ふたつぶの恋~姉物語り~
前回のふたつぶの恋の姉バージョンです。
勿論。前回の作品を読まなくても大丈夫です。
自分にとってかなり甘い感じの作品になった気がします。
どうぞよろしくお願いします。
私は藤嶋白羽
小さい頃から自分と瓜二つの子が姉妹としている。
そう。
私は双子としてこの世界に生まれ落ちた。
そして昔言われた。
それはずっと昔の事。
「お前はいい子だね」
私はずっとそう言われ続けていた。
両親は私だけに言う。
双子の妹に言わず。
私だけに………。
―――――「し…ろは?白羽!」
突然の声に現実に戻される。
気が付くと目の前に短髪で目の細い見慣れた彼の顔があった。
「あっ……ごめんなさい…ちょっとぼぅっとしてて…」
彼は私の彼氏で、羽澤 実怜自分の名前が女の子ぽくてあまり好きじゃ無いらしい。弓道部に所属していて、鬼神羽澤と後輩や同期から恐れられてる割には、人気があるらしい。
私には未だに何故、実怜が鬼神と呼ばれているかよくわかっていない。
何故ならば彼は私といる時、恐さの片鱗さえ見せる事がないからだ。
実怜は私の答えが、腑に落ちていないのかふぅんと私の肩に寄り掛かる。
「あっ…そうだ。実怜?メロンパン食べる?実怜が好きなコンビニのメロンパン買ってきたの」
私はおもむろにお弁当袋から、オレンジ色に染まったメロンパンを取り出す。
なんでも私の家の近くにあるコンビニ限定なんだとか。実怜は私と付き合う前からこのメロンパンのファンらしい。
そのメロンパンを見ると目を輝かせながら口を開ける。
「…………えっ?」
私が実怜のその行為に首をかしげていると
「………うん?白羽が食べさせてくれるんだよね?」
……………。
本当に鬼神なんて呼ばれているのだろうか……。
そう思いつつもメロンパンの袋をあけてそのまま実怜の口に持っていく。
「はむっ……。」
実怜の頬が淡く朱色に染まって、元々細い目なのに更に細くなる。
「美味しい……」
もう食べ終わったのか又口を開けた。
そうなのだ。
実怜は鬼神というより、私にものすごく甘えてくるのだ。
私は生徒会で、彼の部活姿は見たこと無いが1度鬼神姿も見てみたいものだ。
実怜がメロンパンを、頬張ってる間私もメロンパンをかじる。
幸せな甘さが口に広がる。
中にサンドされているたっぷりの生クリームがなんとも言えない。
「白羽…好きだよねそのメロンパン」
実怜が自分の口のはしに付いた生クリームを舐めながら私に笑いかける。
「……?何言ってるの?実怜が、でしょ?」
私がそう言うと、彼はにっこり笑って
私に顔を近づけた。
「!?」
びっくりして私は思わず体を後ろに行こうとしてバランスを崩す。
「っと危ない!……どうしたの?」
なんとか実怜に体を支えてもらって頭を打つことだけは免れた。
だが心臓がドクドクと早く脈打つ。
だめっ……冷静にならなきゃ…。
こんなのなんでもないという風に…私のそんな気持ちとは反対に
チュッ。
………………。
…………………!?
頬を舐められた!?
「…………あまっ」
「なっ……!?なっ!!」
テンパっている私を見てにっこり笑い、そのまま抱き起こしてくれる。
「うん。クリームついてたから」
そんなの!
普通に取ってくれれば良いのに!
とにかく恥ずかしい!!
そして身体中熱い!
早くこの場を離れて、全てを冷やしたかった。
「………授業が…始まるから…!!」
「えっ!?あっ!ちょっと!」
私は実怜の声を聞こえない振りをして逃げるようにその場から立ち去った。
………どうして私が実怜にこんな態度をとっているのかというと…自分でいうのもおかしいかもしれないが、私は友達が多い方で、彼が私に告白してくれた時、
いつも平常心でいる世話役。
慌てる姿を見たこと無い。
と言われていた。
それがどうした。
そんなの只の噂だ。
普通の人はそう思うだろう。
でも私は親の言うようないい子でいなければいけない。
それもあってか皆が、折角持ってくれた私の印象を無下に壊したくなど無かった。
私は又。
クラスの人達にとってもいい子でありたいから。
だから友達も多いのだろう。
実際の私はそうじゃなくとも、いくらでも演じる事が出来る。
そう。
きっと彼も冷静を崩さずいる私を好きになってくれたのだから。。。
―――「ねぇ?白羽の妹が変な子と付き合ってるって本当?」
その言葉は前触れもなく、生徒会室で仕事をしていた時に私に掛けられた。
「……変な子?」
妹とは、暫く話していない。
彼女は私を避けている。
親が私にしかいい子と言うのが気に入らないのだろう。
今もずっとそう思っている。
でも彼女は知らない。
それが…どんなに辛いかということを…
話を戻して。
副会長がいうには私の妹……沙莉衣が変なキモい子と一緒に遊んでいると言うのだ。
別に私はどうでも良かった。
沙莉衣が何処の誰と、仲良くしようと私には関係無いし、彼女の自由を縛る気なんて更々無かった。
「……へぇ…そうなの?誰かと仲を良くするのは良いことだわ?」
私はそのまま仕事を続ける。
副会長は、`流石白羽!´なんて行っていたけれども何が流石なのか私にはさっぱり分からなかった。
「しろー?あのさ此なんだけど…」
そう突然私を呼ぶのは、生徒会長だった。
名前は笠井諷吾
毎日の様に私を呼び出し、生徒会(生徒会長)の仕事を押し付ける。
そして何故か私の事を親しげに`しろ´と呼ぶ。仲良くなったつもりは無いのだが。私にとっては厄介な人でしかなかった。
「どうしました?……?それはこの前会長が見廻り組として受理された日程表………!?」
話ながら紙を見ると驚くべき事に気がついた。
そこには、会長と私の名前しかかかれていなかったのだ。
「いやぁー皆忙しいらしくてさー暇なのがオレと君しかいなかった訳。これから2週間放課後はオレと一緒に見廻りだから?今日からよろしくね?」
「えっ?……今日?」
そんな私の疑問に答えるべくもなく、会長はすぐに私の手をとって、さぁ行こうと生徒会室を出た。
私に拒否権は無いらしい。
「………会長。私は逃げませんから。手を離してくださいませんか?」
あくまで柔らかく。
会長の手から逃れる。
何故か会長が残念そうな顔をした気がしたが、それはとりあえず無視しとこう。
どうせ会長の事だ。
からかいが私に通じなくて残念とでも思っているのだろう。
「とりあえず各部活から……」
自分の言葉に、はっと気が付く。
これはもしかしなくても実怜の部活を初めて見れるチャンスなのではないか。
今まで何かとこの生徒会長のせいで放課後は全て生徒会室で過ごしてきた。
でも今日は。
仕事で、しかも堂々と彼の部活姿を見ることが出来る。。
「………うん?しろー?」
「会長!サクサク部活を見て廻りましょうか!」
私は会長の手から腕章をもぎ取って腕にはめて歩き始めた。
「えっ!?なんかしろちゃん!生き生きしてるんだけど!?」
そんなこんなで、校内を見回りつつも
各部活の見学もしていった。
そして……遂に弓道場。
中から部員の声がちらほらと聞こえる。
深呼吸しながらドアに手をかけた。
大丈夫。
あくまで冷静に。
平常心で。
意を決して扉を開ける。
「失礼します。」
すると沢山の部員が一気に此方に注目する。
「生徒会長でーす。校内と各部活の見廻りに来ましたー」
ニコニコと会長が私の肩に両手をかけて後ろから顔を出す。
なんでわざわざこの人は私に近付くのか…まぁそんな事今に始まった訳じゃないし。
とにかくと、軽く頭を下げて実怜を探す。
「あー…そういうことね…」
会長が何やらボソリと言うが私の耳には届かなかった。
………。
……………いた…。
実怜は丁度弓を引いている所だった。
「きれい……」
率直な感想が口から漏れる。
実怜はそのまま的に向かって矢を射った。
「しーろ。もう次行くぞ?」
本当はもう少し見ていたい。
でも。これは私の我が儘だと、その言葉を飲み込み、会長に腕を捕まれるまま実怜を背にして歩き出す。
「白羽!」
刹那。
私の名前を呼ぶ声がした。
思わず後ろを振り返ると、実怜が此方に駆け寄ってきた。
刹那。
手を引かれて耳元で囁かれる。
「今日遅いんだろ?玄関で待ってるから。」
声と一緒に耳には吐息がかかる。
突然の事に頭が真っ白になりかけたが、すぐに自分を取り戻し実怜から離れた。
「わっ…わかった…えっと…会長!次いきますよ!」
踵を返し早足で弓道場出た。
声は震えて無かったか。
それだけが心配だったが。
そんな事どうでもいいくらい身体中が熱くて茹で上がりそうだった。
―――「あらら?行っちゃった?羽澤くーん。うちの生徒会委員をあんまり苛めないでくれるかな?」
ニヤリと諷吾が実怜を睨む。
「――別に。あなたには関係無いでしょう」
それ以上話すことはないという風に諷吾に背を向けると
「…つーか馴れ馴れしく触んな。」
それだけを言い放ち、実怜は部活へ戻って行った。
「こっわ!………ってかお前こそ邪魔なの気付けよ?」
小さな声で呟き、諷吾は歩いて白羽が待ってるであろう弓道場の外へと歩いていった。――――――
涼しい。
夏で外は熱い筈なのに外が涼しく感じるのは、自分が熱を持ってるからだろう。単純にそう思った。
「サリー!早くしないとメンチカツ売り切れちゃいますよ!」
遠くから声がする。
サリー?
この学校に外国の子なんていただろうか?不思議に思った私はその声の方へと歩いた。
「マーサ。大丈夫だから。売り切れても又作られるから。」
その声の主を見て私は驚いた。
サリーと呼ばれているであろう女の子が私の片割れだったからだ。
「でも材料が無くなってしまったらどうするんですか?そうしたらもう作る事はできないんですよ?その為にも!僕達は早く行くんです!」
目を輝かせながら眼鏡の男の子は妹の手を引っ張って歩いていく。
「でも遅くなったのはマーサが図書室で本に夢中になったせいだし」
我ながら私の片割れは、ズバズバと、相手の痛いところを切っていく。そんな事言ったらあの子が……
「すっすみません…あっ!でもサリーだって悪いんですからね!」
「私は悪くありませーん」
そんなとりとめもない話をしながらも2人は幸せそうな笑顔で、手を繋ぎ学校の外へと歩いていった。
なんでも言い合える仲が私は羨ましくて。
2人がいなくなっても、その場から離れる事が出来なかった。
「しーろっ!」
「!!ふわぅ!!」
急にかけられた声にびっくりして振り向くと、そこには会長ニコニコと笑いながら私を見ていた。
「どうしたの?」
その言葉で今来たのだろうと確信する。
「あっ…暑さでぼぅっとしていました」
「妹ちゃんを見てぼぅっとねぇ…」
「えぇ…………。!?会長!何処からいたんですか!?」
にっこり笑った会長は私の手首を持って歩き出した。
「さぁて!見廻りの続きしますかぁ!」
会長は私の質問に答えることなく先へと歩く。
きっとこの人は答える気は無いのだろう。
そう思い自然とため息が出た。
―――――――。
空が薄暗くなった頃。
私は走って下駄箱へと向かう。
会長はまだやることがあるからと、生徒会室に残ったので、気にすることなく急ぐ事が出来た。
殆どの生徒が帰ったのか、静まり返った下駄箱。
どうやらまだ実怜は来ていないみたいだ。
その前にと慌てて乱れた髪を手櫛で整える。
じんわりと出た汗でくっつく前髪を、何とか離そうとぐしゃぐしゃとして直していると頭に何かがコツンと当たった。
「疲れたー」
その聞き覚えある声に、私は驚いた。
実怜が私の頭におでこを付けている。
このまま振り向けば前髪がぐしゃぐしゃのままだ!
「おっ…お疲れさま…ほら?離れて?帰ろう?」
靴を履き替える時に直そう。
そう機転を効かせた私はそそくさと後ろ向きのまま実怜から、離れようとした。
「……………。」
良かった。こんな不恰好な前髪見られないで……と一息ついた瞬間。
「……えっ!?」
ぐいっと手を引かれ、両手で頭を包まれて上を向かされる。そして私のおでこにあたたかくて柔らかい熱が降りてきた。
「なっ!!?何するの!?」
おでこにキスされた!?
こんな不意打ち聞いていない!
身構える隙すら与えてくれないというのか!
というか前髪がぐしゃぐしゃなのも見られた!……いやっそれはそれでもういい!気にするのは今の現状だ!
「うん。お疲れさま?」
細い目が笑っているせいか、糸みたいな目になっている。
「話が噛み合ってない!」
そうして私はすぐに自分の靴に履き替えて、すぐに学校を出た。
すると追いかけてきた実怜が当たり前の様に、私の手を取り、繋ぐ。
「実怜……あなたっっ!私は怒ってるのよ!?」
ブンブンと手を振って実怜の手を外そうとするも、それは叶わなくて
「うん。でもオレは白羽にしたいことしてるだけだから」
駄目だ………。
通じない…………。
というか私…平常心はどこに行ったの……。
気持ちのままぶつけてしまった…。
でもこれは明らかに実怜が悪い。
項垂れた私は実怜に手を引かれるまま帰り道を歩いていった。
――「白羽はいい子ね?でも沙莉衣は………」家に帰るとそんな言葉が私を待っている。
それを聞き流し、私は自分の部屋へと入っていった。
着替え終わると、ノックの音がする。
親が何か言いに来たのか。
そう思いため息をついて、でもなるべく明るい声で
「どうぞ?」
と言った。
すると恐る恐るドアを開けて顔を見せたのは意外な客人だった。
「……しろは…今日メンチカツ沢山買ってきたの…良かったら食べて…」
それはとても気まずそうな顔で。
沙莉衣がドアから袋を持った手を伸ばす。
「………あっ!あぁ…ありがとう」
ギクシャクと沙莉衣の手から袋を取ると、そのまま頬を赤く染め上げて
「あっあと…マー…じゃない真麻の事ありがとね……」
……………。
…………………?
話が見えない。
私は沙莉衣にお礼を言われるようなことをしただろうか?
「……?えっと…ごめんね?何がありがとうなの?真麻君って?」
分からない事を正直に聞くと
「………だから!しろはがマーサに言ってくれたでしょ!?私とどんなきっかけであれ話したいって!!あっと…真麻は眼鏡で前髪が長かった男子!」
…………あぁー……
確かにそんな子に呼び出されて、何か言った気がする。
というかいい子をやり過ぎて何を言ったのかうすらぼんやりだ。
「とにかく!ありがと!」
バン!
大きく閉まる扉の音。
沙莉衣の赤い顔が頭に残る。
最後のお礼に私の心は引きちぎられる思いだった。
私が演じているいい子の言葉。
そこに私の本心なんてない。
なのに彼女は私にお礼を言った。
「……どっちがいい子なのよっ…」
思わず口から出た言葉はそんな言葉だった。
それから揺れる様に私はいい子の私を演じる。平常心で。
そう思いながら。
でも…いつかそれが崩れそうで恐かった。
そんな時はなんとかブレーキをかける。
私はそんな毎日を送っていて。
だが。
ついにはそれが壊れる事になる。
それはある日の事。
「白羽はさぁ本当いい子だよねーこんな私に宿題写させてくれて!」
1人の友達が机に私のノートを早々と写していく。
「ううん…そんなことないよ」
いつもなら笑って流せるいい子という言葉は私を責めている様だった。
「白羽!悪い!俺にも見してくんない?」
「…うんいいよー」
笑顔が作れている自信がない
「本当いいやつだよなー!」
「そういえばこの前白羽に掃除代わって貰ったのー!用事があったからほんと助かってー!勿論今度白羽の当番代わるね♪」
「実怜が羨ましいよなーこんないい子が彼女で」
そんなやり取りが行われている中、丁度実怜が私とお昼を食べる為に教室に迎えに来てくれた。
「おっ!噂をしていたら実怜の登場かよ?」
実怜は状況が掴めないと行った風に軽く首をかしげた。
「………何?」
「いやね?皆で白羽はいい子だなーって話してたの。実怜君もそう思うでしょ?」
楽しそうに私を囲う1人の女の子が実怜に聞く。
「うん。白羽はいい子だよ」
いい子。
そう言われる度心が軋む。
「熱々だねー!ねぇー?………うん?…………白羽?」
俯いている私に気が付いたのか、女の子が私を覗き込もうとした。
「私は……じゃない…」
「えっ?」
「私はいい子じゃない!いい子いい子って言わないで!!」
気が付いた時にはもう遅かった。
私が大きな声を出したせいか、周りのクラスの人達は呆然と私を見つめる。
その場から逃げたくて。
私は走って教室を出ようとした。
パシッ!
腕を捕まれる。
実怜が悲しそうな顔で私を見つめてきた。
「!!……離して!!」
それがショックで涙が溢れる。
大きく手を振り、実怜の手から逃れた。
そうして何処に行くかも分からず走った。
行き着いたのは生徒会室。
今日は生徒会がないから、1日誰も来ない。
毎日の様にいる会長は別だが、昼休み迄は居ないだろう。
私は目から伝う涙を拭うこともなく、生徒会室の扉を開ける。
思った通り。
そこには誰も居なく。
暗く染まった教室だった。
後ろ手に扉を閉めて、鍵を閉める。
窓を開けて、いつもなら座ることのない生徒会長のふわふわの回転椅子へと迷わず座り窓から見える景色を見た。
一向に消えない実怜の悲しそうな顔。
実怜が好きなのは演じていたいい子の私。
本当の私じゃない。
止めどなく流れる涙。
告白される前、私を知って欲しくていい子の私を演じるのを頑張った。
違うクラスでも、友達づてで話したりそれだけで本当は一喜一憂していた。
でも。
外側だけは平常心で。
……本当は告白された時点でわかっていたのだ。
告白されたのは偽者の私だということを。
本物のいい子でない私の事を好きになる人なんていないということを。
あんなこと言った私はきっとフラれる。
あの時点で彼や、クラス皆の思った通りの私は崩れて無くなったのだ。
そんな想いをふけっている時だった。
ガチャッ。
生徒会室の扉の鍵が開く音がした。
「!?」
思わず私は、すぐそこのカーテンの後ろへと隠れる。
ガラララ。………トン。
「………あれっ?誰かいる?」
それは生徒会長の声で。
泣いてる私は答えられる筈もなく必死にカーテンで涙を拭いた。
「……しろ…?」
見えない筈なのに、何で分かったのか。カーテンをぎゅっと掴むとそれを開放するように、会長はカーテンを捲ろうとした。
「うっ………しろだろ?カーテンを離せ!捲れないっ………!」
泣き顔なんて見られてたまるか、そう思いカーテンをきつくきつく握りしめた。
諦めたのか会長は一息ついて私の横の窓辺に寄りかかる。
「はぁ…なんだか今日はしろらしくないね…?いつもはもっと……」
「……私。いい子じゃありませんから……」
もうどうでも良かった。
崩れた時点で自分を取り繕うなんて、思うことさえも嫌になっていた。
「……ふぅん。そういうことか。遂にしろの仮面も剥がれたか…」
……この人は。
何を知ったつもりでいるのだろう。
この人はきっと都合のいい生徒会役員としか思ってないくせに。
「言っておくけどオレはしろをいい子なんて思ったことないよ?むしろキツい真面目な子だと思ってた。」
「はっ!?そんな筈あるわけ……!」
咄嗟にカーテンを自分で捲り会長に向かい合う。
そこには会長の笑顔があった。
「誰かに何か頼まれたり、悪口とか聞いた後は、舌打ちかため息をついてたし…オレの頼み事は嫌ですって思いっきり顔に出てたし?」
手首を捕まれる。
私が逃げないようになのか。
「しろ?君はいい子じゃないよ?」
その言葉に拭いた筈の涙が溢れ出る。
誰かに言って欲しかったその言葉を、何故この人が言うのか。
すると。
ぽすっと私の手を引いて、会長は自分の胸に私の顔を押し付けた。
「今迄よく頑張ったな…お疲れさん」
優しい声が私を更に泣かせる。
しゃくりあげながら。
何もかも。
今迄の事を。
無くす様に。
全てを。
涙と一緒に流した。
その日はそのまま授業をサボって。
会長の貸してくれたハンカチで目を冷やしながら。
生徒会室で過ごしたのだった。
―――――次の日。
私は実怜の下駄箱に手紙を入れる。
それは別れの手紙。
昨日泣きながら書いた手紙。
こんなこと言うと会長に泣き虫だと言われそうだ。
それでも。
今でも好きな実怜の為に、心を込めて書いた。
本当は直接会って別れを言われるのが辛いというのもある。
だから手紙に全てを託した。
私は偽者の私で実怜を騙していた。
この辛さはその罰だろう。
教室に着く。
クラスの人達も何処かよそよそしい。
まぁ…当たり前か…。
昨日の今日だ。
でも。
もう自分を取り繕うのは辞めた。
1人になる。
生まれて初めての事で。
普通は寂しい筈なのに。
私は何処か清々しかった。
――――――昼休み。
お弁当を持って、外のベンチで食べようと思った。
その刹那。
教室の出入り口から凄い勢いで誰かが入ってきて私の机に手を付く。
「白羽。ちょっと来て。」
実怜だ。
見たこともないような表情でで私を睨む。
そしてそのまま手を引っ張られた。
「なっ………なにするの!?」
私の言葉なんて聞かないと言う風に無言で先へと早足で歩いていく。
――着いたのはシンと静まり返っている弓道場だった。
「離して!!手紙読まなかったの!?」
振りほどこうにも実怜は強く私の手を掴んで離さなかった。
「何で!!」
苦しそうなその声に、はっと彼の顔を見る。
それは今にも泣きそうで、辛そうな。見てる此方まで息が詰まりそうだった。
「白羽は白羽だ!今迄全ての白羽が嘘な訳がない!自分を否定するなよ!」
胸が。
締め付けられる。
苦しい。
「オレにとって白羽は良い子だ…」
「!?だからそれは……!!」
私が言い返そうとするとそれを拒否するように言葉をかぶせてくる。
「例え!……例え白羽にとって自分の嫌いな部分がこれから出たとして…オレは…そんな白羽も全部好きだから……」
「……み…れい…」
「嫌なところも、良いところも全部好きなんだよ!!」
喉があつい。
じんわりと目に溜まるあたたかな水。
この人は…私の全てを包み込もうとしてくれている。
こんな私迄を好きだと言ってくれている。
なんで?
どうして?
「……今別れたとしても…オレ白羽を又振り向かせる事諦めないから…」
私を掴む手が熱い。
熱がドクドクと伝わってくる。
「……なんで…わた…しなんかに…」
涙を含んだ声は震えていた。
それでも。
ちゃんと聞きたかった。
「……一目惚れだったんだ………2年の新学期の時オレは自分が部活の先輩になることに自信が無くて……そんな時だった…君が3年の男子から1年の絡まれた女子をすごい気迫で言葉で言い負かしているのを見たのは……純粋に。自分に堂々としてすごいなって思って……それと同時君をもっと知りたくなった……」
実怜は俯く。
初めて聞く話。
勿論そんなことあったかどうかなんて覚えていない。
それでもわかった。
実怜が話す私は、仮面を被った私ではないということを。
私は空いているもう片方の手で実怜に捕まれてる手を優しく乗せる。
その手は小さく震えていた。
「……ありがとう…」
実怜の悲しくて辛い顔はもう見たくなかったから。
出来るだけ優しく笑った。
そしてそのままそっと口付けをする。
急の事で驚き、実怜の吐息が漏れる。
「これからもよろしくお願いします」
私のその言葉に一筋の涙が実怜の頬を伝った気がした。
それを隠すようになのか、すぐに私を強く抱き締める。
あぁ。
この人はどれだけ私を好きなのだろうか。
そして私も……どれだけ……
そう想いながらそのまま実怜の背中に手をまわしたのだった。
――――――――――。
「しろはーわりぃ!宿題見せてくれね?」
「い・や。分からないところは教えてあげるから自分の力で頑張って?」
あれから幾日かたって。
クラスの人は意外にもすんなり本当の私を受け入れてくれていた。
後から聞いて最初は戸惑ったらしいけど、やっぱり自分達が私に頼りすぎていたと反省してくれたみたいだった。
だから私はもう自分にも相手にも嘘をつくことがなく、すごしている。
「厳しいねー?しろはは!でも宿題忘れたのはあんたのせい!白羽が教えてくれるだけでも感謝しな?」
斜め前の女の子がにっこり笑った。
「あいよーっ……。ってか最近しろはかわいくなったよなー?」
その言葉にビックリして、私の顔が真っ赤になるのが分かった。
「なっ!!何言ってるの!?」
その突然の私の変わりっぷりに驚いたのか、その男の子はすぐに私から目を反らす。
「………うっ…ヤバイ…落ちそう…」
「………?」
声が小さくて聞き取れない。
耳が赤い気もするが……。
なんだろう。
暑いのかな?
その刹那。
後ろからぎゅうっと抱きしめられる。
「えっ!?」
なんの事かと後ろを振り向くと。
そこには生徒会長がいた。
「あれ?しろ?オレには赤くなってくれないの?」
「……はぁ…なんだ生徒会長ですか」
又この人は。。。
私をからかっても慣れてしまって意味ないのに。
「なんだとはなんだよ?ってかしろ。今日もオレと居残り決定ねー?」
「別にどうせ毎日ですから。いちいち来なくても逃げませんよ」
ふぅっと自然に息が漏れる。
すると。
「うーん。つまんないなー?ってかオレも意識してよっ!」
その時会長の頬と私の頬がくっついた。
いやっ!!
ちょっと待って!!
これは流石に近すぎる!!
悪戯にしては私がもたない!!
「………何してるんですか?」
それは黒く棘のある冷たい声。
そしてその声の主が、すぐに私と会長を引き離した。
「…… あっありがとう…会長!悪戯も程々に!!………って実玲?」
上を見上げるとそこにはあからさまに不機嫌な実怜が私達を見下ろしている。
「うん?あぁ羽澤君か。いやねしろのほっぺの柔らかさを実感していたんだよ」
ニコニコと会長は実玲と向き合う。
「……実怜…気にすることないからね?会長は私をからかって楽しいだけなのよ。。でも今のはやりすぎですからね!!」
私が会長を睨むと、突如実玲が私の手を引っ張る。
「えっ!?みっ…実怜!?」
手を引っ張かれるまま私は実怜に着いて行くしかできなかった。
空き教室に着くと。
やっと手を離してくれる。
「えーっと…実怜?さっきも言ったけど会長のあれは挨拶みたいなので……」
するとふいに実怜は自分の袖で私の頬をふき始めた。
「なっなに!?何するの!?」
「嫌なんだよ!!」
「えっ………?」
聞き返すと頬を真っ赤に染めた実怜がそこにいる。
「白羽が誰かに触れられるのが!」
「……だからあれは会長がからかって……」
「…それでも!それでも白羽がオレ以外の誰かと話したり触れたりするのは嫌なんだよ!ある程度はしょうがない事だって思っててもやっぱり嫌なんだ!」
思わずかわいいと思ってしまった。
そう思わずにはむしろいられなかった。
「……あっ…えっと…ありがと…」
何を言って良いのかわからず取り敢えず下を向く。
自然と手をぎゅっと握られた。
「………ごめん…つーかオレかっこわるっ…余裕なさすぎ…」
しゅんとしている彼の手を。
私は強く握り返す。
だって私も。
あなたと同じだから。
「わっ私は……そんなあなたも大好きっ……だからっ……」
恥ずかしくも。
言葉が切れ切れになっても伝えたい。
そう。
あなたと同じ。
あなたの全部が大好きだということを。。。
――――――fin
最後まで読んでくれてありがとうございます。
これからもよろしければお付き合いしていただけると幸いです。