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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・後編
109/338

生涯の仲間

「ふぅ……」


北の農村での田舎道で、タナトスは一人歩きながらため息を漏らした。

真夜中だというのに彼は特に目的なく、何も考えずにうろついていた。

そんなときに、偶然にも彼は見知った人物と出会った。


「ミズキ?起きていたのか」


「あれ、タナトスさんも起きていたんですか。夜中に会うなんて奇遇ですね」


二人は近づくと、歩く足を止めて向かい合った。

するとタナトスはミズキの視線が妙に泳いで目を合わせて来ないことに気がつくが、気にせずに言葉をかけ続けた。


「俺は昼にシャウ達と合流した後は、一人で先に休ませて貰っていたからな。それですっかり眠気が吹っ飛んだから、見回りついでに散歩をしていたんだ」


「そうだったんですか。私はこれから寝ようと思っていた所です」


「そうか。なら声をかけて悪かったな。ゆっくりと休んでくれ」


このとき、別にタナトスは意識していなかったが、ミズキの態度に違和感があった。

言葉では言い表しがたくて明確に変というほどでもないが、いつもと何かが違うという妙なもの。

ただ視線が泳いでいるだけはなく、まるで小さな子供が親に隠し事をしているような落ち着きない素振りだ。

もしかして自分が休んでいる間に何かあったのかと思い、タナトスは軽く追求してみる。


「どうかしたか、ミズキ。何だか平常心じゃないように見えるんだが」


「え!?そ、そうですかね…!私はいつも通りですよ!いつもと変わらない平凡で華奢な少女のミズキです!っけひひひ」


調子に乗った時のシャウが言い述べてそうな口調で、ミズキは愛想笑いまでして必死に答えた。

舞い上がっているような反応で、一言で言えば彼女らしくない態度だ。

いつもならもう少し落ち着きを兼ねているはずだから、明らかに何かがあった事を察するには充分だった。

だからと言って言及し続けるつもりは彼には無いため、一応タナトスはもう一度質問を投げかける程度に留めておく。


「本当に大丈夫か?何か悩み事や揉め事があるのなら協力するぞ」


「ほ、本当に大丈夫です!何でもありませんから!あ、そうだタナトスさん。休んでいたのならお腹空いてませんか?食事とってませんよね!?」


「あ、あぁ。確かに食事取らずに休んでいたが」


「それならこの道を真っ直ぐ行った所に補給物資を管理している場所があるので、そこで兵士さん達から食料を貰うといいですよ!有事の際に備えて一日中兵士さんが滞在してますから、言えば貰えるはずです!」


「……そうか、それならそうしようか。教えてくれてありがとうな」


ミズキは露骨に話題を変えてきたが、これ以上の詮索はして欲しくないという意思表示でもあるのだろう。

それなら気にはなるが、しつこく問いただしても無粋なだけだ。

タナトスは彼女の気持ちを尊重して態度の追求をやめて、適当に言葉を続けた。


「じゃあ、お休み。お前は魔物に狙われやすいんだから、夜道に気を付けろよ」


「は、はい!心配してくださってありがとうございます、気をつけます!タナトスさんもお休みなさい」


こうして言葉を交わした後、タナトスは歩き出してミズキを尻目にすれ違った。

ただ、通る瞬間にミズキの体は緊張で強張ってしまっていた。

タナトスはそのことにも気がついたが、気にかけないようにしてそのまま歩いて離れていく。

するとしばらくして、振り返っても彼の姿が視認できない距離となるとミズキはため息を漏らす。

このため息は、ちょっとした自己嫌悪と緊張が入り混じったものだ。

シャウと話した直後なだけあって、余計にタナトスのことを意識していた。

だから咄嗟(とっさ)に食料がうんぬんなんて言ってしまった。

一方的に意識してしまっている自分が恥ずかしい。

別れて冷静になってきたあと、鼓動が高鳴っていた事と体温が上がっていた事にようやく彼女自身が気づく。

ミズキは火照った顔を手で撫でながら、小さく呟いた。


「夜風で頭を冷やしてから寝床に行こう……」


そしてタナトスの方は、ミズキに言われた通りに道を歩き続けて補給物資が管理されているという場所へ向かっていた。

周りに人の気配はなく、夜の田舎道らしい澄んだ空気だ。

耳を澄ましても、野生の動物の鳴き声くらいしか聴こえてこない。

だから目的地に着くまで誰にも会わないと思っていた矢先、またタナトスは見知った人物に出会うことになる。


「今度はシャウか」


前方からパンを複数個も抱えたシャウが歩いて来て、さっきと同様に向かい合うことになる。

しかし反応はミズキと違って、シャウは相変わらずとも言える元気があり余った声と表情だった。


「お、タナトスじゃーん!こんな所で会うなんて奇遇だね!」


「何だか、さっきも同じような言葉を聞いたな」


「さっき?」


「いや、たいしたことじゃない。ただ、ついさっきもミズキと偶然出会って話していたんだ」


タナトスがそう答えると、シャウは不思議とにやつき始めた。

しかもその顔はおだてた事を言いたげそうなもので、何か事情を察した口調で話し出す。


「へぇー、ミズキちゃんとねぇ。ふぅーん?」


「なんだその目と言い方は?ものすごく何かを言いたげだな」


「そう?まぁ、私から余計なことを言うつもりはないよ。ただ私としてはちょっと愉快な話だなーって思っただけ。わはははー」


彼女の口ぶりからしてミズキが妙な態度だったのを知っているようで、どうもシャウが一枚噛んでいそうだった。

ミズキの天然が入った性格から考えれば、シャウがちょっとした意地悪でもしているのかもしれない。

何を企んでいるのかと思いつつ、タナトスは会話を続ける。


「楽しそうにしているのは結構だが、あまりミズキをからかうなよ。あいつは真面目な性格なんだから。じゃあ、俺は食料を貰いに行くところだから失礼するぜ」


「あ、食料を貰いに行く所だったの?それなら最初に言ってくれれば、この心の広いシャウ様が食いしん坊なタナトス君に快く分けてあげたのに。はい」


シャウはそう言うと、丸くて素朴なパンをタナトスに差し出してきた。

普通に考えてただの好意だろうが、あまりにも素直すぎる態度にタナトスは無粋な言葉をぶつけた。


「……そのパンを受け取ったら、何か要求してきたりしないだろうな?」


「うわっ、それは心外だよ!私がそんな貪欲な少女に見える?そもそも今まで狡賢い事なんてしたことないでしょ!」


「考えてみると、そうかもな。悪い、失礼なことを言った。俺もお前の気まぐれに見習って、素直にパンを受けることにするよ」


そう言ってタナトスは差し出されたパンを掴み取ろうとした時だ。

手に触れようとした直前でシャウはパンを素早く振り上げて、受け取らせないようにしてくる。

自分が謝罪を言った直後に意地悪かとタナトスは内心呆れていると、シャウは楽しそうに笑って言ってきた。


「やっぱり気が変わった!私と一緒に食べるって条件を呑んでくれるなら、このパンをあげるよ!何と言っても一人で食べるのが寂しいからね!」


「寂しいってのは本音みたいだな。それぐらいのワガママなら付き合ってやるよ。数少ない大切な仲間だしな」


「わはははー、タナトスの口からそう言ってくれるなんてお世辞でも嬉しいなぁ」


タナトスが承諾してくれた所で、二人は肩を並べて歩き出した。

歩いている途中、タナトスが横目でシャウを見ると笑顔を浮かべていた。

こんな真夜中でも明るく振る舞えるなんて、自分にはできない真似だから感心すら覚える。

そしてくつろぐのにちょうど良さそうな場所を探し出して、月当たりが良い草原へと腰を下ろす。

二人が隣同士に座り込むと、シャウはパンをタナトスに放り投げた。


「はい」


「おっと、悪いな」


彼は小声で礼を言いながらパンを受け止める。

それからすぐに二人してパンを頬張り、特に甘味のない味っけない食感を口の中で楽しむ。

配給するためのパンだから味付けというのはされていないのだが、旅をしていたら保存食を食べることが多いために二人は味がない食事には慣れていた。

そんな中、シャウは雲で隠れた夜空を見上げながら話しだした。


「そういえば、さっきはよく私が寂しいってのを見抜いたね。タナトスは私に合わせて適当にそれっぽい事を言っただけなのかもしれないけど」


「腐っても仲間だからな。仲間の気持ちくらい何となく分かるさ」


「わははは、タナトスでも他人を理解できる心があるんだね。何だか意外だよ」


「……酷い言われような気もするが、案外その通りかもな。ただ、なんて言うんだろうな。俺でも寂しいと思える気持ちを多く経験していたせいもあると思うぜ。ほんの少し前までは分からなかったが、こうしてお前たちと旅をしてきた今なら分かることがあるよ。前までの俺は酷く孤独だったんだと」


タナトスにしては珍しく感傷的な言葉だった。

その発言はシャウにとってはどこか衝撃的で、人間らしい思考だと思った。

何より純粋な言い分で、自分に似ているとさえ思えた。


「タナトスがそこまで言うなんて、何だか面白い話だよ。まさか仲間がどうこうって語ってくれるなんてさ。いつも強がっているばかりだと思ってた」


「くはは、確かに俺が仲間という言葉を使うことは珍しいかもな。でも言っておくが、俺は正直なだけで強がったことはないぞ。むしろ強がっているのはシャウ、お前だろ」


唐突に心の内を言い当てられたように、シャウは驚きを覚えた。

実際は表情には出さずに愛想笑いをするが、まるで見透かされているみたいで言い返す言葉がすぐには思いつかない。

笑って誤魔化しては、精一杯考えて出た言葉は疑問で返す短いものだった。


「そんなに私って強がっているように見える?」


「少なくとも、俺とポメラにはそう見えているはずだ。だってお前は誰にも落ち込んでいる所を見せようとしない。それとお前の戦い方を知っているからこそ言えることだが、誰よりも戦いで傷ついているから戦闘に対して恐怖を覚えていてもおかしくない。それに、お前は明らかに命を投げ出し過ぎている」


シャウは呆然としそうになった。

常人はケガを恐れて戦闘を避ける。

なぜ恐れるのか。

それは単純に、ケガを負うことで生命の危機に(ひん)する可能性があるからだ。

けれどシャウの戦い方、治癒を発動させることで致命的な攻撃を受けてなお突撃するのはその感覚から逸脱していた。

常に生と死の狭間を紙一重で強引に命を繋ぎ留めているから、本人自身も死の直前を多く経験していると自覚している。

だから死の恐怖を多く経験していて、それにより心が砕けていてもおかしくは無かった。

でもシャウにはすでに命を投げ捨てる覚悟があるため、自分の命を無理に軽視することで恐怖を軽減していた。

そのため言葉として言われると少しだけ自分の命について冷静に考えてしまい、シャウはかすかな恐怖で震える下唇を軽く噛んでしまう。

更にその仕草を隠そうと、彼女はパンを食べて誤魔化しては話し出す。


「私は常に第一線で戦うからね。自分の命を惜しいと思っている暇なんて無いよ。それに私の命で誰かが救われるのなら、自分の命が大切かどうかなんて考える必要もないし」


シャウは返す言葉を無理に捻り出したため、滅茶苦茶でいじわるな言い方になってしまっていた。

しかしタナトスはそんな言い方を気にせず、軽く笑って喋る。


「くははは、そうだな。戦う者としてはそれが正しいのだろうな。俺も戦闘を生業にしているから、シャウの言い分が間違っているとは思わない。だがな、お前は勇者と世間では呼ばれているが、すでに魔王を打倒した英雄でもあるんだ。今回の騒動が終えたら、他の人間のように平穏な生活を過ごしてもいいんじゃないか」


「……どうかな。けど、それも悪くないかな」


ここまで話した所で、突然シャウは急いでパンを食べ始めた。

そして食べきると水袋で水分を補給して喉を潤し、勢いよく立ち上がった。


「よし!タナトス、組手しよ!」


「ずいぶんと唐突だな。別に組手に付き合っても構わないが、シャウは疲れているんじゃないのか?」


「疲れているけど、気分を晴れやかにするために組手したいの!タナトスは私に合わせて動く程度でいいから!」


「分かった。ちょっと待っていろ」


タナトスは隣でシャウに()かされながら、一気にパンを食べて腹を満たした。

それからタナトスも立ち上がり、できるだけ平坦な草原へと移動した。

近い場所で組手できる所を見つけると、互いに組手の邪魔となる武器を地面へと放り投げた。

そして向かい合って間合いを取る。

シャウが両拳を上げて構えを取ると、遅れてタナトスも構えて睨み合う。

同時に互いの視線は鋭くなり、構えを取るだけで自然と戦闘できる集中力を発揮していた。

すると特に開始の掛け声もなく、二人の体は自然と動いていて急速に接近しては打ち合いが始まる。

言葉が無くても体が動くのは、前々からタナトスがシャウの朝の組手に付き合っているからだろう。

まるで型や技の流れを確かめるように、二人は自然と瞬発的な動きと共に鮮やかな身のこなしを披露していた。

常人には簡単な組手には見えない速さと力強さで、動きのキレも充分に達人と呼べるものだ。

そんな打ち合いの中、シャウは拳を振り続けながら声をかけた。


「どうかな、タナトス!私って強くなったかな!?」


「そういうのはポメラに訊いた方がいいんじゃないか!あいつの方がお前の実力の変化をよく理解しているだろ!」


「もう分かってないなぁ!師匠以外にも実力を認められてこそ、本当の意味で強くなっているってもんだよ!」


シャウが話しながら鋭く突いてくる拳をタナトスは弾くと同時に、彼は刈り取るような上段の蹴りを仕掛けた。

蹴りは風を切る速さで、当たれば頭が吹き飛んでしまいそうな威力だ。

本気の格闘で放っても文句のない攻撃だが、シャウはそんな蹴りを肘で受け止めてみせた。

そこから素早くシャウは一歩強く踏み出して、もう片方の手で掌底をタナトスの胸元に狙って放つ。

接近すれば防御は難しい。

それはタナトスも例外ではなく、シャウの掌底は見事深く打ち込まれた。


「うっ…!」


鈍い痛みがタナトスに襲い掛かり、衝撃で足のバランスが崩れた。

まさに隙だらけで攻撃するチャンスをシャウは見逃さず、お返しと言わんばかりに顎を狙った上段蹴りを弾丸のように放った。

けれどタナトスは後ろに仰け反った勢いに力をかけて、咄嗟にバク転をして距離を取ると同時に攻撃の回避をする。

これによりシャウの上段蹴りも相手に当たることは無かった。

それでもシャウは追撃を仕掛けるために、タナトスの体勢を整えさせる暇を与えずに前進に飛び出して突撃した。

握る拳に力を込め、彼の顔に狙いを定める。

しかしシャウの狙いを付けるための僅かな視線の動きと姿勢からタナトスは先の動きを読み取り、拳に対して強い警戒を高めていた。


「たぁっ!」


シャウはタナトスに接近しきると、掛け声をあげながら拳を振り切ろうとする。

もちろんその動きを読んでいたタナトスは受け流そうとするが、一瞬の攻防とは言え事は単純じゃなかった。

シャウは読まれているのを想定していたのか、拳を止めては直前に片足を軸に体を回転させて回し蹴りを彼の腹部にめがけて打ち込んだ。

蹴りは遠慮が一切ないもので、もはや軽い組手だったと言い訳できるレベルのものではない。

足元の草原が舞い上がり、烈風を巻き起こすほどの勢いもあって強烈な打撃音が鳴り響いた。

このフェイントを混ぜた全力の攻撃は確かにタナトスに入った、はずだった。


「うぇ…、今のを防ぐんだ」


ついシャウは苦々しそうに言葉を呟いた。

そう言いたくなる気持ちも分かりたくなるが、タナトスがシャウに油断するわけもなくて右腕で蹴りを間一髪受けきっていた。

ただ、正しくは相手がシャウだからこそ油断をしなかったと言える。

彼はシャウが決して弱者だと思っていないし、どれだけ強いかは朝の組手だけでも充分に(うかが)い知れていた。

だからこそタナトスも彼女に一切遠慮をかけておらず、本気の攻撃も受けきってみせた。

こうして攻撃が止んでしまった所で、タナトスはゆっくりと歩き出してシャウの額を小突いた。


「あいたっ!」


頭を軽く押されたことでシャウの体勢は崩れて、草の上に尻餅を着く。

そんな彼女は軽く息を切らしていて、手で頭をさすりながら文句を口にし出す。


「ひっどーい!女の子を突き飛ばした!タナトスって女性に優しくないんだね!」


「なに馬鹿なことを言っているんだ。ほら、優しいから手を貸してやる」


シャウの冗談に合わせてタナトスは喋りながら手を差し伸ばした。

すると何故かシャウは口元をにやつかせては、タナトスの手を握ると同時に全力で引っ張る。


「隙あり!」


「お、おい!」


さすがに引っ張られると思っていなかったため、不意を突かれたタナトスはシャウに腕を引かれて前へ転倒することになる。

すぐにタナトスは受身を取ろうとするがシャウが片方の手を意地でも離さないために、二人して転がるようにして草原に倒れ込んだ。

気づけば二人して夜空を見上げる形で仰向けに倒れていて、不思議と互いに立ち上がる気になれなかった。

そのまま二人が空を見上げていると、いつの間にか雲は晴れていて夜空には星々が小さく輝いていた。

夜風が草を撫で、揺れ動く草が顔をくすぐってくる。

冷たい空気が温まってきた体を冷やしていき、上がっていた呼吸も落ち着いていく。

互いの心が落ち着くまでの時間は、僅かな沈黙の時間だった。

その間もシャウはタナトスの手を強く握り締めていて、やがて彼女から会話を始めだした。


「わはははー、悔しいけど今回は引き分けかな。二人して倒れたしね」


「おいおい、それは卑怯な話じゃないか?先に倒れたのはシャウだぞ」


「相手が動けなくなったからって油断したタナトスが悪いよ!そもそも私は負けを認めた覚えがないし、負けたふりも立派な戦略だよ!」


もはや酷い言い訳だが、子供じみた言い分は彼女らしくて最もな理由でもあった。

それが少し馬鹿らしいと同時に面白くて、タナトスは友人に対してするような、どこか楽しそうな笑い声をあげた。


「くはははっ、確かにそうかもな。全く、口論になったらお前に勝てる気がしないぜ」


「ふっふっふ~、私の口からワガママを言わせたら一級品だからね!言葉足らずのタナトスに勝ち目なんかあるわけ無いよ!」


「なに意味が分からないこと言ってるんだよ。本当、おかしな奴だ」


どうでもいいような会話の内容を、二人は特に考えずに口にし合っていた。

それは親しい友人のようであり、心を許しあっているからこそのもの。

けれどすぐに二人は無言となって、しばらく黙り込んだ。

それから僅かの時間だけ考えた後に、タナトスは再び話し始めた。


「シャウ、お前は強くなったよ」


「ん、なにいきなり?私を褒めたくなったの?」


「はぐらかすなよ。お前が組手の最中に訊いてきたことだろ」


「そうだっけ。そう……、だったね」


シャウは目を細めて、少しだけ感傷に浸りだした。

それが見えていないにも関わらず、タナトスは言い当てるようにして会話を続ける。


「シャウ、お前が何に悩んでいるのか俺には分からないが、もう少し気楽にしたらどうだ。多くのことを経験しているからこそ、何のために仲間がいるか、お前には分かっているだろ」


「何のために仲間がいるか…。うん、分かっているよ。でも、やっぱり私でも悲しいことは悲しいと思うし、辛いことは辛いよ」


「なら、その悲しいことや辛いことをを仲間に話して助けて貰えよ。お前なら、仲間の少ない俺と違って簡単なはずだろ」


「どうかな。いくら仲間でも、私の代わりに負い目を感じさせるのは好きじゃないよ。私は自分の嫌な事を全て呑み込んで、その上で他人が辛いと思っていることも救ってあげたいから」


その発言は、シャウの数少ない強情な一面だった。

強い自己犠牲の意思を感じ取れる、救う以前に常に身を滅ぼしかねない言葉だ。

今までそうしてきたのかもしれないが、そのことを知った今、タナトスがシャウを見捨てるはずもなかった。

だからタナトスは素早く言い返す。


「なら、俺がシャウの辛いことや悲しいことを分かち合ってやるよ。その上で、お前と一緒に人々も救うさ」


「わははー、なにそれ~?本気で言っているの?」


あまりにもタナトスらしくない言葉に、シャウは驚きを隠せなくて茶化した言い方をした。

しかしタナトスは真剣な口調で、一切の冗談や偽りもなく言い切ってみせる。


「俺とシャウは仲間だろ。少なくとも俺はそう思っている。だから仲間として、お前と一緒に生きたいんだ。俺の数少ない仲間なんだから、いきなり死なれたら困る」


「……私がいなくなったら、タナトスって友達一人も居なさそうだもんね。それに、タナトスが困ったときに助けてくれそうなのって私ぐらいしかいないか」


「おい、その言い方はあんまりじゃないか?」


シャウの毒のある言葉に、ついタナトスは突っ込みを入れた。

そんなやり取りが面白かったのか、それとも安心感でも覚えたのか、彼女は明るい笑い声を漏らした。


「わははは、冗談だよ!でも……うん、そうだね。ありがとう、タナトス。その言葉、信じていいんだよね?」


「あぁ、自分が本気で言ったことくらいは守るさ。辛いことも悲しいことも一緒に負担し合って、そして助け合って生きてこう」


「うん、これからもお願いね。私の親愛なる大切な戦友のタナトス」


シャウはタナトスが見ていないこの時に涙を僅かに流しながら、彼の手を強く握り締めた。

一生の仲間の手は暖かく、頼りがいのある力強いものだった。

とても安心できる、辛い気持ちを(やわ)らげてくれる暖かみだ。

この夜空の下で、二人は月の光りに祝福されている中で永遠の仲間であることを誓い合っていた。



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