表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・前編
10/338

人間の大陸を治めるリール城の国王が暗殺者に殺されて、ついに一夜が明けた。

国王暗殺の報せが大陸中に伝わり始めている中、草原にある岩山の近くで、毛先が赤くになっている黒髪の男性と一人の茶髪の女性が組手をしていた。

まだ日が昇りきっていないため、遠くから見たら二人の姿は影にしか見えないだろう。

しかしそれでも二人が並の手練ではない動きをしているのは、見ていてはっきりと分かるレベルだった。


「シャウ、動きが遅いぞ」


シャウと呼ばれた女性は髪を乱して拳の鋭い連撃をするが、全て黒髪の男性に(かわ)されていた。

だから躱せないようにと反撃の危険を恐れず、彼女は更に前へと踏み込みながら超至近距離で拳を振るう。


「くらえ、タナトス!」


タナトスと呼ばれた黒髪の男性は、それでも簡単に手のひらで力強い攻撃をいなしてみせた。

すかさずシャウは体を回転させて回し蹴りを放つも、今度は彼は上半身を後ろに逸らすことで避ける。

それでも続けてシャウは手を地面に着けて体を捻らし、素早く蹴り上げの動作をした。

この攻撃をタナトスは体を横に逸らすことで避けてみせるが、シャウは避けられるのを想定していて、地面に着けていた手で跳んで体を前宙させて渾身の踵落としを放つ。

その踵落としすらもタナトスが後方に下がったことで避けられるが、地面を抉るほどの威力で土が舞い上がるほどだった。

これには彼も少し驚いた表情を浮かべて呟いた。


「おっと、昔より体術のキレが良くなったんじゃないのか?」


「それを言うのはまだ気が早いよ!」


シャウは踵落としで地面に着地させた足を軸に踏ん張り、前方へと弾丸のような速さで飛び出して後方に下がっていたタナトスに近づいた。

接近したことで攻撃が来るかとタナトスは身構えると同時にシャウは裏拳で牽制し、わざと腕で防がせてから腹部からの背の低い拳を打つことで彼の視界外からの攻撃を狙う。

それでも体の微妙な動きに反応したタナトスは手の平で背の低い拳を受け止め、掴んだ拳を強く握ってはシャウの体を強制的に捻らし、そのまま振り回して投げ飛ばした。


「わわっと…!?」


投げられたことで一瞬だけシャウの体は宙に浮く。

彼女の視界に映る景色が回り、常人なら自分の体にどのような力が掛けられているのか分からないはず。

だがシャウは投げられた勢いのまま地面に転がることはなく、むしろ体を側転させる要領で着地してみせた。

それから鮮やかな動きで攻撃に移って、天を衝くような鋭いハイキックでタナトスの頭を打ち抜こうとする。


「む…!」


すぐにタナトスは両腕を頭の前で交差させて、ハイキックを受け止める。

しかしシャウは、このハイキックにかなりの力をかけていたみたいで防いだ腕に鈍い痛みが響く。

更にシャウは跳んで回し蹴りで腕のガードを吹き飛ばし、タナトスの姿勢を崩させた。

千載一遇のチャンスとも呼べる僅かな隙。

シャウは素早く踏み込んで、タナトスの胸元に目掛けて強力な掌底を仕掛ける。


「隙ありっ!」


「ちっ…!」


彼女の掌底が体に当たる直前、タナトスは舌打ちして腕を高速で振るう。

同時にシャウは腕に痛みを感じては、体勢を崩してしまった。

シャウの反応が遅れるほどの速さで、掌底してきた腕をタナトスが手刀で叩き落としたのだ。

思わずの反撃に彼女は痛む腕を抱えて数歩下がる。

そしてすぐにタナトスの反撃に対して、シャウは文句を口にするのだった。


「いったーい!酷いよ、タナトス!攻撃しないって約束だったじゃん!」


「……うるさい。体が反射的に反応してしまっただけだ」


「それでも約束は守らないと駄目だよ!私ですらタナトスとの約束は守っていたんだから!」


「分かった分かった。なら次は迎撃する真似はしないから、仕切り直すぞ」


「えー、言うことはそれだけ?普通、一言くらいは謝るべきじゃないかな!」


ふふん、とシャウは鼻を鳴らして偉そうな表情を見せつけた。

如何にも子供っぽい態度だが、そのせいで余計にタナトスは謝る気が失せ始めていた。

それにきっと謝ると、すぐに更につけあがってくるのが目に見えているからだ。

だから下手(したて)に出ることはせずに、仕切り直そうと構えを取り直す。

しかしそのまま再開しようとするタナトスの行動にシャウは納得するはずもなく、自分の髪を手で掻きながら唸り出す。


「う~、ずるいずるい!そっちがその気なら、こっちも考えはあるんだからね!じゃあ今度は私だけ武器ありで!タナトスは反撃してもいいから、素手でね!」


「…おい。お前、自分の武器の破壊力を把握して言っているのか?」


「もちろん!けど、私の武器の棒はせいぜい大木をへし折るくらいだからね!タナトスなら問題ないでしょ?」


「待て、そういう問題じゃないだろ。下手したら大ケガ、というより素手で受けきれる威力じゃないと思うんだが」


「大丈夫だって!ケガしても私の治癒で治せるから!じゃあ、いっくよー!」


シャウは元気よく大声を発しながら、腰から三節棍を取り出しては長棒へと形態を変化させる。

それからタナトスの反応など気にせずに臨戦態勢の構えを取り、もはや遠慮なく攻める動作に入ろうとしていた。

楽しそうな目でタナトスを見つめ、徐々に脚に力をかけて一気に飛びかかろうとする。

しかしシャウが飛び出す寸前、寝起きの少女の声が間に割って入ってきた。


「ふわぁ…、はひ……。おはよ…ございますぅ。あれ…?シャウさんとタナトスさん、朝から…何をしているんですかぁ?」


寝ぼけたような間延びした声。

その声がする方へとタナトスとシャウが目線を向けると、そこには乱れた水色の髪とはだけた服装をしたミズキの姿があった。

普段はしっかりとした調子をみせるミズキだが、朝が弱いのか不抜けた様子となっている。

目もとろけたようになっていて、まだ眠いのか首に力が入っておらず時折頭を揺らしているほどだ。

そんなミズキの状態を見たシャウは思わず噴き出しながらも、朝日以上に明るい声で朝の挨拶を返した。


「ぶっ!おっはよーミズキちゃん!…で、その頭どうしたの?すっごい寝癖だよ!」


「ふぇ…、やっぱりそうですかぁ。私、何だか寝癖凄いんですよね…。逆に妹は寝癖も無いし、朝から動き回れたりするんですけれど……。えっと、それで何をしていたんですか?」


ミズキは自分の寝ぼけ眼をこすっては髪を指先で慣らして、何とか髪型を戻しつつ再度質問をぶつけた。

その問いに、タナトスが組手の構えを解いてから答える。


「朝の組手だ。まぁ旅の準備運動みたいなものだな。シャウがいつもしているようで、組手の相手として俺が付き合っていただけだ」


「そうだよ!でもね、ミズキ聞いてよ!タナトスったら、攻撃しないーって約束だったのに私の腕を叩いてきたんだよ!いくら治癒できるからって痛いことをするなんてレディの扱いがなってないよね!」


「ついさっき、治癒できるからケガを負っても大丈夫だって言っていた奴が何を言っている。それに俺にレディの扱いうんぬんを期待するなんて野暮だ。痛い思いをするのが嫌なら、ミズキを相手に組手でもするんだな」


この言葉にミズキは一気に目を見開いて、小さい声で驚いた声を漏らした。

しかしシャウはミズキの反応を気にせずに、タナトスの言葉に賛同してしまう。


「おおっ、いいねそれ!よし、じゃあミズキちゃんも目がさっぱりと覚めるように私と組手しようか!きっと良い勝負になると思うよ!」


「えぇ、私がシャウさんとですか!?無理ですよ…!私、そんなに強くありませんし…!」


「大丈夫だよ!私だって勇者の中では最弱だからね!多分、ミズキちゃんと大差ないよ!ということでスタート!」


「いきなり過ぎます!まだ身だしなみすら…!うわわ…!」


ミズキは身構えどころか心構えすらできていないも関わらず、シャウは手に持っていた棒を腰にしまうなり駆け出した。

その駆ける速さは異常な程に軽快で、ミズキが初めてタナトスと出会った時に襲ってきた魔狼と同等の速さだ。

だからミズキはシャウの駆ける速さに反応できず、あっさりと接近を許しては気づいたら体が宙に浮いているザマだった。

ミズキがシャウに一本背負いされていることに気づけたのは、体が地面に叩きつけられた後だ。


「痛いっ!?」


「あらら、やっぱり寝起きは辛いか。ごめんね、ミズキちゃん。無理に仕掛けちゃって…」


「うぅ…、今のは寝起き関係なく反応できませんよ。やっぱりすっごく強いじゃないですかぁ…」


「え、そうかなぁ?弱いつもりはないけど、そこまで言うほど強いかな」


シャウはミズキに手を貸しながら体を起こしてあげるが、ミズキの言葉には少し疑問を抱いている様子だった。

すると、そんなシャウの反応を見ていたタナトスが口を開く。


「ミズキ。シャウの感覚が魔王が居た魔界大陸基準になっているから言わせて貰うが、シャウの身体能力は森で会った魔狼くらいだ。で、その魔狼の実力は魔界大陸で言えば最底辺レベルに近い。魔界大陸には魔狼より倍は強い魔物が大量にいるため、シャウにはそれほど強いって実感はないわけだ。人間で言えば充分過ぎるほど強いには変わりないんだがな」


すでに姿を目で捉えることもできなかった動きを持つ魔狼より、倍は強い魔物が魔界大陸には普通にいる。

そんな意味を持つ言葉に、ミズキは少し戦慄した。

実はシャウが書いた魔王討伐記録にも、一匹の魔物に対して複数で戦っていたことは記されていた。

しかし魔物がどれほど強いかなんて、自分の目で見ない限り分かるわけもない。

実際、今ですら倍の強さがどれほどなのか想像できていなかった。


「その話、本当ですか?もし私が魔界大陸に行ったら、飛んでる小さな虫同然じゃないですか……。絶対に行きたくない場所ですね…」


「そうだね!本当、魔界大陸の魔物ったら一匹一匹が異常に強くて驚いたよ!もしもう一度行くなら、奇跡の勇者と正義の勇者が一緒じゃないと行く気にはならないよ!」


「俺も行きたくない場所という気持ちには賛同だが、どうだろうな。逃亡場所が無くなったら行かざるえないかもしれんぞ。さてと、そろそろシャウの故郷である鉱山の街レイアに行くぞ。ミズキとシャウ、出発の準備をしろ」


タナトスがそう声をかけると、すぐにシャウとミズキは出発の準備に取り掛かり出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ