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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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奇跡のパーティー

翌朝。

まだ早朝と呼べる時間帯のとき、ポメラ一人だけは状況がうまく呑み込めずにいた。

いつのまに知らない男性が縛られている。

自分が寝ている間に何がったのか皆目検討つかない。

だから当然ポメラは訊かずにはいられなかった。


「なんじゃ一体、私が知らぬ内に見知らぬ人が増えておるようじゃが?」


この質問に、タナトスが傭兵の縄を解きながら答える。


「あぁ、旅の傭兵だよ。昨晩襲ってきてな。うるさいから縛って放置していたんだ」


「なんと…私が眠っている間にそんなことが……」


「まぁな。それで、医薬の街アスクレピオスに向かうんだろ。さっさと準備して行くぞ」


タナトスが縄を解き終えても、傭兵は下手に動かないように心がけていて一歩も動かなかった。

当たり前だが、警戒しているのだろう。

あくまでタナトスは国王の暗殺者と知れ渡っているから、いつ自分の命が消されてもおかしくないと感じているはずだ。

三人は出発の準備を手早く終えると、すぐに砦から出て行く。

そして馬を引き連れて、医薬の街アスクレピオスへと向かっていくのだった。


しかし、タナトス達三人が砦を出て数時間もしない内のことだった。

タナトスから攻撃を受けた三人の傭兵は、投げられて時に負ったケガを考慮して砦で療養していた。

すると砦に、また別の三人のがやって来る。

その内の一人は、綺麗な長い金髪に装束を着た女性だ。

金髪の女性は砦の外で一人の傭兵を見つけて、どこか艶めかしい声で話しかける。


「あ~らあら、ここに人が居るなんて珍しいわね。どうも、こんにちは。ねぇ、ちょっと訊きたいことがあるのだけど、いいかしら?」


声をかけられた傭兵は、声をかけてきた金髪の女性の姿をすぐに見た。

同時に驚いた表情で目を見開く。

それから女性のことを知っているらしく、落ち着かない様子で震える口調で言葉を漏らし始めた。


「き、奇跡の勇者の方々じゃねえか…!」


奇跡の勇者の方々と呼ばれた中の筆頭であるアカネは、そう言われて深緑色の目を細めて薄く笑う。

そして奇跡の勇者アカネが訊くことは一つだけだ。


「貴方たち、近くで国王の暗殺者を見かけなかったかしら?黒服を着た男なのだけれど」


この質問に、すぐに傭兵は奇跡の勇者の方々はタナトス達の足取りを追っているのだと理解した。

なにせほんの数時間前にタナトスの顔を見たばかりだ。

だから傭兵は力になれるのならと(こころよ)く答えた。

ただし、少し虚栄心が入り混じった言い方でだ。


「あぁ、あの指名手配されている野郎だろ?暗殺者ならついさっきまでここに居たんだ!足止めしようとしたが、逃げられちまってな。相手が強くて、ここで一晩足止めするのが限界だった」


足止めしていたという、どうでもいい嘘。

傭兵としては勇者に評価されたい一心だっただろうが、奇跡の勇者アカネにそんな嘘が通じるわけがない。

アカネは心底興味無さそうに、あっさりと次の質問をするだけだった。


「そう、あいつらはここでのんびりと優雅に一晩明かしたわけね。それで、行き先が分かっていたりするのかしら?」


たいして答えに期待していないのが、聞いていてよく分かる声だ。

冷めていて、目も傭兵に向けられていない。

けど傭兵の答えは、アカネが想定していなかったものだ。


「へへっ、そんな冷たい言い方しないでくださいよ奇跡の勇者様。実はね、あいつらが間抜けなことに、目の前で話していたんですよ。次の行き先をね」


「本当かしら?もし本当なら早く言って欲しいのだけれど」


「医薬の街アスクレピオスですさ。奴らはそこへ行くと間違いなく言ってましたよ」


「アスクレピオス街ねぇ…。だいたいは精兵の推測通りって所かしら。ジュエル、ラベンダ。私たちもすぐにアスクレピオスへ街へ向かうわよ」


アカネは仲間である他の二人の名前を口にして、すぐにタナトス達を追うべく砦から立ち去ろうとした。

だが振り返ったちょうどのタイミングで、砦の敷地内への出入り口に狼の魔物が一匹入って来ていた。

体長が二メートル近くある狼で、獰猛な牙と恐ろしい目つきに筋骨隆々(りゅうりゅう)で熊にも似た体型。

小柄な方ではあるが、魔狼という魔物の一種であると見て分かった。

魔狼の中では小さくても人間と比べたら体は充分に大きく、この大陸にいる他の魔物と比べたら強力で凶悪な生物だ。

しかしアカネは動じない。

むしろまるで相手にする素振りすらなかった。


「アカネ様、私に行かせてください。アカネ様の神聖なる力を使うまでもありません」


ずっと黙っていた奇跡の勇者の仲間である一人がそう呟いた。

その人物は女性で、青紫色の髪を束ねているのが特徴的だった。

軽装の鎧を身にまとっていて、弓矢を背負っているから弓兵に見える。

そして両腰には鞘に収められた曲刀をつけており、見るからに多芸に秀でているのがよく分かる。

アカネはその青紫髪の女性を見て、小さく頷いた。


「そう、日中なら私の力でも別に問題ないのだけど。そこまで言うのならラベンダ、お願いするわ。くすくすくす、期待してるわよ」


アカネの何気ない言葉。

しかしラベンダと呼ばれた青紫髪の女性は意気込み、嬉しそうな顔を見せていた。


「いへへへへ、アカネ様に期待されてる…!なんという至福、感極まります!では、期待に背かない結果を出してみせましょう!」


まるでアカネを神格化しているかのような、奇跡の勇者の仲間であるラベンダの口ぶり。

ラベンダという弓兵の女性は弓を手に取って、矢を取り出そうとする。

するとそのとき魔狼は敵意に気づいたらしく、アカネ達に向かって走ろうと動き出した。

しかし、魔狼が強靭な四本足で駆け出すと同時の事だった。

魔狼の両目には矢がそれぞれ瞬間的に刺さり、血を噴出させた。

すでにラベンダは矢をつがえて撃った後の動作になっていて、撃たれた痛みで魔狼は唸り、苦しみもがき出す。

けれどそのケガは魔狼にとってはより強い闘志を燃え上がらせる要因となり、驚異的な嗅覚を働かせて敵を認識する。

だから動こうとするも、それは遅かった。

ラベンダは走りながら矢を一射して、魔狼の片足を撃ち抜く。

続けて魔狼に接近した所で、ラベンダは腰から曲刀を引き抜いて鮮やかに振るっていた。

あとはもう、魔狼の生首が地面に落ちるという結果だけが残る。

頭の無い首から血が(したた)り、あっさりと巨体は地面に崩れ落ちた。

明らかな命の絶命に、ラベンダはやりきった事を確信して曲刀についた血を振り払った。

でも、それは油断だっただろう。

生首となった魔狼の首は唸り声をあげて暴れて、ラベンダに噛みつこうと飛び跳ねた。


「しまった…!」


油断による驚きと戸惑いによってラベンダは一瞬怯んでしまい、対処が間に合わない。

だが生首がラベンダに噛み付く直前、一閃の閃光が宙を走って魔狼の頭部を貫いた。

それにより魔狼は絶対の絶命と至り、生首も痙攣を起こしてそれ以上は動かなくなる。

そのむごい死体を見下ろしてから、ラベンダは悲しそうな瞳でアカネに向き直って頭を下げた。


「…すみません、アカネ様。私の至らぬばかりでご迷惑をおかけしました」


まるで厳粛で厳格な上司にでも怒られたようなラベンダの態度だ。

だがアカネは、まるで問題ではないと言わんばかりの優しい表情で笑って流した。


「くすくす、別にいいのよ。あなたは自分にできることに対して最善尽くし、充分にやってくれているもの。それなのに怒りの言葉を下すなんて、もってのほか。それよりケガがなくて良かったわ、ラベンダ」


この言葉にラベンダは感激し、目に涙を溜めてしまう有り様だった。

その様子には奇跡の勇者の仲間の一人であるラベンダが、アカネに対して少し盲信的な有り様が垣間見える。

しかしそんな態度に慣れているアカネは気にかけず、儀式用に装飾された短剣を懐にしまってから動き出した。


「じゃあ、行きましょうか。私の力は日が暮れたら、あまり使えるものではないのだから」


実は奇跡の勇者アカネの力は光りを操ったもので、そのため能力を扱うには日中である条件が必要だった。

特別な道具で光りを溜めておき、それから光りを発生させて閃光として攻撃するのがアカネの能力。

その能力を使えば常人には対応できないもので、集団にも猛威を振るうほどに強力ではあるが、光りを溜めることができるのは基本的に日中のみだ。

だから洞窟内などの暗いところでは、特別な道具内にストックしてある分の光りしか使えない。

だから今までタナトスと戦闘してきた時は、全て日中だった。

日中でさえあれば敵無しの強さを誇るから、日が出ているときは平気に単独で戦闘する。

しかし逆に言えば、特別な道具が無ければ満足に能力が使えないだけではなく、日が出なければ長時間の戦闘や連続的な戦闘は不可能という欠点がある。

だからできるだけ好ましい時間帯で戦闘に挑めるように調整するため、急いで奇跡の勇者三人はタナトス達を追うのだった。

奇跡の勇者達もタナトス達も、反抗組織が潜んでいる医薬の街アスクレピオスへ。


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