8.猫娘「縁結びコネクション」の仲間になる
お風呂を上がると、美弥と翠の二人は真相を里見由梨香から聞き出す為に由梨香の部屋をノックした。
「はーいどうぞ!開いてるわよ」
「おじゃましま~す」
「こんばんは~」
美弥と翠がそれぞれ挨拶をすると由梨香はにっこりと笑って
「やっぱり来たわね。まあ、座って! お風呂で但馬麗華先輩に聞いたのね」
実は由梨香は但馬先輩が浴場に行くのを見ていたのだ。いや、行かせたと言った方が良いかも知れない。その訳は……
但馬麗華は『里見さん。いい娘なんだけど、バイトを紹介するのは自分の仲間を作る為だからね。それは注意した方が良いわよ』と二人に忠告をしてくれたのだった。二人が、更に詳しく尋ねようとすると
「本人に詳しく訊いた方が確かなんじゃ無いかしら」
そうはぐらかされてしまったのだった。その事を由梨香に言うと
「そこまで言われているなら。ちゃんと話をするわ。でも絶対に秘密だからね。約束は守れる? それと真相を知ったら、もう仲間よ。、抜けられ無いからね。判った?」
いきなり、怖そうな事を言われて美弥は辞めようとしていて、翠が美弥を見ると半分猫耳が出かかっていた。すかさずそれを引っ張る
「あ、痛たた! 痛いニャン!」
「美弥、真相を訊くんでしょ! 弱気になったら駄目じゃない!」
「でも、もしかしたら私には関係無い話だったら……」
美弥の弱気な言葉を耳にした由梨香は
「やっぱり猫の気質が強いのねえ……いいのよ、無理強いはしないわ」
そう言って二人を眺める。すかさず翠が
「私は知りたいです。先輩が何を考えているのか、何故仲間を求めているのか!」
そう言って由梨香の前に乗り出した。
「翠ちゃん。強いニャン」
「どうするの? 覚悟決めなさいよ美弥!」
「判ったニャン。覚悟決めたニャン!」
二人の様子を見て由梨香は
「じゃあ、最初からちゃんと言うからね。いい?」
そう言って二人の返事を求めた。
「いいですニャン!」
「大丈夫です!」
「判ったわ……じゃあ、まず出萌さんの正体だけど、あなた達が睨んだ通り、出雲の神様よ。でもそのものじゃ無いの。神の意識を具現化したもの……これが一番近いかな」
「『神の意識を具現化したもの』って……?」
翠が混乱するのを今度は美弥が
「ああ、判ったニャン! 分身みたいなものだニャン。私も完全に猫娘に変化したら出来るニャン。翠ちゃんも出来るニャン。妖怪の気だけを集中させて具現化するニャン」
美弥に言われて翠も納得がいったみたいで
「ああ、そうか……そう言う事なのね」
二人の様子を見て由梨香は話を先に進める。
「何故、出雲の神様が東京に出て来ていて帰らないのか……それは日本の出生率が下がってる事と関係があるのよ。今の適齢期の男女が結婚しなくなっている事は知ってるでしょう? 神様はね、出雲の田舎に居たんじゃ日本人がドンドン減ってしまうと思って、人が大勢居る都会に出て来た訳よ。ここで縁結びをしようと思って活動して来たの。でもね、一人では埒が明かないでしょう。だから私達がお手伝いするのよ。その為の仲間が必要なのよ。判った?」
美弥と翠は多少疑問に思う所もあったが、大体のところは判った。
「でも、何故、里見先輩がお手伝いするんですか?」
翠に肝心な事を問われて由梨香は
「里見家は代々出雲大社を崇めてきたのよ。だから私が協力するのよ。でももっと人出が欲しいでしょ。仲間にするなら並の人間よりも妖怪や猫又の娘の方が役に立つと思ったのよ。だからあなた達をバイトに誘ったのよ」
ここに来て、二人は皆由梨香に乗せられていたと理解した。
「でも、但馬麗華先輩は……まさか、先輩も人では無いのですか?」
翠の質問に由梨香は
「但馬麗華先輩の実家は牧場を持っていてね、食用の和牛を出荷しているのよ。そっちではかなり有名みたいなの。でもその昔は、武士でね。それも忍者だったのよ。わかる? 忍者の本当の仕事は情報を仕入れる事なの。だから先輩にも仲間になって貰い、色々な情報を仕入れて貰うのよ」
由梨香の言葉を聞いて、美弥と翠は自分達は何をするのだろうと思った。
「まず、恋人を求めている男女を引き合わせる事が大事ね。二人にはバイト先等でその様な人を見つける事。それを出萌さんに伝えるの。それから先は出萌さんが適性を判断して、麗華先輩にその情報を伝えるの。麗華先輩はその人に合う相手の情報を私達に伝えて、今度は私達が相手を見つけるのよ。こうして男女を引き合わせ様と思ってるの。実際にやってみなくては判らないけど、上手く行けば日本の人口も回復すると思うのよ。そうすれば私もご先祖様に顔向けが出来て、おまけに自分の恋人も紹介して貰えるわ」
目を輝かせている由梨香だが、美弥と翠は由梨香ほどの可愛さなら相手は幾らでも出て来ると思うのだが、やはり名家里見家だから、誰でもとは行かないのだろうかと二人は思っていた。
翌日、バイト先の店に由梨香と但馬麗華も姿を見せていた。理由は出萌を入れた五名でとりあえず「縁結びコネクション」を発足させる事だった。因みに「縁結びコネクション」と言うのは由梨香の命名である。翠が喉元まで「センスが無い」と出かかったのを美弥が必死で止めたのだ。
「里見先輩は犬の化身の血が入っているニャ。怒らせたら怖いニャ」
翠も、そう言って体を縮こませている美弥の言葉も、尤もだと思い口を閉ざしたのだった。
「今日は沢山来ているけど、何かあるのかな?」
店長が不思議そうに尋ねるので由梨香が
「出萌さんを待ってるのです。連絡したら今日もこっちに来ると言う事ですので」
それを聞いて店長は深く理由を訊いては来なかった。店長と言えば、この人も何か得体が知れないと美弥は思っていた。これまでの感じから、絶対何かあるはずだと……
その時だった、店のドアが開いて、出萌が姿を見せた。美弥も翠も出萌が神様の化身だと知って会うのは初めてだったので緊張するのだった。