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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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神の閃光と魔の斬撃

ミズキとポメラの護送は襲撃に備えていて、とても厳重だった。

馬車二台に、馬車を囲む十六頭からなる精兵の騎馬隊。

そして奇跡の勇者アカネ率いる二人の仲間による奇跡の勇者パーティー。

頭数は中隊規模だが、戦力は大隊を軽く超えていて一つの砦を落とすのは造作もないほどだ。

それにすでにリール街の近くまで来ていて、中隊という規模は最低限戦力で、ほんの数分あればリール城からの増援で簡単に師団、軍団と膨れ上がる。

そんな状況で、もしミズキとポメラを助けるとしたら自殺行為も(はなは)だしい。

まして一人で助けるとしたら、まさに飛んで火入る夏の虫だ。

しかし、そのことを分かった上で、タナトスはリール街を守る外壁の上に立っていた。

黒衣を風でなびかせて、リール街の外門で手続きをしている馬車を見下ろす。

太陽はほぼ真上で、今頃民衆は昼食を楽しんでいる頃だろう。


「あの装束、奇跡の勇者……アカネって名前だったか。となると、あのどちらかの馬車にミズキがいるのか」


タナトスは馬に乗っているアカネの姿を視認し、二台の馬車のどちらかにミズキが乗っているのだと考えた。

どちらかに絞るつもりはない。

両方確認し、ポメラの安否も確かめないといけない。

タナトスは鞘から魔剣を引き抜き、更にはボウガンを手にとった。


「さぁ始めるぞ。奪還だ」


タナトスは呟き、覚悟を決めて赤かった目を更に赤く染めていく。

そして馬車が外門を通った直前、タナトスはボウガンを馬の目の前に向けて発射した。

するとボウガンの矢は街路に突き刺さると同時に熱く燃え出して、小さな爆裂を起こす。

このことにより馬は暴れだし、外門という狭い場所でもあったため隊列が乱れて統率が難しくなる。

突然の不自然な混乱だ。

だから誰もが襲撃だと瞬時に理解する。

敵は何者?敵の数は?敵の目的は?

それらを考える必要はない。

考える時間も与えない。

すぐにタナトスは外門から勢いよく飛び降りて、更に壁を蹴って落下に加速をかける。

もっと蹴ってもっと速く、どこまでも猛々(たけだけ)しく。

タナトスのボウガンにより、騎馬隊は小規模ながら混乱に陥っている。

そんな中、アカネ含む奇跡の勇者パーティーだけは迎撃体勢を取っていた。


「あ~らあら、見つけたわよ!無事に逃げられると思ったら大間違いなんだから」


「逃げる?…悪いが、今度はお前の思い通りにさせる気はないぞ」


アカネは狙いを定め、タナトスの目の前に閃光を発生させて操ろうとした。

だが、閃光が動き出す前にタナトスは魔剣を振るって破壊する。

散る光りと甲高い響音。

すぐにアカネは儀式用の短剣も取り出して、落下を続けるタナトスを無数の閃光で包んだ。


「さぁ、血まみれになりなさい!」


そうアカネが叫ぶも、全ての閃光が同時と言っていいタイミングで砕け散る。

速い。

いくらなんでも剣の振りが速すぎる。

本当に剣を振るったのかすら怪しい。

戦ったのはほんの二日前ほどなのに、明らかに速さが段違いになっている。

それでもアカネは怯む態度を見せず、自分の周りに閃光を発生させて次の攻撃の準備に入る。


「ラベンダ、ジュエル!時間稼ぎを!」


アカネが二人の名前を口にすると、青紫色の髪を束ねた軽装の女性と銀髪の青年が前に出て、宙にいるタナトスへ武器を向けてきた。

軽装の女性の武器は弓で、銀髪の青年は長槍だ。

まず軽装の女性が弓に複数本の矢をつがえ、タナトスに狙いを定める。

そして矢が放たれると同時に、槍兵である銀髪の青年が壁を蹴り上げてタナトスへと向かっていった。

どれも素早く、まさに疾風と例えても差し支えないものだろう。

しかし今のタナトスからしたら、疾風なんてそよ風にも劣る。

タナトスは飛んでくる矢を掴み取っては、その掴んだ矢で他の矢を全て叩き落とす。

続けて銀髪の青年が長槍でタナトスの胸元を貫こうとするも、タナトスは魔剣でいとも簡単に長槍を逸した。

それからタナトスは体を捻り、銀髪の青年に回し蹴りを打ち込んで外壁に衝突させるのだった。


「まず一人」


今のタナトスの攻撃をまともに受けたら、人間では到底耐え切れるものではない。

だが奇跡の勇者パーティーの攻撃はまだ止まない。

矢を撃ってきた軽装の女性は弓を背負いこみ、代わりに手には双曲剣が握られる。

そんなことを気にせず、タナトスは地面へと勢いよく着地する。

するとすぐに無数の閃光が鞭のようにしなり、タナトスに襲いかかる。


「もうお前の攻撃は見切っている…!」


タナトスは俊敏に魔剣を振るう。

今まで閃光は魔剣の斬撃を避けてタナトスの体を傷つけてきた。

しかし今度は見事に魔剣が、蛇のように動く閃光の先端を打ち砕く。

完璧な先読みだ。

そのことにアカネは驚くも、すぐさま手数を増やして攻撃を仕掛けた。

次は巨大な閃光と、それと連携するように攻撃を仕掛けてくる軽装の女性。

タナトスが素早く巨大な閃光を打ち砕くと、間髪なく軽装の女性が双曲剣を振るってタナトスに襲いかかった。

だからタナトスは魔剣で双曲剣の斬撃を受け止めては、一瞬で受け流して軽装の女性を切りつけようとする。

だがタナトスが腕を動かすよりも早く、地面が不自然な盛り上がりをみせてきた。


「二度も同じ手が通じると思うな!」


すぐさまタナトスは魔剣の剣先を変えて、足元の街路へと突き刺した。

すると、突き刺した動作に合わせて光りが足元で霧散する。

スイセンを貫いたのと同様の閃光の地雷を破壊したのだ。

続けてタナトスは軽装の女性を蹴り上げて、体を回して追撃の肘打ちで吹き飛ばしてみせた。


「な、なんなの貴方は!こんな、ふざけたことがあって…!」


あまりのことにアカネは焦燥して声を荒らげた。

同じ戦術を取ったとはいえ、まるで攻撃が通じない。

ありえない。

そもそも閃光を斬撃なんかで打ち落とすこと自体おかしい。

それも奇跡という確率ではなく、絶対に等しい確率で砕いてくる。

少なくとも人間ではありえない。


「あなた、殺戮の勇者クロスと同じね!全てを無慈悲に砕く絶対的な力がとても似てるわ!」


「だから、なんだ」


タナトスは冷めた表情で、軌跡を描きながら魔剣を振るった。

しかし魔剣の斬撃は閃光の刃によって弾かれ、刃はアカネには届かなかった。

すぐにアカネは横笛と儀式用の短剣を使い、無尽蔵に閃光を発生させてはタナトスに襲わせた。

もう周りのことなど関係ないほどに、猛烈で苛烈で過激な閃光の攻撃。

けど、どの閃光もタナトスを傷つけることができない。

タナトスはひとふりで多くの閃光を破壊しては、切り返しのふた振り目で更に多くの閃光を的確に破壊していく。

まるで魔剣の放つ青い軌跡が、閃光を飲み込んでいるような光景だ。

次々と眩い光りを持つ閃光が砕けていくばかりで、何も攻撃が通らない。


「この……!私は神に選ばれ、仕えることを許された巫女よ!そして何者よりも優れた勇者!あなたみたいな一介の剣士風情が、調子に乗るんじゃないわよ!消えてしまえ消えてしまえ、消えろぉおおぉぉおぉ!」


アカネは横笛と儀式用の短剣を空高く掲げた。

まるで隙だらけの動作だが、タナトスは警戒して踏み込まなかった。

そしてその判断は正しかったと言えるだろう。

溜め込まれた輝きを解き放つようにして、横笛と儀式用の短剣から莫大な閃光が放たれ、天へと昇る。

それからだ。

きっと人は、この光景を見れば神の裁きと口ずさんでしまうだろう。

天空から雲を裂き、空気を裂き、音を裂き、空間全てを裂くようにして眩しい閃光が落下した。

その大きさは一つの山を飲み込んでしまいそうなもの。

ありえない光景に、見る者は理解する事すらできない。

何より、理解する前に死んでしまうはずだ。


「さぁ死ね!死んでしまえ!あなたの大切なお仲間ごと消え去ってしまえ!」


おそらくこの攻撃は、タナトスの仲間どころか外門にいる全員が飲み込まれて死んでしまうだろう。

あまりにも容赦のない攻撃に全員が混乱を起こしそうな中、タナトスはただ冷静に魔剣を構えた。

そして降ってくる広大で巨大なる閃光に合わせて、力強く繊細に魔剣を使って切り裂く。

閃光を打ち砕き、破壊し、折り曲げ、弾き飛ばす。

果てしない響音。

その響音だけを残し、閃光は消え失せる。

ありえない。

まさにその一言を口に出さずとも、アカネは表情だけで物語ってしまっていた。

だから口から漏れる言葉も、同じようなものだ。


「そんな……私の攻撃を完全に…、防いだ…?あり……えない…」


アカネがそう言いたくなるのも無理はなかった。

莫大なる閃光に対し、タナトスがしたことは魔剣を振るったことだけだ。

それもたったひと振り。

如何にそのひと振りが偶然に優れていたとしても、何者にも真似できることではない。

きっと魔族最強と言われていた魔王でも、同じ方法で閃光を打ち消せと言われたら不可能だろう。

もし今の奇跡の勇者アカネの攻撃が神の裁きなら、まさにタナトスの攻撃は神のひと振り。

言うならば、魔神の斬撃だ。


「今度は防がせない」


「しまっ…!」


アカネはありえない出来事に戸惑っていた。

だからとっさの反応で、僅な閃光の刃で防ごうとする。

単純な防御。

それも前に一度、タナトスの拳の防御に使ったのと同じ方法だ。

だからタナトスには簡単に防御を見極められてしまう。

すばやくタナトスは閃光の刃を魔剣で破壊し、体を捻って飛び蹴りを奇跡の勇者アカネに確実に打ち込んだ。


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