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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・前編
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鉱山の騒動を終えて

「それで、言い訳はあるんじゃろうな」


タナトスとスイセンがポメラの家に戻ったとき、ポメラのまず最初に放った第一声は、厳しい口調による問い詰めのものだった。

言い責められると分かっていても、やはりあまり気分が良いものではない。

スイセンとタナトスは床に正座し、しおらしく頷くしなかった。


「まずタナトスよ。お主は、なぜスイセンをすぐに連れ戻さなかった?」


「はい、えーっとだな。そう、俺って結構強情な奴に弱いらしくてな。少し押されるとそのまま意見に乗る悪い癖があるようで、だからその………はい、すみません」


何とか弁解しようとするも、うまくタナトスは言葉にできず、最終的には謝罪の言葉で締めてしまう。

そのことにポメラは深い溜め息を吐いては、次にスイセンの方へ向いて、更に凍てついた視線で見下ろす。


「では、スイセン。お主はどういうつもりだったんじゃ。何か狙いが無ければ外に出ようとせぬはず。つまり外と連絡を取ったり、脱走の機会を伺ったんじゃろ。いや、そもそも私が甘かったな。こんなことなら、厳重に縛り付けて置いた方がよかったか」


「んー、ポメラさん、違いますよぉ。私は別にそんなつもりは無かったですから。あー、そうですねぇ。…そうそう、ちょっとタナトス君とデートしたかっただけですよぉ。あとついでに外の散歩をしたかった気分ですからぁ」


「そんな言葉、信じられると思っておるのか?」


「うーん、理由は信じなくても結構ですけどぉ、特に何もしてないのは本当ですよ。そこだけはミズキお姉ちゃんに誓っても良いくらいですぅ」


ここでミズキを引き合いに出すと、自然とミズキも巻き込まれる形となる。

ただ、ポメラから見てもスイセンが如何(いか)にミズキに対して家族愛を抱いているのか分かるため、嘘というわけではなさそうだった。

もはや何を口にしても、安っぽい言い訳しか出ないだろうとポメラは更に大きく溜め息を吐く。

そして最後に、一言だけ伝えたいことだけを言葉にした。


「いいか、お主ら。事態は深刻で何事も慎重に選択していかないといけないんじゃ。特にタナトスとスイセン、お主らは今回の出来事の主格と言ってもいい。だから頼むから、できるだけ大人しくして欲しいんじゃよ」


「わ、分かったポメラ。今回のことは本当に悪かったと思う。だからそんな犬耳と尻尾をへたれさせるな。充分に申し訳ない気持ちは湧いたから…!」


タナトスが謝罪の言葉を続けて言ったとき、一歩離れて見守っていたミズキも言葉を挟んだ。


「すみません、ポメラさん。今回のことに関しては私にも責任があります。だから、どうか許してあげてくれないでしょうか」


「……はぁ、もうよい。反省してこれ以上、何もしないと言うのなら、説教をする必要もないからのう。ただし、スイセンだけは個室で監禁させてもらうぞ」


「はぁい。まぁ、充分に外出れたんで構わないですけどぉ。ごめんねぇミズキお姉ちゃん、あとタナトス君も今日はありがとうねぇ。楽しかった」


スイセンはそう言っては、今日初めての笑顔を僅かにだがタナトスに対して表情に浮かべた。

その柔らかな笑顔にタナトスは軽い微笑みで返すと、その間にポメラはスイセンの手を強引に引いて連れて行こうとする。

するとスイセンとポメラがリビングから出ていく直前、スイセンはミズキに話しかけた。


「そうだ、ミズキお姉ちゃん。お土産(みあげ)あげるね。もみあげじゃないよ。じゃあねぇ」


「え、あ…スイセン。これ…」


すれ違い様に、スイセンはミズキに小さな石を手渡した。

その石は深緑色で透き通った綺麗な石で、一種の宝石だとタナトスとミズキには一目で分かった。

そして更にタナトスには、知らぬうちに鉱山で拾ったものだと察しがつく代物だった。

それからスイセンはウインクしてリビングから連れ去られて行き、ポメラ共いなくなってからミズキはタナトスに話かけた。


「すみません、タナトスさん。妹が迷惑をかけてしまって…」


「ん、あぁ。暗殺に比べたら大した迷惑じゃねえよ。それよりスイセンの奴、いつのまにそんなものを取っていたんだな」


「あぁ、これですか…」


そう言ってミズキは、去り際に手渡さられた深緑の宝石を上にかがけて光りを当てた。

すると綺麗に輝きが屈折をみせて、緑色が辺りに散って透明さをより際立たせてみせる。

その美しい輝きをミズキは青い瞳の中に映し込みながら、タナトスにどうしたのか聞いてみた。


「この宝石、どうしたんですか?」


「さぁな、俺もよく知らないが、鉱山に寄ったから多分その時に拾ったんだろう」


「鉱山?なぜ鉱山に?」


「……ミズキになら、ある程度話しても平気か。いや、鉱山に魔物が出てな。それでスイセンが放っておけないって言って討伐したんだ。正義感が強くて困ったもんだぜ」


そう、正義感。

スイセンの中には正義感が確かにあって、それは歪みに近いものを持っているがとても強いものだ。

だから暗殺なんて道を選んでいる。


「でも、タナトスさんも結構正義感はお強いですよね。だって魔王を倒したんですから。正義感がとっても強くないとできませんよ!」


「そう…だろうか。確かに普通ならそうなんだろうが、俺は……ちょっと普通の人とは事情が違ったからな。それに俺は頼まれて魔王を倒したに過ぎない」


「頼まれた?誰にですか?」


「……親にだ。親が、魔王を殺してくれって言って…、それで俺は散々悩んだ挙句、剣を手にとって殺したんだ。俺の親は気高く、誰よりも強く、憧れの存在だった。だから、できることはしてきたし、してやりたいと思った。でも……いや、だからこそ、魔王を殺すことには大きな迷いがあった」


「どういうことですか…?」


タナトスの遠まわしな発言に、ミズキは当然の質問をぶつける。

けれど、その質問はタナトスには厳しいものがあった。

それはタナトスが次に大きく深い溜め息を吐くから、ミズキでも本当は口にするだけでも辛い気持ちなんだと、本当に何となくではあったが分かるものがあった。


「さぁ…な。二年前とはいえ、昔のことだ。もう、どうして迷ったのか忘れてしまった。ただ今でも、魔王を殺した後の気持ちは今でも忘れられない。忘れてはいけないと思ってる。……悪いな、いきなり何だか気持ちが落ちた様子になっちまって」


「い、いえ…。私の失言だった気もしますので……お気になさらずに」


このあと、二人は極端に口数を少なくして、タナトスは静かに宿屋に戻るのだった。

その戻るときのタナトスの後ろ姿はとても寂しそうにミズキの瞳には映り、辛いことを思い出したような表情をミズキは忘れることができなかった。

ノスタルジックとは明らかに違う、複雑な想い。

それがタナトスの胸中にあった。

そしてポメラの家から出た後のことだ。

タナトスが感傷に浸り、誰にも見られないでひと筋の涙をこぼしたのは。



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