9.猫娘頑張る
店のドアが開き、出萌がその姿を見せた。
「いらっしゃいませ~」
美弥に翠、それに但馬麗華や由梨香も一斉に声を揃えたので入って来た出萌が驚いてしまった。
「いったいどうしたんだい? 皆さんお揃いで……はは~ん。例の事で集まったのだね」
感の良いと言うより出萌は神様だから、皆の考えている事もお見通しなのだ。
美弥は、昨晩佐賀の祖母に連絡をした。
『もし、もし、わたしだニャン。出雲の神様を見つけたニャン』
『まあ~そうかい! よくやった! それで?』
そこで美弥はその夜の出来事を祖母に話したのだった。
『そうかい、ならば出雲の神様のお役に立てるなら一生懸命にやりなさい。きっとお前にも良い人を紹介してくれるだろうよ』
『判ったニャン』
『そうそう、お前は忘れているかも知れないけれど、お前はお宮参りには出雲大社に行った
のだよ。そこで出雲の神様にお前は祝福されているんだよ。それを忘れるではないよ』
祖母の言葉で、先日来の疑問が解けた美弥だった。記憶が定かで無いとはいえ、過去に一度逢っていたのだった。
『そうか、だから何処かで逢った気がしたんだニャン』
そんな事を思い出していた美弥だった。
由梨香が出萌に説明をする。
「……と言う事でここに居るアイミとルミナちゃん。それに学校の先輩の但馬麗華さんが協力してくれることになりました」
由梨香の説明を聞いて出萌は
「ああ、アイミちゃんじゃなくて確か、美弥ちゃんだったよね。大きくなったと思っていたんだ。お宮参りで逢って以来だったからね。まあ、覚えてはいないだろうけどね。それにルミナちゃんも普通の人間じゃ無いんだよね。それも直ぐに判ったよ。まあ由梨香ちゃんは言わずもがなだけどね」
四人の表情を眺めながら出萌は楽しそうに言って
「由梨香ちゃんから聞いたのだけど麗華ちゃんは忍者の血筋だって本当かい?」
それまで一番後ろに立っていた但馬麗華だったが
「はい、一家相伝で忍者の奥義も伝わっています。今は牧場をやっていますが、それは世間を欺く隠れ箕です。情報収集はお任せください」
そう言って胸を張った。途端に制服のブラウスのボタンが弾け飛んだ。
『先輩巨乳だニャン』
ボタンが飛んで開いた隙間から胸の谷間が僅かだが覗いた。それを見て店長が
「是非、ウチでアルバイトを」
そう誘ったのだが麗華は冷静に
「ありがたいですが来年受験ですので、勉強がありますから」
そう言って断ったのが、それなら「縁結びコネクション」の活動はどうなるのかと疑問に思う美弥だった。
「まあ、僕としては高校生の君たちに無理強いは出来ないと思っているんだ。学校での活動もあるし、試験に影響が出るのは駄目だしね。だからゆったりとしたペースで進めたいと思っているんだ。もうすぐ中間試験の時期だろう?」
出萌に言われて全員、もうすぐ中間試験が始まる事を思い出した。試験の一週間前からはバイトも部活も禁止になる。それを忘れていたのだ。
「僕から提案するけど、成績が落ちたり悪かったりした娘は成績が上がるまで活動は禁止! バイトも禁止にしようと思うんだ。だから皆、まずは今度の中間試験を頑張って欲しいんだ。それに試験が終われば夏が来るじゃないか! 夏は恋の季節とも言うだろう? だから、それから頑張って欲しいんだ」
出萌の言った事は尤もで、自分達は高校生だと自覚した美弥だった。
翌日から学校では「アルバイト、部活動の禁止」の張り紙が張られて、本格的な試験の季節に入った。
「美弥、あんた大丈夫なの? 普段から殆んど勉強していないでしょう」
翠が心配してくれるが、美弥はのんびりとしたものだった。
「赤点を取らなければ良いのでニャン。それくらいは何とかなるニャン」
「でもちゃんとノート録ってるの?」
痛い所を突かれて美弥は
「お昼寝していた時は書いてないニャン。そこだけ見せて欲しいニャン」
「だと思っていたわ。仕方ないわね」
寮の美弥の部屋で二人は試験勉強を遅くまでやったのだった。
「ああ、やはり猫には難しい事は無理ニャン!」
翠が説明してくれても理解出来ない時、美弥は猫に変化してしまう事もあって、翠は仕方ないのでペットショップで「猫じゃらし」を買って来て美弥を手懐けたのだった。
「いい? 後一回遊んだら勉強するんだからね!」
「判ってるニャン」
猫娘と変化した美弥は翠の出す猫じゃらしに夢中で飛びつくのだった。
「こんな事していて私、試験大丈夫だろうか?」
若干不安に思う翠だった。