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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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脱獄

怪盗バンディが戻って来るのは早く、正義の勇者アリストが立ち去ってからそれほど時間は経過していなかった。

見れば怪盗の手には鞘に収められている魔剣があり、しっかりと成し遂げて来てくれたのは見て分かった。

怪盗は兵士の格好のままタナトスの前へとやって来て、魔剣を鉄格子の隙間から通して手渡した。


「よし、よくやってくれた。内心本当にしてくれるのか不安だったが、さすがだな」


「けへへへっ、こう見えても有言実行するのが信条みたいなもんだからね。それにこれくらい僕からしたら朝飯前だよ」


その言葉は過信からくるものではなく、彼の今までの経験による発言だ。

こう見えても案外、怪盗としては名が知られているのかもしれない。

ただ彼がやったことを食い逃げしか知らないタナトスからしたら、どうしても小悪党にしか見えない。

そんな小悪党な彼からタナトスは魔剣を受け取って、腰に鞘を差して準備を整えた。


「では、俺も有言実行として早速行動しよう」


「え、ちょっと待って。さすがに目の前で脱獄されると僕が疑われるから、せめて五分後にしてくれないかな。それまでに準備もしたいし」


「五分後か。分かった、それぐらいなら問題ない」


「よしよし、じゃあ僕は準備して待機してるから。五分後に騒動を頼んだよ」


怪盗は五分という時間を念押しに言いつけて、早足で牢獄の部屋から出ていった。

タナトスは言われたとおりに律儀に待ち、体感的に少なくとも五分以上経った頃に動き始める。

鉄格子を前にして、魔剣の柄に手を添えて呼吸を整えた。


「よし、いくか」


タナトスはそう言うと同時に、一瞬だけ魔剣を振るった。

風が発生しないほどに素早く静かに振るわれる刃。

すると鉄格子は綺麗に斬られており、道を遮っていた檻は細切れとなっていた。

それからタナトスは念の為に一般人を巻き込まない意味を含めて、ここで騒音を立てるために瞳を赤く染めた。

魔人の状態へと化した彼は魔剣を片手に持ったまま、空いてる拳を振りかぶって石の壁を殴りつける。

同時に大きな地響きが鳴り、強い振動が建物を襲った。

壁には人の大きさはあるクレーターの跡が残り、部屋全体に亀裂が走る。

そしてタナトスがあまりにも強く殴りつけたせいもあり、殴打で発生した揺れは街の大部分にまで伝わっていた。


「さてと、これで人が駆けてつけて来るだろうな。あとは適当に建物内を走り回っていれば……」


タナトスが瞳を黒くしては呟いていると、早速甲冑を装備した兵士達がこの部屋へとなだれ込んできた。

頭数は四人だけで、全員が槍を手にしている。

しかし四人だけだとは言え、この牢獄から出れば更に多くの兵士がいることだろう。

すでに覚悟が決まっているタナトスは魔剣を手に、兵士たちと対峙した。


「脱走者だ!おい、大人しくしろ!」


兵士は意気込んで、大声でタナトスを怒鳴りつけた。

とは言っても、ここでの勝負はほぼ数秒のことだった。

彼は魔剣を使うにしても殺意はないので、あくまで気絶か負傷に押しとどめていた。

流れる身のこなしと足踏みを駆使し、相手の攻撃を紙一重で回避しては魔剣で槍を切断する。

続けて接近すれば甲冑ごと殴りつけては横転させて、全て兵士の行動に合わせて鮮やかにカウンターを打ち込んだ。

それはまさに雷光のように捉えられない動きで素早く強くあり、激流のように流れがありながらも相手の動きを呑み込み無にするものだった。

仮に今戦闘している兵士の中に他者より秀でていた者が居たとしても、何も変わらないだろう。

それほどにタナトスの動きには対処できず、ただ思うがままに動きを誘導されては気づけば地面に伏していくばかりだ。

まさにあっという間に四人を鎮圧させた彼は、何事も無かったように牢獄から出ていった。

しかし出ても息つく時間なんてない。

広い部屋らしき場所に出てきたと思うと、そこにはすでに多くの兵士が驚いた顔でこちらを見ていた。


「おっと…多いな」


牢獄があるので、おそらくここは兵舎の類なのだと推測はしていた。

そのため出払っている者もいるだろうが当然兵士は多くいる。

更に騒ぎを大きくするためにもタナトスは逃走だけではなく、もう少しは倒しておく必要もある。

だから彼はその場に踏みとどまり、近づいてくる兵士から体術で次々と意識を落とさせていった。

すると室内にも関わらず、二人の兵士がボウガンを手にタナトスに狙いをつけてきた。

彼はすぐに狙われていることに気づくが、阻止する前に隙を狙われてボウガンの矢が二発放たれる。

高速で近づいてくるが、奇跡の勇者アカネの攻撃に比べれば遅く軌道も読みやすい。


「はぁっ!」


彼は近くの兵士を倒しては、近づいてくる矢の一本を魔剣で切り裂いた。

そしてすぐさま回避しながらもう一本の矢を掴み取っては、体を回転させて矢を投げ返す。

その動きにはキレがあり、兵士達には彼が投げた動作に入ったと気づくのにすら遅れていた。

投げ飛ばした矢はボウガンを撃ってきた一人の兵士の肩に刺さり、うまく負傷させて跪かせる。

それからタナトスは次の射出をさせないために、兵士達の間を掻い潜ってはボウガンを手にしている兵士に高速で接近していった。


「ほらよ」


接近しきったところで、タナトスは軽い口調でボウガンを掴むと一緒に足払いをかけた。

それで兵士の姿勢のバランスが崩れた所で、強力な膝蹴りを腹部に打ち込んで悶絶させる。

相手が甲冑を着込んでいるのに、とても鎧で軽減されているとは思えない威力だった。


「ひとまずはこんなものか」


タナトスは更に襲いかかってくる兵士の攻撃を避けながら、移動して別室へと向かう。

更に彼は怪盗との約束でもあるために自分を注目させるように、魔剣で壁を斬り裂いた。

すると壁は崩れていき、そこからは日の光りが入るようになる。

眼下には街並が広がっており、この場所が街の中でも高所の方に建てられているのだと眺めて分かった。


「もう少し建物を壊しておくか」


続けてタナトスは走りながら魔剣を振るって、次々と建物の内部を斬り崩していく。

そんな彼の野蛮な行動を止めれる者はいなく、すでに兵舎にいる兵士の多くはタナトスを追える状態ではなかった。

しかし、彼の前に立ちはだかる人物がいなくなったわけではない。

彼が一階を走り回っているとき、突如天井が崩れ落ちてきた。


「ちっ…!」


咄嗟にタナトスは崩れ落ちてくる瓦礫を魔剣で斬り裂いて防ぐと、途中瓦礫に混じって人が落下しながら飛びかかってきた。

その人物が何者か見なくとも気配で感じ取っていたタナトスは、遠慮なく魔剣を振るう。

だが意外にも、激しく鈍い金属音が鳴り響いた。

しかも斬れなかっただけではなく、彼の脚に大きな重圧がかかる。


「まずい!」


このままでは脚どころか体全体の骨が砕けそうだった。

すぐにタナトスは瞳を赤く染めて、魔人の力を発揮させて飛びかかってきた人物を力づくで押し返そうとした。


「うおぉおぉぉおぉぉ!」


体が軋むほどに重く、落下の衝撃で腕が折れそうだ。

珍しく彼は叫び声をあげて全力を使い、飛びかかってきた人物を押し返した。

すると押し返された相手は華麗に床に着地し、その姿を現す。


「へぇ、あまり手加減したつもりはなかったんだけど、あの状況であたいを押し返すなんてやるねぇ!」


そう感心と賞賛の声をあげたのは、正義の勇者アリストだった。

彼女が牢獄から出て行ってから、それほど時間が経たない内に怪盗が魔剣を手に戻ってきた。

すぐに接触することは分かっていたことだ。

タナトスは少しだけ荒くなった息を整えては、魔剣を構え直してアリストを睨みつけながらも挑発的な言い方で言葉を吐く。


「くははっ、軽すぎて鳥の羽かと思ったよ。なんなら姫様抱っこしてやってもいいんだぜ」


「余裕をかますなんて、あんた面白いこと言うね。でも、この状況は決して笑えるものじゃないよ。悪いが兵士達を痛めつけた罪はこの場で償ってもらうからね!」


そう言って正義の勇者アリストは踏み込み、タナトスに一直線で向かってきた。


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