りたくなって……教導にはご迷惑をかけました」そう言う彼女に「あなたの存在は奇跡そのものです。人はその神秘にすがります。現に我が教団も数ヶ月前の数万倍の信徒の数に膨れ上がり今も尚増えている。奇跡を感じ肖り救われたいと、我が教団の理念は″全ての者に瘢痕を″この理念は変えていないにも関わらずです………然しそんな者を疎ましく思う者も多いのです。故にこれからは単独の行動は控えていただきたい。教導は私ではない。貴方なのだから!」強く叱りつけられたように落ち込む″無感の神痕″「はい、わかりました」結構というリーフデンバー「では戻って」とリーフデンバーの傍らにいた点滴を体中にはめた少女手足は細く痩せ細り頭に深々と端子のついたヘルメットを被って車椅子に乗っている彼女がリーフデンバーの少し前に出る。機械の音がして『ニギル……カタメル……ツキサス』歪な単語の機械の声がする。その車椅子の後ろから「女の子でしょ丸利ちゃんも優しくしなきゃね」としゃがみ込む女性そんな声に応えるように機械の声で『ママ……アタシ……イイコ……マモル』そんな音声の後に車椅子の横から大きな機械の腕が顕れるロボットアーム三つの爪のような枝はクルクルと回転しているその中央にはレンズが取り付けられそのレンズは目標をすぐに捉え捕捉する一瞬でガッシリと対象を捉えるロボットアーム「痛い……」か細い声が溢れる「もっと優しくね」というママの声に『ゴメンヤサシク……ヤサシク』″無感の神痕″は動かなくなる「シィ!」近寄ろうとする彼の前に立ちはだかる同じ位の背丈の縦長な男「止まれ(ボソッ)それ以上進むな(ボソッ)」呟くようなか細い声で発する男を無視して前に出る垣野くん然し手首足首に痛みを覚える垣野くんその場に立ち止まる彼にボソッと「……僕は忠告したよ……僕のせいじゃない」と吐き捨てるそれでも前に出ようとする彼を必死に止める奄霞さん「落ち着いて垣野くん、これ以上忠告を無視すれば手首足首じゃあすまなくなる!」然し彼の耳には届かない。そんな必死な彼の姿を見ながら「近寄るな!一傷徒が何の真似ですか?私は″神痕″を受けているの(伏せたまま)つまりお前とは違うんだよ!」垣野くんの足が止まる。それは自分と違うことや罵られたからではなく俯いた彼女が……大事な人が震えていたからに他ならない。そのまま垣野くんの横を通り抜けるシィに彼は小さな声で「待ってて″必ず″!」と気持ちを送る。そのままリーフデンバー達はここからすぐ近くのプロキシアス直轄の病院へ入っていった…………その日の夜も更けてきた頃いなくなった彼女の部屋に一人きり垣野くんがいる主人のいなくなったベットにそっと手紙を2通置くそして「いってきます」と小さな声で部屋を出ようとすると「何々……今回の一件は全て垣野一人で行った者であり、このWRBとは一切関係なく……って何やろうとしてんのかなキミは?」と手紙を右手に持ちながら垣野を見る奄霞さんの姿がある。その右手の手紙を取りながら「そんなの聞くまでも無いだろ″大事な人″を取り返す俺も奄霞お前さんもそのために待ってたんだろ」あたしは止めにきたのと奄霞さんが言うと「その格好で?」と奄霞の容姿を見る古潭、彼女は闇に紛れやすい黒ずくめの服を着ている。そして古潭の手にはスタンガン「これって国内向けじゃ無い規格外の電気量だけど?」と返してとスタンガンを取り返す。「止めにはきた………けど多分止められない……なら私まだ独り身だし……そのここに来るまで独りだったの……ずっとこれまで生きて楽しい時間なんてなかった……でも″あの子″と出会ってあんた達と話してとにかく一番だった……だったからこそさっきのあの子の言葉が本心じゃないってわかった……あたしも友達を救いたいの」という奄霞に「じゃあさっさといこうぜ………ってあんた達もついてくるのかな?」という古潭の視線の先に苗と揺がいた。そんな二人に「なんで?菜草さん達が?」という垣野くんに「まぁね、あたしもトイレから帰ってきてときに聞いちゃって、昼間の彼女が本気で言ったんじゃ無いってのは判ってたしそれにね、彼氏の友達がここまでするほど大事な人なら助けるべきだってだ・か・らこれは要らないよね?」ともう一通の手紙を破り捨てる「それは……野」破り捨てながら「”退部届”でしょ″全くカッキーは自爆が十八番だよな″って公なら言うから」紙吹雪のようにバラバラになった退部届をまき散らすなーえんに「参ったな……野球部、特に公久郎には迷惑かけらんないだけどな」その口を抑え「だったら尚のこと私たちと迎えに行きましょう″彼女を″その時に今日の発言が本心なのか聞くためにも」ねっ♪と後押しされみんなに頭を下げる垣野くん「お願い……お願いします。どうしてもシィを彼女に気持ちを伝えたい!今すぐ!だから皆の力を貸して欲しい」その下げた頭を鷲づかみ「よく言った」と褒める古潭さんに「告るのはいいとしてどうやって潜り込むの?正面は」テレビをつける奄霞さんそこには今から乗り込む病院の姿、外にはこれでもかと報道陣がひしめき合ってる「″無感の神痕″(週刊誌の一面を皆に広げながら)この数日、話題は彼女のことで持ちきりその異端な能力をインチキだと糾弾するものが依然は殆どだったけど(数日前と今の新聞を持ち出し)今はそのインチキだとする糾弾も退けちゃって一部では認めて″神様みたいな扱い″するところも増えてるわでも相変わらず″何かある、インチキかもと(テレビを見ながら)付け狙ってる」病院の周りは二十四時間ぴったりガードしている。「さらに、病院はプロキシアス直轄なので彼女が居る部屋は普通の病棟とは隔離されてる。多分さっきの前教導のリーフデンバー派の二人も出てくる」その場にいる全員が昼間の二人を想像する「″葉絞 丸利″昼間車椅子に乗ってた女の子遺伝性の病気でほぼ動く事が出来ないけど″グリーンミキサー″っていう重工業の会社の社長の一人娘なこともあり彼女の車椅子は特注品なの海外の軍事産業も展開している会社だから、車椅子だけど中身は戦車と考えてもらっていいみたい」皆一様に昼間の車椅子がただの車椅子では無いことはわかってはいても「それってミサイルとかガトリングとかはさすがに無いですよね?」という揺の台詞に「ゴメン無いですってはっきりは言えないんだ」と話すと古潭さんが「銃器の類の装備は会社の規模からはあり得るが、外にはマスコミ各社がご参列だ、防音とはいえ騒ぎは起きる。こんな時代だ拡散も早いなら相手方も大事にはしたくないはずだ」じゃあ命の危険は無しなのかなと安堵する揺に苗が「銃器は音出すぎで分かるけど、刃物類はオッケーなんじゃない」とにこやかに怯える揺や垣野くんにアドバイスしてくる。そんな垣野くんに「どうする今ならまだ″中に入ってない″伝えたい言葉を胸のポケットに詰め込んで青春の1ページにするなんて選択肢もあるんだぜ」脅している?多分違うと古潭さんの表情で判断できた垣野くん、やるせない気持ちが表情に顕れている古潭に笑いながら「すみません、体育会系なもんで一か八かパッと青春の花を散らそうかなって、告らないほうが一生後悔しそうなんで」はっきりとした声と表情には迷いは無い、手は震え緊張は伝わるが辞める気は無いらしい「分かった、もう何も言わんよ。それでどうやってシノん所まで行く?」…………「まぁ、手堅いと言えば手堅いか」悪臭放つ下水道ここの近辺はプロキシアス関連の施設が並ぶ揺と苗、垣野くんが待ち合わせたファミレスもプロキシアスが親会社の店だった。同じ会社系列ということもありゴミの再処理はまとめて自社のシステムが行っている。今は下水道を使いそのゴミの収集場所の地下に向かっているそこからゴミのダクトを辿って病院の内部へ向かう。これが奄霞方式の潜入プランだ「そろそろ着きます(皆の方を向く奄霞さん)この上はゴミの再処理施設への集合起点」ヨイショとマンホールの蓋を開け下水道から広い空間へそこには天井に巨大なファンが風を切る大きな音をさせながら回っている中央には木の枝が分かれるように色々な方向から来たであろうパイプが合流している。そのうちの一本を指差す奄霞さん「この先を真っ直ぐ進んでいくと病院内へ繋がっているわ、進みましょう」パイプを伝いながら垣野パーティ一行は囚われのお姫様を救いにリーフデンバーの城を目指す………「まさかあたしたちと同じ侵入方法取る奴がいるとは、彼女達は何者?」と言いながら現れたのは、急にマンホールが動き慌てて太いパイプの影に隠れ身を潜めていた不鎖と「他は判らないが一人は社長の娘”導 苗”弟で後継者だった”導 洒”の葬式にもショックで顔を出さなかったほどだ。元々弟のほうがプロキシアスを引き継ぐ事が決まっていたみたいだ。なので姉である苗は自由気ままに過ごしていて表立って動くことは無かった。それがどうしてこんな所に、非凪様が行かれる監査とは別にプロキシアスが動いてるのかそれとも」推測の域を出ない馬鈴に「とりあえず後を追いましょう。いい感じの囮にはなってくれそう楽できるし♪」と後を追う不鎖一行……「ランラ~ララ~ランララ~ラ……ランラ~ララ~ランララララ~ラ………うんそうなんだ………少しうれしい………そんなんじゃないですよ!………そりゃ………でも大丈夫何ですか?………無理はしないでください………私は今のままで十分………さんのおかげで今のあたしがあるから………」雨音が強く窓を打ちつける暗い部屋から見る外の景色は闇に飲まれたように真っ暗だ時折鳴り響く雷で窓に移る人外の目には涙が見える……あと数分で日付が替わろうとしている。




