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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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見知らぬ不確定要素

本当なら追撃や増援を警戒するべきだったかもしれないが、シャウは治癒行為に必死で周囲を気にかける余裕は無かった。

代わりにミズキ達が警戒役に徹していたようで、彼女が治癒を終えるなりアカネが率先して優しく声をかけた。


「お疲れ様、シャウちゃんのおかげで助かった人は多いわ。……ただ、いきなり頑張り過ぎだわ。いくら貴女でも能力を無制限に使用できるわけじゃないはずよ」


「ごめんね。でも今助けないと、後々の被害が大きくなっていた可能性もあるからね」


「その可能性とやらを心配して貴女が潰れでもしたら、それこそ被害が果てしなく大きくなるわよ。……なんて、私が責めるような事を言うのは間違いよね。シャウちゃんは人助けしていただけなのに」


「そんなこと無いよ!私一人だと、どこまでも後先考えず()(ぱし)ちゃうから止めてくれる人は必要だよ!そもそもアカネちゃんが敵を仕留めたようなものだしさ!」


「くすくすくす…、まぁ済んだ事を気にかけている場合では無いわ。貴女が頑張っている間にミズキちゃんの体調も落ち着いたようだし、彼らの拠点へ行きましょう」


これにより彼女達は再起不能となってしまった兵などに付いて行き、『喜愛の国』の簡素な中継地点に辿り着く事となる。

既に色々と問題は発生してしまったが、その道中のみ何事も無かったのは幸先良い話だと前向きに捉えた。

そして兵に案内される形で四人がテント内に足を踏み入れると、そこには書類に目を通しながらパンを食している星騎士隊副長アエルの姿があった。

更に彼の隣にはエフが立っており、シャウ達の存在に気が付いたアエルが真っ先に声をかけてきた。


「おぉー、シャウちゃん!ざっくりとだけど報告で活躍は聞いたよ!もう感謝しきれないほど助けてくれたなんてね!さっすが人間の勇者だ!」


「アエル君は忙しそうだね~」


「すぐ最前線に立つ事になるから、こういう情報整理やら確認は仲間だけじゃなく僕自身の生存率に関わる事だからね。それより、こうして会いに来たって事は協力しに来てくれたのかな?」


「あ~…、いや悪いけど、優先したい個人的な用事はこれからなんだ。だから協力はまだ無理かな」


「そっか、それは残念だ。じゃあ、会いに来たのは何か訊きたくて…」


持ち前の高い洞察力でアエルが言い当てようとしたとき、誰かがシャウ達の背中を押すようにして勢いよくテントへ入って来る。

それは銀髪の幼いハーフエルフであり、どんな相手にも強い印象を残してしまうトンデモ少女だった。


「鬼神の黒炎者カオス!ただいま戻りましたー!いや~、敵として見ると我が国の防御網は凄まじいね!まさしく最強にカッチカチ!三タイプの機兵だけじゃなく、殲滅用超巨大機体まで前線に引っ張り出していたから!おっそろしい~!」


カオスは相変わらず破天荒な振る舞いで、どっちの敵か味方なのか曖昧なままアエル達に接していた。

どうやら見たところ『喜愛の国』の一兵士として協力しているようだが、実際の真意はアエル達にも分からない。

とりあえず偵察という役割をしっかりとこなしているらしく、アエルは彼女のいい加減な報告を聞きながら頷いた。


「シャウちゃん達が遭遇した機兵もそうだけど、敵は早くも迎撃に動き出しているわけだ。やっぱり対空砲を破壊していって、制空権を広く確保することで空爆を早く決めていかないと、僕たちの劣勢は免れないか」


何か真剣に考えて言っているようだったが、当然シャウ達には意味が分からない単語ばかりだ。

それに『喜愛の国』が切羽詰まった状態なのは分かり切っている事であって、ここは空気を読んでシャウが気遣う言葉を口にした。


「すごく大変そうだし、私達の用件はもう少し後の方が良さそうだね」


すると、すかさずエフが割かし大きめの声量で喋った。


「大丈夫ですよ、シャウ様。アエル様は格好つけたくて言っているだけですから…」


「ば、馬鹿エフ!いきなり変なこと言うなよ!」


「え?でもアエル様、さっきこのタイミングでカオスさんに入って来て欲しいと自分で頼んで…」


「だから変な事を言うなって!色々と台無しだよ!せっかく食べる暇も無いアピールしていたのに!」


「それでいきなりパンを食べだしたのですか?どおりでさっき食べ終わったばかりなのに、よく食べるなーと思いました」


どうやら戦争が始まろうと二人の関係と様子は普段通りだった。

また年相応の部分があるらしく、良くも悪くも浮ついた所が目に付く。

でも、こういう何気ないやり取りが戦闘意欲を支えてくれるものだ。

だから下手な注意はせず、あくまで部外者としてシャウは愛想よく立ち回った。


「んーと、とりあえず話しても大丈夫そうなら訊きたいんだけどな。まず、ここがどこかで、どこを通れば安全に『憤怒と影の国』の都市へ近づけるか知りたいの」


「このタイミングで都市部に近づくつもりなのかい?だとしたら、どんなルートを通っても無理なような……。というより、そんな安全なルートがあったら僕たちの方が知りたいくらいだ」


もっとも過ぎる返答内容だ。

あらゆる手段を尽くして攻めたい中、この状況で使っていない道などあるわけがない。

しかし、この話を聞いたカオスが更に飛び込む勢いで前へ出て来た。


「それなら私が案内しますよー!少人数ならではの隠し道がありますから!」


「本当?」


思わぬ発言に対し、シャウとアエルが二人揃って彼女の言葉を聞き返す。

特にアエルが意表を突かれた反応を示しており、少し怪訝な態度が含まれてすらいた。


「いやいや、本気でどういうことだ?少なくとも作戦立案時に一回は訊いた気がするけど、そんな道があるなんて教えてくれ無かったよな?」


「そりゃあそうです!なにせ今日、私が偵察した際に安全確認が取れた道ですから!」


「待ってくれ。そういう報告も無かったはず……」


「ふぇ?私に報告義務は無いですよ?だってタナトス兄さん達の仲間であって、『喜愛の国』所属では無いですから。あと私は交換条件のつもりで頼まれ事をこなしているだけです」


「うーん、なんだろう。改めて聞くと、この子って捕虜じゃなく相当スパイ寄りな立ち位置だ。確かに協力的な姿勢で居てくれているんだけどさ…」


元が敵国同士だったからなのか、やはり二日間程度では強固な信頼関係が築かれる事は無かったらしい。

また置かれている立場が違えば各々の優先順位が異なってしまうのは当然であって、どちらかに非があるわけとは言えない。

ただ、どのような関係性にしてもカオスの申し出はシャウ達にとってありがたい事だ。

それから先を急ぐためにアカネが話を進めようと、間に割って入る勢いで喋り出した。


「じゃあカオスちゃん……だったかしら。案内ができそうなら頼むわ」


「はいー、お任せあれ!精一杯、私めカオスが案内役を務めさせて頂きます!あいにく今は戦争中ですけど、初友達であるユウちゃんに自国を案内できるなんてワクワクしますよー!」


明るく元気いっぱいにカオスは返事してくれているが、肝心の言っている事は一寸先すら考えていないような滅茶苦茶具合だ。

自国の戦場へ友達を案内して行くなど、言い換えれば火災中の自宅へ招くようなもの。

そもそも彼女は自国から暗殺対象にされていて、大々的に裏切り者判定まで受けている要注意人物だ。

だがカオス本人は全く気にしていない様子で、その能天気さが心配に感じてユウの気持ちを引き締めさせた。


「こんな調子で大丈夫なんですかね…?あのお転婆(てんば)娘に道案内させるなんて不安しかありませんけども」


「あらあら、ユウは面白い事を言うわね。この場にお転婆じゃない娘なんて居るのかしら」


「シャウ様はともかく、アカネ様とミズキさんのお二方は淑女だと思っていますよ。本当です」


「くすくすくす、貴女の感性を疑うつもりは無いわ。けれど私としては、こんな所に居る時点でお淑やかさとは掛け離れている気がするわね」


「そうですか?アカネ様は戦闘中でも優雅で気品溢れていますよ。それにどう見てもあの子とは正反対です」


「ありがとう。でも、とりあえず貴女の事を友達と言ってくれている彼女を信じてあげたらどうかしら」


他の手段が無いだけにアカネは諭す言い方をしてみたが、それでも納得しきれない気持ちが抜けきれずにユウは小さく唸り込んでしまう。

実際いくつもの修羅場を経験したら、カオスのような状況を乱す不確定要素が一番恐ろしいと思ってしまうのは正しい反応だろう。

まして、まだユウは常に余裕を持てるほどの度胸と器用さは培われていない。

だからアカネは今だけ保護者気分でユウとカオスの関係性を見守る事にして、アエルから了承を取ろうとする。


「という事で、ひとまず私達がカオスちゃんを連れて行って大丈夫かしら?どうしても彼女の力が必要になってしまったの」


「戦力に数えて無いから一時離脱は構わないけど、僕個人の目的を兼ねての預かりだったからなぁ」


「個人?もしかしてカオスちゃんが好きなのかしら?」


「そこまで個人的過ぎる話じゃないよ。僕が倒したい相手がカオスを狙っているから、悪い言い方になるけど陽動目的があったわけで…」


「あらあら、つまり釣り餌扱いだったのね」


「いや……まぁ…、本人も承知の上だけど…そうなるかな。うーん……、よし分かった!こうなったら僕もシャウちゃん達に付いて行く!どうせ参謀指令の立場ってわけじゃないし!」


またもや突拍子が無く予想外の提案だった。

これにはユウが特に驚いてしまう始末で目を丸くしており、さすがに声を大きくした。


「ちょっと待って下さいアエル様!戦闘中でも無いのに、そう気軽に星騎士隊が独断行動するなんて駄目ですよ!」


「リブラ隊長も同じようなものだろ?あの人は単独で偵察に出ているし」


「隊長は単独行動に強い適正があるから、そうしているだけです!」


「同じようなものだ。何より僕には断獄者としての諜報活動経験がある。それを活かせば上手く立ち回れるよ」


「でも!まともな理由があったとしても許可が出る状況では……!」


今エフが気にかけているのは、軍人としての規律や統制のことでは無い。

少人数で敵国の領地内に向かうとなれば、おのずと彼の生存率が大幅に落ちる事を心配しているのだ。

それにシャウ達と目的が全く異なるから、場合によってはアエル一人で孤軍奮闘を強いられる可能性がある。

そういう思いから何としてもエフは彼の独断を止めようとするわけだが、このやり取りを眺めていたシャウが喋り出した。


「だいぶ揉めているみたいだし、無理してまで付いて行くのをやめた方が賢明そうじゃない?」


「いいや、エフは……単に僕を信頼してないだけだ。信頼してないから屁理屈つけて止めようとしているんだよ」


悪くも子どもらしく、相手の気持ちを考慮していない身勝手な失言だ。

間違い無く彼を一番信頼しているのはエフであり、アエルの的外れな決めつけに彼女は悲しそうな眼差しを一瞬浮かべてしまう。

そして彼女の口から自暴自棄の言葉が出てくる前に、急いでシャウが場を治める言い方をした。


「私は部外者だけどさ、その言い方は感心しないなぁ。だって、あくまでワガママ言っているのはアエルの方だと断言できるからね」


「………なんだよ、分かったよ。確かに僕が冷静じゃなかった。ごめん、エフ。勢いだけで心無いことを言った」


どこか不服そうに感じるが、少し落ち着いた口調でアエルは素直に謝ってみせた。

だが、言葉の刃が傷つけてしまった今、エフは冷静というより落ち込んだ暗い反応で応えた。


「いえ……。アエル様が星騎士隊として考え直してくれたのなら、それでいいです。私も勝手に禁止できるような立場では無いわけですから…」


どこか気まずく、端から見ても分かるくらいに溝がある接し方だ。

しかも第三者が気軽に触れて良いような溝では無い事は明らかであり、なるべく早く退散した方が二人のためだと思ってシャウは声を大きくした。


「ずっとカオスちゃんを連れ回すわけじゃないから、アエル達は安心して務めをこなしていなよ。それに私達の目的って戦争と無関係だから、思いつきで付いて来ても無駄な労力になっちゃうだろうし」


「…あぁ、マンドリンって奴の情報があったら誰かに伝えておいて欲しい。そいつの詳しい身体的特徴についてはカオスから聞いてくれ」


様々な要因が積もり重なっているせいか、眼前の事を気にかけ過ぎて煮え切らない反応だ。

そんな子供っぽい彼を見かねて、さっきの口喧嘩とは別にシャウはアドバイスを送った。


「ちゃんと聞いて欲しいんだけど、アエルは個人的な理由だとしても独りで全部成し遂げようとしたら駄目だよ。仲間と一緒に一つずつ順番に解決する意識を持つのが大事で、何より一番手っ取り早くて確実なんだからね」


「分かっているよ。…うん、そんなこと分かっている」


「それなら良いんだ。ただ付け加えて言っておくとね、タナトスは私達と比較にならないくらい強くて難しい事が沢山できるけど、それでも私達を本気で頼ってくれているんだよ。それだけは知っていて欲しいな」


多分、アエルは自分より不甲斐(ふがい)ないと感じる相手に一切頼ろうとしない。

弱者は自分が守ってやらないといけない存在だと、無意識の内に考えているはずだ。

きっと正しく立派な志かもしれないが、人という小さな存在であるからにはどこまでも一人で突き進められるとは思えない。

そう考えて優しい話し方でシャウは信頼する方法を伝えてから別れの挨拶を口にし、カオスと共にテントを後にした。

それからテント内で沈黙の時間が流れて、しばらくアエルは悩ましそうに考え込んでからエフに向けて喋りかけた。


「……エフ、僕たち二人の行動原則を決めておこう。これから先、お互いの身に何が起こるから分からないからね。何が起きても混乱しないよう、成すべきことを見失わないよう、助け合う事を前提に基本的な約束も兼ねてさ」


「はい、大変な時こそ助け合いましょう。そのために……どんな時でも私はアエル様の隣に居ますから」


「ありがとう、エフ」


感謝しながら彼女の眼を見ると力強さが秘められていて、初めてエフのことを気丈だとアエルは思った。

またこれがエフなりの優しさなのだと、彼は幼心ながら強く感じていた。

その一方で避けられない危機が迫りつつあり、各地では大量の戦車と機兵が『喜愛の国』の陣地を無差別破壊し始める。

そしてカオスを加えたシャウ達五人とは別に戦争と関係無く行動している者が他にもおり、その存在は初めて目撃する機兵の群れを眺めながら『憤怒と影の国』の底知れない技術力と生産力に感心していた。

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