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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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大胆不敵な潜入術

魔王幹部二体を仲間に加えたシャウ達は瞬間転移と徒歩で移動を続け、短時間で『憤怒と影の国』の主要都市へ近づきつつあった。

その道中でもクロックによる時間操作は役に立ち、誰かがミズキを背負ってミズキ以外の時間を早めながら移動するという小細工は非常に便利で、これが理想的な時間短縮に繋がった。

おかげで疾走しても数日はかかる距離を半日足らずで済ませることができ、現状タイムリミットの問題を心配する必要性が薄くなる。

だが、そろそろ主要都市が視界に入るであろう距離にまで差し迫った頃のことだ。

壮観なる建物と防壁を眼にした途端、シャウは唖然として立ち止まってしまう。


「うえぇ、なにこれ?他の国と比べて防備の規模が段違い過ぎない?もう眺めているだけで頭がおかしくなりそうなんだけど」


「確かにこれは凄いですね……。どれほどの年月を費やしたら建築できるのかも私には想像できません…」


誰が見ても、この国における堅牢な防御態勢の異常性が一目で分かる。

まず国家同士の戦争となれば、一方が主要都市部にまで攻め込まれた時点で勝敗は決定的になる。

なぜなら都市内部に戦火が及べば多くの機関は停止状態へ陥り、国の生命線を脅かされたら軍備以前の問題へ発展してしまうからだ。

だから、第三者からすれば最終防衛ラインを破られた瞬間に敗北を受け入れるのが得策であり、なるべく都市に直接的な被害を出さない方が復興の都合を上手くつけやすくなる。


しかし彼女達の目に映る光景は異様だった。

都市を守る建造物は砦という生易しいものでは無く、高くそびえ立つ鋼鉄の超巨大要塞なのだ。

しかも恐ろしい事に、都市に隣接する間合いで巨大要塞が複数存在している。

それだけで大勢の兵士を配備させておかないと最大限に機能しない防衛拠点なのは確実で、その要塞の群れさえあれば戦局を覆させる事も容易なはず。

仮に維持コストの関係があったとしても、国内の最前線に配備すべき戦力であるのは想像が容易(たやす)い。

まして、いくら主要都市を完全防備するためだと考えても合理的じゃなければ戦略的でも無い馬鹿げた規模だ。

まさしく異常の他に言い表しようが無いわけで、驚くばかりの彼女達に向けてカオスは説明した。


「驚く気持ちは分かりますよ。でも、これらの大部分は、おーとめぇしょん()されていますからねー。だから都市の防衛に必要なのは運用する兵士より、点検する技術者や業者なわけですよ。あと資源さえあれば保てる感じです」


「うん……なんと言うか、とりあえず凄いのは見た目で分かったよ。規模だけに限らず、そういう技術が私の想像を遥かに超えていたって思い知らされた。それでどこを通れば都市内に入れるの?」


「最低でも要塞内の正規ルートを通る必要がありますねー。それ以外の方法で侵入するものなら、絶対に感知されて即排除されます」


「なら打つ手無しじゃない?こんなの陽動でどうこうできる雰囲気じゃないしさ」


「安心して下さい!どんなに厳重でも抜け道はありますし、そのための私です!何にしても最初は大騒ぎが必要ですけど!」


見渡せないほど膨大かつ複雑な防備に対して、いくら内部情報に精通していると言っても幼いカオスの思いつきは心もとない。

それでも揉めている時間すら惜しく、どれだけ不安でも実行するしかないのがシャウ達の置かれている立場だ。


「さぁ、クロック。私達の出番よ」


早速、氷絶帝フレーレティと時元帝クロックが派手に暴動を起こす。

ただし被害を最小限に留めるという事前の言いつけを守る余裕は作れず、容赦ない能力の使い方を余儀なくされた。

それだけ防備の規模が生半可では無いほど広大で、堅牢にして強固だったからだ。

要塞一つを丸ごと氷漬けにする事でようやく相手に動揺を与えたと確認できる程度であり、魔王幹部達はわざと姿を晒すことで注目を集め続けた。


「色とりどりの花火で華やかに歓迎してくれているわね。今度は楽しめそうだわ」


「僕たちにそんなこと言ってる余裕あるかなぁ?すっごい騒音の数なんだけど」


魔王幹部が騒ぎを起こした途端、要塞からは数々の巨大機兵が出撃して襲い掛かり、大量の自動砲台が標的を排除しようと集中砲火を始めた。

さすがに数の暴力で襲われたら、強者である二体ですらまともに対抗するのは難しい。

宙を埋め尽くしかねないほど絶え間ない銃撃に小型追尾ミサイルの群れ。

更には不可視のレーザー光線や指向性音波攻撃など未知数の迎撃手段まで用いられた。

それら全てを二体は持ち前の身体能力と特殊能力だけで的確に掻い潜り、完全無人の箇所か退避可能になるよう器用に破壊していく。

炸裂する火柱と不規則に散り広がる輝き、そして鳴り響く爆音と黒い煙。


「目まぐるしいほど忙しい上に大げさ過ぎるわ。この様子だと足止めなんて意味無かったわね」


「そうやって無駄口を叩く余裕があるのは羨ましいよ。できるものなら手で両耳を塞ぎたい気分なのに」


「…あら、何か言ったかしら?」


様々な音が入り混じった騒音が凄まじいため、フレーレティはクロックの言葉を聞き取れなかった。

その間も一撃必殺に等しい集中砲火は続いているが、当たり前のように回避と防御を繰り返し続ける。

この有り得ない対応力をシャウ達は既に直接視認していなかったが、爆発音が続いているという情報だけで戦闘継続しているのは容易に察せた。


「私達ってさ、魔王の力ありきだったとは言え、あんな強敵相手に何度も生身で戦っていたんだね。今更の事ながら実感無いなぁ」


もし自分達が囮役だったら、『憤怒と影の国』の迎撃が始まった瞬間に攻め手の数で押し負けて全滅する。

だからこそシャウが本気で感心する一方、この騒動に紛れて自分達が潜んでいる場所にアカネは息苦しさを覚えて呟いた。


「あまり文句を言える状況で無いのは分かっているけれども、また荷物に紛れて潜むってどうなのよ。魔界大陸でも同じ方法で密航したわよね?」


彼女達は今、次々と運び込まれているコンテナ内に無理やり侵入することで警備が厳しい要塞内を通り抜けようとしていた。

本来ならコンテナは何が入っているのか何度もチェックされるが、不意の襲撃があったとなれば一時的に手順は省かれる。

とは言え、正しくはチェックが保留されているだけに過ぎず、そのまま要塞外まで素通りさせてくれるわけではない。

要は要塞内にある貨物専用の保管場所まで一度運ばれるのみで、騒動が落ち着けば再度チェックが行われてしまう。

つまりまだ潜入を完遂したとは言えないわけだが、ある程度内部に入り込めさえすれば、あとはカオスの思惑通りだ。


「さぁ、皆さん。混乱している内に移動しますよ」


カオスは貨物の避難所に着いた時点で指示を出し、一旦コンテナ内から抜け出した。

それから次はコンテナの影に潜みつつ、並んでいる貨物を急ぎ足で見渡していく。

するとサイン入りの張り紙が付けられた貨物を見つけるなり、今度はそのコンテナへ潜むよう促すのだった。


「ありました。確認済みサインが付いたコンテナです。あとは番号チェックだけですので、これに入れば都市内にまで侵入できますよ」


「さっすがカオスちゃん、内部に詳しいだけあるね。正直、期待以上だよ。まるで崖から隣の崖へ渡るような潜入方法で感心しちゃう」


「要塞内は広くても置き場所というのは有限ですからねー。しかも滅多に無い緊急時であるために、こうして確認済みと未確認が一旦入り混じっちゃうのは仕方ない事なんですよ」


そんな会話を小声で交えながらシャウ達は発見したコンテナ内を密かに開け、再び無理に押し込む形で入り込んでみせた。

それから間もなくして襲撃のせいで新たなコンテナが運び込まれて来て、やがては保管場所のスペースを空ける必要が出てくる。

そうなれば既に検査済みの貨物を都市内に運べば良いという判断になるのは必然の話だ。

あとは最後確認としてサイン付きの張り紙に書き出されている番号とコンテナ番号の照会が成されるのみで、すぐさまシャウ達が潜んでいるコンテナは運び出され始めた。

この運搬開始に気づき、ふと気になった事をユウが小声で訊いた。


「カオスさん。これって、どのタイミングで出ればいいのですか?」


「えっ?さぁ、どうなんでしょうね?物音がしなくなるまで待つとか?」


「そこまで律義に大人しく潜んでいたら窒息しそうなんですが…」


どうやらカオスは潜入する方法までは思いついても、その後の事はざっくりとしか考えていなかったようだ。

やはり彼女に全て一任して頼りきるのは無謀だったらしく、ユウは遅れながらも小さな焦りと不安の両方を抱いた。

ただユウのみならず仲間全員も含め、カオスより目先の事を心配すべきだった。

突如、激しい物音が近くで発生すると共にコンテナ内が陥没するほどの衝撃が襲い掛かったのだ。


「うわっ!やば……!」


それから明らかにコンテナが回転する衝撃を受け、全員が狭い空間で体を打ちつけ合ってしまう。

何が起きたのか具体的な事は全く分からないが、おそらく魔王幹部の攻撃に巻き込まれてしまったのだろう。

完全密閉という空間で乱雑な衝撃に振り回されるのは危険だが、頑丈な装甲を持つコンテナが外部からの脅威を守ってくれたのは事実だ。

そのおかげで多少の負傷はシャウの治癒で済ませられる程度であり、このまま留まっていられない事から彼女達は不本意ながら脱出しようとする。


「あっ。これはこれは…たぶん留め具が動いちゃいましたね。それか酷い歪み方でもしてしまったのか。とにかく、このままだと出られないのは確かですねー」


カオスはコンテナが内側から開かない事を口にする。

基本的にコンテナの開閉を許す留め具は外に備え付けられていて、外側からでしか開錠できない。

しかも自由に開閉できない原因が留め具以外だとしても、内側からでは手の施しようがないのに変わり無いのだ。

それでも彼女達であれば絶対に脱出不可能というわけでは無く、脱出方法が限られている事を悟ったアカネは道具を手に取った。


「なら破壊するしか無いわね。ミズキちゃん、透視とやらで外の様子は伺えそうかしら?」


「できます。………どうやら火災が発生しているようですね。煙だらけで視界が悪く、事態の収拾がつかずに混乱が広がっています」


「それじゃあ今の衝撃でコンテナが壊れてしまったとでも思って貰いましょう。いつも通り慎重かつ大胆に行くわよ」


アカネは暗闇の中で小さく微笑み、道具を使って光の刃を放つ。

軽々と機兵を穿ち抜いた能力だと考えたらコンテナの破壊など造作も無い。

あっさりと脱出できる穴を力技で作り出してみせ、予定とは少々異なるものの、彼女達は混乱に乗じて都市内部へ向かう。

すると当然ながら途中で大勢の兵士やら民間人とすれ違うが、魔王幹部という脅威が去っていないおかげでシャウ達を気にかける者はいなかった。

それからカオスは人通りが少ない通路へ案内してくれて、更には下水道を通り抜けたり人が越えるべきでは無いような高壁をよじ登ってまでする事で、ようやく彼女達は都市内にある民間区域へ潜入を果たした。


「あ~、なんかネズミになった気分だよ。こんな滅茶苦茶なルートで入り込むなんてさ」


ほのかに下水や煙、そして土臭さまでが服に染みついてシャウは顔をしかめていた。

もっと問題なのは、まだまだ更なる潜入が必要という事実で今度はウイルス研究施設に入り込まなければいけない。

そう思うと今は亡きスイセンが一番の適任だとシャウは思いながら言葉を続けた。


「それで今度はどこへ向かえば良いの?」


「ここはまだ外壁に近い市街地なので、次に中心部へ向かいますよ。それから地下通路を使って軍事都市に移動し、えぇっと……」


「…ねぇ、私の気のせいかな?なんか(いま)だ道のりが遠く聞こえるんだけど?」


「けっこう遠いですよ。この都市自体、元々は近辺にあった複数の街を統合して一つのまとめた広さですから」


「うぇえぇ……!?もしかして一概に都市内部と言っても、場合によっては街から街へ移動するような距離があったりするの!?」


「そうですね。もし都市内を一通り回るとなったら、それこそ十日間くらいは歩き回らなければいけない広さになりますかね」


さすがにカオスは住み慣れているからなのか、まるで当たり前のように言うがシャウ達にとっては相当厳しいものがある。

なにせ敵地同然の真っ只中を警戒しながら進むとなったら、どれだけの猶予時間があっても足りない。

まして都市内の移動だけで数日単位の時間を要する事を前提にされたら、それに伴って休息の時間も少なからず必要になってくる。

そのためシャウに限らず他の仲間も困った様子を露わにし、別の手段が用いなければいけないとアカネは感じて催促をかける。


「カオスちゃん。それだけ都市内が広いのなら、素早く移動できる何かがあるはずでしょう?そういう便利で不思議なカラクリを、私達は色んな国を回る度に見かけてきたわ」


「あるにはありますけど、人目につくことを考えたらオススメできませんね~」


「そう慎重にする事を最優先にしていたら本末転倒になってしまうわ。だからこそ、何とかしなければいけない」


とても抽象的な物言いではあるが、彼女は厳しく強い語気でカオスに言いつけた。

それでもカオスは渋る反応を示していて、すかさずユウが説得しようと立ち回った。


「私の大親友であるカオスさんが聡明で勇敢な所を見てみたいなぁ。けっこう期待しているんだけどなぁ」


酷く投げやりな煽り方で、誰が聞いても雑な期待の寄せ方だ。

しかし親友という単語がカオスを奮い立たせたらしく、急に純真さを丸出しにして胸を叩いてみせた。


「よし!それじゃあ、このカオスちゃんにお任せあれ!私、あまり運転に自信がありませんけど!」


「……ふぇ、運転?」


最初は戸惑い、次に後悔した時には手遅れだ。

カオスが選択した移動手段とは正規の交通機関を密かに利用するという生易しいものでは無く、彼女が運転して強引に突っ走るというもの。

また彼女は、少し待っていて欲しいとシャウ達に言い残してから数十秒足らずで四駆車を調達してきたのだ。

当然、彼女達が使う車はカオスが勝手に民間人から強奪したものであり、全員を乗せて車を走らせ出した頃には慎重に潜入した意味を無くさせていた。


「ねぇねぇ、こんなのおかしくない!?めっちゃくちゃなんだけど!」


見境なく爆走する車内でシャウは叫ぶ。

同乗者を一切気遣わないカオスの荒々しい運転だけでも絶叫に値するものだが、問題は追っ手が居るという事だ。

ぎりぎり何とか人々を()かずに道を進んでいるが、いつ建物や他の車に衝突しても不思議では無い。

ありえない駆動音を立て、異常な軌道で車を追い越し、建物の隙間を掻い潜る馬鹿げた運転。

今までの人生の中でも最悪な注目の集め方をしており、更に人生最悪な乗り心地だ。

爆速で乱暴に全身振り回さる感覚は乗り物酔いを誘うが、後方やら前方を見たら気分の状態を気にしている余裕など無く、各々で悲鳴をあげていた。


「ちょっとぶつかるって!いやいやこんなの死ぬって!あっ、ミズキちゃん大丈夫!?」


「な、なんとか……って、今車内に破片が飛び交いませんでしたか?」


「まるで車が吠えているな音ね。そしてこういう恐怖の感じ方は生まれて初めてな気がするわ」


「ふぅ~さすが親友のカオス。凄いなぁ感心するなぁ」


「さぁさぁ、皆さんは車外に吹き飛ばされないよう気を付けて下さいね!私の人生と運転にはブレーキという装置は備わっていませんので!」


一部若干乗り気な者がいるが、こうして追われながら無理に移動していたら車は限界が迎えるのは早い。

だが、どれだけの速度に加えて乱暴であってもアカネは優れた動体視力を発揮させ、それとなく能力を駆使する事で追っ手と障害物を最低限ながら払いのけていた。

ただこの暴走は他の車の運転を狂わせてしまい、どうしても必要以上の被害というのを彼女達は間接的ながら続出させてしまう。


「うわぁぁーごめんなさいごめんさない!あとで治癒しに行くから!菓子折りを持って謝りに行くから、とにかくごめんなさいー!」


明らかに派手な衝突じゃなくとも、車による負傷がどれくらいなのかシャウは知らないから涙目になって謝っていた。

そんな気負う彼女を慰めるようとしてなのか分からないが、カオスはハンドルを大げさに回転させながら大声をあげた。


「爆発さえしなければ大丈夫ですよ!もし車が何回も横転するような衝撃を受けても、打ち身で済むよう設計されていますから!」


「車は大丈夫でも、さすがに生身の人はぶつかったりしたら危ないよね!?」


「それは……もはや致し方無しです!」


「うわぁわぁああぁやっぱりごめんなさいぃー!!……っうぐへぇ…!」


シャウが必死になって謝罪の言葉を叫んでいる途中、車は小さな坂道を通った際に軽く宙へ飛んでしまう。

それから地面へ落ちた衝撃で全員が言い表し難い感覚に襲われて、上下に揺さぶられる衝撃で呻き声をあげる者がいた。

そのせいで後に残るのは酷い不快感。

けれど現状からして致命傷さえ負わなければ、それだけで幸運だ。

それぐらい安全性の保障は欠片ほども無いのは当然過ぎて、いずれ負傷することを覚悟しなければいけない。


「今度は連続ドリフトで、すぐにもっと大きく飛びますよ!」


「待って待て待て!これ以上は下手したら吐き……いや、漏らすかも…!ひぇえぇええええぇえぇ!!」


更に大きな浮遊感に襲われながら、窓から見える景色が一変する。

橋の上から飛んだと思うが、どこを通っているのか運転手以外は把握できていない。

そして急激な落下が起きていると分かっても、車内では受け身の取りようが無いため死を覚悟させた。

鈍く跳ねる音があらゆる箇所から聞こえた直後には道を走り出していて、次にカオスは迷いなく地下通路へ向かって突入しようとしている。

もちろん多数の一般人が付近に居て、暴走車に気づいた者は叫びながら驚き慌てていた。


「アカネさん!できたら目の前の棒を破壊して下さい!」


「はいはい、私に任せなさい」


さすがに地下通路は乗り物が通ることを想定していないらしく、開放されている出入り口には車の進入を阻むための鉄製ポールが備え付けられていた。

言うまでも無く安全を生み出すための物だが、あいにく今のカオス達にとっては障害物でしか無い。

だからアカネは能力を巧みに使って破壊すると共に、鉄片で車が破損しないよう弾き飛ばした。


「さすがです!そしてこれからは更に決死の想いを覚悟して下さいよ~!」


カオスは叫び声で警戒を呼びかけつつ、地下通路へ繋がる下り階段を車で走行させる。

それからは小刻みの衝撃と独特な走行音の連続だ。

もはや自分の脚で走った方がスムーズで安全だと思わせる移動が続き、間もなくして地下の狭い直進通路に通りかかる。

だが、日頃から多くの人が往来する場所となれば警備の手が回るのは早かった。

既に一般通行人のほとんどが退避させられていて、地下通路には防火シャッターが降り始めているのだ。

この事に気づくのは難しく無く、一度スピードが落ちた車内でミズキが声をあげる。


「前を塞がれていませんか!?このままだと激突しますよ!」


「この程度の壁なんて心配無用!鬼神の黒炎者からしたら大した障害じゃあ無いです!……祝福されし黒炎(ダークフレイム)の産声は終わりを()ぜ散り(しら)…」


癖なのか不明だが、カオスは魔法を発現させようとして普段の詠唱を始めてしまう。

しかし詠唱が終わるより早く衝突しそうで、ユウが厳しく指摘した。


「詠唱だか何だか知りませんけど、さっさと破壊しないと死にますって…!」


「えぇい!渦巻け黒の炎!」


まるでヤケクソのようにカオスは応え、悪魔化の力まで発揮させて車内から黒炎の魔法を放つ。

その強力無比の魔法は車より圧倒的に早い速度で地下通路を突き抜けていき、防火シャッターとやらを瞬く間に溶解させて何も無かったと思わせるほど完全消失させる。

それどころか新しい地下通路を作ってしまう威力であって、この事に気づいたカオスは同じ魔法を更にもう一度放った。


「終生の道連れを生誕させよ黒の炎!」


よほど急いでいるのかカオスは詠唱を大幅に省略させ、今度は黒炎で地上に続く角度が緩い坂道を作ってみせた。

確かに彼女が狙い通りに作った坂道ならば、無理に車で階段を駆け上がるよりは安全で迅速に出られるだろう。

しかし、それは比較したらの話に過ぎない。

結局は酷い乗り心地と衝撃に苛まれる上、通り抜けた先まで走行可能だとは限らなかった。


「やっば!」


「これは駄目ですねぇ…!」


限界までエンジンを可動させながら地上への脱出路を突き抜けた矢先、車は浮遊するなり何かにぶつかって激しく横転してしまう。

どうやら出た先が不幸にも建物内だったらしく、すぐ障害物に引っかかった車体は完全にコントロールが失われる。

どこかのガラスが割れ、また勢い余った暴走車によって多くの物体は陥没と破壊が繰り返されては破片が飛散する。


「きゃああ!」


「ミズキちゃ…、ひゃあ……っ!!?」


周囲の悲鳴をかき消すほどの激しい音が一帯に響き、要塞襲撃の騒動と相まって大きな混乱が広がっていく。

それから警備員らしき人物達が突如建物を破壊し尽くした車に接近するが、その時には車内に人影は見当たらず、注意深く調べても不自然な血痕しか残されていなかった。

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