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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・前編
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新たな目的、そして新たな目的地へ

タナトスはシャウと朝食と組手を済ませて、二人揃ってポメラの家へと集合する。

そして玄関を開けてリビングへと目をやれば、すでにミズキ、ポメラ、スイセンと全員が集まっていた。

まず最初にポメラはシャウへと視線をやって、容態を確認した。


「シャウよ。体調は万全じゃな?」


「うん!タナトスと組手してきたけど、体の異常は特になかったからね。問題なく活動できるよ!」


「それなら安心じゃ。では、早速本題に入ろうじゃないか。今日中に動き出させねば間に合わんからな。時間が惜しい」


そう言ってポメラは次にスイセンへ視線を送るため、自然と全員の視線がスイセンに向けられる。

しかし視線に気づきながらも、スイセンは丸い顔をしてのんびりとした表情のままだった。

好ましくない態度だがポメラは気にせず、まずスイセンに大前提となることを問いかけた。


「スイセン、お主はすでにミズキから聞いておるだろうが、これから私とシャウはお主含めて護衛する立場として動く。そのことに関して不満はないな?」


「っくひひ、大丈夫ですよぉ。ミズキお姉ちゃんの言うことはしっかりと聞くつもりですからぁ」


「そうか。では、その見返りというわけではないが、護衛する以上こちらの命令を聞くこと。それと協力的であること。この二つは守って貰いたい。いいな?」


ポメラは細かくスイセンに確認の言葉を投げかける。

重要なことだから当然かもしれないが、大切なことだ。

ここに来て勝手な認識で話を進めるわけにもいかないし、時間が惜しいと言っても手間は省けない。

そしてポメラの二度目の確認に、スイセンは頷いて了承した。


「現時点ではそれで問題無しですねぇ。いいですよ、受け入れますぅ」


「よし。では次だ。今の私の言葉を了承した以上、まず大事な質問に答えて貰いたい。お主に暗殺の命令を下したのは誰じゃ?」


「残念ながら分かりません。直接くだされた訳じゃないので。だいたい命令は二回くらい仲介を挟んで伝わってくるんですよぉ。おそらく、反抗組織のリーダーからだとは思いますけどぉ」


「そうか。まぁそのことは予想通りではある。では次じゃ。お主が所属している組織の本拠地、また拠点としている場所はどこじゃ?」


このポメラの質問にスイセンは悩む表情を浮かべた。

答えたくないという素振りではなく、普通にどう答えればいいのかと悩んでいるようにタナトス達には見えた。

そしてしばらくスイセンは唸ってから説明を始めた。


「私が知る限り、本拠地という本拠地は無いんですよねぇ。ただ代わりに各地に拠点が点在していて、そこが仮本拠地になると言った感じです」


ここまでスイセンが話した所で、タナトスは難しい顔をした。

この反応にポメラは気づき、タナトスに発言を促す言葉をかける。


「気難しい顔をしてどうしたんじゃ、タナトス」


「いや、勝手に話を進めてもらっていて悪いんだが、今更一ついいか?スイセンが所属している組織とか、実はいまいちよく分かってないんだが。誰かからの依頼を受けて暗殺を遂行していたってのは、何となく理解している。でも、どうもポメラ達と比べて俺の中の情報量が少なく感じるのだが、気のせいでは無いな?」


「そう……じゃな。まずは情報の共有が必要か。では話が前後するようで悪いが、一つずつ整理しよう。最初に知っておくべきことは…そうじゃな。どうして王様が謀殺された、かじゃ」


ポメラはそう言うと、紙とペンを取り出して机に広げた。

そして紙に適当に文字と記号を描き、説明を交えながら簡易的な図式をペンで示していく。


「王様はな、魔王を討伐を終えてからの二年間、内政において精力的に活動して心血を注いでいた。それは時には正しくとも強引な方法であり、重ねた審査や慎重な審決を経ずに(おこな)ったこともある。結果、王様は城内や貴族に多くの敵を作ってしまった」


「それが原因だと?」


「いや、そうではない。これは一部の敵に過ぎん。問題はスイセンの所属している組織じゃ。王様は多くの政策を施行している中、一つだけ国民だけではなく、貴族達にすら一部の者しか知らない施行をしているものがあったんじゃ」


ポメラがそこまで言ったとき、シャウが眉を潜めた。

そしてシャウは戸惑いながらもポメラに声をかけた。


「ポメラ師匠、それ……言っちゃっていいの?」


「スイセンも知っているようじゃからな。今更、隠す必要もない。……それでじゃ、極秘の政策というのは、一部の魔物と貿易を(おこな)うというものなんじゃよ。魔界大陸の資源はこちらでは全く入手できるものではなく、貴重というレベルではないからな。だから、魔界大陸の資源をこちらに送る代わりに、こちらは一部の魔物を支援するというものなんじゃ」


タナトスはこのことを全く知らなかった。

だから純粋な驚きもあり、信じがたい気持ちもあった。

それでもポメラが言う限り事実なんだろうと、受け入れるしかない。


「なぜ、お前とシャウはそのことを知っているんだ?」


タナトスのこの質問に、ポメラは淡々と答える。


「これは私とシャウだけではない。全勇者共通の情報じゃ。もし魔物が反抗の意思を見せたとき、全勇者で対抗するようにと王様に言われておったからな。つまり全勇者の了解のもと、魔物との貿易という極秘に政策は行われていた」


「それは…なんというか意外な話だな」


「そうじゃろうて。勇者は本来、魔王を倒すための存在じゃ。だから人間と魔物の架け橋のために活動するのは、誰の想像もつかないじゃろう。それで、問題はこの政策」


ポメラは紙にいくつもの印を書き始めた。

それは全て円形で、魔物という文字に対して矢印を引いてはバツ印を付け加える。


「タナトスよ。多くの人間が魔物によって身内を失っているのは分かるな?」


「…まぁそれはな。ミズキもシャウも、魔物で両親を失ったと聞いている」


「そうか、それなら話が早い。では、その身内を失った者たちが、魔物と貿易をしていると知ったらどうなるか、容易に想像がつくじゃろう」


さすがにそれはタナトスには簡単に想像ができた。

そもそもこれまでのスイセンの発言で、どれだけ魔物を憎く思っていて、それが原動力と言わんばかりの言動と行動をみせていた。

だから分かってしまう。

どうして人間の王が命を狙われて、何者に狙われていたのか。

そのことを理解する時間を与えられたタナトスは黙ることしかできず、ポメラは話を続けた。


「どこで情報が漏洩したのか分からんが、そういう者達が貿易の情報を得た結果が現状じゃ。何者かがリーダーとなり、過激な反抗派として組織されて活動している。その手先の一人がスイセンってわけじゃな」


「……なるほど、だいたいは分かった。つまりは意地でも魔物と繋がりを持ちたく無い者達が王を敵対視して、暗殺を謀ったわけか。そして問題は暗殺だけには収まらないと」


「そうじゃな。王様を暗殺した今、近々反抗組織も大胆に行動を仕掛けてくるじゃろう。ただ今は偶然にも、見ず知らずの事情も知らぬタナトスが暗殺したことになっている。だからまずはお主を利用して隠れ(みの)とし、一旦事態が収束してから、かく乱を狙ったテロをするはずじゃ。いや、はずではなく間違いなく仕掛けてくる」


「そうか…。結局は俺やスイセン、ミズキが捕縛されるかどうかで、これからの事態が変化するってことか。事情はおおよそ分かった。なら当面の目的としては、その反抗組織のリーダーを捕縛しないといけないわけだな。じゃあ、どうやって反抗組織のリーダーとやらの足取りを掴めばいい?捕縛するにしろ、話し合うにしろ、アクションを起こすにはまずは会わないといけないだろ」


ここでポメラに代わり、シャウが手を上げて発言する。


「それはさっきポメラ師匠とスイセンが話していた続きになるね。本拠地と言ったものはないようだから、スイセンから知っている限りの反抗組織の拠点を教えて貰い、しらみ潰しに調べていく。それが確実で一番の方法になるかな」


「そういうことじゃ。それでは話を戻そうか。スイセンよ、まず一番近いところで拠点となる場所はどこじゃ?」


ポメラは真剣な眼差しと口調で、スイセンに問いかけた。

するとスイセンは少し悩み、まだ完全に味方することに躊躇いがあるのか悩んでしまう。

しかし間が開いたのは、ほんの数秒。

わずかの沈黙の時間が流れてから、スイセンは目を伏しがちにゆっくりと答えた。


「ここで一番近いのはリール街、そして次に近いのは医薬の街アスクレピオスになりますねぇ…」


タナトスは地理に詳しくないため、街の名前を言われてもピンと来なかった。

そのことを分かってか、大陸中を旅したことあるシャウが説明するように話しだした。


「今は絶対にリール街は近寄れないから後回しとして、医薬の街アスクレピオスかぁ。ここからだと歩いて四日もかからないね。何事もなく直行できれば三日あれば充分か、それくらいか。うん、おっけー。じゃあ決まったね。次に行くのは医薬の街アスクレピオス!私が行くと私が大変だけど、行こうか!」


このシャウの発言に首を傾げたのはミズキだった。

どうしてシャウが大変になるのかすぐには分からず、さり気なくポメラに質問する。


「ポメラさん、なぜ医薬の街アスクレピオスにシャウさんが行くと大変なんですか?」


「なんじゃ?ミズキよ、アスクレピオスに行ったことがないのか?医薬の街アスクレピオスはな、医療が発達しておるからのう。だからそこには患者が集まることが多いんじゃよ。なんてことない風邪でも、アスクレピオスまで足を運ぶこともよくある話じゃ。だから治癒の能力を持つシャウは引っ張りだこになるわけじゃな」


「確かに、シャウさんの治癒は凄いですからね…」


ポメラの説明で、ミズキとタナトスは何となくシャウがあれこれと連れ回させられる光景が目に浮かんだ。

医薬の街アスクレピオスに限らず、シャウの治癒の能力を知っていれば他の街でも充分に活躍できる代物だ。

昨日のように寝込んでもいない限り、どこでも引っ張りだこにされてもおかしくない。

そして目的も目的地も決まり、タナトスは確認するように口を開いた。


「では、目的は王の暗殺を謀った反抗組織のリーダーの捕縛。そしてリーダーの足取りを掴むために、反抗組織の拠点の調査でいいな。それから、最初の目的地は医薬の街アスクレピオス。俺はこの街について無知に等しいから、また旅路の途中で説明でも聞こうか。では準備を終え次第、鉱山の街レイアを出発だ!」


「おおー!」


タナトスの言葉にシャウ以外は小さく頷いて普通の声量で返事をするが、シャウがあまりにも元気よく返事をしたため他の人の声は掻き消えてしまった。

相分からずの元気だと、タナトスとポメラは嬉しそうに苦笑する。

それから全員は旅の支度を始め出すとき、スイセンはミズキに静かに声をかけた。


「ミズキお姉ちゃん…」


「え?どうしたのスイセン」


ミズキは普通に言葉を返した。

しかし話しかけてきた割にはスイセンはどこか迷った表情で、口元をかすかに動かすだけで言葉を発さない。

そしてすぐにスイセンは首を横に振って、(はかな)い笑顔を浮かべて言った。


「うぅん、やっぱり何でもない……」


「………」


僅かな沈黙。

すると突然、ミズキは優しくスイセンを抱きしめた。

スイセンが何を言いたいのか分からないが、ミズキはスイセンの心情を察することはできる。

それは姉妹だからか、長年を共にしてきた家族だからか、不明だ。

ただミズキは小さく、心落ち着く声で囁いた。


「大丈夫だよ、スイセン…。私だけじゃなく、みんなが味方だから…」


「うん…」


一瞬に等しい時間だけ、スイセンは幼い妹のようにして頷いた。

その表情はタナトスやポメラは見たことない、一人の少女としての表情だ。

そしてあまり目立たないようにすぐにミズキはスイセンから離れて、笑顔で言葉をかけた。


「さぁ、準備しようかスイセン」


「うん、ミズキお姉ちゃん……」


二人が姉妹の気持ちを確認したとき、シャウがミズキを呼んで、ミズキは元気よく返事をしてスイセンから離れていく。

そんな離れていくミズキの背中をスイセンは見つめて、小さく手を伸ばしてはすぐに胸元へと握りこぶしを作って、強く意思を確認するようにして呟いた。


「ミズキお姉ちゃんは私が守るから…。何があっても絶対に……」


決意を固めた燃え上がるような瞳。

スイセンはその確固たる意思を胸に準備に取り掛かるのだった。

そうしてこのとき、全員は目的を頭に次の街のことを考えていた。

しかし全員、何一つ分かっていなかった。

全土を敵に回して逃亡しながら目的を達することが、如何(いか)に難しいのか。

それは一番思慮深いポメラでも遥かに想像を超えるもので、すぐに全員思い知ることになる。

この旅は、何一つ失わずに達することは不可能なものだと。


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