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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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功労者

タナトス含めて三人は身分証明の手続きを終えて、医薬の街アスクレピオスへと足を踏み入れた。

思った以上に、すんなりと街に入れたタナトスは呟く。


「本当に身分証明は形式上だけなんだな。布で口元と頭を隠すだけでバレないで済むとは、危機感が薄いんじゃないか?」


「良くも悪くも平和に慣れ始めているということじゃろうて。さてと、東区じゃったな。こっちだ」


ポメラは街にあった掲示板の地図を見てから歩き出し、タナトスとミズキはその後をついて行った。

脇見せず進んでいくポメラと周りよく見渡すミズキに、ひたすら目立たないように気をつけるタナトス。

そんな三人でアスクレピオスの街路を歩いていき、東区にへと向かい続けた。

そして商店が多い道を迷いながらも、やがてユウが言っていたフォトンと書かれた看板が飾っている宿屋を見つける。

三階建てでしっかりとしており、大きめの宿屋なのが伺えた。

その宿屋を見上げて、ポメラは確認するように小さく頷いた。


「ふむ、話の通りならここにいるはずじゃな。行こうか」


ポメラを先頭に、タナトス達は宿屋に入っていく。

夕方のためか壁掛けのランタンで照らされた、暖かい雰囲気のあるロビー。

するとそこにはカウンターで従業員と話すシャウの姿があった。

すぐにポメラはシャウの後ろ姿に気がついて、声をかける。


「シャウ、無事そうで何よりじゃな」


声をかけられたシャウは茶髪を揺らしながら振り返り、一瞬驚きはしたものいつもの明るい笑顔を浮かべた。

それから変わらぬ口調と大声で、元気よく再会を喜んだ。


「おー!ポメラ師匠にミズキちゃん!あと顔を隠しているのは、タナ……ストナタ君じゃないか!元気にしてたかい~!?」


シャウは危うく公衆の面前でタナトスの名前を口にしかけたが、自分の口走りかけた言葉に気づいて慌てて言い直した。

唐突に妙な名前をつけられたタナトスだったが、気をつけろと言わんばかりにシャウに対して目を細めて合図を送った。

するとタナトスの意図を理解したシャウは、ごめんごめんと手を合わせながら舌を出して謝る仕草を見せる。

それからシャウはミズキの元気そうな姿を見て、微笑むのだった。


「良かった。タ……ストナタやポメラが無事なのは分かりきっていたけど、ミズキちゃんがケガもないようで嬉しいよ。おかえり、ミズキちゃん。よく頑張ったね」


まるで母親のような口ぶりでシャウは、ミズキに帰りの祝い言葉を贈る。

このことにミズキは急に申し訳なくなって、喜びと悲しみの感情が混じった顔で、涙をうっすらと流し始めた。


「わわっ、急にどうしたのミズキちゃん!やっぱりどこかケガをしていたの!?」


「ち、違います…!ただあのとき、シャウさんが懸命に逃がしてくれたのに結局捕まって、それで心配と迷惑をかけたことが申し訳なくて……、あと無事に会えたことも嬉しくて…!」


「な、なーんだそんなことかぁ!私だって迷惑かけていたことがあったんだし、そんな気にしないでよ!それに上手く逃がせれなかった私にも責任があったんだから!ね?だから泣かないで!」


「うぅっ…はい。急に涙を流して、ずみませんっ…」


鼻をすすりながらミズキは涙をぬぐい、シャウに向けて鼻を赤くしつつも笑顔をみせた。

その表情にシャウも笑顔で応えて、次にポメラに視線を向けて強く手を握りだした。


「ポメラ師匠もひとまずはお疲れ様!同じく無事で何よりだよ!」


「あぁ、ミズキと同様捕まっておったが、あやつのおかげで助かった。ただ、武器は無いままだがな」


「あ、そういえばいつもの武器背負ってないんだね。没収されたんだ。でもポメラ師匠は武器なくても強いから、問題ないね!」


「何を言っておる。いくらなんでも買いかぶりすぎじゃて……ん?」


ポメラは、奇跡の勇者の襲撃時に負った傷の痛みが急に和らいでいることに気が付く。

この数日間今まで隠していたが、どうもシャウにはお見通しだったようで治癒の力を使われていた。

言ってもいないのによく気づくなとポメラは思いながら、口元だけで笑ってシャウを見つめた。

それに対してシャウは見つめ返し、同じく笑顔で返す。

それだけでまるで意思疎通したかのように、シャウは手を離して次にタナトスに向かって行った。


「ストナタ君も無事でなにより!まぁ君だから無事で当然だけどねぇ~」


「これでもけっこう苦労したんだぞ。一人で勇者を相手にするのはもうお断りだ。あと、その妙な名前で呼ぶのはやめてくれ、恥ずかしい」


「え、じゃあ大天使ビッグエンジェル君」


「……やっぱさっきの妙な名前の呼び方でいい。それで、お前の方は何か手がかりを得れたのか?」


「あー私の方か。私は手ぶらってわけじゃないけど、有益な情報の収穫は無しかな。途中でそれどころじゃなくなったし」


「何かあったのか。……もしかして、スイセンのことか?」


タナトスのこの言葉に、シャウは予想外そうな驚きの顔をみせた。

そしてその表情に反応したのはタナトスではなく、ミズキだった。

血相変えて、急に早口でまくし立てるように喋りだした。


「そうでした。途中でユウさんという旅人に出会って、何かあったようなことを聞いたんです。シャウさん、スイセンは無事なんですか?」


「あぁ、うん。スイセンちゃんは無事だよ。今も元気にしているよ、一応だけどね。でもね、ちょっと状況が状況で身動き取れない感じなんだよ」


「どういうことですか?」


会話の流れからしてミズキの当然の疑問の言葉。

シャウはさっきまでの笑顔をなくして、代わりに真剣な眼差しで言う。


「とりあえず、スイセンちゃんは二階の客室にいるから、会いに行こうか。スイセンちゃんもミズキちゃんの顔を早く見たいだろうし」


「…分かりました。そうですね」


シャウに言われて、ひとまずミズキは押し黙った。

それからシャウに連れられてタナトス達三人は後ろを歩き、焦る気持ちを押し殺して階段をあがって行って宿屋の二階へと向かう。

そして廊下を進んで203号室の扉を前にして、シャウは呟いた。


「ここの部屋」


それからシャウは扉を慎重に三回ノックして、扉越しにいるスイセンに向けて一声かけた。


「シャウだよ。スイセンちゃん、部屋に入るね」


シャウはゆっくりと扉を押し開けて、タナトス達を連れて客室に入って行く。

するとそこには、ベッドの上で窓を覗き込みながら座り込んでいるスイセンの姿があった。

そして声をかける前にスイセンが振り返り、シャウの方に視線を向ける。

そのとき、ミズキは少し驚いた。

スイセンの目の下には(くま)が酷く濃くできていて、やつれて疲れた顔になっている。

それは明らかに肉体的な疲労より、精神的な疲労から来ているものだと見て分かった。

だからミズキは急いでスイセンに駆け寄り、焦った様子で声をかけた。


「スイセン、どうしたの…?そんな疲れた顔して…、大丈夫なの?」


スイセンは心配されてミズキに手を握られるも、意外にも振り払う。

それはまるで構っている暇がないという意味の動作で、スイセンは今も何かに集中している()振りだった。

そして、ゆっくりと暗く細い声で話しだした。


「ごめん、お姉ちゃん。宿に入ってきたのは音で分かっていたけど、私…平和の勇者を守らないと…いけないから」


「どういうこと…?」


ミズキは聞き返すも、スイセンはそれ以上は口を開かなかった。

まるで自分の世界に入ったかのような、そんなレベルで周りに警戒して集中している。

だから代わりにシャウが簡単に説明を始めた。


「実は、三日ほど前に私が眠っている間に反抗組織から別の暗殺者が来たみたいなの。それでスイセンちゃんが重症を負いながらも追い払ったんだけど、それからずっとこの調子。ほとんど寝ずに暗殺の警戒をしていて、かなり疲労しているの。傷は私が北区にある病院で治したけど、傷が治ったのを理由に退院して休みとらないし、寝ていいよって言っても寝ないし…」


ということは、スイセンは三日前の暗殺者との戦闘から眠っていないことになる。

それに傷は癒えても重症を負った際の肉体的な疲労は出ているはずだから、傷による疲労も癒えていない。

そう考えるとスイセンの体は限界のはずだ。

よく今日まで耐えたなと思いながら、最初にタナトスが動き出してスイセンに近寄った。


「そうか。よく頑張ったなスイセン。でも、もう休め。これ以上警戒しても、お前が肝心な時に動けなくなるだけだ。あとは俺たちが警護する。暗殺者の特徴さえ教えてくれれば、捕まえることだってできる。ひとまず俺たちに任せて、次に備えるべく一度眠れ」


この言葉は聞こえていたのか、スイセンは考えるように少し間をあけてから小さく頷いた。

そして、力ない声で暗殺者の特徴を口にするのだった。


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