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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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最強の戦力

「おっとと……、まさかの横断中でしたか。しかも相変わらず頭数多しって感じです」


カオスが道案内しているとき、偶然にも前方で『憤怒と影の国』の戦力が通りかかっている所を見かけた。

こちらに気づいている様子は無いため、このまま大人しく身を隠していればすぐに離れて行くだろう。

だが、運悪くも相手達と向かおうとしている方角が近いらしく、今やり過ごしたとして、また後で感づかれる危険性が付きまとう。

この事から思い切って先行した方が得策だとシャウは考え、ミズキに調子を尋ねた。


「ミズキちゃん。瞬間転移できる体力はありそう?」


「おそらく短距離なら問題無いと思います。その…、さっきは思い通りに使えなかったのが原因で強い疲労感に襲われた感覚でしたので」


「本当?なら危険を避けるために使っちゃおうか。ただし、もしもの場合を考えて緊急用の余力は常に残すこと!」


「まだ加減が難しいので、そこまでできるか不安ですが……。なんとかしてみせます」


そう言うなりミズキは静かに魔王の力を使い、瞬間転移で敵達より遥か前に進むという形で引き離した。

別に追って来ているわけでは無いから、無理して先を急がずとも相手が視認できる範囲内には入らないはずだ。

またミズキの負担も限りなく浅く済み、すぐに連続で使用可能なのが一目でうかがえた。


「ん~…。前と違って顔色が良いし、思っていたより大丈夫そうだね。瞬間転移そのものが強力だし、これなら下手に使用を控えない方が結果的に負担が軽く済むのかも」


「……ふぅ…。でも、何が起きるか分からない状況ですからね。それこそ前は突然街全体が氷漬けになりましたから」


「あ~、あれね。あれは本当にいきなりで酷かったよ。しかも全滅しかけたしさ」


二人が話しているのは『楽園と輝光の国』で氷絶帝フレーレティに襲われた事についてだ。

あの天変地異に巻き込まれたのは偶然の不幸としか言いようが無く、材料採取とも無関係に起きた災難だから余計に嫌な記憶として残っている。

しかしカオスはその騒動を知らないから、前へ歩き出しながら話に加わってきた。


「全滅?あのタナトス兄さんも居たんじゃないですか?」


「その時は別行動していたせいで、ちょっと出遅れた感じだね。それに本人が言うには満足に行動できないほど、かなり不調だったみたいだし」


「いくら不調でも強いでしょうし、大きな被害が出るとは思えない気もしますけどね~」


「普通はそうかもしれないけど、その時の相手は街全体を一瞬で氷漬けにする凄い能力の持ち主だったからね。要はタナトスでも一筋縄ではいかなかったわけ」


「そこまで強いなら個人的にちょっと見てみたいですね。どのような見た目のエルフなんですか?」


「あー、エルフじゃなくて………うぅん、一から十まで説明しないといけないから大変だなぁ」


何気ない会話の流れからして、シャウは律義に説明しようとする。

そんなとき、まさに誰にとっても不意な形で全員の後方から声をかける者がいた。


「いちいち説明する必要なんて無いわ。私がその凄い能力の持ち主だから」


どことなくアカネに似通った口調。

声色こそは明らかに違うが、それでも聞き覚えのある声で冷気が吹き抜けた気がした。

ある者達は驚き慌て、またある者は呑気な反応で後ろを振り返る。

するとシャウ達の眼前に立つのは、白銀の女狐である氷絶帝フレーレティと黒兎の時元帝クロックだった。

前回同様のみならず、魔界大陸での遭遇を含めたら予測できないタイミングでの登場であり鉢合わせだ。

これにシャウ達は厳しい表情で急ぎ身構えるが、相手二人は悠長な(たたず)まいで喋り出した。


「そこまで露骨に危険を覚える必要は無いわ。それとも、今は敵対する必要が無くなったと言った方が安心するかしら?」


まるで敵意が無い振る舞いに受け取れるが、全くもって理解し難い言葉を投げかけられただけだからシャウ達は警戒を解く気になれない。

そもそもフレーレティという魔物は常にのらりくらりとした態度だから、相手の調子に合わせて油断するわけにはいかない。

ただ一人カオスだけは状況を呑み込めずに居て、シャウ達に合わせて攻撃する姿勢を見せた方が良いのかと考えている最中だ。

そして一触即発な状況下であるのは確実で、かなり強気な姿勢でシャウが質問をなげかけた。


「私達に何か用なの?こう見えても貴女達に引き止められる暇が無いほど急いでいるんだよね」


現状フレーレティが敵対心を見せてないからと言って、普段は温厚な物腰で接する彼女でも心を許すわけにはいかなかった。

これによりフレーレティは嫌われたものねと隠さず呟き、一方でクロックが率先して仲を取り(つくろ)うように答える。


「いきなりでごめんね~。単刀直入に用件だけ言うと、君たちを手助けする事になったんだ。まぁ見返りってやつかな」


「いや、意味が分からないままなんだけど」


「んー…っと、ならタナトスに頼まれたって言った方が分かりやすいかな?瀕死だったフレーレティや僕のケガを治す事を条件に、この数日間だけミズキ達の援護してくれってさ。ちなみに昨日の朝のことね」


「昨日の朝か。それなら辻褄が合わないわけじゃないけど…、ねぇミズキちゃん。確かめる事ってできる?」


「……多分それくらいなら感覚共有で記憶を探れますよ。すぐ分かります」


そう言ってミズキは魔王の力を使い、あえて無防備のまま立っているクロックとフレーレティの記憶を一瞬のみ探った。

それによって彼女が垣間見た場面は、二人の前に急いでいる様子のタナトスが突如現れてケガを治療したものだった。

更に余程信用していないのか、彼は念のため始末する脅しまでかけて手助けするよう頼んだらしい。

きっとタナトスは自分が間に合わないことを想定し、咄嗟の思い付きで保険をかけておいたのだろう。


そんな恫喝した上での強引な頼み方ではあるものの、どうやらクロックとフレーレティは本気で手助けするつもりだというのが思考を読む事で理解できた。

単純に相手からしたら従う他ないのもあるが、同時にこの()いられた状況を(たの)しもうとする心意気が少なからず含まれている。

魔物らしい気まぐれさに加え、魔王幹部らしい豪胆っぷり、そして魔王と変わらない威圧感に惚れ込んでしまっているのが分かった。


「確かに事実みたいですけど、正しくは惚れた弱みっぽいですね。やはり人間とは価値観が違うのでしょうか。不思議な方々です」


「惚れた弱みって……、えぇ?なになに、タナトスの事が好きなわけ?」


シャウは愛情の一種だと解釈したが、その捉え方はとても人間の(めす)らしいとフレーレティは小さく嘲笑する。

しかし当たらずとも遠からずの推測であるのは事実で、やや曖昧な言葉で返してきた。


「好きは好きでも敬愛としての側面が強いわ。立派に自立している人間様には分からないでしょうけど、私のような魔物には圧倒的な強者に付き従う喜びと安心感があるのよね」


「ふぅん?どこまでも好き勝手を望むかと思えば、意外に献身性を秘めているんだね」


「そう意外な話でも無いわ。普段は自分の事を最優先にしていても、気まぐれで他者を優先するのは不思議な出来事じゃない。人間もそうでしょう?」


「そんな同意を求められても困るけど、ひとまず敵じゃないって認識で良いんだよね。さすがの私でも、これからよろしくって気軽な対応はできないけど」


「その方が良いわ。魔物と人間という立場である以上、その不仲を維持させて馴れ合わない方が自然なこと。そもそも貴女達に味方すると言っても、それはタナトスに従っているからに過ぎないもの」


つまりタナトス個人に協力していると言って、力を尽くしてあげるほどシャウ達の味方になった覚えは無いということ。

この線引きはややこしく、面倒な距離感を示すものだから不要な考え方に思えるかもしれない。

だが、まだ信頼し合える関係性では無いことから、お互いに一歩引いた関係を保っておくのは重要で無難だ。

そう納得した上で、シャウは他人行儀な態度で喋り出した。


「一応把握はしたよ。それで私達に同行するの?」


この質問にフレーレティとクロックは少し顔を見合わせた。

それから小声で短い密談をしてからクロックが答える。


「僕達はどっちでもいいけど、離れているのと近いのどっちがいい?」


「なるべく目の届く距離の方がいいかな」


「じゃあ不用意に近づき過ぎず、離れ過ぎずが妥当だね。まぁ護衛を頼まれているわけだから、武力行使が必要な時は遠慮なく言って欲しいかな。そっちの方が退屈しなくて済むし」


まるでビジネス関係のような成り立ち方だが、協力的な姿勢を示してくれている限り心強いのは間違いない。

そうして二体の魔王幹部、氷絶帝フレーレティと時元帝クロックがシャウ達と行動を共にする事となる。

正直、大陸全体に影響を与えられるような強者が二体も加わったのは相当の戦力増強だ。

魔具無しとは言え、おそらく並大抵の敵戦力など脅威にすらならないだろう。


この出来事に加えてミズキの瞬間転移やシャウの治癒術、アカネとユウの変幻自在な攻撃能力があれば余計な事さえしなければ安全だ。

更に『憤怒と影の国』に詳しい鬼神の黒炎者カオスまで居るから、脅威以外の細かな問題も処理できるだろう。

そう誰もが思う中、一筋縄ではいかない問題が発覚する。

発覚したのは最低限の挨拶を済ませ、改めて目的地の事を地図で確認した時だった。


「…ふぇ?皆さん、そこへ行くつもりだったんですか?」


都市部付近へ向かうとしか聞いてなかったカオスが呆気にとられた反応を示す。

これは予想外の反応であるし、本気で戸惑っているようにも見えた。

だからシャウ達は向かっている先に特殊な障害があるのかと遅れながら気づき、まずユウが問いかけた。


「今更ながら雲行きが怪しい反応しますね。何かあるの?」


「うぅーん、あるというか何というか……そこ一帯は生身で近寄れるような場所じゃないんですよねー。常に凶悪凶暴なウイルスが蔓延していますから!」


「ウイルス?えっと…、ウイルスって何です?」


「他の言い方をすると病原菌です。真っ赤な大木がありまして、その葉から有毒の菌が振り撒かれ続けているんですよ。国としても邪魔なので焼き払ったり地面に大量の塩水撒いて砂漠化させたのですが…、数日足らずで大地ごと再生していたらしいんですよねぇ」


彼女の説明を聞き、もしかしてと思ってシャウ達は探している材料の詳細をメモ書きから再確認する。

すると案の定、その赤い大木の葉が材料であるらしく、やはり時間操作で活動を促進させる必要があると理解できた。

活動促進させるとなれば、その場所に一定時間留まる必要が出てくるのは当然だ。

それによる問題視すべき点としては、ミズキの体内に有毒菌が入り込んで健康状態を維持できるのかどうかだ。

さすがに菌による被害はシャウの治癒術で解決できないし、武力行使した所で振り払える脅威じゃない。

まさしくシャウ達にとって最大の天敵であり、どの程度有害なのか把握する必要が出てきた。


「ねぇカオスちゃん。その菌ってどれくらい人体に有害なのか分かる?」


「けっこう厳しい上に自然治癒で治らない風邪を(わずら)ってしまうと聞いてますねー。でも長い付き合いですから本国には特効薬があって、それを時間かけて投与すれば完治します!」


「つまり手元に薬があった所で一度は高熱状態が続くってことかな。単なる風邪で済むとしても、今のミズキちゃんにとっては命取りだよね……」


「ん~、それならば都市内に侵入する他ないですね。ウイルス兵器というものを開発している研究施設で、サンプル用に何本か育てているはずですから。ただ変異型ばかりに改良されていて、オリジナルは一本だけだと思いますけど」


「よく分からないけど、主要都市に行けば手に入るって事だよね。でもカオスちゃんは指名手配されているだろうし、そう簡単に入り込めるものなの?私達だけが侵入しても研究施設なんて分からないしさ」


「さすがに今のままだと施設内まで同行するのは無理ですねー。アービス様が不在であろうと、より一層厳重警備されているのは当然ですし」


訊く前から難儀な問題だと分かっていたが、こうもはっきりと言うのなら隠密する手立てが全く無いのだろう。

ならば、やはり瞬間転移しか方法が無いのかと思い、シャウはミズキの様子を眺めながら呟いた。


「こうなっちゃうと、やっぱりミズキちゃん頼りになるのかな」


「あぁ……はい、魔王の力ですか。でも、その……私では建物内へ瞬間転移するのは無理ですよ」


「へ?どうして?」


「広々とした場所へ移動する分には問題無いのですが、建物内だと遠視や透視も兼ねた上で精密性が必要になりますから。そのため、気づいたら壁に埋まって即死する最悪の場合がありえます」


「えぇ…?そんな危険な移動方法だったんだ……」


「何にしても、自分達の脚で行ける潜入手段が必要だと思いますよ。それこそ派手な陽動ができると良いのかもしれませんが…」


そうミズキは言いつつ、一度街全体を氷漬けたにした張本人へ視線を向けた。

この視線送りに気づいたフレーレティは小さな溜め息をこぼし、彼女の意図を理解するなり仕方ないと言った仕草で受け応える。


「話半分にしか聞いて無かったけど、貴女達が何を言いたいのか分かったわ。また私が好き勝手に暴れればいいのね」


「フレーレティさん、できれば被害は最小限でお願いします。あくまで目的は材料採取であって脅威の排除ではありませんから」


「ワガママな注文ね。とは言え、そこまで注文通りに行動するかどうかは私が決めることだけども」


「………前のように配慮無く凍結能力を使われると、探している材料に悪影響が出てしまいます。もしそうなれば、タナトスとの約束を反故(ほご)する事と同然になるでしょうね」


「ふふふっ…、貴女って見た目に似合わず案外したたかなのね。その度胸、魔王様の力を備えているだけあるわ。それともタナトスに見合う女性と褒めた方がいいのかしらね?」


からかう言葉を含めながら、さりげなく相手は関係性を詮索するような素振りをみせてきた。

氷絶帝フレーレティは冷酷な一面が色濃く見られるが、人間という生物について理解が深い。

だから必死になっている様子から、タナトスと仲間の間で互いにどのような感情を抱いているのか薄々察していた。

ただ余裕が少ないミズキからしたら余計な挑発にしか感じられず、とにかく約束だけは決めようと強引に言い放つ。


「それはつまり…、被害を抑えた上で陽動をしてくれるという事で良いんですね?」


「ずいぶん都合の良い解釈ね。でも、善処するわ。それと相手の出方次第かしら。私達からしたら相手がどれだけ強いのか未知数なのよ」


「危険だと思ったら退避して下さって大丈夫です。潜入さえできれば後は私達次第ですから。脱出こそは瞬間転移で外へ逃れられますので」


さっき言ったように広い場所への瞬間転移なら問題無いため、全く能力が使えないわけでは無い。

それだけで成功率が大幅に上がるわけだが、このタイミングでクロックが思いつきに言い出した。


「ねぇねぇ、あのさー。せっかくだから付近に居る大群を足止めしちゃわない?なんか足音的にこっちへ近づいている気がするしさ」


クロックは聴覚が冴えており、本気になれば数十キロ先の足音を聴き分けられるほどだ。

そのことを知っているフレーレティは彼女の提案を受け入れ、一言だけミズキ達に断りを入れながら即決で行動を起こしてしまう。


「なら足止めしましょう。それで増援でも呼ばせた方が潜入の隙が生まれやすくなるわ」


「あっ、ちょっと!」


シャウ達は、なるべく緊急時以外は相談して行動を決めていた。

まして大きな影響を与えると分かっている時は、より気を付けて判断を下していたつもりだ。

しかし魔王幹部達はそのような配慮を持ち合わせていない。

なぜなら人間と違って大概(たいがい)の脅威は個人の力で振り払えるからで、予測不可能だろうと危険性を覚える必要性が非常に薄いのだ。

それはタナトスと敵対している時も見られたもので、その考え方は苦難を経た現在でも変わらない。


「さぁクロック、ささっと済ませるわよ」


「まっかせな~。僕とフレーレティであれば、まさしく先手必勝ってね!」


二人は持ち前の身体能力のみで平地を高速で駆け抜け、先ほどシャウ達が追い越した『憤怒と影の国』の大隊へ急接近していた。

視線の先には今まで見たこと無い大量の兵器や乗り物に加え、大勢の兵士達。

きっと高性能で高い戦闘能力を持つのは確実だろう。

しかし、それは対人や対兵器を想定した戦力に過ぎない。

どのような魔法よりも厄介で、どのような兵器よりも強力な能力の前では悲しいくらいに無力だ。


「ほいっと」


クロックは呑気な掛け声と共に時間操作能力を巧みに発現させ、自分達に時間加速の付加、そして敵軍勢には極度な時間鈍化を与えた。

それから氷絶帝フレーレティが凍結能力で軍勢を丸ごと覆う氷のドームを作り上げた。

その現象は、地平線の果てから朝日が差し込んで来るより一瞬のこと。

誰かが異変を認識する間も無く敵軍勢は逃げ場の無い氷に閉じ込められ、また氷壁は日光を遮るから薄暗い密閉空間へ落とし込まれたようなものだ。

これにより敵はどう足掻いても進軍不可能となる。

下手に破壊すれば氷塊が崩落してくる危険は避けられず、氷のドーム内に居る者達には手の打ちようが無い。


「おぉ、けっこう大きく作ったね」


クロックは外側から見たら巨大な氷山にしか思えないドームを見上げ、まるで他人事のように感心する言葉を漏らしていた。

するとフレーレティは一方的過ぎて退屈だったのか、少し残念そうな眼差しで氷塊を眺めて応える。


「青鳥のような意外性を期待していたのだけど、やっぱりあの鳥は例外だったようね」


「それにしても、こんな氷の中に閉じ込められるなんて凍死しそう~。何もできずに凍えるだけとか、さすがにちょっと同情しちゃうなぁ」


「幻想的な光景に包まれながら死ねるのなら幸福だわ。少なくとも戦場とかいう血生臭い場所で惨たらしく死ぬよりはね」


「そうかもしれないけど、こんな密閉空間だと最終的に錯乱して同士討ちとか始めそうじゃない?」


「ありえるわね。でも、それはそれで楽しそうな話だわ」


氷の層が厚すぎて中の状況を知る術は無いが、このまま見えない方が勝手な想像膨らむと思ってフレーレティは小さく微笑む。

このまま何日間も放置するだけで氷の檻でどれほどのドラマを生み出してくれるのか、つい期待してしまう。

でも、不要な残虐性をミズキ達は望まないだろう。

文句を言われる筋合いは無いと本気で思っているが、関係のこじらせは面倒だとも考えてフレーレティは氷のドームに手を加えた。


「どうせなら動ける方がドラマティックよね」


いい加減な事を口にしながら彼女はドームに繋がる氷のトンネルを作り出した。

トンネルとは言っても非常に狭い通路であり、一人が時間をかけて横歩きすれば進める程度の隙間に過ぎない。

そのような氷の道のりを数百メートルくらいの長さで作って、それを通り抜ければ外に脱出できる構造だ。

要は安全な逃げ道を用意してあげた事になってしまう。

だからクロックは彼女の行動が不思議で堪らず、首を傾げて呟いた。


「へ?せっかく閉じ込めたのに出られるようにしちゃうんだ」


「出られると言っても、人が通れるだけで荷物類は全て置き去りになるはずよ。それだけでも大きな足止め効果となるでしょう?」


「そうだけどさ、なんか親切すぎて意外だなーって」


「気まぐれね。それに面白みに欠ける虐殺で喜んでいたら私の感性が腐っちゃうわ」


「そんなこと言っちゃって、実は穏便に済ませるつもりの平和的思考なんじゃないの?そうなら僕感動しちゃうなぁ」


「呆れたものね。貴女も貴女で一体どういう解釈の仕方よ」


クロックの自分勝手な捉え方にフレーレティは愉快気に微笑む。

本当、どれほど一緒に居ても退屈しない友人であり協力者だと思わされる。

それはクロックも同様であり、お互いにワガママで気ままなくらいがちょうど良い接し方だと理解し合っていた。

とにもかくも『憤怒と影の国』における戦力の一部を封じた二体の魔王幹部はミズキ達の元へ即座に戻って行き、非殺傷で終えた事を伝えるのだった。


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