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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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脱走する者

タナトスとアカネが牢屋を出て見れば、そこは穴を掘ったような洞窟の作りになっていた。

木の板で補修はされているようだが、拠点と考えるとあまりいい場所では無いだろう。

人が二人分通れるくらいしかない道幅で、即興で掘られているのが見て分かる。

壁にかけられているランタンが薄く照らし出す木の板による道。

そんな道を進んでいると分かれ道にあたり、最初にアカネがタナトスに訊いた。


「あらあら、入り組んでいるようね。先に道具を回収したいのだけど、どこへ行けばいいのかしら」


「そんなこと俺に訊かれても困る。とりあえず左右あれこれと行き先を変えるんじゃなく、ずっと左の道へ行くとかにしたらいいとは思うが」


「建物内で迷った時の手法ね。あまり活用性ないけれど、今はそれが最善なのかしら」


「だろうな。できるだけ左手の道へ行こうか」


こうして話はまとまり、タナトスが率先(そっせん)して左手側の道を歩き出した。

しかし、すぐにタナトスは緩い曲がり角のところで足を止める。

このことにアカネは一瞬眉を潜めるも、別の足音が聞こえてくることに気がついて、何も口には出さなかった。

角を曲がった先から聞こえてくる歩く足音。

足音からして一人だ。

タナトスは息を潜めて、気配を殺す。

比べてアカネは特に気にせずに待つだけで、まるで警戒する()振りはない。

完全に人任せにするつもりだ。

だからタナトスは、ついアカネに小声で厳しく囁いた。


「少しは警戒してくれ…!」


「嫌よ。警戒する意味が無いんだもの」


そう言ってアカネは焦れったい思いでもあったのか、曲がり角の先へと歩き出した。

この無用心さにはタナトスも驚き、止めようとするも遅い。

曲がり角の先にいた人物は男性で、その男性はアカネの姿を見て驚きの声をあげた。


「なんだお前?…いや、お前は奇跡の勇者の…!」


「くそっ!」


悪態をついてタナトスは角から飛び出し、アカネの隣を追い越して男性に襲いかかった。

素早く手短に、男性の顎を拳で打ち抜いては服の首元を掴んで地面に叩きつける。

同時に重い衝突音が鳴り、その光景を見下ろしながら首を傾げてアカネがぼやいた。


「うるさいわね、少しは静かにできないのかしら。今の音で他の人が来たらどうするつもりなのよ」


この言葉にタナトスはほんの少しだけ怒りを覚えそうになったが、静かに息を吐いて落ち着いた。

そしていつものように、あっさりと言葉を返すだけだった。


「…そうかい、それは悪かったな。でも、アカネも無用心すぎるぞ。もう少し警戒心を持ってくれるとありがたいんだが」


「時と場合によるわ。そもそも相手が一人なのだから、警戒するわけないじゃない。それにしても、反抗組織の人は普通に旅人が着るような服装ね。城の兵士みたく、統一した装備をしてくれると分かりやすくて助かるのに」


「何を言ってるんだ、お前…」


「思ったことを口に出しているだけよ。いちいち気にしないでちょうだい。それより、そいつを叩き起してあげて。荷物の場所を聞かないと手間だわ」


「そうだな」


タナトスはアカネの意見に同調して、今気絶させた男性を叩き起した。

どうも意識の飛びは一瞬だったらしく、すぐに反抗組織の男性は目が覚めて怯えた反応をみせる。

でも男性はどちらかと言うとタナトスにではなくアカネに怯えているようで、どれだけ彼女の実力と性格が知れ渡っているのか分かる。


「おい、俺たちの荷物がどこかに保管されているはずだ。どこにある?」


タナトスは脅しをかけるように厳しい口調で問い詰めた。

すると物分かりのいい反抗組織員は、奥の方を指さして早口で答える。


「こ、ここから奥の道を進んで、分かれ道があるからそこから一番右の道へ行った先だ。そこにある」


「本当だな?もし嘘だと分かったら首を折るぜ」


「本当だ、本当にそこにある…!俺の記憶が正しければ箱にしまってあるはずだ…!」


「よし、分かった」


確認をとるとタナトスは躊躇いなく頭突きを放って、反抗組織員の意識を再び気絶させた。

その姿を見てアカネは、目を細めてどこか不思議そうに言う。


「さっきの動きを見ていても思ったことなのだけど、あなた何だか私と戦った時と比べて弱くなってないかしら?もっと私の反応でも追いつくのが、難しいほどの動きだったと思うのだけれど」


魔人の状態のことかと、タナトスはすぐに気づく。

思えば最初にリール街で戦闘になったときを除けば、ずっと魔人の状態で相手をしていた。

それに最初はまともに相手をしていないから、アカネの印象としては魔人の状態の方が強く残っているのだろう。

でも魔人のことはタナトスは口にせず、適当にはぐらかした。


「相手が強い人物じゃなかったからな。手を抜いていただけさ」


「あらあら、私に無用心と言っていた人の発言とは思えない言葉ね」


「俺も時と場合によるってことだ」


「そう、ならお互い様ね。くすくすくす…。さて、いつまでも雑談していないで先に行きましょうか」


二人は反抗組織員をその場に置いていき、先の方へと進んで言った。

すると話の通りに分かれ道があって、今度は迷わずに右の道を選んで歩いていく。

それから慎重に行っても数分もしない内に、(ひら)けた場所へとたどり着く。

床や壁に木の補修はないが、しっかりと地盤を固めてあって、家のリビングのような広い一室の場所だ。

椅子やテーブルと家具が置いてあり、他にも大きな木箱がかなりの数で山積みに置いてあった。

他にも武器が立て掛けておいてあったり、多くの物が整理されている。

すぐにタナトスとアカネは手分けて漁り出して、それぞれの荷物を探し出す。

タナトスは壁にかけてあった鞘に収められてある愛用の魔剣を最初に手に取り、あとは木箱から自分の荷物だけではなく使える物も漁った。

けれどアカネは自分の荷物だけ見つけてはすぐに身だしなみを整えるだけで、余計なことはしない。


「まだかしら、タナトス君。私はもう見つけたのだけれど」


そう言ってアカネは儀式で使うような装飾された短剣を、慣れた手つきで手元で回して遊び始めた。

その姿を姿を尻目に、タナトスは箱を漁り続ける。


「もう少しだけ待ってくれ。それにしてもアカネの荷物はそれだけなんだな。前から思っていたんだが、それでどうやってあんな不思議な力を発揮しているんだ?」


「くすくすくす、シャウちゃんと同じよ。彼女には治癒の能力があり、私には光りを操る能力があるだけ。この道具はそうね、私が能力を使うための補助機みたいなものかしら。最も今は誰かさんのおかげで、もう一つの補助機となる横笛が壊されたけれど」


「悪かったな。あの時は懸命だったんだ。でもそれで光りを操るための補助になるなんて、不思議な話だ」


「ただの道具じゃないのよ?このピアスだって、ちゃんと儀式という段取りを経た特別な道具なのだから。そもそも物質が普通の物ではないのだし」


「あぁ、形はよくある道具でも物質そのものが違うのか。なるほどな。っと、準備は終了だ。行くか」


会話している間にタナトスは準備を終わらして、ようやく二人は装備が整う。

これであとはもうひとまずの目的は脱出するだけとなり、反抗組織への情報収集は後回しだ。

タナトスとしても拠点の場所さえ分かりさえすればいい事なので、特にこれ以上するべきことは現時点ではない。

だから二人は保管庫から出ていこうと、道の方へ振り返った。

しかし道には知らない間に一人の男性が壁に寄りかかっており、悠長に声をかけてきた。


「いやはや、脱走されては困るんだがね。どうか、大人しくしてくれないだろうか」


慌てて二人は振り返り、鋭い目つきで身構える。

二人の視線の先には黒革の服装をした男性で、タナトスには顔に見覚えがあった。

居酒屋で一緒の卓に座った人物だ。

だからタナトスは全てを察して、理解する。

そして見据えて、慎重に鞘から魔剣を引き抜いた。


「どうやら、お前が反抗組織の暗殺者カラスみたいだな。ここまで案内してくれて助かったぜ」


「ははは、そうか。元からそのつもりで拉致されたわけか。いやはや、舐められたものだな。しかし、どちらにしろ大人しくしてもらうよ。もちろん、ここで始末しても構わないんだがね?」


「はっ、強気だな。やれるものならやってみろ。言っておくが、俺とアカネはかなりの手練だぞ」


そう言ってタナトスは魔剣を片手で力強く構えて、戦闘態勢に入る。

でもその横でアカネは形だけ戦闘態勢を取るも、洞窟内で能力があまり使えないから戦力に数えられても全く戦えない、と内心思っているのだった。


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