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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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強者同士の剣撃

「邪魔だ!どけぇ!」


叫んだあとタナトスと仮面の人物は剣のつば迫り合いを弾きあった瞬間、両者ともキレのある切り返しからの剣撃を放っていた。

音すら遅れて発せられるほどの、超高速と呼ぶに相応しい連続の斬り合いが成されるがどちらの刃も相手の体には届かない。

いくえにも音が重なり、光りが弾け飛び、強烈な剣撃から高い響音が鳴り続ける。

一瞬の隙すら許されず相手の剣を受けては弾き、振るっては受け流されると一歩も引かないぶつかり合いだ。

しかも両者とも剣を一本しか扱っていないにも関わらず、もはや武器という枠を超えていた。

互いに砲弾を絶え間なく雨のように撃ち合う衝撃と爆音に、息つく暇すらない剣による軌跡はとても人間ができる領域ではない。

タナトスはまだ片手だけの戦闘だから万全というわけではないが、それでも充分に仮面の人物に対しては驚嘆していた。


「くははっ!まさか剣で俺に張り合える奴がいるとはな…!」


悔しい思いがあるが、同時に喜びも覚える。

今はそんな楽しむ時間は無いのだが、これほどの緊張感はいつぶりだろうか。

奇跡の勇者アカネや正義の勇者アリストとの戦闘の時は違う、なんとも言えない高揚感が彼の中に芽生えていた。

自分が万全じゃないのが惜しい話だが、まさに全力でぶつかるには問題ない相手だ。

そう思ってタナトスは全力で、左腕だけを使って応戦していた。

しかし仮面の人物の実力は彼の想像を上回り、明らかに余裕がある。

いくら右腕が使えないにしても、余裕を持たれるのは心外だ。

そこでタナトスは相手の剣を見切り、ステップを踏んで紙一重で回避してみせた。

回避した勢いをつけたまま踏み込み、深く切り込む。


「くらえっ!」


だが魔剣の刃は仮面の人物に当たる直前で剣で受け止められ、強力な風圧と響音だけが発生した。

全身に力を入れて魔剣を押し込もうとするが、相手の剣は一切ビクともしない。

そこからタナトスは咄嗟に体を捻り、旋風を巻き起こしながら回し蹴りを放った。

しかし仮面の人物は瞬間的に一歩分後ろに下がっては、剣で貫こうと剣先を突出させてきた。

空気をも射抜く鋭い突きだ。

タナトスはその攻撃に反応して、前に踏み出しながらも魔剣の刃で受けて滑らせる。

更に剣先を滑らせたまま魔剣を振るい、仮面の人物の首を狙った。

けれど仮面の人物はその急所への斬撃を、身を屈めて避けてみせた。

それから両者共振り返りながら剣を振るい合ってぶつけ合う。


「くはははっ!」


本当は笑い声をあげる余裕すらないのだが、タナトスの口からはつい笑みがこぼれた。

どれほど全力で斬りかかっても防がれるのに、防御されるほど回避されるほど打ち合いになるほど手応えを感じられた。

剣同士でこれだけの競り合いができるのは生まれて初めてだ。

瞬時にタナトスは体を回転させて、斬りかかる角度に変化を与えながら斜めによる下ろし切りを放つ。

変化の大きい攻撃だったが、仮面の人物は剣で受け流すと共に足で魔剣を踏みつけた。

すると魔剣の剣先は床に突き刺さり、更にはその隙に相手が剣を振り下ろしてきた。

すぐにタナトスは魔剣を手放しては魔剣の柄を蹴り飛ばしながら、懐から短剣を取り出して振り下ろされた剣を防ぐ。

同時に柄を蹴られた魔剣は回転しながら床を切り裂いて二人の目の前の宙に舞い、タナトスは短剣を手放してから素早く魔剣を手に取って斬りかかった。

それでも相手は攻撃を読んでいたようで、後ろに下がって魔剣の尖端がかすることもなく避けられる。


「やるな…!」


仕方なくタナトスも一旦後方に跳んで大きく距離を作っては、魔剣を軽く持って脱力した。

力を抜き、自然体で、普段の生活を過ごすような違和感ない動きで、静かに歩き出す。

戦闘のさなか無防備で、人とすれ違う時と同じで何も意識していない動きで一歩二歩と足を進める。

そして四歩目を踏み出したときに、一瞬で仮面の人物の目の前に姿を現しては魔剣を上段で横に振るう動作に入った。

カラスという暗殺者がやっていた技法で、更に残像で上段に斬りかかる動きを加えた二段構えの攻撃だ。

本当は下段からの斬り上げが目的で、上段の攻撃はフェイクに過ぎない。

だが仮面の人物は全て分かっていたかのように、本来の狙い目であった下段からの斬りかかりを剣で弾いてきた。

タナトスは今の斬撃が切り払われたのはさすがに予想外で、体に大きな隙を生んでしまう。

仮面の人物がその隙を見逃す訳もなく、鋭い剣さばきで袈裟(けさ)斬りしようとする。

しかし、それはタナトスはチャンスだと踏んだ。

今は右腕が使えないなら、今更気遣う意味なんてない。

仮面の人物の振るう剣をタナトスは右腕で受けた。

当然刃は肉を深く抉り、骨にまで達する。

それでも彼は切られていることなど気にせずに右腕に力を込めて、筋肉で受け止めるという荒唐無稽(こうとうむけい)なことをしてみせた。

まさに肉を切らせて骨を断つどころか、互いの骨を切り落とすつもりでタナトスは踏み込みながら魔剣を全力で振るう。


「うおぉおぉおぉおおぉ!!」


雄叫びをあげて、正真正銘のタナトスの本気の一閃だ。

空気を裂き、音を裂き、光りすら切り裂いて青い軌跡が(ほとばし)る。

その刃は片手だというのにかつて放ってきた魔神の一振にも劣らないもので、斬撃の余波で建物内部にすら斬った跡を残した。

もはや斬撃という現象ではない攻撃と衝撃で、煙が濃く舞った。

視界不良となり、タナトスは息を切らしながらも魔剣を構える。

血が地面に垂れていき、大きなダメージが体を(さいな)んできた。

でも息をつく余裕と暇なんてない。


「はぁはぁはぁ………くそっ!」


思わずタナトスは悪態をついた。

なぜなら砂煙が晴れたとき、離れた距離に仮面の人物が無傷で立っているからだ。

ただ、相手の剣は砕けていて武器は無い状態だ。

それでもタナトスからしたら悔しがるしかない。

片腕とはいえ全力で振るった魔剣を、あの場面で仮面の人物は瞬時に剣を構え直して押し出してきた。

それによる斬撃のズレは1センチにも満たないものだったが、この戦いにおいてはその1センチ未満で充分に勝敗がつくもので、切り裂く寸前の所で回避された。

相手の武器を壊したが状況が悪い。

明らかにこちらの方がダメージは大きく、まだ仮面の人物は無傷で体力に余裕があるだろう。

打撃による決定打も与えていない。

それでも決してめげず、タナトスは自分の闘志を奮い立たせた。


「はぁはぁ…。くははっ、お前の剣は砕けたな。どうだ、もうお前には攻撃する手段が無いんじゃないか。それでも素手で俺とやり合うつもりか?悪いが、俺の剣は素手で受けれるほど優しくはないぞ」


タナトスは魔剣を強く持ち直した。

対して仮面の人物はずっと無言で、ただタナトスを見つめている。

それから視線を先ほどの強力な斬撃の跡に移しては、再び向き直って小さく呟いた。


「機会があれば、またやろう。今回はこれでお開きだ」


その一言を口にしては、仮面の人物は拳を構えた。

一体何をするつもりだとタナトスは警戒したが、そこから放たれた拳は圧倒的に想像を上回るものだった。

仮面の人物が右拳で殴打する動作を宙にからぶったとき、轟音と共に全てが吹き飛んだ。


「な、なにっ!?」


まるで意味が分からなかった。

拳圧とでも言うのか、ハリケーンにでも呑み込まれたかのように建物は崩壊して吹き飛んでいった。

そしてタナトス自身も殴り飛ばされる衝撃を覚えるなか、体の自由が効くことなく大きく吹き飛ばされた。

それは仮面の人物による右拳からの素振りはとてつもない衝撃があった、としか言いようがない。

動作からはありえない破壊力と衝撃が発生して、まるで隕石が横殴りに降ってきたかのような爪痕を地面にまで残す。

全ては砕け、崩壊し、建物があった一帯は全て無くなる。


その衝撃に吹き飛ばされたタナトスは宙に身を投げ出されながらも、理解する。

相手はまるで本気ではなく、それどころか手を抜いていたのだと。

力を隠し、全力は一切出していないことを知り、大きな悔しさと苛立ちを覚えていた。

自分が魔剣を手にしているときに、舐められるような真似をされるのは生まれて初めてだ。

こちらは間違いなく本気でやっていたのに、相手は力量を見る感覚で相手していたのだ。

そんなのはタナトスとしてのプライド以上に、今までの自分の努力や父親である魔王と築き上げた力を馬鹿にされているようで許さなかった。

同時に、あっさりと反抗組織の主犯であるリボルトという老人を逃した自分も許せなかった。

自分の未熟さを知り、自分の愚かさと慢心を知り、これではミズキ達を守る力が足りないと知る。

そもそも、かつての自分の力と比べたらまだ貧弱過ぎる。

弱い自分が許せない。


「甘く見るなよ」


タナトスは高く宙に吹き飛ばされていて、すでに元の位置から数百メートル以上は離れていた。

それでも宙にいながらも、タナトスは魔剣を構え直して仮面の人物に狙いをつけた。

すでに見えもしない距離で、遮蔽物となる建物もあるが関係ない。

彼はより赤目を強く輝かせていき、それは月の光りに反射してなのか金色(こんじき)に近かった。

そのときにタナトスは魔剣を振るう。

すると青い軌跡に混じって金色のオーラらしきものが、斬撃として放たれた。

小さく弱々しい輝きだが、その放たれた金色の斬撃は通る場所全てを一刀両断しながら離れている仮面の人物へと高速で接近していく。

そのことに仮面の人物は気づき、左手で金色の斬撃を受け止めた。

瞬間に金属を強くぶつけ合って弾けた音が鳴り、金色の斬撃は消え失せる。


結局ダメージとはならず、ただの悪あがきだったことだろう。

今のでタナトスは力を使いきり、自然と黒い瞳に戻って力なく落下していった。

そのまま月夜に照らされた川へと着水して、疲れきった体で川から這い上がるのが限界だった。

しかし一方では、仮面の人物は自分の左手を見ては小さく口元を歪ませて、不敵な笑みを浮かべていた。

左の手のひらには、薄く皮が斬れた跡が残っている。

唯一与えた小さな傷だ。

本当に小さいものだが、仮面の人物はその傷を見て呟いた。


「リール街で見たとき以上の実力だ。次の戦いを楽しみにしている、タナトス・ブライト」


そう言い残し、仮面の人物はその場から立ち去っていった。

結果的には、統括者リボルトを逃した上に仮面の人物を倒すこともできなかったタナトスの敗北だった。

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