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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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クローンと託し遺された力

タナトスとリブラ隊長が激しい特訓を続けている間、謁見の花園では愉快な騒ぎが起きていた。

その騒ぎとはカオスが勝手に沢山の花を摘み取っては、星騎士隊であるアエルとエフの二人を遠慮無く連れ回しているものだ。

見方によっては自由奔放なカオスを取り抑えるために二人が追い回しているように思えるが、単なる子ども同士のお遊びでもある。

だが、いくら広い室内庭園とは言え騒がしい事に変わりなく、問題児の代わりにシャウがメルス女王陛下に謝っていた。


「メルスちゃん、こんなに騒がしくさせちゃってごめんね」


「いえいえ、どうかお気になさらないで下さい。この花園では気分が解放されるようになっておりますから、つい無邪気に楽しんでしまっているのでしょう」


ランディア国王からの書状を読み終えたメルス女王は優しく諭すなり、どこか感慨深い想いで子どもらしい行動を取っているアエル達を眺める。

本来なら緊迫した状況下で、些細な無駄にすら時間を割いている余裕は無い。

ただ束の間の平穏と思えば、かけがえのない大切な一時だろうと感じられた。

まして、すぐにでも戦闘になる事は避けられないと書状に書いてあったため、メルスはこの平和な瞬間に対して尊い気持ちを抱く。


「……それよりも、わざわざご足労い頂きありがとうございます。書状の件については早急なお届け大変助かりました」


「そう厚く感謝されても、実際は通りかかったついでみたいなものだけどね」


「一刻争う状況ですので、たとえ一つの連絡であれども感謝しきれません。ところでルミナ様に一つ伺いたいのですが、やはり賢者様は無干渉の姿勢を貫くのでしょうか?」


相手がどのように答えるのか分かりきった質問内容だった。

そしてメルス女王の想像通りルミナは一切迷う事など無く、無表情のまま即答してみせた。


「はい、本件にロイ様は関与しません……。そもそも……別件により忙しいため、手を離せない状態ですので…」


彼女が言う別件とは、不老長寿薬の製薬だ。

今では不老長寿の秘薬も一刻を争うほど必要な状況となってしまい、確かにルミナの言葉通りロイは手を離せない状態だ。

何より賢者は元から不干渉を徹底としているから、まったく無意味な質問とさえ言えてしまう。

それでも答えが分かりきった上で訊いてしまう程度には賢者の介入を薄々期待していたらしく、さすがのメルス女王陛下も落胆の色を隠せずにいた。


「やはりそうですか。賢者様のお力添えさえあればと思っていたのですが、事態の大小に関係無く当然の判断でしょうね」


「………ただ、戦争に関係ない所……直接情勢とは干渉しない部分であれば、きっと個人的な理由で…対処する事はあるでしょうね。例えば、『喜愛の国』が自然保護している区域を守るくらいなら……。…あの区域は密かに私が立ち寄りますので…」


なるべく直接的な言い方は避けたいらしく、だいぶ濁した言葉でルミナは意図を伝えようとした。

ちなみに『喜愛の国』の自然保護区域とは、タナトス達が魔法大陸で最初に降り立った一帯であり、アエル達と初めて会った場所でもある。

あそこでは気性が穏やかな野生動物達が過ごしているからなのか、ルミナは(いこ)いの場として活用しているようだった。

だから個人的な都合ではあるものの、自然保護区域のみは守ってくれるのだと暗に言ったわけだ。

これは非常に好意的な返答であり、どちらかと言えば協力的寄りである言葉だったためにメルス女王陛下は喜びの微笑みで態度を示した。

合わせて、離れた所から場にそぐわないエフの叫び声が響いて来た。


「だ、駄目ですー!アエル様は絶対に渡さないですからぁ!!アエル様は私にとって大事な人なのですー!」


エフが声を荒げることは珍しい出来事であって、シャウやメルスは反射的に騒がしい方向へ視線を向けた。

すると、なぜかカオスとエフの二人がアエルを引っ張り合う光景となっていて、本人達は喧嘩のつもりでも微笑ましい状況にしか思えなかった。

しかもエフは真面目に起こっている雰囲気にも関わらず、引っ張られているアエルは呆れていて、カオスは明らかに遊び感覚な笑顔で対抗しているだけだ。

ひとまず場を収める必要があるとシャウは考え、三人に近づき始めた直後のことだ。


「あー、もう三人とも、そんな喧嘩なんかしたら駄目だって!こういう時は仲良く………きゃっ…!!?」


突如、庭園内で激しい雷撃が迸ってルミナ除く全員が短い悲鳴をあげた。

そして雷撃は瞬間的に庭園中を駆け巡っていき、花を火種として少しずつ室内を燃やし始める。

しかし、すぐさまルミナが付加魔法によって燃焼条件を奪う事で瞬間的に鎮火させてみせた。

ただ数秒足らずで鎮火は成されても、襲い掛かって来た脅威が去ったわけでは無い。

遅れて気付けば、この庭園内に見慣れない男性が一人侵入していた。

あまりにも不意な現れ方からして、ブライトによる瞬間転移で送られて来たのだろうか。

その男性が纏う服装は『憤怒と影の国』特有の軍服。

だが、金色と銀色が入り混じった髪に好青年らしい顔立ちはアエルやメルス女王に見覚えがあって、もはや心底から驚き呆然とする他なかった。


「嘘だ……。どうして…、マンドリンが生きて………」


驚愕の声を漏らすのはアエルであり、彼の瞳と表情は揺らぎ歪んでいた。

心の奥底から動揺しているせいで、酷く混乱しているのだと彼は自覚する。

むしろ自分は幻覚を見ているのではないかと、自身の正気を疑ってすらいた。

目の前に現れたのは間違いなく『楽園と輝光の国』の代表者であり、断獄者(だんごくしゃ)という暗殺部隊の頭であるマンドリン。

どことなく雰囲気に変化はあるが、彼を知る者であれば確実に本人だと一目で分かる。

でも、彼は死んだはずだ。

その様子は誰かが直接目撃したわけでは無いかもしれないが、目撃者が居ないからと言って生存している可能性を()し示すものでは無い。

それほどマンドリンが生きているのはあり得ない出来事であり、仮に本当は生きていたとしても、この状況になる事は到底辻褄が合わない。


「まさか、あんな事が起きたのに生きていたのか?いや、そんな夢物語みたいな……」


誰一人状況が呑み込めずに居る。

それでもシャウだけは武器を手に取って身構えていた。

どのような理由や経緯があるにしても、冗談とかの類では無くマンドリンが本気で奇襲を仕掛けて来たのは事実だ。

だから敵だと認識するのが正しく、またマンドリンも敵対しているつもりでレイピアと拳銃を構えてみせた。

しかし、それらの武器が向ける矛先は『喜愛の国』所属の者達や唯一戦う意思を見せているシャウにでは無く、少女カオスに対してであった。


「カオス、アービス国王が君を裏切り者だと判断した。そのため僕が始末しに来た」


見た目の姿形のみならず、間違い無く声もマンドリンと同一だった。

礼儀正しい口調に冷静な物言い。

更に登場した理由を律義に告げる辺り、彼らしい余裕の表れがあった。

そのせいでアエルは更に困惑し、ますます動揺が激しくなる。

そんな中、殺意を向けられているはずのカオスは普段と変わりない様子で反論した。


「むむっ!私は別に裏切っていないとアービス様に報告しておいて下さい!あと、いつだって私はアービス様の事を第一に考えていますって事もお願いします!」


どういうことか、カオスはマンドリンの姿を見ても驚いている反応は欠片も見られなかった。

単純に相手の素性を気にかけていないだけなのか、それとも彼が生存していた事を知っていたのか。

その後者なのだとアエルは捉えて、堪らず強気で彼女に訊いた。


「ちょっと待ってくれ!カオスはマンドリンが生きていたのを知っていたのか!?」


「ふぇ?えー…、何を言っているのかな?…って、あぁ…そういえばそっか。あれはマンドリンという人に違いありませんけど、実は人違いです!」


「人違い?そっちこそ何を言っているんだ。だって、どう見てもアイツ本人だろ…!」


「あれは私と同じく生物複製(クローン)技術で生み出された存在ですよ。原型は無くても体組織は残っていましたからね!ブライトさんの力で急激に成長させることで本人に似せていますけど、まったくの別人です!」


「…いやいや、駄目だ。僕には何一つ意味が分からない……」


そもそも生物複製(クローン)技術が何なのか知らない事も相まって、別人だと断言されても何一つ理解が追い付かなかった。

しかも見れば見るほど本来のマンドリンと変わりないせいで、無意識に説明の理解を拒んでしまっている。

いくら理由付けされても彼本人だと直感してしまっただけに、もうアエルにとっては自分が知っているマンドリンという認識しか持てない。

比べてマンドリンは戸惑う少年の存在を一切気にかけず、カオスを始末する行動へ移ろうとしていた。


「全ての決定権はアービス国王が持っていて、君の意思や証言など関係無い。……それに相手が身内であれど殺害するのが我が国だと、君は承知しているはずだ」


「それは相応の理由があっての話です!いくら私でも不当な扱いには苦言を(てい)しますし、対処方法の再考を申請致します!」


「考え直すほどの理由があったとしても、報告を怠ったのは君自身だ。そして僕の任務は君を始末することである以上、こうして問答を重ねても無意味でしかない」


カオスが何を訴えかけようとも、マンドリンは任務達成という一点張りの姿勢を崩さなかった。

『憤怒と影の国』に相応しい思考で、もはや融通が効かないのは確実だ。

そしてマンドリンは即座に行動を開始して、銃口を向けるなり正確無比な腕前で拳銃のトリガーを素早く引いた。


「危ないっ!」


パァンという渇いた炸裂音が鳴るか否かのタイミングで、カオスは危険を報せると同時に間近に居たアエルを突き放した。

自身の回避行動より、彼が攻撃の巻き添えを受けないことを優先したのだ。

優れた反応と迅速な行動なのは賞賛(しょうさん)に値するが、それが正しい判断だったのか恐らく誰にも分からない。

ただ次の瞬間には、撃ち放たれた凶弾はカオスの脳天へ直撃してしまう。


「うっ…ぁ……」


呻き声を漏らしたのは撃たれたカオスであり、その瞬間を偶然にも眼前で目撃してしまったアエルだ。

他の人たちは驚き戸惑い、言葉を失っている。

それから彼女の傷口からごく少量の血しぶきがあがると、マンドリンは表情をしかめた。


「へぇ…、防がれたか。子どもであろうと、あの方の懐刀と呼ばれているだけである。惚れ惚れする素質の持ち主だ」


彼が感心する言葉を口にしたとき、ふらついていたカオスは気合で踏み留まってみせ、傷口からは血と一緒に溶かした銃弾を垂れ流した。

どうやら彼女が扱う魔法、その黒炎によって当たる直前には銃弾を溶かし始めていて、皮膚を傷つけた直後には弾としての形を奪っていたようだ。

そして骨に達する頃には威力まで殺しきっていた事から、今や悪魔化という異常能力まで得ている彼女にとって致命傷とはならない。

異物が体外から流れ出ると、あっという間に傷口は塞がる。


「いったぁ…!いきなりは止めて下さいよね!いくら無事でも、すっごく痛いのですから!お返しに超強力な一撃をお見舞いしてあげます!」


そう文句を言うカオスの顔には、浮かび上がっている黒い紋様が色濃くなると共に広がり出していた。

力の発現によって紋様が変化しているのもあるだろうが、損傷によって悪魔へ近づき出しているのもある。

つまり致命的な負傷が無くとも、生物的には危うい状態に等しい。

なにせ完全に悪魔へ転化してしまったら、理性を失って狂気に満ち、様々な生物と戦って来たタナトスから見ても怪物と評する生き物となってしまうからだ。

だが、そのことを幼いカオスが気にするわけが無かった。

すぐさま彼女は力を最大限に引き出し、漆黒のオーラを纏い始めていた。

この全力の発揮も寿命を削るから避けるべきだと、タナトスから忠告されたばかりのことだ。

そんな自分の身を一切心配しない彼女だったが、黒炎魔法の発現を寸前で思い留めてしまう。


「……くぅ…!」


カオスはどこか悔しそうな顔つきを見せ、代わりに腰から歪な短剣を引き抜いた。

敵から遠距離攻撃されたのに魔法を使わず、銃撃もせず、よりによって一番愚策であろう接近戦を持ち込むのは下手な選択だ。

しかし彼女が短剣で応戦しようとしたのには理由があって、その彼女の心境にマンドリンは気づく。


「自身が危険だというのに、それより周りに被害及ぶ方が心配なのか。状況を理解した上で適切な順序を決めかねるとは、なんて愚かな戦士だ」


「うるさい!」


カオスは大声をあげるなり、勢いよく駆け出して一直線にマンドリンへ立ち向かった。

まともに銃撃を受けても無事だったとは言え、いくらなんでも無謀で雑な攻撃の仕掛け方だ。

そして、彼女にとって不利な要素は他にもあった。

それは生物複製(クローン)として生み出されたマンドリンに、オリジナルと大差ない戦闘技術が継承されてしまっていることだ。

そのせいで駆け引きする機会すらカオスには許されず、一瞬の間に接近されては短剣を弾き飛ばされ、更に腹部はレイピアで刺し貫かれていた。


「うっ…!?っぐ…ぅあ……!」


「任務完了だ」


彼女が腹部に痛みを感じた直後、間髪無く顎下をゼロ距離で銃撃されてしまう。

直接銃口を押し当てられながらの射撃となれば、銃弾を溶かす猶予や威力を殺しきることは不可能だ。

だから少なくとも彼女の顎は吹き飛ぶはずだったのだが、撃ち放たれたはずの銃弾は掠める程度に終わっていた。


「これは……」


この一瞬、マンドリンは安易な判断を下したのは自分の方だったと知ることになる。

また同時にカオスの直線的な突撃は、正しく有効的な手段だと理解する。

実は、彼女は既に魔法を発現していた。

それも先ほど銃弾を溶かしていたのと同一で、自身の身に黒炎を薄く纏うものだ。

そもそも飛んでくる銃弾を一瞬で溶かすほどの熱量なのだから、ゼロ距離射撃するつもりで押し突けた銃口が酷く歪んでしまう事は当然の現象だった。

そのせいで発射する前から銃弾は異常な逸れ方をしてしまい、彼女の皮膚を浅く削り飛ばすのみだ。

加えてレイピアの刃も融解し始めており、それほどの熱を持った彼女は相手の体を掴もうとする。


「てやぁ!」


「自殺行為みたいな戦い方だが、馬鹿にはできないか」


触れるだけで相手に深い火傷を負わせられる状態のカオスだが、肝心の動作は無駄だらけであって洗練されていない。

よって回避は容易であり、マンドリンは使えなくなった武器を手放すと共に余裕ある表情のまま後方へ跳んだ。

それから彼は冷静に状況を見つめ直し、再びカオスが迫って来る前に独り言を呟く。


「僕も君のような耐熱装備にしておくべきだった。まさか金属を一瞬で溶かすとは。それに魔法術の扱いだけなら国一番に匹敵するほどか」


「ごほっごほっ…!何をぶつくさ言っているのですか!もしかして私の強さにビビって早くも弱音ですかね!」


「確かに、このままだと僕の手には余る。現状あまり思いっきって動けそうにも無いからね」


そう言いながらマンドリンは視線を周囲に配る。

今のところカオス以外は応戦して来ないが、この場に居る全員が臨戦態勢だ。

シャウは彼の隙を狙っていて、もしもに備えてルミナは魔法剣を引き抜き、エフはメルス女王陛下の隣まで移動していて、いつでも魔法を発現できるよう事前準備を終えている。

唯一アエルだけがまともな対応を出来そうに無いが、だからと言って好機になりえる要素では無く、今は関係ない存在。

間もなくして城内の兵士達が応援に駆けつけて来る事も考慮すれば、

ますます余計に長居していられない。


「僕にとって一番厄介なのは賢者の付き人か」


彼に都合が良いのはルミナが自衛に専念している事だが、自爆行為をしようとすれば介入されてしまうのが予想できる。

そのせいでマンドリンは奥の手を使えず、早くも攻める手段を失っていた。

だからこの土壇場で数秒ほど考え込んだ後、彼の手詰まりに気づいたカオスは威勢よく挑発を仕掛けた。


「もう終わりですか!まだ紋様の力があるでしょうに!」


「……残念だが、君と同じ力は僕に備わっていない。なにやら相性が悪いらしく、この体に適合しないと判断されてしまった」


「要は打つ手無しという事ですね!では、この場で始末させて貰います!」


「それは御免(ごめん)(こうむ)る。使命を全うできずに無駄死にするなんて、二度と嫌だからね」


きっとマンドリンにとっては何気ない言い返しだったはずだ。

だが、この一言はアエルが抱いている感情と幻想を掻き立てた。

少年は自分でも訳の分からない希望を夢見ていると思いながら、カオスの隣を通り過ぎてマンドリンの前へ立とうとする。


「ちょっと待ってくれ」


「あ、アエル様…?一体何を……」


この無防備な行動は危険でしかなく、状況を伺っていたエフは心配する声を漏らす。

対してアエルは子どもらしい弱気の表情を浮かべていて、尚且(なおか)つワガママを言う時のような自分勝手な目つきで相手に話しかけた。


「マンドリン。お前は僕の事を覚えて無いのか?」


「……覚えているかはともかく、君の事は知っている。皆からの呼び名はアエルだ。最年少の星騎士隊であり副隊長」


「そして断獄者の元一員でもある」


「そうか」


表面上まるで素っ気ない反応だが、状況打開に繋がる糸口だとマンドリンは考えて素直に受け答えし始めた。

実際、この意味ない会話のおかげで誰も攻撃を仕掛けないでくれている。

そうマンドリンは冷たく考えていると、何やらアエルは問い詰め続けた。


「なら僕の事は別にいい。それより前の事は覚えていないのか?それこそ大陸の未来を想って、勇猛果敢な特攻してまでアービス国王を殺そうとしただろ」


「アエル、君は何か思い違いをしている。僕はマンドリンであり、同一人物と呼べるかもしれない。だが、それでも別人だ。いわゆる同姓同名でしかなく、今までの関係性を引き合いに出すのはお門違いだ」


「その言い方に考え方……、間違いなく僕の知るマンドリンと同じだ。だから思っていることが一つある。どうしてアービス国王の役に立とうとするんだ。あの正義心は無くしたのか?」


「立場が変われば、正義の在り方も変わるさ。そういう意味では現在の僕と過去の僕は変わらない。自分にとって信じるモノのために行動し続けている」


「今はアービス国王の理念が真の正義だと、そう本気で信じているって事なのか」


「そうなるかな。もしこの信仰が前の僕と相反するものだとしても止める気は無い。気持ちが揺らぐ理由にもならない」


かつてアービス国王を殺そうとしていた人物が、今ではアービス国王のためになろうと尽力している。

そう考えたら真逆の行動を取っていると言える。

それならばアエルの決断は一つで、いつしかのマンドリンが残した希望として少年は確固たる決意を抱いた。


「じゃあ、この天才少年であるアエル様が止めてやる。僕はマンドリンの意志を受け継ぎ、この大陸の安寧を守ってみせる。そのためにもお前を殺す事だって躊躇わない!」


強い意思を感じさせる瞳と言葉であって、アエルが放つ気迫にはマンドリンでも目を見張るものがあった。

単に(いき)がっているのでは無く、しっかりと覚悟を決めた上での宣言。

この様子に相手は口元を緩め、少し感心する態度を示した。


「……はははっ、身内でも殺す理念が『喜愛の国』にもあったとは恐れ入る。いや、もう僕と君は身内では無いか」


「そうだ。身内じゃなく、お互いに目的の障害でしかない敵だ…!!」


そうアエルが言った直後、彼は腰からレイピアを引き抜こうとする。

だが、いくらアエルが戦闘の天才であっても技術と経験は天地の差がある。

レイピアを振り抜くより早くマンドリンは少年の腕を制止すると共に、彼の腹部を蹴りで打ち抜いてみせた。


「ぐっ……!?」


「格好つけても無駄だ。君程度じゃあ僕一人に太刀打ちすらできない」


「アエル様!」


アエルが攻撃を受けて大きくのけぞった事により、エフは二度目の呼びかけをする。

同時に少女は魔法を発現しようとするものの、魔法術もマンドリンの方が圧倒的に格上だ。

彼は事前に準備していたエフより素早く魔法を発現させ、雷撃で少女の手を焼き払う。


「耳障りだ」


「いつっ…ぅ…!!」


両手の裂傷と火傷によってエフは声にならない悲鳴をあげた。

このままでは事態が悪化する。

そのためシャウも応戦せざるを得なくなって、すかさず長棒を手に飛び掛かった。

エルフは滅多に武術を使わないため、シャウの棒術は初見のはずだ。

それでもマンドリンは瞬時に対応してみせ、長棒の連撃を素手で受け流しつつ紙一重で回避した。


「中々強い。でも、僕より強くは無い」


「このぉ!」


すぐさまシャウも敵の動きに対応し、攻撃の動きを切り換える。

それは深い踏み込みを加えた長棒の横なぎで、受け流しを一切させず、大胆な回避を強要させるもの。

要は回避した所への追撃を狙った攻撃なわけだが、マンドリンは横なぎを避けるために跳躍するなり飛び回し蹴りを放つ。

この回避と反撃が伴ったカウンターは予想外であり、まともに蹴りを受けてしまったシャウは吹き飛ばされてしまう事になる。


「う…そぉ……!」


咄嗟に身構えたおかげでダメージは浅く済むが、想像を超えた動きに驚きを隠せない。

タナトスやカルラに匹敵する体術レベルだ。

それから体勢を立て直したアエルが、今度こそレイピアを突き刺そうと向かった。

更に武器には雷撃と疾風の魔法が複合付与されていて、素手による太刀打ちは到底不可能だ。

そのことをマンドリンはよく理解しており、瞬時に変身魔法で背中に翼を生やさせて庭園内を飛翔する。


「さすがにそれは相性が悪い。まして、魔法術だけは君の方がセンスあるからね」


「逃がすものか!」


咄嗟にアエルはレイピアを振るい、刃に付与させていた雷撃と疾風の両魔法を撃ち放った。

だが、相手は武術の対処法だけでは無く、魔法に対する防御策も万全だ。

アエルの魔法を自身の雷撃魔法で逸らす芸当を簡単にしてみせ、逸れた魔法は庭園の天井を突き抜けた。

合わせて小規模の瓦礫が室内へ落下するが、誰の被害にもならないようカオスが黒炎魔法の放射で消失させる。

この行動にマンドリンは内心驚くものがあって、つい彼女の様子を眺めて呟いた。


「そうか、守るためなら魔法を使うことに容赦無しか。アービス国王から聞いていた性格とは、だいぶ変化しているように伺える」


またカオスは拳銃を手にしていて、射撃こそはしなくとも牽制する構えを見せていた。

この事からマンドリンは無理に攻めても無駄だと判断し、速やかに開いた天井の穴から外へ出ようとする。

もはや追跡できるのは同じく飛翔可能なルミナだけで、肝心の彼女は深入りしようとしてない。

だから後にできることは大声をあげる事のみとなっていて、姿を消すマンドリンに向けてアエルは叫び声をあげた。


「このぉ…!また来るなら絶対に仕留めてやるからな!僕や本物のマンドリン、そして大陸のためにも倒してやる!アービスの野望だって打ち砕き、全部僕が終わらせてやる!!星騎士隊として!マンドリンが(のこ)した力として!仲間と一緒に、絶対に……!!」


相手は既に離れているだろうが、恐らく彼の雄叫びは聞こえているはずだ。

そのせいであろう。

この最悪な再会によって生物複製(クローン)のマンドリンは抹殺対象であるカオスの事より、アエルの存在を強く気にかけるようになる。

そしてアエルは自らの力で強く奮い立ち、どうすればあの敵を倒せるのか、早くも思考を最大限に巡らせているのだった。

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