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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・前編
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休戦

決定的なシャウの一撃とミズキのひと振り。

この二つの攻撃を受けて、平然といられるわけがない。

しかし、すぐにサタナキアは仰け反っていた姿勢を戻してみせる。

それから胸元に突き刺さっていた剣をへし折っては、シャウが手にしている長棒を掴んでシャウごと振り回して投げ飛ばす。


「わわっ!?」


「きゃあ!」


投げ飛ばされたシャウはミズキと衝突して、ミズキは地面に転がって伏し、シャウだけは受身を取って屈んだ姿勢となる。

そしてすぐにシャウは長棒を持ち直して戦闘の構えを取るも、攻撃を受けたサタナキアが反撃に動き出すことはなかった。

代わりに頭から血を流しては、身に纏っているローブの胸部の辺りから血を滲ませて浅い呼吸を繰り返している。

さすがにさっきの攻撃には手応えがあった。

おそらく深刻なダメージなんだろうと踏んで、シャウは余裕の笑みを浮かべて話し出す。


「わはははー。さぁて、どうかな。もうキツいんじゃないかな?もう悪いことしませんって誓うなら、見逃すこともなくもないけど?ついでに私のファンになってくれるなら、尚更許しちゃう」


「なめるナ…。この程度の傷、魔王様が受けた傷に比べれバ!それに全力で出せば、貴様らごときこの山ごと消し飛ばしてやれル…!」


低くドスの効いた声でサタナキアは囁くと、今までは無かった殺意を一気に発し始めた。

その殺意にシャウとミズキは肌がピリピリと痺れる感覚を覚える。

まさにこれから殺すという明確な殺意が、これ以上の言葉を介さなくとも伝わってくる。

しかも殺意を感じたのは、ミズキとシャウだけではない。

辺りの木々や小さな動物や虫までもが、サタナキアの殺意に恐怖を覚えて騒ぎ出す。

その騒ぎ出す木々の音を耳にして、シャウは思わず苦笑いをする。

つい場に似合わない笑顔を浮かべてしまったのは、木々がざわついてしまう気持ちが分かったからだ。

こんな殺意、迫ってくるギロチンと何ら変わりない。

誰だって迫ってくるギロチンからは逃げたいと思うはずだ。

もはやこの殺意は、ギロチンが下ろされる瞬間の恐怖感と同等の感覚を抱かざる得なかった。

そしてシャウとミズキは察する。

このままでは何もできずに本当に殺されるだけだと。


「正直、人間だからと馬鹿にしていタ。魔王様にトドメを刺したのは結局、貴様ら人間では無かったからナ。だが認めよウ。貴様ら人間は、私が殺意を持って殺すに相応しい生物だト!」


サタナキアは脚に力を込めて動き出そうとする。

だが、その時だ。

小さな炸裂音と共に白い煙が一帯を覆った。

更に炸裂音は連続で鳴り続けていき、すぐに白い煙は濃煙となって一メートル先も見えない程となる。

この事に誰かによる援護だとシャウはすぐに察するも、誰によるものかまでは分からない。

しかしこのチャンスを逃すわけにはいかなった。


「何だかよく分からないけどナイスタイミング!ミズキ、逃げるよ!このまま真正面から立ち向かっても仕方ない!撤退も立派な戦術ってね!」


「…え、え?あぁ…!はい!」


シャウはサタナキアが居た場所とは真逆の方向へ走り出し、戸惑いながらもミズキは足元に落ちていたナイフを手に取ってからその後を追う。

そしてミズキは思い残すような表情で未だに炸裂音が鳴り続ける後ろを一瞥しては、すぐに前へと向き直って全力で走る。

それからだった。

白煙の中では連続で金属音が鳴り響いた。

白煙を切り裂き、何かが高速で動いている。

その何かはナイフの二刀流を手にサタナキアを連撃を仕掛けていたが、全てサタナキアは防いでみせていた。


「動きが速いな。何者ダ…?」


サタナキアが質問を問いかけるも、ナイフを手に戦っている人物は答えない。

ただ代わりに小さな玉をサタナキアに向けて放り投げる。

反射的にサタナキアが白い玉を腕で叩き落とすと、衝突した瞬間に小さな玉を炸裂して白い煙を発生させた。

同時に小さな針が飛んでいき、サタナキアの体の複数箇所に刺さる。


「ン…?なんだ今のハ?」


「……毒針だよ」


サタナキアの疑問の言葉に、ナイフを手にしている人物は女の子らしい声で答えた。

そしてゆっくりと歩く音を踏み鳴らしながら、サタナキアの目の前に姿を表す。

とは言っても白煙は依然と濃く、シルエットに近い状態だった。

かすかに見える水色の髪と水色の瞳、少し幼い顔立ち。

そしてゴーグルをかけていて、青色のマフラーのような物で口元を覆い隠しているのをサタナキアは視認した。

どこか、さっきまで戦っていたミズキと呼ばれていた水色の髪の少女と容姿が似ているように見える。

ミズキに似た少女は、物静かな口調でサタナキアに話し続けた。


「あなたの体はすでに毒に冒され始めている。本当は一瞬で昏睡状態に陥るような毒だけれど、どうも効果が薄いみたいだね。それでも危険には変わりないと思うけれど、くひひひっ」


水色の髪の少女は少し独特な笑い声を漏らす。

対してサタナキアは、さっきまでとは打って変わって落ち着いた様子で自分の腕を見ながら喋りだした。


「確かに、目眩はすル。………ふム。仕方なイ。あとは配下に任せようカ。目的は済んでる上に、本来私はまだ動き出す時ではなイ。今はまだ冷静に動かなければナ…」


「そう、よく分からないけど撤退してくれるなら有り難いかな。このままあなたと戦ったら、私死んじゃうし…」


「ほう、分を(わきま)えているようだナ。まぁいずれ勇者も貴様も殺してやるサ。その時まで懸命に生きるといイ。必ず魔王様の仇は討ツ。復讐される時を楽しみにしていロ…」


サタナキアはそう呟いては、突如指笛を吹き出した。

指笛は森一帯に鳴り響き、その音に反応するかのように酷く低い唸り声が続けて山中に轟く。

しかし水色の髪の少女は隙を見せないようにとサタナキアから視線を逸らさず、手に持っているナイフに力を込める。


「では、いずれ……時が来るまでさらばダ…」


サタナキアは妖しい笑みを浮かべると、ローブの内側から隠していた大きな翼を広げた。

その羽は六本あり、黒と白の二色による混沌とした翼だ。

烈風を巻き起こして白煙を散らして飛び立ち、すぐさまサタナキアの姿は空へと消え去ってしまう。

この光景を水色の髪の少女は最後まで見つめていた。


「……時が来るまで、か。復讐するなら、そんな回りくどいことしなけばいいのに…馬鹿みたい」


水色の髪の少女は悪態をつき、静かな足取りでシャウとミズキ達が走った方向へ歩き出した。


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