地下室探検
家の中に入ったニワトリ改め三白眼のコッコちゃんは、コッコッコと鳴きながら家の中を歩き回った。リビングをキッチンを。そして階段を上がって2階を。
そしてさっき通り過ぎたドアの前でコッコちゃんが立ち止まったから、開けて欲しいのかなと思って開けてあげた。そこにはシンシア・グローリィの部屋があるんだと思っていたけど、予想に反してそこには何もなかった。ベッドもタンスもテーブルもない、がらんどうの部屋。
ぐるっと部屋の中を見て回ったコッコちゃんは、すぐに隣の部屋へ向かった。私が目覚めた、あの部屋へ。
そこは私が出てきた時のままだった。少しめくれた掛布団。ふわりと風に揺れる白いレースのカーテン。
もしかしたらこここそがシンシア・グローリィの部屋だったのだろうか。コッコちゃんはさっきよりも熱心に部屋の中を見て回った。ベッドの下、タンスの中。そんな所に隠れる余裕があるとも思えないけど、タンスの裏まで。
そして、鳴いた。
「コケコッコ―――――」
泣いているように聞こえたのは気のせいかな。
でも、私にはその鳴き声が、どこを探してもシンシア・グローリィがいない事を知って、泣いているように聞こえた。
「私も……ね。この世界では一人ぼっちなんだ。だからさ、コッコちゃん。私と仲良くして……?」
しゃがみこんで黄色いヒヨコに話しかける。本当のヒヨコよりもちょっと大きいのだろうか。ニワトリよりもちょっと小さいくらいのヒヨコに、そっと手を伸ばす。コッコちゃんは、逃げたりつついたりしないで、じっとされるがままになっていた。
「あったかい……」
ふわふわの毛を撫でると、手の平から温もりが伝わってきた。一人ぼっちだった私が、一人ぼっちじゃなくなったのを実感して、冷たくなっていた心が癒されるのを感じる。
うん。アニマルセラピーって効果あるなぁ。
しばらく撫でていたけど、またもやお腹がグーと鳴った。
あ、そうだ。お腹減ってたんだ。食材は地下室か~。あ、でもコッコちゃんと一緒なら地下室も怖くないよね。
「私、お腹減っちゃった。コッコちゃん、食べ物を探したいから地下室に一緒に行ってくれる?」
「コケッ」
ニワトリ語でOKって言ってくれたようなコッコちゃんは、ついておいでというように部屋を出て階段を降りた。そして地下室へと更に階段を降りていく。
地下室へ降りる階段は薄暗かったけど、どういう造りになっているのか、足を踏み入れた途端に壁にあるランプがポウッと明るく灯った。
自動点灯なんて、ハイテクだなぁ。
そのハイテク機能は地下室にもあった。ドアを開けた途端に部屋全体が明るくなったのだ。
コンクリじゃなくてレンガでできた地下室は、思ったよりも怖くなかった。棚が壁一面に造られていて、そこに色々な道具らしき物が置いてある。なぜか予備のドアも立てかけてあった。
部屋の隅にはもう一つ扉があって、ネームプレートのようなものがかかっている。近寄って読んでみると
『保存魔法継続中注意』
と書いてあった。
保存魔法って事は、手紙に書いてあった食材なんかはここにあるって事かな。でも注意ってなんでだろう。何か注意しないといけない事とかあるのかな。
考えてみたけど、よく分からない。それよりもお腹がグーグー鳴って仕方がないから、とりあえず食材があるかどうかだけでも確認してみよう。
今までの扉と違って鉄製らしきドアは、重厚な趣である。重くて開けるのが大変かなぁと考えながらドアを押すと、案外すんなりと開いた。
「うわぁ」
一番に目に入ったのは天井のキノコである。いや、なんでキノコ?って思うけど、天井にいっぱい生えてるんだもん!もしかして長い年月の果てに自生したとか!?
う~ん。でもここって保存魔法継続中なのよねぇ。だったらわざと生やしてるのかなぁ。ここで栽培してるとか。
キノコといってもスーパーなマリオさんの赤いキノコっぽくはなくて、うっすらと光を帯びている緑色のキノコだ。あ、スーパーなキノコにも緑ってあったっけ?白い水玉はなくて緑一色だから、ちょっと違うけど。
「ま、まあ。キノコよりも食材を探そう」
気を取り直して食材を探す。そしてそれは案外簡単に見つかった。いかにもハムです、という塊が、左側の棚にデデーンと置いてあったのだ。右側の棚には瓶詰の花とか蜜とかが置いてある。
「そういえばレシピみたいなのを残してくれるって書いてあったけど、どこだろう」
シンシア・グローリィの手紙には料理の作り方とか、薬の作り方を書いたものを残しておくって書いてあったけど、この部屋には見当たらない。手前の部屋の棚のどこかにあるんだろうか、と思ったけど、とにかくお腹が減って仕方がないので、ハムだけでも先に食べたい。
「とりあえず、腹が減っては戦ができぬ、って事で」
私はハムだけを手に取って保存魔法継続中の部屋を出る事にした。すると階段のある部屋の棚にコッコちゃんが座っている。
「コケコケ」
コッコちゃんがくちばしで何かをつついているので見てみると、そこには銀色に光るカードとシンプルな銀の腕輪と本のようなものがあった。
「これって、もしかしてギルドカード!?」
えーっと、手紙にはなんて書いてあったんだっけ。これをこすって名前を言う、んだったかな。
「上村真希」
するとまっさらだった銀色のカードの表面に、にじんだインクのような汚れが浮いてきた。見る見るうちにそれはアルファベットのような文字を綴っていく。
「これ、もしかしてこっちの言葉なのかな」
何かの記号のようにしか見えないそれは、きちんと表示された後は意味のある文字として認識される。
「シンシア・グローリィが分かるようにしてくれてる……?」
私の呟きに、コッコちゃんは当然でしょうとでもいうように「コッコー」と黄色い胸を張って鳴いた。