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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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二人の旅人

シャウとスイセンは医薬の街アスクレピオスへ向かっていて、簡易的に舗装された道を進んでいた。

スイセンは傷こそシャウの治癒で癒えてはいるが、ほぼ休憩無しの移動が続いていて体力の回復が追いついていなかった。

そのため本調子には程遠く、もし戦闘になれば戦えるのはシャウだけと言っていい。

そんな状態の中、シャウは先頭を歩きながらスイセンに話しかけていた。


「ねぇねぇ、スイセンちゃん。気分は大丈夫?」


「え、あー…っはい。大丈夫ですねぇ」


「そうか、それなら良かった。うん、よかったーよかったーわははは……」


このときシャウの内心はタナトス達への心配と色々あったが、もっと大きな不安が一つあった。

それはとてもささやかではあるが、シャウにとっては由々しき問題。

一言で言えば、スイセンと気まずい、というものだ。

当たり前だ。

だってスイセンは暗殺者で、何度かシャウを殺しかけている。

それに一度戦ったことあるだけで、それ以上の繋がりはあるかと言ったらほとんどない。

ただの初対面ならどうとでもなるのに、関係が少し複雑なだけに余計に話しづらい。

そんなことを思いながらも、シャウはスイセンに何とか会話しようと声をかけつづけた。


「そういえばスイセンちゃんは医薬の街アスクレピオスに行ったことあるの?」

 

「一度だけですけど、薬を貰いに行ったことがあるんですよねぇ。それっきりで全く足を運んだことはないですよぉ」


「え、じゃあ反抗組織がいるというのは分かっているだけで、明確な場所とか連絡の取りようはないの?」


「鉱山の街レイアから近い場所って話しだったからなぁ。いるのは確かなんですけど、連絡となると少し難しいですねぇ。一方的な連絡が基本なので、こちらから出向いて報告することは稀なんですよ」


そうとなると、反抗組織の足取りを掴むのは手探り状態になる。

思っていたより手間がかかりそうだとシャウは思いつつ、目を合わせずに歩きながら話を続けた。


「そう…、手当たり次第に探すわけにもいかないし、とりあえずはタナトス達が来るまで潜伏がいいのかなー」


「別にそれでも構いませんけど、かーなーり警戒したほうがいいですよぉ。今は私が手を出さないだけで、他に平和の勇者に手を出す人がいてもおかしくないですからねぇ」


「わはははー、手を出さないとか出すとか、モテる有名人はなかなか辛いね。うん、気をつけるよ。ありがとー」


軽口で答えはしたもの、そう言われてシャウは心落ち着かない気分でいっぱいだ。

別にスイセンのことを信用していないわけではないのだが、いつ寝首を掻かれるか分かったものではない。

だから最低限の警戒心を持ちながら、医薬の街アスクレピオスへと歩いていた。

そして道中は比較的安全で、大きな問題はなく進むことができていた。

魔物に襲われることがあっても、シャウが一蹴して追い払える程度で済んでいて、アカネの襲撃と比べたら苦でもないレベルだ。

そんな調子で進んでいくと、やがて日は落ちて暗くなる。

更にしばらくして草原が暗闇に包まれば、これでタナトスと別れてから二日目の夜となる。

医薬の街アスクレピオスへ着くには、まだ少なくとも半日は移動を続けなければいけない。

できるだけ急いで到着しておきたいが、もう夜だしどうしようかと、シャウはスイセンに質問を投げかけた。


「ねぇ、スイセンちゃん。もう暗闇だけど、どうしようか。どこかで一晩明かす?」


「はぁ…、別に私は一晩中歩いても構いませんけどぉ…」


生返事混じりにスイセンは答えてしまう。

せっかくの問いかけも、曖昧な返答では答えにならない。

さてさてどうしようかと、シャウは考えながら緩やかな坂道を越えたとき、少し離れた場所に一つの小さな焚き火を見つけた。

目をこらせば焚き火の近くには若い人が二人……、服装からして男性と女性の二人組がいるのが分かる。

いかにも旅人用の装備で、二人で放浪しているのだと数秒ほど観察すれば理解できた。

兵士の類でなければ問題ないなとシャウは思いながら、特別に警戒心を抱くことはなくスイセンを連れて近づいていった。

このことにスイセンはジト目をして、少しだけ口先を尖らせて言った。


「どうするつもりですかぁ、平和の勇者さん」


「うん?せっかくだからあの人たちのお供して、一晩明かそうと思ってね。今時、あんな(ふう)に旅する人って酔狂な人だから、きっと快く受け入れてくれるはずだよ」


「ふぅん…」


シャウの言うあんな風に旅する人とは、大きな荷物がなく馬も連れずに旅している人達のことを指す。

この大陸に居る魔物が減っている今、旅をする人のほとんどは商人と言ってしまっていい。

腕に自信がある剣士すら商人として旅していることが多く、大抵は大きな荷物か馬が近くにあるものだ。

それに商人でなかったら目的は街間の移動だったりと、その場合は言う間も出なく馬が使われている。

そしてそれらが見受けれない人は純粋に旅を楽しむ者が大半で、あとはならず者や余程の用事や目的がある者になるだろう。

シャウとスイセンは二人して緩やかな下り道を進んでいき、舗道から少し外れた場所になる焚き火へと近づいていった。

するとシャウとスイセンに気づいた焚き火の先客の二人が、小さく会釈してきた。

敵意の無い動作に、シャウとスイセンも会釈で返す。

それからそのまま無防備に近づいていき、シャウは挨拶の言葉を明るくかけた。


「やぁやぁやぁ、仲良いお二人さん。か弱い二人の女性を、どうか一晩明かす仲間に入れてくれないだろうか?」


この言葉に、焚き火の近くに座っていた女の子が反応した。

その女の子はシャウやスイセンより明らかに年下で、若いより幼いという言葉が似合いそうな女の子だった。

セミロングの茶髪で花の髪飾りをつけていて、童顔で全体的に幼い雰囲気がある。

服装は旅人の用の厚めの布で作られているもので、華やかさに欠ける地味な見た目だろう。

それに両手には手袋がはめてあり、綺麗であろう指先が見えない。

その女の子がシャウに劣らない明るい声で、受け応えた。


「えぇ、もちろんいいですよ!ねぇ、エリックもいいでしょ?」


女性にエリックと呼ばれたもう一人の男性、その子も見れば幼さが残る顔つきと背丈で、同じく若いではなく幼いという言葉が似合う男の子だ。

頭には独特な模様が描かれた緑のハチマキを巻いていて、短めの黒髪が焚き火の熱風でかすかに揺れている。

そして男の子も同じような服装で、腰には長剣と短剣が差してあった。


「まぁ…ユウが言うなら」


エリックという男の子は、女の子のことをユウとよびながら賛同する。

どうやら受け入れてくれたようだと、シャウは感謝の言葉を述べた。


「いやぁ、ありがとうね!本当は他にも連れが居たんだけど、今は二人だけで寂しくてね。快く仲間に入れてくれて嬉しいよ!」


シャウの言葉に、ユウという茶髪の幼めの女の子が笑顔で返す。


「いえいえ、こちらも人が増えて賑やかになって嬉しいですよ。いつもはエリックと一緒で、ちょうど飽きてきた頃です」


「おい、ユウ……、そんな言い方しなくてもいいじゃないか」


「えへー、冗談だよエリック」


愉快そうな笑みでユウという女の子は受け応えているも、エリックと呼ばれているハチマキを巻いた男の子はちょっとだけ不満そうな表情だった。

ただ表情はユウに向けられているが、どうもさっきから視線がちらちらとシャウの方に向いている。

その視線に気づいたシャウは、思い出したように声をかけた。


「おっと、自己紹介がまだだったね!私はシャウ・コヨル。今はただ放浪しているだけの美少女だよ、よろしくね!」


この砕けた自己紹介に、エリックという男の子はぽかーんと口を開けた。

対してユウという女の子は驚きの声をあげて一瞬固まる。

そして次の瞬間には、エリックとユウは声を合わせて歓声をあげた。


「「すごーい!」」


それからはユウとエリックは目を輝かせて興奮した様子で、先にエリックが捲し立てて話しだした。


「本当にシャウ様なんですか!?あの平和の勇者の!?」


「うん、そうだよー。魔王をぼっこぼこにして打ち倒した英雄の平和の勇者だよ!どう、驚いた?」


「驚いたもなにも……僕たち二人、平和の勇者であるシャウ様の大ファンなんですよ!シャウ様に憧れて旅しているようなものなんです!うわー、もしかしてとは思ったけど、まさか目の前に……会うどころか、こして話せるなんて……僕、感激です…!もう嬉しすぎて…うぅ…!」


エリックはそう言うと、話している途中に泣き出し始めた。

さすがの反応に、逆にシャウが少し驚いてしまう。

そして次にはユウという女の子が涙を流しながら話しだした。


「私も…嬉しい…!勇者の中の勇者と言われているほどの人物であるシャウ様に会えるなんて!っうぅ……ザイン……サイン、お願いじますぅ……!」


「え、ちょっ…ちょっと、二人共落ち着こう?感激してくれるのは嬉しいけど、そう泣かれると私もびっくりしちゃうからね。一旦落ち着こう?」


こうしてシャウがユウとエリックという二人の幼い旅人を慰めている間、スイセンは後ろから冷めた眼差しで傍観していた。

何も人と接するのが嫌いなわけではないが、今置かれている自分たちの境遇を思えば呑気な状況に呆れて溜め息を吐くしか無かった。


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