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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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人の縁は広がり続く

「むぅ、この私が国の一大事に気づけなかったとは。親衛隊長としてあるまじき失態だ」


とても悔しそうに言うのは星騎士隊であるリブラ隊長だった。

マンドリンの襲撃があった事を彼が知ったのは、結局アエルから直接報告あっての話だ。

またその報告を聞いた場所も訓練場であり、特訓に熱中するあまり騒ぎに全く気づけなかったようだ。

このためリブラとタナトスが特訓に一区切りつけた頃には一連の騒動は収まっていて、それなりに時間が経過した後でもあった。

何にしろ新たな問題と脅威が発覚した今、早急に事情確認する必要がある。

よって事件現場に居合わせていたメルス女王陛下達やシャウ達、そして合流を果たしたタナトスを加えた計八名が城内の会議室へ集合していた。

そして先ほどあった騒動について話を一通り聞いたタナトスは少し考え込んだ後、敵の技術運用についてぼやいた。


「また生物複製(クローン)か……。もう俺からしたら、どの兵器類よりも厄介な障害だ」


現状、生物複製(クローン)という言葉に対して馴染み深いのはカオスだけだ。

だからなのか、いち早く少女は彼の呟きに反応して喋った。


「たとえ生物複製(クローン)として生まれようと、オリジナルの特徴を受け継ぐだけであって、通常の生物と変わりなく長い年月の成長が必要なんですけどね~。でも、そういうのを無視できちゃうのがブライトさんの力です!」


「……そういえば、そのブライトは『憤怒と影の国』ではどんな立場なんだ?あまり積極的に力は貸さないだろうってのが、俺の仲間の見解だったんだが」


国際パレードでの大規模な瞬間転移と言い、悪魔化の適合化と言い、そして今回の件も含めて考えたらカルラの予想以上にブライトは進んで協力している印象を抱かざるを得ない。

しかしブライトが直接的に猛威を振るっているかと言えば微妙なラインであり、身近にいたはずのカオス自身もあまり把握しているわけでは無い返答だった。


「相手がアービス様だろうと関係無く、ブライトさんは凄く気まぐれな方ですからね~。でも積極的に力を貸さないってのは、あながち間違いでは無いですよ!その気があれば生物複製(クローン)の大量生成だって可能ですもん!」


「それならブライトの気まぐれに運命が委ねられてしまっているわけだ。しかし……、まったく同じ生物を大量生成可能だなんて素直に気味が悪い話だな」


「本国民の私としても、同じ顔が多く立ち並ぶ光景なんて相当嫌悪感がありますね。おそらくアービス様も好まないでしょうし!」


一つの可能性として生物複製(クローン)の大量生成が話に出たが、今までの『彼』の行動からして実行するようには思えない。

なぜならブライトは協力こそはしているが、全ての決定打に繋がることは明らかに避けている。

そもそも事態に決定打を与えるなら、ブライトなら最初から……それこそ国際パレードで騒動を起こす前から完全決着をつけられるはずだ。

そう考えれば、やはりブライト個人の目的は結局のところタナトスの適正を推し測ることなのだろう。

もっと極端な言い方をしてしまえば、ブライトは自分の目的のために『憤怒と影の国』を利用しているだけであって、その国を滅ぼす可能性も普通に有り得てしまうのだとタナトスは気づく。

ともあれ大事なのは可能性の話より現在起きてしまった問題についてで、アエルが身を乗り出す勢いで話に加わってきた。


「とにもかくもだ!これから更に数が増えようが、マンドリンの偽物が居るのは事実!そいつだけは必ず僕の手で倒してやる!あんな本人を冒涜(ぼうとく)するだけの存在、絶対に許せるものか!」


彼は秘めた想いを持って意気込み、はっきりと宣言してみせる。

アエルがマンドリンに対して強い思い入れがある事は明らかで、そんな彼の気持ちを咎める者はいない。

ただ誰かが異論を挟む以前に現実的な問題が一つあって、これにカオスが突っ込んだ。


「え?でも、そんな戦場で都合良く会えるものかなぁ?果し合いによる決闘ってわけじゃないでしょうに」


「それは………いや、会える!あいつは君を抹殺することが目的だと言っていた!なら、僕がカオスの護衛に付けば良いんだ!」


「おぉー、つまりしばらく私と生活を共にするわけですね!これは実質、私の恋人枠では!?そして将来の旦那様候補!」


この飛躍した発想はタナトスの事を兄扱いにしただけある。

当然、誰もが冗談か狂人による戯言だと思う中、エフだけは聞き流せず妙なくらいつきを見せてしまっていた。


「将来の旦那様!?それは無いでしょう!だって、旦那様以前に恋人というのは互いに好意を抱いてこそのものですから!」


あながち間違いでは無いが、どこかズレた反論の仕方だ。

そもそも真っ当な理由を述べたにしても、当本人のアエルでは無くエフが代わりに言い出すのは変な話だろう。

それでもカオスは彼女の意見を真に受けて、まるで当然のように言葉を訂正する。


「ん~なるほどぉ、確かにそうですね!では、今からアエルさんは私の弟です!アエル、弟決定…!」


「僕なりに察していたつもりだけど、それでも理解が追い付かないくらいの思考回路を持っているね…。まぁ、弟でも恋人でも好きに呼んでよ。あくまで一緒に居るのはマンドリン討伐までだし」


アエルは割り切った態度で言い放つ。

どうやら彼なりではあるものの、カオスへの適切な接し方を把握しているようだ。

だがエフだけは普段通りの様子とはいかず、つい対抗心を燃やす形で余計な事を言い始めた。


「なら、私も同行します!アエル様一人ではマンドリン……さんの相手は大変ですから!あとカオスさんの動向監視も兼ねてです!もしも不埒(ふらち)な不祥事があったりしては困りますので!」


「おぉ!?ではでは、この流れからするとエフさんは妹になりますね!いっきに二人の弟と妹ができるなんて喜ばしい出来事!えっと、これでタナトス兄さんも含めて四人兄妹という事になるのかな!うひゃぁ~思わずにやけが止まりませんなぁ~!」


話合いが進んでいるのかどうか不明だが、なぜか奇天烈な関係性が生まれてしまっているのは傍から聞いていて分かる。

けれどタナトスは他人事のような感覚でいて、感想言う口ぶりでシャウに話しかけた。


「シャウ、これって何気なく凄い珍事じゃないか?勝手に俺の弟や妹ができているぜ?」


「元から勝手にできるものじゃない?というか、これは兄妹と言っても一般で言う義理の関係でしょ」


「いや、まず俺の同意がどうこうの問題もあるが、よりによって気難しい年ごろの弟や妹ってのはなぁ。さすがにそういう覚悟をした事が無かった」


「まぁまぁ、仲間関係の延長線上みたいなものだよ。本当に家族みたく私生活を共にするわけでも無ければ、本気で言っているのはカオスちゃんだけだしね~」


「それもそうか。でも正直、人生で一度くらいは兄っぽく振る舞ってみたい願望が無いわけでも無いような……気がする」


「え、そうなの?そんな憧れがタナトスにあったなんて意外だなぁ」


タナトスが予想外な事を口走るからシャウは少し驚いたが、きっとそれはそれで兄妹関係も楽しそうという安易な気持ちを思い浮かべただけの話だろう。

ただ、彼は一つ忘れている。

実はタナトスと殺戮の勇者クロスは血縁関係にあって、世界一厄介な兄弟関係であるということを。

何がともあれ各々で世間話同然の雑談が始まってしまい、脱線する皆に向けてメルス女王陛下は注意を呼び掛けた。


「皆様、どうか今は話し合いに集中して下さい」


この一言は変わらず能天気なカオスを除く全員に伝わり、改めて気を引き締める態度が見て取れた。

そして全員の視線はメルス女王に向けられ、彼女は見渡す素振りをしながら話し始める。


「……先ほど、襲撃の件とは別にカオスさんから(おおむ)ねの事情はお聞きしました。その内容についてはランディア国王に話した情報と同一らしく、国際パレードに居た市民は無事だということ。そして致命的な被害を与える破壊兵器の存在です」


女王陛下だからなのか細やかな口調含め話し方が上手であり、未だ真剣な態度を示さないカオスですら口を挟む真似はしなかった。

どうやら彼女の持つ緊張感が伝わっているようで、これから続く言葉に対して誰もが黙って耳を傾けていた。


「これらの情報及び今回の生物複製(クローン)襲撃を総合するに、長期戦は望めず早期決着が最善だと判断せざるを得ません。よって今夜の内に軍を()たせ、相手に破壊兵器を使わせる猶予を与えないべきだと私は考えています。アービス国王と言えど、自国付近での破壊兵器使用は避けるでしょうから」


要は早急に『喜愛の国』の本隊を『憤怒と影の国』内にまで侵攻させる事で、大陸の地表半分を吹き飛ばす核爆弾頭を使わせないというもの。

当然、アービス国王の目的からして核爆弾頭を躊躇なく使う可能性は付きまとうが、いきなり戦争の初手で自国にまで被害を与える戦術を取るかというと、ほぼ有り得ない話だろう。

だから机上の空論であろうとメルス女王陛下の意見は筋が通ったものであり、すぐにリブラ隊長は賛同する意を示した。


「うむ。仮に兵器の存在を度外視しようと、単純な兵数も圧倒的にこちらが不利。防衛戦をすれば砲撃されるだけですし、確かに短期決戦でしか勝利は望めないでしょう。もちろん、日数をかければ『哀楽の国』と連携を取れますが……」


「安心して下さい。実はランディア国王様からの書状には、『哀楽の国』は既に動き出していると書いてありました。まだ兵こそは整えきれてないが、大陸を渡り歩いている商会団体により惜しみない物資の調達や補給はいつでも可能だと」


たとえ短期決戦だろうと、大群で戦うからには物資類は必要不可欠だ。

そのため心強い支援に思えるが、リブラとしては少なからず不満を覚える点があった。


「万全な状態で挑めるのは嬉しい要素です。ですが、それでは我が国が尖兵(せんぺい)という事になるのでは?」


「『哀楽の国』は戦力をまとめるのに時間が要し、『楽園と輝光の国』は機能不全。そんな状況下である以上、迅速に兵力を動かせる事のみが利点ともいえる私達が初めに死力を尽くすしかありません。安否を気にかければ、大変心苦しい話ですが…」


「………分かりました。そうとなれば、兵や国民には相応の被害を覚悟して貰いましょう」


「命を使い捨てるような役割で申し訳ありません。でも、ここで奮い立たなければ誰一人生き残れはしないのです」


「そもそもの発端は『憤怒と影の国』であるため、女王陛下が謝る必要はありませんよ。何より兵たちは皆のために命を捨てられる覚悟を持った者ばかりです。また、どうしても国民には動揺が広がるでしょうが、迫る危機を知れば理解してくれるはずです」


メルス女王陛下やリブラ隊長の両者は現実的な問題というのを分かっていて、毅然(きぜん)とした態度を保ち続けていた。

理想的な終幕を求める者にとっては、その態度は冷酷な印象を持ってしまうだろう。

それこそ極端に言えば被害がゼロで終わるというのは絶対に不可能だと誰もが知っているが、あいにく国民が求めるのはその無理難題な終結だ。

ただ無理難題な終結を望むのは愚かしいのかと言うと、決してそうでは無い。

なぜなら現場を把握しているメルス女王陛下であっても、夢物語と変わらない安全かつ平和的な解決を心から望んでいる。

そして、その理想を追うべきだと彼女は思っているからこそ、なるべく国民が望んでいる結末へ至るよう努力するわけだ。

しかし、平和的な結末を望んだ所で具体的な終わり方というものが想像できない。

だからアエルは彼女に問いかけた。


「早急に進軍するのは分かりましたけど、僕たち兵士は何を目的に行動すればいいのですか?まさかアービスの首を獲れというわけでは無いですよね」


「えぇ、私個人のワガママ同然となりますが、できればアービス国王との対等なる対話を考えています。お互い納得する形に落ち着くのが、後々の平和にも繋がる解決策だと私は信じていますから」


「じゃあアービスの捕縛を優先すれば良いのか。相当難しそうだけど不可能って言い切るほどでは無いかな。あのアービスの性格からして、どんなに追い詰められても自害を選ぶわけ無いだろうし」


「……もしかして、アエルには接触する算段が思いついているのですか?」


「残念ながら無策だよ。それに無傷の確保は無理だろうけど、僕は精鋭隊でも最優秀だからね。女王陛下様のご期待に添えられるよう成し遂げてみせる」


成し遂げてみせるとアエルが言い出したのは星騎士隊としての発言でもあるが、もし自分がマンドリンを逃してしまった場合を想定しての進言でもある。

アービス国王に近づこうとすれば、強力な個人戦力として重宝されているマンドリンが必ず阻止しようとして来るはずだ。

まして懐刀扱いであったカオスを切り捨てている今、アービスにとって頼りになる力はマンドリンくらいのもので、自身の護衛として配備していても不思議じゃない。

そんな狙いをアエルは密かに持っている中、ここに来てタナトスが口を開いた。


「今夜の内に発つなら、いつぐらいに『憤怒と影の国』内まで進軍出来そうなんだ?」


あまり深い関わりを持つ姿勢を見せて来なかっただけに、少し変わった内容の質問だった。

それでもリブラ隊長が自分なりの推測で答える。


「そればかりは戦況に()る。もし順調に事が進めばだが、ちょうど二日後には足を踏み込められるかもしれない」


「二日後か。なら協力できるか微妙だな」


「協力してくれるのか?そうであれば大変心強い」


「期待させるほど表立った手伝いはできない。ただ……、そうだな。ケガ人の治癒くらいなら問題ないはずだ」


そうタナトスは言いながらシャウの方へ視線を向けた。

これは全く相談を持ち掛けていない彼の独断であって、唐突な申し出だ。

だが、すぐにシャウは嫌がる素振り無く彼の発言に合わせてみせ、一瞬も戸惑う事すら無く喋り始めた。


「お世話になっているし、後方支援なら全面協力できるよ。私の治癒能力であれば役に立てそうだし、そういう実戦経験も私が一番重ねているからね!」


彼女が持つ治癒能力の凄まじさについては、アエルが良く知っている。

またマンドリン襲撃の際に両手を負傷したエフの治癒も既に終えている事から、戦場で頼りになるのは実証済みだった。

何よりアエルはシャウに好意を寄せているため、露骨にテンションを上げた反応を示した。


「本当!?危険だけど、確かにシャウちゃんの力は必要不可欠だ!なんなら戦況を一変させる力になる!」


「わはははー、それは大袈裟な物言いだなぁ。あー、それと砲撃対策とやらにアカネちゃんの力も必要になるかな。どちらにしろ前線に立つ役目はアエル達だね」


「安心して後ろを任せられるなら、それだけ前に集中できて助かる話さ」


「あと最初から同行できるわけでもないよ。私達にも優先して終わらせるべき事があるからね。……でも、肝心のタナトスはどうする気なの?」


「俺は明日の間にブライトと決着をつける予定だが、きっと長期戦になるのは避けられないからな。だから二日後までに間に合うかは分からない。………それに正直、間に合った所で俺がまともに力を発揮できる状態なのかも怪しい」


どのような戦いになるのか予測はつかないが、少なくとも熾烈な死闘を強いられるのは確実だ。

だから敵と相打ちする場合も考えられるし、また戦闘が終わった時には昏睡状態へ陥っているかもしれない。

まさしく色々な結末が有り得てしまうわけだが、どのような終わり方を想定しても万全な状態で終わる事だけは絶対に無いだろう。

そう考えている彼の表情は暗く冷静沈着ではあるものの、内なる意志を示す瞳は赤く、力強く冴え切った目つきには闘志が(たぎ)っていた。

この様子にカオスが過敏に察知し、感心するような小さな呻き声を漏らす。


「お、おぉ?凄い空気…」


それは空気が自然とピリつくほどで、周りは彼に対して心強い安心感と本能的な畏怖を覚えた。

これまでエルフ達は種族の違いを強く意識していなかったが、今なら嫌でも意識してしまう。

気配だけで理解してしまうほど明らかに自分達と彼は異なり、種族という枠以前に生物としての立ち位置に大きい差があるのだと。

そして、そんな意識を向けられている彼は目の前の事に考えを切り換えて喋った。


「とりあえず俺達は一旦、賢者の家へ戻る。カオスは……」


タナトスとしてはカオスを連れて行く事になるから、同行宣言していたアエルも付いて来るのかと訊くつもりだった。

けれど、その彼の質問より早くカオスが言い出した。


「私はこのまま『喜愛の国』にお邪魔させて貰います!本当はタナトス兄さんと一緒に居たいですけど、このまま私が賢者の所へ行くと大変ややこしい事になると思うので!」


この彼女の意味が分からなかったのはタナトス達だけでは無く、ずっと黙っていたルミナにも察せるものでは無かった。

だから、ついルミナは快く招待するようなことを口にした。


「なぜですか?別に……、ロイ様や私は気にしませんが…。元はと言えば、『喜愛の国』に寄らずロイ様の家へ行く予定でしたし…」


「もう祖国には裏切り判定されちゃいましたけど、まだ私自身は『憤怒と影の国』所属のつもりですからね~。更に暗殺者がいつ来るのか分からない事を考えると、このままでは情勢干渉になっちゃいます!」


「……そうかもしれませんね。ただカオスさんは私の友人ですから、来訪を拒む気はありませんよ…?」


「念のためです!何より、これでも私は立場を(わきま)えているつもりですので!」


立場を弁えているというカオスらしかぬ発言に対して、全員が目を丸くしてしまう。

本気で考えて言っているのか、いつも気まぐれで言い出しているのか。

他者からしたら全く分からない線引きではあったが、本人がそこまで言うならとルミナは理解したふりで頷いた。


「カオスさんの言い分、よく分かりました……。元から私に強制力はありませんし……、行動を決めるのは貴女自身ですからね…」


「せっかくの良心を無下にしてしまって申し訳ありません!そして『喜愛の国』には勝手ながらお世話になります!あ、でも兄妹だって考えると改めた態度を取っても意味無いのかな?」


結局は自分勝手な判断と決定ではあるが、今更彼女の行動に対して文句を言うものはいない。

むしろ下手な騒ぎにならないよう努める方が利口だと謁見の花園で思い知らされているから、誰もが幼い子どもに接する様子であり、適当に肯定する対応を取っていた。

そうしている中でタナトスは席を立ちあがり、それぞれに声をかけていった。


「やることが分かったなら俺たちは行く。リブラ、時間が残り少ないが、もう少し新技の練度をあげておけよ。アエルやエフ、それとメルス女王も達者でな。カオスは……周りを振り回すのも程々にしてやれよ。じゃあな」


彼と同じくシャウやルミナも別れの挨拶を短く済ませると、タナトス達三人は一度カオスを残して賢者の家へ瞬間転移した。

それから居残ることにしたカオスは突如思い出したかのように驚きの言葉を発し、人懐っこい雰囲気でメルス女王陛下に駆け寄り出した。


「あっ!すっかり忘れていましたけど、メルス女王陛下さんとまともに会うのって今日が初めてでしたよね!せっかくですから色々と話しておきたいんですよ!私の生い立ちだとか、アービス国王様の近況についてとか!」


「……もしやとは思いましたが、カオスさんはアービス国王の…」


「はい!お察しの通りアービス様の生物複製(クローン)が私です!何でも本来誕生するべきだった遺伝子情報に近づくよう書き換えたと、アービス様は仰っていました!」


「では、やはり弟は思い違いをしたままで……。どのような形で歪められてしまったにしても、生まれたからには私の親愛なる家族に変わりなかったというのに…。でも、あのような仕打ちを受けたからこそ今の惨状は当然の結果なのでしょうね…」


ずいぶんと複雑かつ積み重なってしまった事情があるらしく、メルス女王陛下は心苦しい表情を浮かべていた。

しかし、どれだけ複雑な経緯があったにしても、アービスの判断と実行によって問題が多発している今でも、一つだけはっきりと言えることが彼女にはあった。

それは元凶となっているアービス国王が暴走を続けているのは、それこそ全て『喜愛の国』が築き上げ続けた繁栄と歴史のせいなのだと。

ただ難しい事を抜きに考えて、メルス女王陛下は妙な事実に気づく。


「しかし、それならばカオスさんは私の妹ということになってしまうのでしょうか?一応、姪だとかでは無い繋がりで血縁関係に当たるはずですから…」


「え?あ、本当ですね!……いや、でも、ん?なら、遠回しながらアービス様も兄妹に含まれてしまう?なんだか私にも意味が分からないですけど、要は大家族兄妹ということですね!とにかく凄い!」


もはや誰か一人でも兄妹関係だという認識を本気で持っているのか怪しい所だが、ついにはタナトス本人が居ない所でも勝手過ぎる人物関係が生まれてしまう。

そして(えん)の数が多いというだけで嬉しいのか、命を狙わていると知っているはずのカオスは一人で無邪気に喜んでいた。


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