庭の秘密
お風呂。それは日本人のソウルパートナー。
うん。自分でも何を言ってるんだか分かりません。
いや~。でもテンション上がるな~。だってお風呂だよ?しかもかけ流しだよ?
旅館の露店風呂くらいの大きさはありそうなお風呂は、やっぱり露店風呂っぽい岩の湯船でできていた。一番奥にすり鉢みたいになってる岩があって、そこからお湯が沸きだしているみたいだ。
シャワーはないけど、これだけお湯がいっぱいあるなら必要なさそう。石鹸……は、これかな。シャンプーはなさそうだけど、とりあえずお風呂と石鹸があるだけでも十分だよね。
タオルも手前の部屋にあったし。ドライヤー……は、うん。諦めよう。自然乾燥すればいいや。
わ~い。夜が楽しみ~。
一人浮かれている私に、コッコちゃんは呆れたように「コケー」と鳴いてお風呂から出ていった。
「そういえばコッコちゃんの家ってどこなんだろ」
最初に外にいたってことは、お庭に家があるのかな。
まあ外見ヒヨコだけど多分ニワトリだしね。外に小屋があるのが普通だよね。
「じゃあ今度はコッコちゃんの家を拝見しよー!」
庭に出て探してみると、池とは反対側に小さな赤い屋根の家がありました。柔らかそうな藁が敷いてあるその小屋は、なかなか快適そうな場所でした。
「ふむふむ。ここでコッコちゃんは寝てるのね~」
シンシア・グローリィの家の屋根は緑で、なんとなく保護色のようになっている。きっと近くに来ないと、森の中に家があるなんて事は分からないだろう。
シンシア・グローリィは、ここに隠れて住んでいたのかな……?
私はここにきてようやく、私をここに連れてきたシンシア・グローリィについて思いを馳せた。名前からして女性だけれど、どんな人だったんだろう。こんなにも不思議な家を造ったって事は、きっと力のある魔女だったに違いない。
イメージとしてはおとぎ話に出てくる妖精のおばあさんだ。ちょっとふくよかでニコニコしていて茶目っ気があって。髪は白で、目は青か緑ってところかなぁ。
残された手紙のイメージでもそんな感じだ。
「一回だけでも、会ってみたかったなぁ」
もっとも、彼女が異世界に旅立とうと思ったから、第二の人生を贈られて、さらにこの家を譲ってもらえたわけだけども。
彼女が、異世界で幸せに暮らしてくれてるといいなぁ。
一度も会ったことのない人だけど。それでもなんとなく親近感がわいてしまう。だから、お願い。幸せでいて―――
青い空を見上げてそう願う。
見上げる先にあるその青さも白い雲も、私が知る景色と変わりなかった。
「あ、そーだ。そろそろポーションできたかなぁ」
踵を返して家に戻ろうとした私の視界に、何やら黒い物が映った。
「ん?」
なんだろうと思って目をこらすと、それは大きな黒い狼だった。それも10頭はいる。群れだ。
「ひっ」
狼と私の間に柵はある。でも腰くらいまでのそれが、狼の侵入を防ぐのに効果があるようには思えない。
逃げなきゃ!
そう思うのに、凍り付いたように足が動かない。グルグルと唸る狼がゆっくりと近づいてきた。そして頭を低くして飛び掛かってくる。
「きゃー!」
思わずしゃがんで両手で顔を覆った。でも覚悟していた衝撃は襲ってこない。代わりにギャウンと痛そうな鳴き声が聞こえる。
そろそろと指の隙間から様子を窺えば、狼たちは何かに弾かれてこの庭の中へは入ってこれなかったみたいだ。怒ったように唸りながら、柵の前をウロウロしている。
そのうちの1匹がもう一度こっちに向かって飛び掛かってきた。でも見えない壁のようなものにぶつかったらしく、そのまま後ろへと跳ね飛ばされる。
「バ……バリアが標準設備?」
さすがハイテク施設というべきか。なんと狼とかの動物も避けられるバリアが施されているらしい。という事は、この柵の内側にいる限り、私は安全、って事だよね。
ほ~っと安堵の息が漏れる。
とりあえず動物とかが襲ってこないのは安心だわ。畑作業してても襲われることはないし、作物を食べられる事もないだろうから。
狼たちはまだ不満気に柵の向こうをウロウロしてるけど、襲ってこれないならそんなに怖くはない。まあ、動物園の檻の中に入ってる動物みたいなもんだもんね。檻の中にいるのは私の方だけど。
「あんな狼がいるんじゃ、LV上げて外に出れるようになるのはかなり先かなぁ……あ、そうだ。ポーションがもうできてるよね。そういえばLV上がるのってどの時点なんだろう。ポーションができてからかな。それとも瓶に詰めた後かな」
確認の為に、スカートのポケットに入れていたギルドカードを手に取ってみる。銀一色のそれに文字は浮かんでいない。なんとなく指でこすってみたら、予想通りに字が浮かび上がってきた。でも、さっき見た時と何も変わらない。
「残念。瓶に詰めたら経験値もらえるのかなぁ」
LVの隣に(0/10)って書いてあったのが、LVを上げる為に必要な経験値だと思うんだよね。ポーションを何個作ったら上がるかとか、分かるといいんだけど。
「まずはビン詰めしてみよう」