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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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出発

次の日の朝、アスクレピオス街で騒動が起きてから三日目だ。

タナトス達はすでに旅の出発の準備を終えて、二階の客室へと集まっていた。

次は食の街アルパへと行くという話は昨晩の内に伝わっており、細かなことはこれからポメラの口から話されようとしていた。

全員がそれぞれくつろぐ姿勢でいて、ポメラは全員の顔を一度見渡してから話し出す。


「さて、全員の準備は済んだようじゃな。では、これからについてじゃ。スイセンの話通りに行動するとなると、私達はこれから食の街アルパへと向かう。そこまでは大丈夫じゃな?」


四人全員が小さく頷く。

他に当てがあるわけでもないので、異論があるはずもない。

そのことを確認したポメラは話を続けた。


「ふむ、それでじゃ。このアスクレピオス街で見つけた反抗組織の拠点については、奇跡の勇者アカネとこの街の兵士達が調査することになっている。そのため私達は立ち入ることはできんが、何か情報があればアカネから流れてくる。だから情報が入ってくるのは遅れるが、期待はしていいはず。ただ情報が、肝心の反抗組織の主犯に繋がるという可能性は薄いじゃろうて。なにせ、もぬけの殻ということは証拠も廃棄されている可能性が高い」


ポメラがそこまで言ったところで、シャウが頷いて同調した。


「そうだね。相手も間抜けじゃないから、そう都合よく手がかりは残してくれないだろうね。それでも何かあればいいんだろうけど、そこはアカネちゃんを信用するしかないかな」


「ふむ。現状、この街のことはアカネ達に任せるしかない。そのため私達は今から食の街アルパへと向かう。しかし食の街アルパも少し複雑なものではな、近くに多くの農村があり、多くの交流がなされている。つまり食の街アルパを調査するということは、周りの農村も調査しないといけないんじゃよ。それだけ場所によって情報が錯誤している。例えば、その農村では誰もが知っていることでも隣の農村が知らなかったりとな。食の街アルパも同様じゃ」


更に言うと、同じような情報でも場所によって誤情報が発生して矛盾が生じることもある。

その話を聞いたタナトスは、壁に寄りかかりながら率直の感想を述べた。


「面倒だな。それだと手分けに捜すしかなさそうだ」


「そうじゃな。だから食の街アルパに着いた後は手分けて調査することになるじゃろう。だからと言って、単独調査させるわけにはいかないがのう」


単独調査の危険性は全員が承知している。

この街のことでも、スイセンだって下手したら命を落としていた。

だから少なくとも、いつ命を狙われてもおかしくないため二人組の行動が常であるべきなのだ。

ましてアスクレピオス街の一件のこともあり、タナトスとミズキ、それとスイセンは反抗組織から本格的に命を狙われることだろう。

それらのことをポメラが言葉に出さずとも全員が理解していて、タナトスが再び反応して喋った。


「分かった。つまりは、常に複数人で動くことを意識しろってことだろ。なら、できるだけ俺がミズキとスイセンについていれば問題ないってことだ。護衛の契約もしているし、これからはそうさせてもらう」


「ふむ、そうじゃな。私とシャウは自分の身を守ることはできるし、それが理想でもある。できるだけ私達もサポートはするが、別行動となったときは任せるぞタナトス」


「あぁ、任せろ。今度こそ、俺がミズキとスイセンを必ず守る」


強い決意を込めたタナトスの言葉に、ミズキは照れた反応をみせた。

対してスイセンはちょっと小馬鹿したように笑って、小さく呟いた。


「っくひひ、まるで保護者ですねぇ」


スイセンの言葉にタナトスは軽く咳払いをする。

どうも自分らしくない発言だったと気づいたようで恥ずかしさを覚えたので、はぐらかすために話を急かせた。


「…で、話はこれで以上か。これで終わりなら早く行こう。善は急げだ」


「そうじゃな。ここから食の街アルパまで、急いでも丸二日間はかかる。あとは移動をしながら話そうか」


「よし、じゃあ料理の都でもあるアルパに出発だね!わははは~、魚類の料理が楽しみ~!」


ポメラの合図にシャウは一人で意気揚々と歓喜の声をあげて、次に全員はすぐに宿から出るために動き出す。

そのなか外に出るためタナトスが布で頭と顔を隠していると、途中でミズキが小声で話かけてきた。


「タナトスさん、改めてお願いしますね」


「ん、あぁ。任せろ。何度も言うが、必ず守るさ。それより大丈夫か?」


「何がですか?」


「俺は何ともないが、ミズキは旅慣れしていないだろうし、こう何日も騒動に巻き込まれているから疲れていると思ってな。休息を取っているとは言っても、心から休めている時間は全くないはずだ」


「いえ、大丈夫ですよ!戦争時の生活と比べたら、へっちゃらです!」


「だったらいいが、あまり無茶はするなよ。どうしても辛い時は甘えればいい。それに俺が言うのも何だが、もう少し甘えることを覚えた方がいいぞ」


本当に珍しいタナトスの気遣った発言。

そのことにミズキは驚きよりも素直に受け止めて嬉しさを感じており、彼女らしく笑顔で言葉を返した。


「わかりました。今でも充分にワガママを言って甘えさせて貰っていますけど、本当に辛い時は少しだけ甘えさせてもらいますね」


「あぁ、辛い時は俺が守って甘える時間くらいは作ってやるよ。だから、シャウにでもスイセンにでも充分に甘えろ」


「え?えぇ、そうですね。っけひひ…」


どうも今の二人の会話にはどこか微妙に認識のくい違いがあったらしく、ミズキは呆けた顔を一瞬だけ垣間見せた。

でもすぐに笑って誤魔化し、話を流してしまう。

そしてその二人の会話を遠目に見ていたシャウが、ポメラに耳打ちをした。


「ポメラ師匠、何かあったのかな。なんかタナトス性格変わってない?」


シャウに話しかけられたポメラは旅の身支度をしつつ、興味なさそうに同じ声量で返した。


「む、そうか?」


「そうだよ。だって少なくとも旅の最初の頃は、あんなに優しい事は絶対に口にしなかったもん。ほら急げ、ほらお前らも頑張れ、ほら早く行動するぞって心の余裕とか微塵も無かったよ」


「最初はお主達三人だけだったから私は知らんが、心境の変化でもあったんじゃないかのう。あやつも人間と変わらん感情を持っておるし、態度が変化していくのは何も変な話ではないぞ」


「そうだけど、なんかな。何とも言えない気持ちが湧くんだよね。なんだろ……寂しさというか、安心というか、うーん妙な気持ち」


「ワケが分からんな。ただの仲間だろうに。ほら、行くぞシャウよ」


「一概に仲間って言っても大切だったり好きだったり……あ、待って待って!置いてかないで!」


置いてかれかけたシャウを最後尾に、全員客室から出ていった。

階段を下りてからカウンターで店員とのやり取りも終えて、五人は宿屋フォトンから出発した。

朝日に照らされた街路を突き進んでいき、復興作業が進められているアスクレピオス街の姿を後ろ目に南門へと向かっていく。

それから南門で手続きを終えてから、門を通って五人はアスクレピオス街を出た。

街を出れば広大な大地が目の前に広がる。

自然溢れた環境にタナトスは深呼吸をして、強い決意を胸に天を仰ぐ。

そして一番に外に出た彼は振り返り、四人に声をかけた。


「よし、全員いるな。それじゃあ反抗組織の手がかりを掴みに、食の街アルパへ行くぞ!」


こうして五人は医薬の街アスクレピオスを出て、食の街アルパへと向かうのであった。


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