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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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アカネの調査記録

タナトスが食の街アルパの反抗組織の拠点に侵入した同時刻、医薬の街アスクレピオスでは小さな動きがあった。

アスクレピオス街にある反抗組織の地下拠点の調査三日目、アカネ達はほとんどの調査は終えていた。

でも手がかりになるものは一切なく、せいぜい備蓄されていた食糧や物資、それと武器の類しか置かれて無い状態だった。

そのためアカネはラベンダとジュエルという二人の仲間と共に調査を続けていたが、あまりにも調査の実りが無くて落胆を覚えずにはいられなかった。


「はぁ……、さすがに疲れたわね。外はもう夜遅いだろうし、潮時かしらね。他の兵士からも連絡はないのでしょ?」


三人が薄暗い地下通路を歩いているとき、アカネはラベンダに対して質問を投げかけた。

すでに夜更けのため疲れた様子のアカネだが、比べてラベンダは元気よくはっきりと答える。


「はい、アカネ様!別で調査している兵士からも、特に報告はあがっていません!ジュエルも聞いていませんよね?」


彼女にジュエルと呼ばれた人物は、くすんだ銀髪が特徴の男性だ。

彼も奇跡の勇者の仲間の一人であり、槍を手にリール街での奪還戦で一度タナトスと対峙している。

その時はタナトスが魔人の状態であったため簡単に撃破されたが、実力は決して勇者の仲間としては恥じないものでラベンダと遜色ないほどだ。

そんな彼は仲間であるラベンダに声をかけられ、少しキザっぽい口調で答えた。


「あぁ、俺も聞いてないな。どうやら、ここから運び出した物資は大したものじゃなかったってことだ。とんだ無駄足だったな。これなら…」


ジュエルという男性が話している途中に、ラベンダが続きの言葉を言った。


「女とお茶でもしたかった、でしょ」


「ふっ、よく分かったな」


ジュエルは口元だけ浅く笑った。

それに対してラベンダは呆れて話すだけだ。


「当たり前でしょ。何年一緒にいると思っているの?そして何年アカネ様のお供という自覚を持てと言ったものかしら」


「そう妬く気持ちを持つな。別に俺はラベンダに飽きたわけじゃないからよ。心配するな」


「あぁ気持ち悪い。よく私に対してそんな言葉を平気に吐けるわね。寒気がする」


「ふっ、冷たいものだな。これでも背中を預け合う戦友だろうに」


いつまでも続くジュエルの軽口に、ついラベンダは疲れてため息をこぼした。

彼はいつだってそうだ。

軽薄で女好きで真剣さに欠けている。

奇跡のパーティー内の雰囲気をジュエルなりに良くしようとしているのかもしれないが、正直アカネの仲間としての自覚が欠けている。

だからいつかアカネの評判を大きく下げるのではと、ラベンダは常に気にかけていた。

そんな会話と調子を繰り広げながら、狭い通路を歩いている時にアカネは気が付く。


「あらあら、これ土砂崩れで壁になっているわね。今まで気付かなかったわ」


そういうアカネの目の前には、よく見れば不自然に崩れた形の土壁があった。

爆破の衝撃で崩壊したのか、綺麗に道を塞いでいて簡単には気づけそうにない。

すぐにアカネは土砂崩れの土壁に手をそえて、閃光の能力を発揮させる。

発生させた閃光を数多の細かい刃に変化させて、閃光の刃で土砂を切り崩して完全な砂にして流す。

こうしてあっという間に道はできあがり、そそくさとアカネはその新たな道へと足を踏み入れていった。


「あ、アカネ様。足元にお気をつけください」


「ラベンダも気をつけてちょうだい」


ラベンダに(いた)われて、何気なくアカネも言葉を返すと彼女は幸福そうな顔を浮かべた。

少しでもアカネに気遣われることは、ラベンダにとっては至福なのだろう。

最後尾はジュエルが歩き、三人でまだ未踏の地下通路へと進んで行く。

するとやがて部屋らしき場所にたどり着いた。

木の棚や机、椅子と家具が置かれた小さな部屋。

更に奥に続く通路もあり、探索範囲はかなり広がったように思えた。

アカネ達は壁に掛けられていたランタンに灯りを点火させて、早速部屋の探索を始めようとする。

しかし先にアカネが二人に声をかけた。


「ジュエル、ラベンダ。あなた達二人は奥の通路を調べてちょうだい。もう夜遅いわけだし、ここは手分けして早く探索を切り上げるわよ」


「はい、かしこまりましたアカネ様」


「あぁ、分かった。ラベンダ、奥に行こうか。ちょっとしたデートだ」


いつまでも軽口を叩くジュエルをラベンダは小突きながらも、アカネを残して二人肩を並べて奥の通路へと進んで行った。

アカネはそんな二人の後ろ姿を眺めては小さく笑い、誰にも聞こえない声量で呟いた。


「くすくす、二人して仲いいわね。さて、早く調べて仕事を終えましょうか。もう眠いわ」


あくびする口を手で隠しながら、アカネは部屋の探索を始めた。

とは言っても、ここは机と椅子と棚が各二つずつしか置いてないので簡単に終えそうだ。

羽ペンとインクだけが置かれたテーブル、傷んだ椅子、本が積まれた棚。

棚に収められている本を眺めていくと、多くは医療に関係するものだった。

ここはアスクレピオス街だから、どれもこの街にある本だろう。

そう思いながらアカネはざっと見ていき、棚に括られた紙束が挟まっていることに気づく。

紙束は手書きされた記録用の本だ。

目に付いたので早速手に取って抜き取り、アカネは本を広げた。

するとよく分からない名前の羅列がされている。


「なにかしらこれ?見たところ人物の名前のようだけど…。あと、これは魔物の名前ね」


一行ごとに名前が書いてあり、名前の記述の隣にはマルかバツのどちらかが付け加えて書いてあった。

更に腕か脚と四肢のどれかについても書いてある。

ただそれだけの本で、まるで意味がわからない。

しかしアカネが適当に目を通しながら本を(めく)っていくと、やがて分かりやすいページに辿り着く。


「あらあら、今度は暗殺リストね」


暗殺の対象と書かれたページを捲ると、次はまた別に人名が書かれていた。

今度は人名と身体的特徴が記述してあり、いくつか名前の上に線を引いて消してある。

これについては分かりやすく、名前を消したのは暗殺済みということだろう。

つまり今のページは反抗組織が暗殺するリストだ。

そのためアカネは読み飛ばすことなく、名前を目で追っていった。


「王様と王子と大臣の名前、あと貴族の名前もいくつか書かれているわね。それとシャウちゃんにポメラ、タナトスとスイセンも書かれているわ。でも、おかしいわね。ミズキという子の名前が……、情報が入ってないだけかしら。その割には世間に出回っている身体的特徴の記述すら無いようだけど」


更にアカネは名前に目を通していく。

探せば探すほど、よく知った名前が多く出てきた。

そして当然、自分の名前もアカネは見つけた。


「私とラベンダも対象になっているのね。……けれどジュエルは無いわ。どういうことかしら」


アカネは本の暗殺リストを読み続け、更に書かれている名前を瞬間的に記憶していくのだった。


一方、ラベンダとジュエルの二人は通路を歩き続けていた。

意外にも長い一本通路が続き、風通しがいいのか肌寒さだけが増していく。

そんな中、ラベンダは愚痴るようにジュエルに説教をしていた。


「いいかジュエル。いつも口うるさく言っているが、あなたはもう少しアカネ様の仲間という自覚を持って行動するべきだ。仮にも勇者の連れであるのだから、振る舞いを…」


ラベンダが熱心に話している途中、ジュエルはくすんだ銀髪をかきあげて小さく微笑んだ。


「ふっ、あまり口うるさくすると、せっかくの美貌(びぼう)が台無しだぜ。でもそんな綺麗な声が聞けるなら、いくらでも愚痴を聞いてあげれるがな」


「ああそう」


「冷たい反応だな。初めの頃はいつも顔を赤くしてくれたのに」


「どれだけの付き合いだと思っているの。聞き飽きたわ」


「そうか、それは残念だ」


長年を共にした仲間らしい会話のやり取りをして、ちぐはぐながらも二人は進んでいた。

するとやがてラベンダが異変に気がついて、ジュエルに制止の声をかけた。


「待ってジュエル。何か声が聞こえるわ」


「え、あぁ……。みたいだな。どちらにしろ先に行かないとならないんだ。さっさと行こう」


「気をつけてよね」


「もちろん、さすがに気を抜きはしないさ」


ジュエルは愛用の槍を手にして、ラベンダは曲刀を一本だけ鞘から引き抜いた。

極限まで神経を研ぎ澄まして、戦闘の心構えを持った。

慎重に進んでいくと、だんだんと声が近づいてくる。

獣の唸り声とはまた違うが、人の声のようにも思えない。

奇妙で何とも言えない声だった。

そして通路の奥には、この先を守るようにして扉が設置されていた。

この扉を開けば声の主と対面することだろう。

そのため二人は身構えて、ジュエルが扉の取っ手に手をかけた。


「いくぞ、ラベンダ。覚悟は?」


「いちいち聞かないで。そんなの常に決まってるわ」


「勇ましいようで何よりだ」


薄く笑ってからジュエルは扉を開け、二人は武器を手に部屋へと素早く入り込んだ。


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