シンシア・グローリィの庭
庭に出ると、気持ちのいい風が迎えてくれた。結構広い庭は、葉っぱらしきものが生えているスペースと野菜らしきものが生えているスペースに分かれている。
そして何と庭の端っこには水が沸いている小さな池と、そこから流れる小川があった。チョロチョロと流れる川の水は、森の中へと続いている。
「とりあえずお野菜を収穫しようっと」
胸のあたりまで生えている様々な野菜の木にはトマトっぽいものとかキュウリっぽいものとか、コッコちゃんの好きな金色の実だとか、どこからどう見てもロールパンにしか見えない実とかが生っていた。結構色んな種類があるのは嬉しいけど、その分それぞれ1本とか2本とかしか生えていないのが気にかかる。全部もいで食べちゃったら、もう食べられなくなっちゃうんじゃないかなって思って。
「まあ、考えても仕方ないか……」
でも、この家にある野菜とハムを食べつくす前に、何とかレベルをあげて森から出て町に行かないとダメってことだよね……
はあ。がんばろうっと。
とりあえずスープの材料を収穫してと。
「なになに。まずトマトを2個と……って、こっちでもトマトって言うんだ。分かりやすくていいね」
本に書いてある材料を収穫してキッチンに戻る。そして野菜をお水で洗って包丁で小さく切った。
お鍋にいっぱいお水を入れて、そこにどばどばーっと野菜を投入した。味付けは、お皿とかコップが置いてあった引き出しとは別のところにあった香辛料の入った小さな瓶だ。万能香辛料なんてラベルに書いてある。
そして鍋に蓋をして、弱火にしてしばらく待つ。
待っている間に素朴な疑問が頭に浮かんだ。
……このコンロの火ってどこから来てるんだろう……謎だ……
………
……………
…………………。
……………とりあえずおいしいものが食べれるなら、謎でもいいかなっ。
よーし。これで夕飯はおいしいスープが食べれるぞー!
野菜スープとさっきのハムと。ロールパンみたいなあの実も収穫してみよーっと。
あ、コッコちゃんの食べる実も少し収穫しておいたほうがいいのかなぁ。お昼と同じくらい食べるのかな。
開けっ放しにしているドアから顔を出して庭にいるコッコちゃんの姿を探す。コッコちゃんは金色の実の生っている木の下にいた。
「コッコちゃんの夕飯はまたこの実でいい?」
「コケーッ」
黄色い羽をパタパタさせて鳴く。うん、これはイエス、って事だよね。
ひとーつ、ふたーつ、と数えながら実をもいでいく。結構食べるんだなぁ。さっきも結構食べてたよねぇ。でもこのペースで食べてたら、すぐに実がなくなっちゃうんじゃないかな。
なくなったら、また実が生るまでは私と同じものを食べるとか?
う~ん。まだ分かんないなぁ。
とりあえず金色の実をもいでおいて、籠の中に入れておく。そしてスープができるまでの間、シンシア・グローリィの本を読んでおく事にした。
「料理は、結構簡単そうなものが多いから、私でも作れそうだなぁ。薬のほうは……えーっと。誰でも作れるHPポーションの作り方」
そうそう、これが知りたかったの、これからポーションを作ってLV上げたり、売って生活したりしないといけないんだもんね。
「庭に生えている丸くて赤い葉っぱを10枚摘んで軽く水洗いします。鍋に計量カップの水を1杯入れて、葉っぱを入れて沸騰したら火を止めて冷まします。それをジョウゴを使って適当に瓶に詰めます。ヤッタネ。これであなたも立派な薬師だよ」
薬師だよ、って……
か……軽いっ。軽いんですけどおおお。
とりあえず薬を作るのには高度な技術が必要ないのは分かった。うん。とーってもよく分かった。
でもこんなに簡単にポーションが作れるなら、この世界には薬師なんていっぱいいて、それこそポーションの値段も凄く安いなんて事はないのかな。薄利多売じゃないとダメとか。
あうー。ちょっと将来が不安になってきたなぁ。
でも、もうここで生活していくしかないんだから、できる範囲でがんばろう。
「お料理用の鍋とポーション用の鍋は別にした方がいいよね」
キッチンに置いてある大きな鍋は、銅色のと銀色の二つだった。なんとなくお料理に使うのは銅色のほうがいいなぁと思ってそっちにしたから、銀色の鍋はポーション作り用にしようっと。
さすがに料理とポーションを同じ鍋で作っちゃダメだと思う。うん。
計量カップはカウンターの下にしまってあって、銀色の小さい鍋とかフライパンも発見する。
試しに計量カップにお水を入れて鍋に注ぐと、大体鍋の半分くらいの量があった。
「せっかくだし、ポーション作ってみようかなぁ」
赤い葉っぱを10枚ね。さっそく摘んでこようっと。