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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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下山

王殺しの冤罪を負わせられた黒衣の剣士タナトス、同じ汚名を負わせられた平凡な水色髪の少女ミズキ、ミズキの双子の妹であり暗殺の張本人であるスイセン、魔王を倒した英雄と謳われている平和の勇者シャウ、平和の勇者の師であり平和の勇者の仲間の唯一の生き残り半獣人ポメラ。

これら五人は鉱山の街レイアから出発して、アスクレピオス街へ向かうために下山を始めていた。

そしてそろそろ山から出る直前のとき、木の陰で姿を隠せる理由で小休憩を挟んだ。

その小休憩の間にタナトスは短剣を手にして、ミズキに講釈を始める。


「ミズキ、これからは多くの戦闘が嫌でも避けられないだろう。そのため、どうしても一人で身を守らないといけない時が来る。だからその時のために俺の偏見を交えながらだが、これからレクチャーをする。いいな?」


「はい。お願いします、タナトスさん!」


「いい返事だ。では、まずスイセンが好んで使う短剣についてだ。ナイフだったり、ダガーと呼称によって形も違ったりするが今はどうでもいい。最初に短剣の利点と欠点はなんだと思う?ざっくりとでいい。言ってみろ」


タナトスの質問にミズキは目を細めてうんと唸る。

その様子をシャウは遠くから見て、ミズキは本当に真面目だなと思ってしまう。

そしてポメラはシャウも普段あれだけ真面目でいてくれたら、と横目に視ていた。

問いかけられていたミズキは数秒考えた後、できるだけ早く答えようと口を開く。


「利点は扱いやすさですね。扱いやすいからこそ料理でも同じ長さのものは使われていますし、そういうことなんでしょう。欠点は扱いやすさ(ゆえ)のリーチの足りなさ、と言ったところでしょうか」


ひとまずでも答えれたことが嬉しいのか、なぜかちょっとミズキは自慢気な笑みを浮かべていた。

そんな彼女の模範的である短い解答に、タナトスは一度頷いてから話し出した。


「とりあえずの答え方としては問題ないな。だが、残念ながら利点も欠点はもっと多くある。まず欠点から話すと武器との打ち合いになったとき、他の武器と比べて相当の技術と力を要求されてしまうことだ。受け流すにしても武器自体の刃は短すぎるし、弾くにしても短剣の類は軽すぎる。武器が軽いと、それだけ衝撃を受けたとき腕に負担がかかるんだ。この点に関してはスイセンはよく訓練されている」


そう言いながらタナトスは手元で短剣を器用に扱いだして、手遊びのように回し始めた。

時折、刃が指に触れているように見えるが、どうも両刃の短剣じゃないらしく刃になっていない方を上手く触れているようだった。


「他にも欠点はある。刃の長さの関係上、不意を突かなければ決定打は与えづらいし防御として扱うには不出来過ぎる。更に正面堂々と使うには他の武器と比べて体術に明らかに差がついていなければいけなかったり、使える状況が限定されやすいことがある。と、欠点は他にもあるが目立つ欠点はこれくらいだな」


「なるほど、何となくですが分かりました」


「そうか。それで次に利点だな。利点は扱いやすさもあるが短剣の利点は全てこれに尽きる。ずばり、この刃の短さと軽さだ」


このタナトスの言葉にミズキはつい顔をしかめた。

当然かも知れない。

利点をあげる前置きで散々欠点を口にされたものだから、刃の短さと軽さが良いんですよ、と言われても出来の悪い売り文句を聞かされている気分になってしまう。

ただタナトスはそんな彼女の反応が分かっていたようで、少し嫌味を含めた笑顔で説明を続ける。


「いいか、まず刃が短ければそれだけ体術に組み込めやすい。例えば長剣でもできなくはないが相手を投げながら切りつけたり、殴打と共に切ることができる。それに刃が邪魔にならない分、動きさえ体が覚えていれば充分に体術と共に短剣の利点を発揮できるんだ。それと、それに合わせて手数も増やしやすい。他の武器と違って数多く持ちやすい分、投擲(とうてき)することでリーチという欠点はカバーできるし不意をつくのが容易だ。そして欠点で使える状況が限定されやすいとは言ったが、その限定された状況では飛び抜けて脅威的な力を発揮できる」


一気に多くのことをタナトスは話しながら、短剣を手元で遊ぶ真似はやめて説明を続けた。


「他にも利点は尽きないほどあるが、全ての武器において共通のことを先に言っておこう。いいか、武器の欠点はただの欠点じゃない。欠点を如何にカバーするかというのもいいが、一番は欠点を利点に変えてみせることだ。だから俺はあえて短剣の欠点を先に口にし、それから利点を説明した。刃の短さは欠点であり最大の利点だ。軽さも欠点であり、最大限に活かせる利点の一つだ。こういうことを知っているかどうかだけでも武器一つで戦術に幅ができる。そして武器が二つ扱えれば、そこからまさに無限大の戦術へと広げることが可能だ」


タナトスはそう言いながらシャウの三節棍、ポメラのモーニングスター、スイセンの短剣と順に視線を移した。

それから他の人たちがどのような戦術を武器にしているのか、ミズキに分かりやすいように教える。


「だからシャウは戦術を広げるために長棒へと変形できる三節焜を扱い、ポメラは鎖で調整できるモーニングスター、スイセンは短剣を主体とした多くの道具を使っている。それと体術か。ということでだミズキ。話が一転二転するようで悪いが、時間が無いため、お前はこれから積極的に短剣と体術のレベルを上げていかないとならない。この二つならスイセンも教えやすいだろうからな。まずはこの短剣を持っておけ。とにかく実践で使ってみないと話にならない。全ては経験がものを言うからな」


一通りの説明をタナトスは言い切ってからミズキに短剣を差し出した。

ミズキは渡された短剣をちょっと仰々しく受け取っては懐にへと大切にしまい込み、早速取り出しやすいように調整するのだった。

タナトスはその様子を見守りながらも、下ろしていた腰を上げて立ち上がった。


「じゃあ、ひとまずはここまでだ。あとは、また落ち着いた時に少しずつ話そう。まずは医薬の街アスクレピオスに向かわないとな」


「分かりました」


ある程度ミズキとタナトスが話し終えた所で、五人は小休憩をやめて再び下山を開始する。

とは言っても、もうすでにほんの数分で広大な草原へと出て足を着けるところだ。

ポメラを先頭に歩き、二番目にタナトスとミズキ、三番目にスイセン、四番目にシャウと自然とスイセンを警戒している隊列だった。

そして鉱山の町レイアから出て数時間歩き続けた後、五人はようやく下山を終えて視界いっぱいに広がる草原へと出た。

草原は地面になだらかな高低差があり、無骨な岩がごろごろと転がっている平凡な光景だ。

でも、その代わり映えしない光景を目にしてシャウが一番に歓喜の声をあげた。


「うーん!ようやく山を終えたね!歩き慣れた傾斜でも歩くのはすっごく大変だよ!ねぇ、ポメラ師匠!……師匠?」


一度目の呼びかけに反応が無かったため、シャウは二度もポメラの名前を呼びかけた。

それから間もなくだ。

先頭に立っていたポメラが緊張の面持ちで、焦りの表情をみせて振り返ったのは。


「まずい。どういうことか分からんが、待ち伏せをされておる…!姿が見えんのに人間の臭いがする。何者が潜んでいるのか分からんが、全員気をつけろ…!」


まさに突然の警告で予想外の事態だ。

このポメラの言葉により全員が辺り警戒したとき、まるで太陽がより強い日光を発したかのように光りが一瞬だけ増した。

そのことに一番に気がついたのはタナトスで反射的に大声をあげる。


「全員(かが)め!」


彼の咄嗟の叫びで危険を察知し、すぐに全員は姿勢を落として屈む。

それと同時一筋の閃光が宙を舞っては、空気を鋭く切り裂く音が鳴った。

続けて近くの地面には斬られた大きな傷跡ができていて、五人は攻撃を仕掛けられたことを理解する。

斬撃の跡を見るに、もし屈んで無ければ全員の首が()ね飛ばされていただろう。

明らかに殺意のある攻撃行為だ。

そしてすぐに、タナトスとシャウとミズキは何者による攻撃か悟る。

この三人がすぐ分かった理由は他でもない。

つい数日前に同じ現象を目にしているからだ。


「あらあら、相変わらず素晴らしい反応ねぇ。ここまで奇襲を回避されると、自信を無くしちゃいそうだわ」


澄んでいるが、どこかミステリアスさが込められた女性の声が聴こえてきた。

その声と共に、草原にあった岩陰から一人の女性が余裕ある動作で悠然と姿を現す。

独特な装束を身にまとっていて、袖の短い白衣に赤い(はかま)

更に青いマントを羽織って、黒色の厚い革のグローブを着けている女性だ。

身長はミズキよりは高くて綺麗な体つきに長い金髪で、妖艶さがある目は鮮やかな深緑色で手には長い横笛が握られていた。

世間に疎いタナトスにですら見覚えがある姿で、国王が暗殺された主要都市リール街で一度接触している。

そして接触したことがあるからこそミズキは恐怖を思い出して戦慄し、声にならない嫌な予感を覚えた。

こうして全員が警戒する中、一番にポメラがその女性を厳しい口調で呼びかけた。


「まさか、お主がいきなり仕掛けてくるとはな。どういうつもりじゃ、奇跡の勇者!」


奇跡の勇者と呼ばれた青いマントを羽織った巫女装束の長い金髪の女性は、多くの者に敵意を向けられても不敵に微笑んだ。


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