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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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通りかかった二人の旅人

タナトス達は医薬の街アスクレピオスへ向かって進み続けた。

できるだけ人通りが多い道を避けては草原を越え、襲いかかってくる魔物を狩っていく。

その道中は決して楽ではなく、些細な問題に直面することは多くあった。

しかし砦で一晩を明かしてから三日目のこと。

ついにタナトス達は医薬の街アスクレピオスまで、あと半日ほどでたどり着く所まで来ていた。

そしてこのときポメラはアスクレピオス街に着く前に、気になることが一つあったのでタナトスに問いかける。


「そういえばタナトスよ。お主はどうやってアスクレピオス街に入るつもりじゃ?」


「なに?別に真正面から普通に入ればいいんじゃないのか。顔を隠せば、簡単にバレはしないだろ」


「………知らぬようだから言っておくが、アスクレピオス街もリール街同様に入るには身分証明が必要じゃぞ」


「え?おいおい、そういうことは先に言ってくれ。俺がこの大陸について精通していないのは、お前もよく知っていることだろ」


この言葉に、後ろで黙っていたミズキはやはりタナトスさんは世間の疎さからして仙人みたいな人だなぁと思う。

そしてポメラはそんなタナトスの発言に対して、少し得意げな口調で言った。


「そうじゃったな。つまり、何も対策を講じてないということじゃな。なら仕方ない、これを使うとよい」


そう言ってポメラは懐から身分証明書となる紙を取り出してきた。

タナトスが手に取って見れば、その書面には見知らぬ男性の名前と出身地などが書かれていて、指印まで押されている上にリール街で承認されたサインまで記入してあった。

いつの間にこんな偽装の身分証明書が用意されたのだろうかと、タナトスは紙に書かれていることを一通り眺めながら訊いた。


「ポメラ、この身分証明書はどうしたんだ?」


「こんなこともあろうかと、お主がこの前の砦で捕縛した傭兵からくすねておいたのじゃよ。どうじゃ、気が利くだろう?」


「…お前、絶対必要だと分かっていたな?まぁでも助かるよ、ありがとう」


タナトスは軽い口調で礼を言っては、別人の身分証明証を懐にしまう。

これであとは顔を上手く隠しさえすれば、アスクレピオス街に入ることができるだろう。

そう思って行く矢先、前から二人組の旅人らしき人物が歩いて通りかかって来た。

その二人は服装そのものは旅人らしいものだが、見た目は幼さがあってかなり若く見える男女だ。

下手に避けて動いても目立つと思って三人は気にせずに進んで行き、できるだけ意識しないように通り過ぎようとする。

もちろんタナトスはできるだけ顔を伏せては別方向を見るふりをして、顔を見られないように気をつけていた。

ミズキが何気なく二人の旅人を見れば、男の子の方は短めの黒髪で頭にハチマキをつけていて、女の子の方は童顔が目立つセミロングの茶髪に花の髪飾りをつけている。

そして軽く会釈だけしてその二人から通り過ぎようとしたとき、女の子の話していた内容が偶然ポメラの耳に入った。


「平和の勇者様、やっぱり素敵な人だったねエリック。また会えるといいなぁ」


すぐにポメラはこの二人の男女はシャウとの接触があったことを理解し、慌てて振り返った。

そしてポメラ一人で近づいて行き、二人の旅人に声をかける。


「すまない。盗み聞きして申し訳ないが、今平和の勇者の話をしておったな。もしかして、アスクレピオス街でシャウに会ったのかの?」


この質問に、女の子がポメラの犬の耳に視線を奪われながらも答えた。


「えぇと、道中一緒に旅をしてアスクレピオス街まで行ったんです。それから少しだけですけど、平和の勇者様の素敵なお仲間様とお話をしたり……。それがどうかしましたか?」


素敵なお仲間?

スイセンとシャウは一緒なのは知っているが、他に誰か居たのだろうか。

いまいちポメラは誰のことだかピンと来なかったが、とりあえず訊きたいことを口にした。


「そうか。実は私達は平和の勇者であるシャウと合流する予定でな、これからアスクレピオス街に向かう所だったんじゃ。だから、よければどこの宿にシャウが泊まっているか教えてくれると助かるんじゃが、どうか教えてくれるだろうか?」


まるで、ありきたりな理由をつけてシャウを追跡する不審者みたいな発言だ。

でもポメラの言葉を聞いて、エリックと呼ばれていた男の子は女の子に囁いた。


「なぁユウ。もしかして、この人たちが平和の勇者様が言っていた人達なんじゃないか?」


何か不審な匂いを嗅ぎとっていたユウと呼ばれた女の子だったが、エリックの話で思い出したようで小さく頷いた。

だからポメラの話に納得し、それから優しい笑顔に切り替えて答えた。


「あぁ、そうでしたか。平和の勇者様からアスクレピオス街で仲間と合流するという話は聞いております。疑うような目で見てしまい、失礼しました。それで平和の勇者様のことですが、東区にあるフォトンという宿屋に泊まっていますよ」


「東区のフォトンという宿じゃな?教えてくれてありがとう、助かるぞ。では良い旅を」


ポメラは話を切り、すぐにタナトス達の方へ振り返って立ち去ろうとした。

だが立ち去ろうとしたとき、ユウという女の子が突如制止させる声をかけてきた。


「待ってください!」


このことにポメラは再び振り返る。

一体何かとユウの顔を見れば、ユウの眼差しはタナトスの方に向けられていた。

まさかタナトスの後ろ姿だけで指名手配犯だと気がついたのか。

冷や汗が出そうになる。

強引な手段で黙らすことはできるが、それは好ましい手段ではない。

ポメラは止めようとするが、あっさりとユウは彼女の隣を通り過ぎて行ってしまう。

そしてユウはタナトスの近くに立ち、声をかけた。


「あなた様は、もしかしてスイセン様のご家族の方ですか!?」


その声は明るく、浮かれた口調だった。

よく見ればユウはタナトスにではなく、ミズキの方に向いて笑顔で話しかけていた。

ミズキの妹の名前が出ることを考えると、スイセンとも接触があったのだろう。

しかもユウはスイセンという名前を出す様子は親しげで、どこか幸せそうなものだった。

まるで憧れを抱いているような、傍から見てもそう思える態度だ。

突然ミズキは話かけられた事に驚いて一瞬面くらうも、すぐに落ち着いて素直に答えた。


「は、はい。そうですよ。スイセンは私の妹の名前です」


「わぁ!やっぱりそうなんですね!スイセン様に似ているから、もしかしてと思ったんです。まさかお姉様だとは!お会いできて光栄です。あ、申し遅れました。私、ユウと申します」


感激の言葉を口にし、ユウは丁寧に頭を下げた。

まるで有名人に会ったかのような反応をされても、ミズキとしては戸惑うばかりで慣れない感覚だった。

だってミズキは普通の女の子同然だ。

身に覚えもないのに、いきなりこんな好感を抱かれても、霧に包まれた想いだ。


「ユウさんですか。私はミズキと言います、どうぞお見知りおきを…。えぇっと、妹に会ったんですよね?スイセンは元気にしていましたか?」


ミズキの何気ない質問。

けどユウの表情は浮かれたものから一気に曇ったものになり、まるで何かあったかのような素振りだった。

更にユウは泳ぐ目線で(ども)った口ぶりにまでなっていた。


「スイセン様は、その…数日前にちょっと色々ありましたけど、きっと元気になっていますよ。平和の勇者様が近くにいますから…はい、何も心配することは無いです」


妙に引っかかる言い方だった。

だからミズキは更に深く追求して聞こうとするも、そこでポメラに手を引かれて止められてしまう。

ミズキがポメラの方へ視線を向ければ、彼女は真剣な眼差しで首を横に振った。

あまり長話する必要はないという意味合いの動作だろう。

確かに不用意に長話をしても、タナトスの存在に気づかれる恐れがある。

仕方なくミズキは無言で頷いてから、ユウの方へ振り向いて礼だけ言った。


「分かりました。スイセンが無事なら何よりです。では、ユウさん。私達はもう行きますので、次に会った時には、私とスイセンと一緒に食事でもしましょうね。それでは良い旅を」


「はい、楽しみにしています。ミズキ様も良い旅を」


やや強引に会話を切り上げて、それぞれに祈りの言葉を送って小さく手を振りながら別れた。

すぐにタナトス達三人とユウ達二人は離れていくも、ミズキの足取りが明らかに早くなっている。

おそらくユウのさっきの言葉で、スイセンに何かあったことを察したのだろう。

だからポメラは気を遣って言った。


「ミズキよ、安心しろ。私の愛弟子であるシャウがおるんじゃ。もしケガを負ったとしても、すぐに治して元気になっておるよ」


「はい…分かっています」


シャウがいれば大きな傷を負っても治癒できるのは知っている。

それでもミズキの心が落ち着くわけもなく、スイセンのことを強く心配するばかりだ。

こうして三人は少し早足で向かっていき、夕方には医薬の街アスクレピオスへの門に到達するのだった。


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