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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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医薬の街アスクレピオス

四人が歩き続けて時間が経ち、早くも太陽は真上を通り過ぎていた。

あと数時間も経てば夕方となり、夜になってしまうのも遅くないだろう。

しかしここまで順調に旅路を進んでいたこともあって、すでに医薬の街アスクレピオスの姿は視認できる距離となっていた。

そして目的地まであと少しという時、シャウにとっては耳が痛い話をエリックが始めた。


「そういえば平和の勇者様。今、大陸では大変なことになっていますが、そのことの関係で旅をしているのですか?」


「ん?そのことの関係って?何か事件があったけ」


「嫌だなぁ、王様が暗殺されたことに決まっているじゃないですか」


王様の暗殺のことを話題に出されて、思わずシャウの表情が一瞬とはいえ、引きつってしまっていた。

考えてみればリール城の王様が暗殺されてから、すでに一週間ほど経過している。

どのような情報の伝わり方かはともかく、すでに大陸全土にタナトスの指名手配書があってもおかしくないはずだ。

シャウはそのことを思いながら、平和の勇者の立場として答える。


「そ、そうだね。一応犯人の人相は判明しているから、その暗殺者から市民を守ることを兼ねての捜索の旅かな」


「やっぱりそうでしたか!僕も微力ながら、お手伝いしますよ。もし見つけたら一番に報告しますから!」


「うわーそれは嬉しいなぁ。ありがたくて涙が出るなー。とても頼りにしてるよー」


妙に動揺してしまい、シャウの言葉がどこか間延びしたものになっていた。

実際、手配されているであろうタナトスの手助けをしていて、暗殺の真犯人であるスイセンがすぐ隣にいるから冷や汗が嫌でも出そうだった。

とりあえず、それらしい言葉で返すしかない。


「うん、でもそんな張り切らなくていいよ?私達勇者が必ず捕縛してみせるから」


この言葉に、次はユウが力強く反応してきた。


「もう、何言ってるんですか。みんなの王様が殺害されたんですよ。国民として、少しでも手助けしたいという気持ちを持つのは当然です!」


「いやぁ、そうだけどね。その…危険には変わりないからさ。私、勇者としてはできるだけ危険な目に遭わせたくない気持ちが強いんだよ」


「さすが勇者様だ!その強い正義感と義務感に僕は憧れます!見習って、絶対に手がかりぐらいは掴んで見せますから!」


「わははは……」


ユウとエリックの二人には強い意思があるようで、何を言っても無駄なことがうっすらと分かってしまう。

だから苦笑し、その場を誤魔化すので精一杯だった。

比べて当の本人とも言えるスイセンは無表情で、とても冷静な様子だ。

そんなどこかチグハグとしたやり取りをしつつ四人は進み、やがて医薬の街アスクレピオスの門前に着く事となる。

医薬の街アスクレピオスも重要都市の一つであるため、二年前の魔物との戦争の名残りでリール街同様に強固な外壁がある。

そして外壁の上にはもう使われなくなって等しいバリスタが設置されていて、見張り用の場所がいくつか点在していた。

実は元はリール街を守る基地の一角としても機能していたため、昔は軍事力が強くあった。

今では治安を安定させる程度に収まっていて、他の街より少し兵士が多いくらいでしかない。

あとは医薬の街と言われるだけあって、医療に優れた人材が多く集まっており、薬草の栽培も盛んで植物関連の研究者も沢山いる。

そんな街であるアスクレピオスの門へと近づいて、最初に声をあげたのはシャウだった。


「やっと着いたね。結構な距離を歩いたもんだよ。さすがにずっと移動していると、私でも疲れるなぁ」


横目で見てみると、スイセンは何とも無さそうでもエリックとユウには多少疲れ気味の表情があった。

さっきまで元気よく話してはいても、目的地に到着したことで疲れが一気に来たのかもしれない。

とりあえず四人は身分証明書で門の手続きをしていき、次々とアスクレピオス街へと足を踏み入れて行く。


アスクレピオス街の景観は比較的綺麗で、全体的に美しさがある町並みだ。

リール街のような賑やかさは無いが、それとは別の活気がアスクレピオス街にはあった。

例えるならリール街が元気溢れる街で、アスクレピオス街は心落ち着く街と言ったところだ。

それに独自で薬草を栽培している所が多く、その薬草を使ったハーブティーを売りにしている喫茶店が目に付きやすい。

更に香料関係の物も街には多くあるので、まさにこの街ならではの飲食店が点在している。

シャウはそれらを門の出入り口で見ながら、スイセンにひっそりと声をかけた。


「そういえばスイセンちゃんって、リール街に入る時も普通に身分証明書を使ったの?」


「…えぇ、まぁそうですねぇ。一応役職としては薬剤師で通してありますよぉ」


「薬剤師?あぁ、そういうことか」


スイセンは毒物を武器として扱っているから、そのような知識の関係で薬剤師を通しているのだろう。

一応薬剤師としての免許もあったりするのだが、なにぶん緩い所があるため自称薬剤師というのは多くいる。

ただ、免許はその薬剤師の中でも優れた者としての証拠にはなる。

これは他の職業も同じで、免許は腕前がある者の証拠として認識されている。

なので免許が無ければ、その職業を名乗ってはならないという事に現状はなっていない。

そしてエリックとユウが手続きをまだしているとき、スイセンはシャウに質問を返した。


「ところで平和の勇者は、身分証明の生業って何になっているんですかぁ?」


「私?私は勇者だよ!勇者と名乗っていいのは、今は私含めて四人だけだからね。とってもありがたい職業なんだから!」


「職業が傭兵は分かりますけど、勇者が職業というのは何故か違和感がありますねぇ…」


「そうかな。うーん、でも確かに名誉賞に近い感覚があるから、職業として言うのは微妙に違うのかも。それでも私は勇者には変わりないけどね」


そんなやり取りを二人がしている間に、エリックとユウは手続きを終えて門を通ってアスクレピオス街に入ってきた。

まずエリックが一息つくようにして大きく背伸びしてから、シャウにどうするのか訊いてみた。


「平和の勇者様はこれからどうするのですか?僕達は先に宿をとっておこうと思うのですが」


「ん~、私はスイセンとの勝負に負けたから、使いっぱしりの用があるからなぁ。ゆっくりしたい気持ちはあっても、時間の余裕が無いんだよね。だから私は先にこの街の町長に挨拶したり、兵士長から情報を聞いたりかな」


「忙しそうですね…。僕も宿を取ったあとは、ユウとそれとなく街の人から話を聞いてみますね。応援していますので、頑張ってください!」


「うん、ありがとね~」


シャウとエリックがそう話していると、ユウがちょっと顔を赤らめながらスイセンに話かける。

声もエリックと話しているときは違って高めで、かすかに緊張している雰囲気があることをスイセンは感じ取っていた。


「あの、スイセン様も平和の勇者様に同行するのですか?」


「いやぁ、私は平和の勇者に任せて休養かなぁ。こう見えても疲れて、くたくたのへとへとですからぁ」


「あ…なら、もう宿屋でお休みになられるってことですよね…」


ユウは非常に残念そうに言って、表情に陰りを見せた。

だから何か用事でもあったのかとスイセンは感付いて、質問を投げかけてあげた。


「ん~、何か私に用があったのかなぁ?聞くだけで良いなら話は聞くけどぉ」


「実は…あの、その……良ければどこかの喫茶店でも良いので、御一緒したいなと思いまして……。お休みしたいでしょうし、駄目ですよね…」


「そっかぁ。いいよぉ」


「え?」


あまりにもスイセンがあっさりと了承したため、ついユウは聞き返してしまう。

そのことも気にせず、スイセンはおっとりとした目つきと柔らかな表情で答える。

明らかに街の外の時とは違う雰囲気で、優しい物腰になっていた。


「いいよぉ。私、紅茶が大好きだから喜んでぇ」


「本当ですか!わ、わわわわ……わーー!」


もう声にならない嬉しさとでも言うのか、ユウは喜びのあまりに妙な歓声をあげてしまっていた。

そのことにエリックとシャウのみならず、目の前にいたスイセンも驚いてしまう。

周りの視線を集めたことですぐにユウは自分のしたことを恥じらい、更に顔を赤くして頭を下げだした。


「す、すみません!つい興奮してしまって…!でも、嬉しいです。では早速行きましょうか。エリックにスイセン様達の宿も取らせますので!」


「う、うん。いいけどぉ…」


ユウは体を(こわ)ばらせて、そそくさと動き出す。

この突然のことに、エリックは慌ててユウに声をかけた。


「おい、ユウ!急にどこに行くつもりだよ?」


「え、えっとね。スイセン様が一緒にお茶してくれるって言ってくれて、それで今から喫茶店に行こうと思うの!だからエリック、悪いけど平和の勇者様含めての宿の分も取っておいて!ね、いいでしょ?」


「舞い上がる気持ちも分かるけど、ずいぶんと勝手な…。……あぁ、とりあえず分かったよ。今日は僕に任せてゆっくりしてくれ。その代わり、今度は僕の頼みごとも聞いてくれよ」


「もちろん!何でも言うこと聞いてあげる!あと、平和の勇者様もすみません。少しスイセン様と付き合わさせて貰いますね。ではスイセン様、行きましょうか」


こうして強引な所がありながらもユウはスイセンを連れて、街の中へと姿を消して行った。

その後ろ姿をシャウは見て、ただ楽しそうに手を振るだけだ。


「わはははー、せっかくだから楽しんでいってね~!」


そしてその隣でエリックは申し訳なさそうにして、シャウに頭を下げて謝罪を始めた。

当然シャウは気にしていないのだが、エリックとしてはやはり失礼多いことだと思ったのだろう。


「すみません、平和の勇者様。ユウが勝手なことをしてしまって…。いつもは礼儀正しい奴なんですけど、英雄と一緒にいれるのがとても嬉しくて興奮してしまっているようで…」


「わははは、いいよいいよ。全く問題なし。スイセンちゃんは町外だと羽を休めることをあまりしないから、ちょうど良いくらいだよ。それより、私もお使いを任せるようでごめんね」


「えっと、宿のことですか?それこそ問題ありませんよ。僕たちも宿を取るには変わりないですから。では、出来るだけ良い所を取るために早めに行かせて貰いますね。東区にあるフォトンという店名の宿を取るつもりですので、そこに来て下さい。それでは、よければ宿屋でまた会いましょう」


「うん、分かった!ありがとう。元気でね、エリック君!」


シャウもエリックと話を済ませて歩き出し、それぞれ街中を歩いて行くのだった。


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